閑話 カーリン 家族で仲間
来年から孤児院が大きく変わる事になりました。
今年中に方針を決めておく必要があります。
夕食の準備で新旧孤児院の大人が集まっているので丁度いいわね。
話し合いの準備もしておきましょう。
「みんな手を止めて聞いて。今週の休日の昼食後に来年からの孤児院について会議します。新旧孤児院で働いている職員と今年卒業する子は必ず出席するように伝えておいて。欠席を認めるのはシルキーだけよ。シルキーには保育科を見てもらいます。私たちの考え方で孤児院が大きく変わる事になるわ。皆に言っておきたい事があるのなら言ってちょうだい」
何故ここまで大きな変更をされたのかが分かりません。
どのような切っ掛けがあったのでしょう?
シャーロット様から何も聞いていません。
ウィーノ様も今回の変更に触れませんでした。
このような事は初めてです…。
「今回の変更が理解できていない人もいるようだから言っておくわ。シャーロット様たちは人間と獣人を見放していて、助ける為に何か考えるつもりはもうないの。ヴィーネ様が世界を感情把握していて精神汚染されたわ。国長の頃は世界の不幸な感情に支配されていたのよ。優しくて幼いから子供の救出に囚われてしまったわ。シャーロット様がそれに気付いて国長を辞めさせて世界を見るのも止めさせた。来年も世界を見るのはシャーロット様に止められている。それでも、ヴィーネ様は子供だけは助けてあげてもいいと言っているの。だから、シャーロット様は助けて欲しい子を具体的に決めて社にお願いしに来いって言っているのよ。既に孤児院は人間と獣人の保護施設になっていると言えるわ。それなら、全て人間と獣人の大人で決めろって事なのよ。今までは孤児院が崩壊しないようにシャーロット様が調整してくれていたわ。今後は何もないからね」
何故このような話を知っているの?
シャーロット様の調整がなくなっているからお話して下さらないの?
それなのに、変更の裏側をクリスタだけが知っているのはおかしい。
「クリスタの予想かしら?それとも勘なの?」
私の言葉を聞いたクリスタは深いため息を吐いた。
何がそこまで不満なのよ…。
「予想とか勘でこんな話ができる訳ないでしょ。孤児院長なのに何でウィーノ様に聞いていないの?話す機会はあったでしょ?シャーロット様が詳しく説明して下さると思っていたの?甘過ぎよ。私はヴィーネ様に聞いただけ。私から質問してね。ウィーノ様が聞かなくても話して下さると思う?そんな事は有り得ないのよ。何故なら子供の救出に興味ないのだから。でも、ヴィーネ様と一緒で根は優しいはずよ。聞けば教えて下さると思うけど聞いていないのでしょ?シャーロット様も説明するはずがない。ヴィーネ様を追い詰めた人間と獣人に怒っているからね。ヴィーネ様だけが子供を助けてもいいと思っている状況よ」
本当に甘いわね。
ウィーノ様とお話しする機会はあるのですから。
お伺いすれば良かっただけです…。
孤児院が大きく変わると分かっていても、切っ掛けがあるはずだと思っているだけ。
そして、詳しく教えていただけると待っているだけ。
孤児院長なのに情報収集を何もしていない…。
未だに自分の考えた通りになると思っている証拠だわ。
「他には誰もいないかしら?エルマー、新孤児院の子に声掛けをお願いね。当日は会議が終わるまで子供たちを外出禁止にします。いいわね?」
「はい。分かりました」
返事をしたエルマーの声には複雑な感情が込められているようでした。
私はそれに言い知れぬ不安を感じました…。
・・・・。
ウィーノ様にお話を伺いました。
クリスタが話していた通りの内容を教えて下さいました。
それだけではありません…。
ウィーノ様の考察も付け加えて教えていただけました。
私とクリスタの情報を元に話し合いを重ねました。
そして、旧孤児院としての方針を固める事ができました。
後は休日の会議でどうするのかを決めるだけです。
・・・・。
会議の日になりました。
昼食後、食事場所に職員と今年の卒業生50人程が残りました。
卒業生全員が高等科の卒業資格を得ています。
本当に素晴らしい子たちだわ。
他の子は気にしながらも新旧孤児院に戻っていきました。
少し場に緊張感があるからかしら?
それに、外出禁止の理由は説明していない…。
家族に亀裂が走るかもしれないからとは言えないわ。
嘘が下手ですから何も言わない方が良いとの判断です。
「では、会議を始めましょう。今年の卒業生は求人募集を見たかしら?孤児院の職員は5年契約になりました。そして、前提が大きく変わりました。シャーロット様たちが子供を救出して連れてきて下さる事はありません。子供を救出して欲しいのであれば、全て孤児院で考えてシャーロット様にお願いしなければなりません。孤児院を特別扱いされる事がなくなったのではなく、人間と獣人を特別扱いするつもりはないという事です。人間と獣人は種族として見放されています。ですが、孤児院の職員が願うのであれば、子供だけは救出してもいいと考えておられます。この国では人間と獣人に苦しめられてきた種族が集まって暮らしています。我々のように世界に散って住んでいるのではなく、世界にこれだけの人数しか残っていないと考えるべきでしょう。この国は戦争や犯罪者から守り続けていただけていますが、種族として特別扱いされていたのは人間と獣人だけです。子供を救出して下さっていたのが特別な事ですから。子供の救出を願わなければ新孤児院の職員は再来年になれば違う職場に就職できます。旧孤児院の職員が全員卒業するまで子供を世話します。この会議では子供の救出を願うのかどうかを決めます。孤児院に何人就職したとしても、子供の救出を願わないのであれば無意味ですから。さて、意見があれば自由に言いなさい」
「特別扱いだとしても救出を続けて下さっていたのに突然止めるのは理由があるのですか?人間と獣人が見放されているのが理由ですか?」
私はクリスタを見ました。
この質問についてはクリスタが話した方が説得力があるわ。
「シャーロット様たちが感情把握できるのは知っているでしょ?この世界は人間と獣人で不幸に満ちているわ。世界を見て戦争を止め犯罪者を殺し、子供を救出していたヴィーネ様は精神汚染された。不幸な世界を見続けた結果、子供を助ける事に囚われた。国長の頃のヴィーネ様は正常ではなかったのよ。シャーロット様が異常に気付いて国長を辞めさせ世界を見るのも止めさせた。その為、真祖になってヴィーネ様と同じように戦争を止め犯罪者を殺し続けているのよ。世界を見続ける事ができるのはシャーロット様しかいない。シャーロット様が世界を脅し王族や貴族を殺しても何も変わらない。平民や奴隷が王族や貴族になって同じ事を繰り返している。この国に来る密偵や犯罪者も減らない。ヴィーネ様が子供なら救出してあげてもいいと言っているので、子供を助けて欲しいのなら全てを孤児院で決めてお願いしに来いって事よ。ヴィーネ様は正常に戻りきっていないのかもしれない。ウィーノ様に子供を救出するつもりはないから。現在ヴィーネ様とウィーノ様は世界を見るのを禁止されているわ」
偶々訪れた国の奴隷の子を助けていたシャーロット様と、不幸な子を救出する為に他国を訪れていたヴィーネ様は余りにも違い過ぎます。
孤児院の卒業生に命令してまで選別で飛ばされるはずの子まで助けられました。
聞けば納得してしまう…。
ヴィーネ様は精神汚染されていたのだと。
国長を辞めて世界を見るのを止めた結果、シャーロット様の考えに近付いているように感じられる。
子供なら助けてあげてもいいと言われている現在も、まだ正常ではないと考えた方が自然に思える。
「全てを孤児院で決めるとは、何を決めればいいのですか?」
そうよね…。
全て決めると言われても何か条件があると思ってしまう。
「言葉通り全てよ。新しい施設の有無。救出する子の年齢や状態や人数。経費が足りなければそれもお願いする必要があるわね。今までは孤児院が崩壊しないようにシャーロット様が調整して下さっていたわ。今後はそれもありません。職員の手に余るお願いをした場合、恐らくだけど助けた子を飛ばすと思います。もしくは、孤児院が崩壊した時点で全ての子を飛ばす可能性があります。救出のお願いをする職員が無能だと判断されれば選別対象になるでしょう」
子供を世話するのは簡単ではないわ。
お願いするのであれば慎重にしなければならない。
「カーリン姉ちゃんはどう考えているの?」
「旧孤児院だけで子供を世話するべきだと考えているわ。だから、旧孤児院だけで世話できるようになる来年卒業予定の子が卒業した時点で子供たちを旧孤児院に移動させて、新孤児院の職員は新しい仕事に就くべきね。新孤児院はヴィーネ様が命令した事で作られたわ。その時の状態が正常ではなかったとしても、ヴィーネ様は責任を感じていると思います。ですから、本来の形に戻すのが一番だと考えているわ。子供の救出をお願いするのかどうかですが、コリンナが5歳になった時に旧孤児院の状況を見てお願いするかもしれない。しかし、皆で話し合いをして子供の救出をお願いするつもりはないわ。そして、旧孤児院としての総意を伝えておきます。助ける子を決める為に孤児院組合を作るのであれば別の組織だと見做します。食事場所も別にしていただきます。旧孤児院とは無関係にしていただくわ。旧孤児院を孤児院とします。新しい組織として子供の救出をお願いしなさい」
助けられた子はどのように感じているのかしら?
自分たちだけが運良く助けられて心苦しいのかもしれないわね。
「何で同じような子を世話するのに別の組織にする必要があるの?何か不安な事があるの?」
「私はシャーロット様が救出した子だから世話しているの。それに、旧孤児院の職員はシャーロット様にお願いされたから子供を世話している。こちらからお願いして子供を救出していただいた事はない。だから、現在新孤児院にいる子までは責任を持って世話するわ。そこから先は旧孤児院の職員で話し合いをする事があったとしても、組合に加入するつもりはない。今日の会議は見届けるつもりだと言った方が良かったわね。新孤児院の職員も含めて組合を作り、子供の救出をお願いするのかどうかを知りたいのよ」
最初からこのように会議を始めるべきだったわ。
勘違いさせてしまうだけね…。
・・・・。
沈黙が長いわね…。
「どうして黙っているの?あなた達が話し合わないと何も決まらないじゃない。全員高等科を卒業でしょ?旧孤児院に甘えているの?私たちが答えを出してあげると思っているの?私たちの出した答えはカーリンが言ったじゃない。後はあなた達がどうするのかだけよ。新孤児院の職員は5年とヴィーネ様に命令されたけど来年まででいい。今すぐ辞めたいのであれば辞めればいい。私たちが何とかするわ。その方が状況が分かりやすいわね。カーリン、新孤児院の職員を全員辞めさせても世話できる?」
クリスタが怒っているわね…。
ですが、状況が分かりやすくなるのは納得だわ。
「確かにその方が分かりやすいわね。今日辞めなさい。私たちで子供を世話します。勿論生活できるように税理官室に頼んであげる。家もお願いしましょう。ですから、今年の卒業生と共に今後について話し合いなさい。そこまでしないと、自分たちの状況が分からないようですからね」
「決定だね!今日辞めても生活できるように手配してあげるから、どうするのか話し合いなさい」
本当に手間のかかる子たちだわ…。
これでは、就職先も決められない気がしてしまう。
「シャーロット様が求人募集しているじゃないですか。何故突き放すような事をするのですか?」
「求人を理解していないの?高等科を卒業しているならその程度の事は言われなくても理解しなさい。求人は孤児院の職員募集となっているけど意味が変わっている。全て決めろと言われているのだから就職するなら全て決めなさい。新しい孤児院で孤児院長を決め、救出して欲しい子を決め、救出されてきた子を世話しろって事よ。突き放すも何も就職するのは別の職場。そんな事すら分からないの?」
クリスタの怒りが収まらないわね…。
私ですら理解しているのに、この子たちは理解できないのかしら?
「あなた達が就職しても一緒に働くつもりはないの。あなた達が救出して欲しいと決めた子を世話するつもりもない。何が違うのか分かっていないようなので言います。求人内容は孤児院の職員募集となっていますが、実際は人間と獣人の子の保護施設の職員を募集しているのよ。それは、孤児院とは呼べないでしょ?この国は多種族国家。人間と獣人の子だけを保護する施設を孤児院と呼ぶのはおかしいでしょ?そして、子供の救出はシャーロット様にお願いする事になる。根底から違う組織じゃない。一緒だと思って就職されると困るわ。だから、勘違いしている新孤児院の職員の子も辞めてもらうのよ。孤児院はシャーロット様たちの為にある施設です。人間と獣人の為ではないわ。孤児院の卒業生が孤児院を理解していないのはどういう事よ?何故シャーロット様が孤児院の求人募集としたのか分からないの?既に孤児院は人間と獣人の子を保護する施設だと言えてしまうからよ。ですが、孤児院長である私は認めません。子供を助けたのがシャーロット様たちの意思であれば種族に関わらず歓迎よ。だけど、お願いして助けていただいた子については遠慮します。流石にここまで言えば分かるでしょ?早く話し合いを始めて決めなさい」
孤児院の卒業生までが孤児院を理解していないのは私の落ち度になるわね。
常識だと思って教育を怠った結果だわ…。
家族の約束を見直す必要があるかしら?
「この国は孤児院の卒業生が発展させる仕組みになっているではありませんか。いいのですか?」
「いい加減にしなさい!シャーロット様を馬鹿にしているの?それとも、孤児院の卒業生は国に必須であると言いたいの?ヴィーネ様が国長を辞められてから国の方針が変わった。国民の子を最優先。種族の再興は自由とされた。助けられた種族は出産を控えていたのよ。助けていただけただけで感謝しているからとね。しかし、今はどうなっているのか分からない?保育科がどのような状況か想像できない?保育科がこの国の未来よ。まさに多種族国家と言える状況だわ。まだ学校に通えない幼い子が増える一方よ。そして、あなた達が学校で勉強している時に周りに誰がいるのか見えていないの?そもそも聖地シャーロットは発展しようがしまいが、世界の覇権国家である事に変わりないわ。今の状況から目を背けたいの?それとも、現実が見えていないの?本当に埒が明かないわね…。保護施設に就職するのかどうかを聞いているのよ。そして、その為の組合を作るのかどうかも聞いているわ。全員に同じ行動をしろと言っている訳ではない。聞いている理由は孤児院と区別したいからよ。案の定あなた達は孤児院と同じだと考えていた。だから、私たちの前で決めて欲しいだけよ。もういいでしょ?就職するつもりの子だったら助けて欲しい条件などは決めていたでしょ?そうではない子は無関係で終わる話じゃない。さあ、話し合いを始めてちょうだい」
何故これほど話が進まないのかしら?
ここには高等科を卒業する子しかいない。
求人募集は事前に知らされていたわ。
勘違いしていた子もいるみたいだから教えてあげた。
それなのに、誰も口を開こうとしない。
何か情報が足りないの?
私も勉強中だから今の状況が分からないわ。
「何故黙っているのかしら?私ですら沈黙していて事態が好転するような状況ではないと分かるわ。別の仕事に就くつもりの子は宣言するなりして席を立てばいい。就く仕事をまだ決めていない子も同様だわ。黙っている事で何かを訴えているのかしら?」
「「・・・・」」
「あー、なるほどね。この子たちの事が分かったよ。奴隷だね。話すと怒られるし動くと怒られる。今は命令されるのを待っている。大体10歳を超えるような歳で孤児院に来た奴隷の子は奴隷のままだと考えた方がいいかも。思わぬ形で表面化させたみたい。今働いている子も奴隷のままだけど、馴染んでいるから良しとするのか、飛ばした方がいいのか…。来年と再来年の卒業生も奴隷のままだと思う。その次くらいから違うのかな?何かで判別した方がいいかもしれない。会議と関係ない形になったけど仕方ないよ。奴隷の子は奴隷のまま。これは、流石に参ったわね…」
聞き流せない発言だわ!
そんな事があっていいの?
クリスタの言っている通りなら全て無駄になる。
この国で奴隷は禁止なのよ。
命令されなければ働けないのであれば意味がない。
孤児院を卒業した子は表面化していないだけなの?
否定されたりするだけで奴隷が顔を出すの?
絶対に認められないわ!
「反論しなさい!あなた達が奴隷ではないと証明しなさい!何を黙っているの?」
「「・・・・」」
【バァン】
机を両手で強く叩いた。
「「・・・・」」
微動だにしない…。
席を立つ子も口を開く子もいない。
「冗談は止めて…。私たちの努力は何だったの?言い返せない。反論できない。命令されたら従う。働いている子もいつ奴隷が顔を出すか分からないじゃない。あなた達の事を奴隷として対処するわよ?違うのであれば今すぐここから出なさい。奴隷が家族にいた記憶なんて私にはないわ。私たちは家族でしょ?何か反応を見せなさい!」
このままだと500人以上の奴隷が孤児院にいる事になってしまう…。
「奴隷ではないと否定しなさい。たくさん努力したじゃない…」
「何ですか?あなた達はこのような終わり方でいいのですか?」
「何で黙っているの?しっかりしなよ!」
「奴隷とはここまで根深いのですか…」
「「・・・・」」
「もう駄目だって…。シャーロット様、来て下さい」
シャーロット様…。
「体の中には奴隷の種が残ったままで簡単に芽が出ちゃうみたいだね。予想外な事ばかりだよ。ヴィーネが別に悪い訳ではない。2人とも来なさい」
「私が動くとこんな事ばかりだよ…。嫌になるね」
「姉さんは悪くないじゃない。落ち込む必要ないよ…」
ヴィーネ様が明らかに落ち込んでいます。
精神汚染が影響しているのですか?
ウィーノ様は平常心のように見えます。
正常であればヴィーネ様も平常心なのでしょうか?
「シャーロット様、すみません。私が余計な事をしてしまったせいでこのような事に…」
「カーリンは悪くないよ。残念ではあるけど受け止めるしかないね。ヴィーネも悪くないから落ち込むのは止めなさい。10歳以上まで奴隷として働いていた子は奴隷のままだとすると550人くらいだね。既に働いている子は見逃すとしても500人以上。いよいよ今年の卒業生から活躍が目立ち始めると思っていたところなのに。うーん…。新孤児院職員と今年卒業する子に聞くよ。飛ばされたくないでしょ?就職先はどこにする?まだ決まっていないのなら孤児院に戻りなさい」
「「・・・・」」
シャーロット様まで無視するの?
一番大切な約束じゃない…。
「いい事思い付いたよ!全員国防軍になって。母さんの仕事が減るよー。決定ね!」
「「はい!」」
命令に返事しないで。
ウィーノ様…。
終わらせないで下さい。
「孤児院は国防軍育成所にしよう。この後みんなに伝えてよー」
「「はい!」」
「カーリンは反対だって。私には分かるからねー。邪魔だし飛ばしてもいいよね?」
「「はい!」」
一緒に過ごした家族でしょ?
卒業しても変わらないはずじゃない。
私は邪魔でもいい…。
でも、奴隷ではないと否定して。
「クリスタも反対だって。戦っても勝てないよねー。エルマー、どうするべきだと思う?」
「飛ばして下さい!」
何故そこで口が開くのよ…。
先程まで何も言えずに黙っていたじゃない。
「だよねー。多種族国家も面倒が多いし人間と獣人の国にしちゃっていいよね?」
「「はい!」」
「黙っていなさい。返事したら殺すよ?」
シャーロット様…。
お願いだからここで止まって!
「母さん怖いよ…。私は母さんと姉さんがこの国では邪魔だと思う。別の国を新しく作ってもらった方がいいと思わない?」
「「はい!」」
シャーロット様を裏切るのは孤児院の敵じゃない。
あなた達の過去に孤児院は負けたのね…。
「皆の為に邪魔者は飛ばすよー。呪術、呪術、転移魔法。ほら、姉さんもカーリンも悪くない。気にするだけ時間の無駄だよ。姉さん、後は母さんに任せて帰ろうよー」
「そうだね。母さんに任せるよ。またね…。転移魔法」
「最初に命令した上位者に思考停止して合わせるだけなのかな?私の声で止まらないのは厳しいね。何かあった時に一瞬でも邪魔されるのは困る。奴隷だった子は洗脳された病人として対応するべきだったけど、今すぐ対処できる方法が命令か記憶消去か洗脳しかない…。クリスタ、今から召喚する子を威圧して上位者として命令して。明日に保育科の子を秘密裏に皆殺しにしろと。召喚魔法」
クルトとベンノ…。
シャーロット様は止めようとして下さっているわ。
あり得ない命令を説教しているクリスタにさせる事で抗えるのか模索して下さっている。
「突然どうしましたか?何かありました?」
「そうです。驚きましたよ!」
2人の体が少しだけ震えた。
軽く威圧したわね…。
「黙れ!お前たちに命令がある。保育科の子を皆殺しにしろ。シャーロット様に見付からないように秘密裏に行動しろ。実行は明日。分かった?」
「「はい。分かりました!」」
本気で実行するつもりなの?
葛藤している様子も何もない。
心の中で抗おうとしていたらシャーロット様が見逃すはずがない。
「クルトとベンノ。ここに私がいるのに秘密裏に殺しに行けるの?何か答えなさい」
「「・・・・」」
何よこれは…。
このままだと終わってしまう。
「無言だね。クリスタ、次も同じ命令して。召喚魔法」
アグネスとエトヴィン…。
検問しているあなた達なら分かるわよね?
「何ですかこの状況は?もしかして説教ですか?」
「何もしていませんよ。勘弁して下さい!」
同様に2人の体が少し震えた。
「黙れ!お前たちに命令がある。保育科の子を皆殺しにしろ。シャーロット様に見付からないように秘密裏に行動しろ。実行は明日だ。分かった?」
「はい。分かりました」
「分かりました!」
駄目よ…。
孤児院の子も飛ばされてしまう。
「アグネスとエトヴィンに命令がある。商人組合を皆殺しにしなさい。分かった?」
「「・・・・」」
アグネスとエトヴィンが膝を突いた。
シャーロット様から威圧されている。
クリスタよりも強く…。
「誰の命令を無視しているのか分かっているのか?商人組合を皆殺しにしろ。分かった?」
「「・・・・」」
命令を遂行するまではクリスタの言いなりなの?
家族で仲間では駄目だったのね…。
4人が消えた…。
他の卒業生も同じでしょう。
「クリスタありがとう。嫌な実験だけど必要だったからさ。問題のある卒業生は全員飛ばし終わったよ。さてと…。孤児院に入った時は10歳以上で、奴隷として働いていた過去を持つ子は飛ばすよ。呪術、呪術、転移魔法。この国の次に死ぬ可能性が低い国に飛ばしてあげるのが精一杯だね。念話、全国民に話し掛けているよ。洗脳されている大人と子供は飛ばした。それと、新孤児院に残っている子は荷物を持って旧孤児院に移動してね。またねー」
多くの家族が消えた。
これは現実なのよね?
「簡単に支配されたとしても命令内容によっては拒めるのであれば残してあげても良かったけど、赤ちゃんを躊躇いなく殺す事ができるのは見過ごせないね。本当に厳しい現実だよ。気付けたので良しとしよう。またねー。転移魔法」
「シャーロット様を簡単に裏切るのですから仕方ないわね。支配されるのであればシャーロット様の命令に従って欲しかったわ…。孤児院での教育で何とかできたかしら?」
「無理だね。シャーロット様も卒業生は残してあげたくて抗える可能性の高い4人を選んで呼んだと思う。それが、軽い威圧で言いなりになるのだからどうしようもない。孤児院ではシャーロット様に感謝するように教育している。それでも簡単に裏切る。殺す気も起きなかった…」
クリスタがここまで気落ちしているのを見た事がない。
命令を聞く子を真剣に見ていた…。
体のどこかで抗っていないか探していたのよね?
シャーロット様とクリスタが諦めるしかない状態。
どうしようもないじゃない…。
「誰からも奪われないように努力して、それでも自分の過去に全てを奪われてしまう。条件反射で絶対服従の奴隷に戻ってしまう。危険人物として判断されても仕方ありませんね…。奴隷に戻される条件が何か分かりません。人により違う可能性が高いでしょう。共通しているのが強者に対する服従のような気がします」
ビアンカの言う通りね。
支配される条件が他にもありそうだわ…。
奴隷の時にどのように過ごしていたのかで違う可能性が高いわね。
「シャーロット様を崇めているのに目の前で裏切り支配される。何という罪深き制度ですか!世界中の国が奴隷制度を採用している。この世界は腐っていますね!」
ヴィーネ様を精神汚染するのですから腐っているわね。
何故身分制度があったとしても平民で止まらないのかしら?
それに、凶暴にもなる奴隷が何故普段は言いなりなの?
気に入らない王族や貴族を殺せばいいじゃない…。
「シャーロット様たちは王族や貴族を殺しています。奴隷が王族になる事もあるでしょう。何故王族として務まるのでしょうか?知恵や力がないから奴隷だった。洗脳されていて奴隷だった。色々な形があると思いますが、奴隷から王族や貴族となって生活できる理由が分かりません。支配されていた側から支配する側に簡単になれるのが理解できません。真似ているだけなのでしょうか?分からない事ばかりです…」
世界を脅迫して王族や貴族を殺す。
何故世界は何も変わらないの?
そもそも人間と獣人は下位種族でしかない…。
上位種族がいるこの世界で何故殺し合いを続けているの?
分からない事ばかりね。
本当に滅入るわ…。
みんな孤児院に来た日と同じような目をしていた。
生気を感じない目。
立ち直らせる為に必死だった…。
みんな遊びも勉強も全力で元気な目に変わった。
一緒に楽しみ笑う事ができていたじゃない。
それなのに、どうして?
どのように接していたら過去を克服できたの?
シャーロット様を裏切る人は家族の敵でしょ?
孤児院は家族で仲間。
卒業しても変わらない絆よ。
同じ気持ちだったと思っているわ。
孤児院で大きな家族を作って一緒に頑張ってきたじゃない。
家族で仲間では、あなた達の過去に負けてしまうのね…。
家族の敵になってしまったら駄目じゃない。
庇ってあげる事もできないわ。
一番大切な約束を破ってどうするの…。
シャーロット様は安全な国を選んで下さったわ。
敵になったあなた達を殺さなかった。
感謝なさい…。
私は大切な家族を守らないといけないから…。
もうすぐお腹を空かせた子が集まるから夕食の準備を始めるわね。
カーリンは倒れません…。
大切な家族が残っていますから。




