シャーロット 来年に向けて
本当に醜悪な人間だった。
国民として検問を通り抜けようとしただけでヴィーネを侮辱した。
愛娘を母さんの服と同時に侮辱するとはね…。
悪事を働くつもりがなくても入国させたら必ず問題を起こす。
自国での振る舞いが他国でも許されると思っている。
本来なら観光も遠慮したい…。
商人と観光客を国内に入れようとすれば必ず似たような人を相手にする必要がある。
ヴィーネやウィーノと同じように国民にも子供を殺させたくはない。
念話。
「世界中の王族や貴族などの権力者に告げる。聖地シャーロットで観光したいのであれば態度をわきまえろ。自国での振る舞いが我が国で許されると思うな。勘違いした馬鹿が入国したらその国の王族と貴族は皆殺しにする。流石に個別に対応するのが面倒だ。この国が嘘は吐かないと知っているだろ?肝に銘じておけ」
私たちが他国に合わせる必要はない。
他国が私たちに合わせるか滅びるか選ぶだけだ。
そのまま検問まで飛んでいく。
「やあ、お疲れ様。一応脅しておいたけど効果は薄いと思う。勘違いした馬鹿が来たら堀に落とせばいいからね。もし子供連れだったら遠慮せずに呼んでくれればいいから。君たちが子供を殺す必要はないよ」
「はい。分かりました!」
「ありがとうございます!」
とても丁寧な一礼をされた。
そんなに畏まらなくてもいいのに。
孤児院の卒業生は本当に真面目だよ。
「気にしなくてもいいよ。大変な仕事を任せてしまっているからね。新しい卒業生が就職するまで後少しだから、それまでは頑張って欲しい。私が検問兵を募集しておくから何人かは就職してくれると思う。国の出入り口を守るのは大切な仕事だからね。検問する時に下手に出る必要はないから。この国は世界の覇権国家だからね。素直に検問に応じなければ殺してもいい。2人の判断に任せるよ」
「はい。頑張ります!」
「分かりました!」
この2人は結婚しそうな雰囲気があるけど気のせいかな?
アグネスは怖いお母さんになりそうだよ!
「じゃあ、頑張ってね!またねー。転移魔法」
税理官室に移動した。
「やあ、求人募集をお願いしに来たよ。いいかな?」
「はい。勿論構いません!」
クルトとベンノが上手く仕事を回しているね。
病院関係者だった人も仕事ができるようになっている。
ヴィーネのお陰で飛ばす人が減ったね。
気付いているはずなのに、ヴィーネは国長をした自分を失敗だと考えている。
もっと褒めてあげよう…。
嫌がるくらいに褒めてあげれば納得してくれるのかな?
「検問兵と闘技組合に募集をお願い。両方とも回復魔法が使える人。更に検問兵は結界魔法が使える人と高等科の卒業生で戦闘能力が高い人。それと、孤児院にも募集をお願い。ヴィーネが来年から子供の救出に力を入れるからね。人が多いとできる事も増えるよ。あとは教師も募集しておいて。教師は高等科の卒業が絶対条件。子供が増えるから教育にも力を入れないとね。全部私たちの名前で募集しておいて」
「はい。かしこまりました!」
「募集とは別だけど、好きな組合や組織を作ってもいいと伝えておいて。但し、税金を使うかどうかの審査は税理官室が行うものとする。組合や組織でお金を稼げるのであれば税金の負担は必要ないから自由だけどね。国は国民が盛り上げて欲しい。大規模な事業で建物が必要であれば私を頼ればいいから。税理官室も人を募集してやりたい事があれば挑戦すればいいよ。じゃあ、任せたよ!」
「はい。分かりました!」
「できる事を考えてみます!」
税金の集金と配分も大切な仕事だけど他にもできる事はあると思うからね。
税理官室がお金を稼いでもいいと思う。
「色々と考えてみて。じゃあ、またねー。転移魔法」
闘技場に移動した。
「終わってるね…。お疲れ様ー」
「遅いよ!私が検問に行っても良かったじゃない」
分身体がご立腹だよ…。
闘技場の仕事を任せたのが不満らしい。
「私たちが言い合っても空しいから。分かっているでしょ?」
「まあね…。早く解除して」
吸血技解除。
両方とも本体と言える能力だからね。
同じ人格と能力を持ち、解除はどちらからでもできる。
私の中で増えた方が分身体と決めているだけ。
だから、分身体もそのように考えている。
難しい能力だよ…。
今日の仕事は終わったね。
「お疲れ様。今日は終わりだね。明日もよろしく」
「はい。お疲れ様でした。よろしくお願いします」
「「お疲れ様でした」」
代表で話しているのがドーリス。
私が組合長に任命したよ。
元々は研究員だったけど妊娠と出産後に子育てに専念していた。
保育科ができて研究員の仕事に戻ると思ったら闘技組合に就職していたよ。
色々な事に興味がある人だと思ったから組合長に任命した。
仕事に慣れた頃に闘技場で新しい何かを始めるかもしれないからね。
それも、楽しみだよ。
「じゃあ、またねー。転移魔法」
社に移動した。
「ただいまー。世界への警告と求人募集と闘技場の仕事が終わったよ。ヴィーネのお陰で選別を逃れた人が仕事を頑張っているね。せっかくだから、ヴィーネが考えていた色々な組合や組織を自由に作ってもいいと税理官室に言っておいたよ」
「おかえりー。考えていたけど何で分かるの?感情把握していても悩んでいた事しか分からないはずじゃない?」
娘の考えている事は全部分かると言いたい。
だけど、私は未熟な母親だからね…。
「悩みながら商人組合と闘技組合の事を考えていたから分かるよ。ヴィーネの国長は失敗じゃない。大変だったけど、感謝している人はいるしヴィーネも成長できた。成功だよ!」
「急に何なの?国長の事なんて話してないよ?」
少し喜んでくれたね。
まだまだ感情を隠すのが下手みたい。
赤ちゃんだから仕方ないけどね。
「ヴィーネが失敗だと悩んでいるから、そろそろ止めるべきだと思ってね。ヴィーネの国長は失敗していない。私より優しいから多くの人が残る事ができた。お祭りの後から来年の準備を始めなさい。世界を魔力で覆っていいよ。助ける子はヴィーネが探して決める。お祭りの後から孤児院が埋まるまでの限定だからね。孤児院の求人募集もしておいたから、状況によっては今まで助けられなかった子でも助ける事ができるようになるのかもしれない。様々な状況を想定しておきなさい。ヴィーネ、前を見なさい。後ろを見ていては誰も助けられないよ。分かったね?」
「本当にもう…。分かったよ」
まだ悩んではいるけど直に納得してくれる。
優しいヴィーネは子供を助ける為なら迷っていても前を向くよ。
「ただいまー。あれー?姉さんどうしたの?説教中だった?外出してようか?」
「おかえりー。違うよ!来年の仕事の話だよ。ウィーノも私の仕事に付き合いなさい。ついてくるだけでいいから」
「おかえりー。そうだね。ウィーノも世界を自分の目で見なさい。それと、ヴィーネが不安定になっていると感じたら子供の救出は中止にするから。分かっているね?」
同じ失敗はできない…。
ヴィーネが追い詰められるような状況にはさせない。
「分かっているよ。母さんに止められないように救出する子を探すから。同じ失敗はしないよ」
「私はついていくだけでいいの?他に何かしなくてもいいの?」
「ウィーノはしっかりカーリンを立ち直らせる事。カーリンがいなくなれば助けられる子は激減するからね。それと、孤児院の改善を考える。カーリン頼みにしているようでは本当は駄目だから。施設として多くの子を助けられるようにする何か新しい仕組みがないか考えてみなさい。ヴィーネも考えているから必要なら2人で相談しなさい。それと、シィーナ姉ちゃんと組手する事になると思うけど掠り傷でもつけられたら分かっているよね?破壊は考えなくてもいいから圧倒しなさい。あなた達が世界最強であると証明しなさい」
孤児院はカーリンを頼って多くの子を助けてきた。
だけど、それでは長く続ける事ができないから…。
子供を助け続けたいのであれば個人に頼らない仕組みが必要だよ。
2人で頑張って考えてみなさい。
「世界最強の魔王に脅迫されたよ。全く証明できないよー。目の前に世界最強がいるもん。母さんが証明してきてよ。何で母さんを指名しないの?おかしいよ!」
「ウィーノ頑張れー。シィーナ叔母さんは分かっているから母さんを指名する事はないよ。私は無傷だからね。妹が傷を負うとかありえないよ。母さんとの組手が足りない証拠になるね。私が監視するから。クリスタに焦る叔母さんが見れるかもしれないからね」
「娘を激励しているだけだよ。魔王とか脅迫しているとか言うなんて教育が必要なのかな?」
「母さん、ウィーノを教育した方がいいよ。無傷が当たり前なのに脅迫とか言っているし、母親を魔王と言うなんて駄目だよね。地下世界に魔王がいるのを知っているのにさー。何を言っているのか理解できないよ」
「母さん、嘘吐きがいるよ。姉さんは訓練中に母さんの事を地獄の魔王とか思っているよ。間違いないからねー」
「なるほど…。2人とも訓練が必要な訳だね。本当に赤ちゃんの世話は大変だよ」
「母さん、眠たくなってきた。今日はもう寝ようよー。赤ちゃんには睡眠が必要だよ」
「私も眠たくなってきたよ。ウィーノと一緒だね。寝る子は育つって言うでしょ?」
本当にそっくりな性格だよ。
可愛い甘えん坊だね…。
黙って布団を敷く。
2人は笑顔で布団に飛び込む。
私も布団に入って2人を抱きしめる。
「じゃあ、おやすみー」
「「うん、おやすみー」」
世界最強の魔王…。
愛娘たちがいなければそうなったていたのかもしれないね。
シャルは現在の最強が自分であると自覚しています。




