シャーロット 国民の為に
やはりフェニックス覚醒の手札を持っていたな…。
しかし、その手札は時間が経つ度に薄くなっていくよ。
まあ、気乗りしないけどね…。
本当なら会いたくないし、会うつもりもない。
はっきり言って興味ない。
家族と一緒にいる時間が一番大切だよ。
「かなり危険な話し合いだったけど何も起きていないから寝ているみたいだね。良かったよ」
「危険過ぎるよー。本当にあの瞬間に終わっていたかもしれないよ。怖過ぎだよー」
「母さんはどうするつもりでいるの?何か考えているの?」
起きていたとしても私とフェニックスが戦うと予想して待っている可能性がある。
少し難しく話したのが良かったのかな?
大した能力が必要なくても同じ記憶を持った精霊女王を生ませる事ができる。
ドラゴンの記憶と能力の継承と同じ事をするだけだからね。
フェニックスの拷問された記憶は残さない。
サラマンダーで確認するだけで十分だろう。
精霊女王は覚醒したフェニックスと意思疎通が図れるに違いない。
同じ星に魔力を入れるのか別の星に移動するのかは精霊女王が決めている。
フェニックスも大変な事をしてくれたよ…。
1人になる寂しさはよく分かるから仕方ないとも思うけどね。
それに、悪いのは精霊女王なのだから。
「まずは商人組合を催物組合に変更する。これ以上この国に観光客や商人を入れる必要はない。国民が増えていくのに人間と獣人が国外から入ってくる事によって行動が制限されてしまう。それに、呪いを防ぐ結界や魔石が必要になる。この国が外から人を入れる理由はない。ヴィーネ、分かった?」
「分かったよ。国民の子が一番だと言っているのに保育科の壁の中でしか遊べないのは良くない事だと思うし、催物組合にすれば国内は活気付くから仕方ないと思う。やはり魔石を置くのは現実的ではないし、国民なら誰も命令しないから気にする必要がないからね」
「あれー?拗ねると思ったのに大人の対応だね。どうしたのー?精霊女王を殺せなくて気落ちしているの?」
ヴィーネが冷静な判断をしてくれている。
目の前で不幸な事が起きなければ大丈夫みたいだね。
自分が助けてきた子だという自負があるから余計に辛かったのだと思う。
国民の子を一番にして、それを実践してくれるのであれば大丈夫。
ところで、早くない?
会話を始めてすぐにこれだよ。
仲良しなのは間違いないけど喧嘩になりそうだからね。
1回は喧嘩させた方がいいのかな?
組手で試合できるし大丈夫かな?
本当に母親として未熟だよ…。
「煩いわね。精霊として役割があるからかなり面倒だし、覚醒フェニックスは母さんを消滅させちゃうし、精霊女王だけが得するのは嫌だからね。フェニックスと戦うのは余りにも非現実的だよ。生命を司る神と戦うとかおかしいからね。いなくなったら生命が誕生しなくなっちゃうよ」
「姉さんが大人びた事を言ってるよ。あれあれ?おかしいぞー!世界樹の薬買ってこようか?知恵熱出ているでしょ?」
「本当にすぐ絡みたがる。私と組手で絡もうよ。未知なる力と組手したくない?地獄の魔王と組手したいでしょ?あれあれ?実戦形式の方が良かったかなー?」
言いたい放題言われたからね。
組手で性根を叩き直すべきだと忘れていたよ。
「姉さん、大切な約束があるじゃない。今日は私と訓練するはずでしょ?」
「ウィーノの言う通りだよ。約束していたのに破るのは悪いね。母さん、そういう事だからさ」
「3人で訓練した方が効果的でしょ?何で母親を避けるの?未知なる力が溢れ出そうだよ」
「あれー!姉さん、私の魔法が暴発しそうだよ。巻き込まれたらごめんね…」
「私たちは姉妹じゃない…。ウィーノに巻き込まれても許すよ…」
「もう抑えきれないよー!転移魔法」
転移して逃げた…。
魔法の暴発で転移したらどこかに埋まるよ。
追跡されたらどうするのかな?
気になるけど見逃してあげよう。
本当にお転婆だよ。
元気に仲良くしてくれるのが一番だけどさ。
転移魔法。
検問に移動した。
「やあ、お疲れ様。今日は誰か国内に入っている?」
本当に丁寧な一礼だよ。
必要ないとは言い辛いほど様になってるからね。
「今日は観光客と商人がそれぞれ1組ずつ。6人と4人の計10人が入国しています」
「そっか。明日から検問は中止にして。門を開けなくてもいいと伝えておいて。商人組合は催物組合に変更だよ。お祭りとか色々と考えて欲しい。今からエルヴィーラには伝えに行くから」
「分かりました。頑張ります!」
「はい。分かりました!」
困惑しないし気にならないのかな?
職場の仕事内容が変わるよ?
まあ、大丈夫だね!
「それと、橋を上げ下げする人たちがいるでしょ?今は案内係と呼ばれているのかな?彼らには国民や許可の得ている商隊の出入りの為に橋の上げ下げをしてくれるように頼んでおいて。主にフェリシアやダークエルフの狩り部隊だね。後は商人証明プレートを見せてくれる人も許可していいからさ」
「お任せ下さい。確実に伝えます!」
「はい。お任せ下さい!」
元気があっていいね!
2人はやはり結婚しそうだよ。
「よろしくね。じゃあ、またねー。転移魔法」
商人組合の組合長室に移動した。
エルヴィーラは書類に目を通していたね。
私に気付いてすぐに手元に置いたけど。
「やあ、エルヴィーラ。色々とバタバタしてごめんね。その状況でさらにバタバタさせてしまう話を持ってきた訳だけどいいかな?」
「勿論構いません。何なりとお申し付け下さい」
「商人組合は今日で終わりにして欲しい。明日からは催物組合としてお祭りを始めとした様々な催し物の企画と運営をして欲しい。理由はいくつかあるけど、他国の人を国内に入れるのは危険なんだ。洗脳問題があったでしょ?再度持ち込まれる可能性がある。それと、保育科が凄い賑わいを見せているからね。親子で国内を自由に歩けないのはどうかと思ったんだよ。商人証明プレートを持っている人と許可を得ている商隊であれば入国を許可するようには伝えてきたから。急な変更だけど対応できそうかな?時間が必要であれば教えて欲しい」
「いいえ。明日から対応いたします。他国の商人には期待できないと身に染みました。これほど腐敗していたとは気付きませんでした。国内を賑わせる仕事の方が従業員も楽しめますので喜びますよ」
「それなら良かったよ。何か問題があったら教えてね。シェリル区で仕事したいのであれば移動させるけど、どうかな?」
「闘技組合が目の前にありますからね。せっかくですから協力していきたいと思います。何かあればお伝えいたします」
自分たちで協力してくれるのは凄くいいね。
楽しい催し物を企画して欲しい!
「そっか。それなら楽しみにしているよ。またねー。転移魔法」
税理官室に移動した。
「やあ、求人募集の変更を伝えてもいいかな?」
「はい。勿論構いません!」
もしかして洗脳問題があったせいで皆が頑張ろうとしてくれているのかな?
普段通りでいいのだけれど余りやる気を削ぐのも良くないよね…。
「これからは国民を特に大切にして発展して行こうと思っているから検問兵の募集は中止にして。許可を得ていない他国の人は入国させない事にしたから。後は商人組合を催物組合に変更した。お祭りを始めとした国内での催し物の企画と運営をしてもらうよ。間違えて就職しないように変更を伝えて欲しい」
「はい。お任せ下さい!」
「必ずお伝えします!」
「お願いね。国の発展は加速していくからさ。またねー。転移魔法」
死体処理場に移動した。
一通り変更点は伝え終わったね。
ようやく娘たちの組手の訓練を見学できるよ。
真面目に訓練しているみたいだね。
だけど、私に気付いていないように振舞っている。
一瞬反応したのを見逃す訳が無いのに。
反抗期かな?
「ウィーノが訓練内容を教えてくれたら助言だけして帰るんだけどなー」
ぼそっと呟く。
「魔力の移動速度を使った多彩な攻撃だね。竜の国でシィーナ姉ちゃんと組手しちゃったかー」
ぼそっと呟く。
「はぁ…。これでは破壊されるよ…。掠り傷をつけられたら地獄の組手だからね。じゃあ、帰るよ」
ぼそっと呟く。
「待ってよー!助言してから帰ってよー」
「あっ!このバカ。そんな優しい展開がある訳が無いでしょ」
やっと釣れたよ!
真面目に指導するつもりだけどね。
「教えるのと体で覚えるのどっちがいい?」
「姉さん、どっちがいいの?甘い餌が落ちているよー」
「何を言ってるの?既に釣られた魚だよ。後悔しないように自分で選ぶんだね」
ヴィーネは分かっているみたいだね。
流石お姉ちゃんだよ!
「じゃあ、教えて。私は聞けばできるようになるのさー」
「体に教えて欲しいの?体で聞けばできるって言ったの?流石だね!」
「逃げ場ないよ!そんな言葉の解釈ありなの?はぁ…。頑張ってー」
「待って待って。1回だけだよ」
「分かったよ。構えなさい!」
「私も見てるねー」
「準備はいいわね?人間の魔力量で組手を想定して攻撃するよ。私の攻撃する魔力量に合わせて受け止めなさい」
「いいよ。いつでもきて」
自然に構えているように右手は左肩に触れるようにする。
そして、ウィーノが構えた右手に真っすぐ左拳を突き出す。
【パァン】
高位回復魔法。
「はい。おーわり」
「何で?何が起きたの?姉さん見てた?」
「見てたよ。非常識な事をしていたよ。右手から左腕に直接魔力移動させた。シィーナ叔母さんが考えてそうな攻撃方法だね…」
そういう事だね…。
魔力移動速度を使った組手を見せてしまっているから。
「魔力注入を自分の腕にしたの?体の中を移動させればいいじゃない。何でー?」
「魔力量を減らしておいて当てる直前に手から魔力を吸収する事と体内から追加する事しか警戒していないと分かったからだよ。視野が狭いよ。それに、魔力注入は体の中を移動させないから増えた量が分かりにくい。ウィーノが把握できない魔力量を追加して攻撃に上乗せしたから気付けない。手から魔力を吸収するのであれば使う魔力量を減らしておかなければ反則だからね。これも、反対の手で無属性魔力を放出すれば解決するよ。反対の手から無属性魔力を放出する方法でも良かったけど見た事がない攻撃の方が新鮮でしょ?もしかして、両方知らなかった?じゃあ、帰るねー」
「ウィーノ、あれは酷いよ。外から見ていたら魔力を動かしている形跡が分かるけど目の前に立たれると絶対に気付けない。極小魔力だよ。私もできない攻撃とか見せられると困るんですけど…」
ヴィーネも釣れそうだよ。
もう少しだね!
「待って待って。もう1回だけ見せてよ。まだ覚えていないよー」
「仕方ない子だねー。じゃあ、構えて」
「完全に釣られているよ」
「準備はいいわね?」
「いいよ。いつでもきて」
左手から無属性魔力を放つ。
ウィーノが構えた左手に右拳を突き出す。
【パァン】
高位回復魔法。
「はい。おーわり」
「悪魔だね。あんな事されてどうやって見るの?魔法を使っているようにしか見えないよ」
「待って待って。どうやって防ぐの?不可能でしょ?自分の魔力で拳を隠すとか意味不明だよ」
「本当に我儘な子なんだから。拳を隠していた魔力量は足されていると考えて防御するの。もう帰ってもいいかな?」
「待ってよー。母の愛が足りていないようです。訓練お願いします」
「それしかないよね…。私も足りていないよ。今度お願いする」
最初から言えばいいのに。
素直じゃないよね。
そして、ヴィーネも釣れたね!
「母の愛は言葉での説明はないよ?知っているよね?」
「知っているよー。体で覚えるから。覚えるしかないからさ…」
「母の愛って言葉が間違った使われ方しているのに不文律でもあるのかな?」
吸血技。
「ヴィーネの相手してあげて」
「愛が足りないみたいだし仕方ないね」
「最悪だよ!分身してまで娘をボコボコにする母親は世界でここにしかいないよ」
「世界一だと褒められちゃった!さあ、始めよう」
「ウィーノも始めるよ。お祭りの組手で掠り傷をつけられるような事は避けたいよね?」
「当然だよ!お祭りは圧倒するから。始めようよ!」
青春している感じがするよ。
娘を鍛えるのは母の特権だからね!
母の愛から逃げるのは不可能です。
魔王ですから!




