閑話 シャドウ 精霊会議
あいつは骨の髄まで腐ってやがる。
精霊としての分別がまるで残ってねー。
神様気取りなんだろうな。
星を実験場としか思ってねーだろう。
フェニックスを始末できる駒を作る為の場所だ。
俺たち精霊は使い捨ての駒。
誕生した生命はフェニックスを拷問する為の道具。
本気で不愉快な奴だ…。
地下世界に送られて色々と考えてきたが、前回の会議は全て吹き飛ばすような内容だった。
世界を不幸にする為に星の魔石を使って人間と獣人を呪うとか病気だろ…。
しかも、上位種族に絶対服従とかお前の思想がよく見えてんぞ。
俺たちの生みの親だが限度がある。
擁護する気は微塵もねーし殺意しか残らねーよ。
そんで、今日はドリュアスからの呼び出しだ。
本気でこれから何が起きんだ?
地下世界で何も知らないまま消されていたよりはマシだけどよ。
地上は厳しいぜ、何て笑える話じゃねーからな…。
「みんな集まったね。フェニックスとサラマンダーには声を掛けていないよ。今日の事は何も教えないで。気になる点があるからね」
「おいおい。出だしから不穏だな。サラマンダーが裏切ってるって言うのか?」
精霊として裏切りは許されねーぞ!
あいつにつく意味が何かあんのか?
それとも、洗脳されてんのか?
フェニックスに拷問の記憶を入れ続けるって使命はかなり狂ってるからな。
サラマンダーが馬鹿なのは間違いねー。
普通なら途中で嫌になって止める。
この国に来るまで使命を続けていた唯一の精霊だ。
確かに気になる点は多いな…。
「裏切っているのではなく気付いていないと考えた方がいいだろうね。シャーロットたちとの会議であの女が凄い力を持っているみたいな内容を難しく話していたじゃない?監視されている可能性をシャーロットは考えていたと思う。それで、一番疑わしいのがサラマンダーなんだよ。サラマンダーはフェニックスを常時見れる事に疑問を抱いていない。あの女からの使命だったというのもあるだろうけど、生まれた時から見えていたからだと思う。しかし、火の精霊には全く必要のない能力だよ。自分の記憶を移す能力も必要ない。そして、記憶を移しているという事は魔力を移しているとも言える。あの女とフェニックスを繋げられるとしたらサラマンダーの能力しかないんだよ。フェニックスは死ぬ度に新しい生命として生まれ変わる。完全に別人さ。普通に考えたらあの女と繋げられる訳が無い。あの女はフェニックスと繋がっているのかだけは必ず気にしているはずだよ。だから、呼ばなかったのさ。そして、私の考える今の状況は相当まずいんだよ。フェニックスの発言がそもそもおかしいからね。星の魔石に呪術を入れられているのに放置が最善だと言っている。怒りで覚醒してもおかしくないと思わない?」
「間違いねーな。星の魔石を触るのは厳禁のはずだ。結界を維持し、寿命を延ばし、呪術を入れる。好き放題に使ってやがる。フェニックスは怒るべき状況だと言っているのに放置が最善だと言いやがった。排除を望むかと思ったんだがな。それが、気になっている点か?」
「確かに不自然ですね。放置するべき問題ではありません。世界の理に関与しているのですから。邪魔しているとさえ言えます。放置は問題の先送りにしか感じませんね」
「放置が最善というのは何かしら懸念があるんじゃろう。直感で答えているだけだから明確な回答ができないだけじゃないかのう?」
フェニックスの態度は明らかにおかしいな。
何か感じていて隠していやがるのか?
いや、直感で答えているだけで今は能力が何もないはずだ。
嫌な予感がしているだけなのかもしれねーな。
ここで楽しんでいるフェニックスの嫌な予感といえば1つしかねー。
あいつに強制的に覚醒させられる事だろう。
それで、全てが終わるからな…。
「この話し合いの目的は何なのー?何かあるんだよねー?」
「勿論あるよ。覚醒したフェニックスはどうやって次の星を選ぶと思う?私は精霊女王が選んでいる気がするんだよ。つまり、あの女は絶対に必要な存在なんだよ。そして、シャーロットの話を合わせると死んでもいいと考えられる。あの女に遠隔でフェニックスを覚醒させる力はないのさ。しかし、フェニックスと意思疎通が図れるのなら感情抑制ができる可能性がある。フェニックスが死ぬたびにサラマンダーを使ってね。何が言いたいのかというと、フェニックスは覚醒する寸前の可能性があるって事だよ。何度も実験を繰り返して試したと思う。感情抑制でフェニックスの覚醒をぎりぎり抑えられる状況をね。それが、今の星の魔力の無駄遣いさ。あの女とフェニックスが繋がっていたとしたら些細な事で覚醒するよ。だから、何もできない状況なのさ。この状況を打開する為に集まってもらったんだよ」
ドリュアスの予想は間違ってねーだろうな。
星に命を吹き込んだ後のフェニックスには何もできねーから、先にあいつを生み出しておく必要がある。
だけど、あいつにフェニックスを感情抑制する能力が与えられているのは想像できるが、ぎりぎり覚醒を抑えられる状況を作っているとは思えねーな。
腐りきっているあいつがそこまで賢いか?
感情抑制の能力が万能なだけな気がするぜ。
長く地下世界にいたせいかフェニックスの態度が不自然に見える。
怒りの感情を殺されているからだろーな…。
間違いねーと思う。
神だから拷問されても平気なのか?
しかも、その記憶の蓄積までされているじゃねーか。
あいつがその怒りを予想できる訳がねー。
覚醒ぎりぎりまで拷問するとか無理があんだろ。
結果的には一緒だから別にいいけどよ。
感情抑制を切った瞬間に覚醒だからな。
サラマンダーがあいつとフェニックスを繋いでいるのは間違いねーな。
生まれてから一度も使命を止めてねーからよ…。
やっぱ生まれた時から洗脳済みだろうな。
どちらにしろ終わっている状況だぜ。
なんにもできねーよ…。
「フェニックスを殺してサラマンダーを監禁している間にあいつを殺したとしても意味ねーぞ。感情抑制が覚醒を抑えているとしたら、星の魔石の中に呪術が入っている時点で覚醒の可能性があるじゃねーか」
「その通りだよ。そこで私たちの出番じゃないか。精霊の体は魔力で構成されている。世界の魔力で糧を得ている。努力すれば世界の魔力や星の魔力になる事もできるんじゃないのかな?」
俺たちは魔力の体を持ちながら物質になる事ができる。
そして、物質から魔力に戻る事もできる…。
星の魔石の中の呪術の核も壊せる可能性があるな。
「言いたい事は分かるが、その前に答えてくれ。フェニックスを殺してサラマンダーに記憶を入れさせないようにしねーと覚醒するとは考えてねーのか?拷問の記憶が数千年も入ってんだぞ?」
「感情抑制が感情を殺している可能性を言っているんだね?勿論考えているよ。だから、私がフェニックスを殺す。サラマンダーが記憶を入れたがるのであれば、サラマンダーも殺す。最後に言おうと思っていたけど、そのくらいは覚悟しているよ。シャーロットはフェニックスを殺したくないだろうからね。サラマンダーの役割もシャーロットたちがいれば問題ない。覚醒を防ぐには綺麗な状態にするのが必須だと思っているよ。あの女の性格の悪さを考えたら星の魔力を使った結界が残っているだけでも危ない。最初にぎりぎりだと言ったのは緊張感を持って欲しいからで、本当は何をしても覚醒する状況だと言えば絶望して何もする気にならないでしょ?だけど、私たちで糸口を作れるかもしれないじゃないか。シャーロットにできないのは星の魔石の呪術を取り除く事だけだよ。それさえすれば、あの子は必ず動いてくれる」
なるほどな…。
全部分かってて泥は自分が被るつもりだったのかよ。
「シャーロットに頼るって選択はねーのか?何とかできると言ってたじゃねーか」
「私は嫌なんだよ…。シャーロットが何をするのか予想できてしまったから。フェニックスを封印してあの女を傀儡にして違う星に移住だよ。新しい星にあの女の代わりをするシャーロットの人形がいる可能性もある…。どちらにしろ嫌だね。そんな事で長生きしたいとは思わないから。あの子がいない世界なら無になった方がいい」
封印なんてできるのか?
違う星に移住は簡単にできそうだがよ。
ドリュアスの気持ちが分かるのは俺くらいか?
シャーロットが好きな気持ちもよく分かるぜ。
本当につまんねー最低な日々だったんだ…。
この国に誘ってもらえただけでも感謝しかねーよ。
「あの2人が戦うと無になるんだろ?シャーロットはどうするつもりなんだ?」
「シャドウに瘴気で全身を汚染してもらうはずさ。星の魔力が使える状態になってフェニックスを封印するんだよ。この星を次元結界で囲んで外に被害が出ないようにする。フェニックスが覚醒しているからこの星は必ず滅びる。だから、国ごと別の星に転移させるはずだよ。ヴィーネとウィーノが手伝ってくれれば生命が活動する環境はすぐに作れる。それに、2人の魔力があれば世界樹もすぐに成長させられるし星の魔力も溜められる。私たちが揃っているから簡単だよ。最後に本当は何とかなると言ったのはそういう方法もあるという事さ。それに、精霊として世界の理を侵す者を許す訳にはいかないからね。あの女は何度も星を崩壊させて実験している。星が爆発しないと魔石の破片が他の星に落ちている訳が無いからね。シャーロットの作戦は娘たちが必ず止めるさ。急ぐ必要はないとね。だけど、あの女の気分次第な状況が気に入らない。シャーロットも間違いなく裏で動き出す。偶には私たちがあの子を助けてあげようじゃないか」
シャーロットはいつフェニックスが覚醒しても対応できる。
但し、それは自分の命と引き換えなのか…。
娘たちが止めるから別の方法も考えてはいるはず。
但し、それも精霊女王の気分次第で終わる…。
ドリュアスは全て分かっていて精霊ができそうな事で貢献したいって訳だな。
俺たちの誰かが呪術の核を壊せるようになれば状況は一変する。
あいつがそれまで何もしなかったら一瞬で全てを覆す。
神様気取りの腐った野郎を地獄に突き落とせる。
あいつ次第なのが気に入らねーが、それしか手が残されてねーな。
「よく分かったぜ。俺たちが世界の魔力になって世界樹から星の魔石に入って核を破壊できる状況を作るって事だろ?あいつを地獄に突き落とせるんだ。全力でやってやろうじゃねーか」
「確かに物質になっているのに意識を保てます。ですから、世界の魔力になっても意識を保てるでしょう。問題は世界の魔力になれるのかどうかですね。こればかりは、流石に分かりません」
「凄い事考えるねー。光になっても意識はあるから不可能ではない気がするよー。体も魔力でできているからね。練習しろって事かなー?」
「本気で練習して欲しい。練習方法は簡単だよ。魔石に入って出てこれるか試すだけ。出てこれないなら砕けばいい。やってみない?」
「やるに決まってんだろ!いつまでもあいつ次第な状況が気に入らねーからよ」
「やるしかありません。私は人魚やセイレーンを守ってあげなければなりません。魔力の体から水になって魔力の体に戻れるのです。これは、精霊だけの特殊能力でしょう。意識を保ったまま世界の魔力に変える事もできるはずです。水になっている時のように世界の魔力になっていると思えばいいのです。とても分かりやすいではありませんか。確かにサラマンダーに知られるのは危険な気がします。秘密裏に行うべきでしょう。私はやりますよ!」
「ここでやらんとは言えんな。儂もやるわい!」
「私は世界を不幸にしちゃったからね。その呪いを壊せるかもしれないならやるよー」
「みんなやる気だねー。私だけやらないなんて言えないじゃん。努力するよー」
気になるのは時間だけだな…。
なるべく早くできるようにならねーと。
「世界樹から星の魔石の中に入って呪術の核を破壊する。あの女の記憶も破壊する。まさか世界樹から侵入されるとは想定していないだろうからね。絶対安全さ。出る時は世界樹から出してあげる。体は星の魔力になっているけど時間経過で世界の魔力に戻るはずさ。あの女は気付かない。上手くいったらシャーロットに言えばいい。全て解決だよ!」
全員が努力すれば誰か1人くらいはできるようになるはずだ。
水の魔石の核だけ破壊できるか試せばいい。
楽勝じゃねーかよ!
「間違いねーな!腐った地下世界から地上に出て十分遊ばせてもらった。まだまだ遊び足りねーぜ。どちらが使い捨てか思い知らせてやるよ。下らねー使命と役割押し付けやがって。あいつは魔力で世界を満たしたかったんじゃねーな。より強い悪意でより強い魔人を生み出したかったんだ。その結果、フェニックスと戦えるシャーロットが生まれた。しかし、奇跡的に人間に育てられて悪意に染まってねー。想定外のはずだ。俺たちが反攻しようとしているのも想定外だろうぜ。本当に長かったぜ…。ようやくあいつに仕返しできるかもしれねーと思うとやる気が溢れて止まらねーぜ」
ぜってー俺が破壊してやる。
この手であいつを絶望させてやるよ。
「決定だね。私は世界樹に入って色々と試してみる。制御力も上げておく必要があるからね。自然に魔力を吸収するのではなく、狙った魔力を吸収できるように鍛えておくよ。本当は呪術の核を吸い上げたい所だけど、恐らく核は吸い込めないから残念だよ」
「世界樹は魔力を溜めるのが仕事だからな。吸い上げる力があり過ぎたら困るって事だろうぜ。俺たちは核を破壊して自分で世界樹の中を上ればいい。半年以内には決着をつけてーな」
たった半年か…。
自分でも笑えるほど短い期間を言ったな。
ここにいると更に短く感じるから不思議だぜ。
でも、半年でも無駄にしたくねーんだ。
ここは本当に楽しいぜ。
それに、まだまだ楽しくなっていくと感じる。
終わって欲しくねーよ…。
地下世界の殺し合いなんてうんざりだった。
どいつもこいつも殺意に溢れて殺せる奴を探してやがる。
意味のない役割だとすぐに分かった。
俺は怯えて瘴気に隠れ続けた…。
魔人に見付かれば必ず殺されるからな。
本当に情けない日々だった…。
俺が一番最初にできるようになってやる。
そして、お前を終わらせてやる!
長年夢見た機会が巡ってきやがったぜ。
長生きはするもんだな。
ゴミみてーな人生だったが最高だ!
シャーロットは必ずお前を地獄に叩き落すぜ。
お前は犠牲にしてきた精霊と生命の痛みを知るんだな。
精霊たちも頑張ります!




