ジェラルヴィーネ 友達
もう嫌だ…。
クリスタを侮辱する言葉を聞きたくない。
カーリンは無自覚だよ。
だから、平気でクリスタを侮辱する。
とても聞いていられなかった。
だから、すぐに帰った…。
「ただいま。私は子供よりクリスタの方が大切みたいだよ。来年の計画も考え直しかな」
「おかえりー。そんなに焦らなくてもウィーノが話しているじゃない。きっと大丈夫だよ」
誰が話しても無理だよ。
全然伝わらないから…。
「無理だよ。カーリンにウィーノの声は届いていない。人の話を聞いていないよ」
「そっか…。少し様子を見てからウィーノを呼ぶよ」
本当に優しい教育だね…。
私の時とは全然違うもん。
「ヴィーネ、拗ねないで。ヴィーネには辛い思いをさせてしまったけど、ウィーノに同じ思いをさせたい訳ではないでしょ?それに、今回はウィーノも辛い思いをするかもしれない」
「そうだけど、うーん…。母さんはカーリンをどうするつもりなの?」
ウィーノが辛い思いをする?
教育を変えた母さんは何をするつもりなの?
「最悪の場合は私が殺すよ。一度は機会を与えるつもりだけどね」
「本気だね…。いいの?孤児院が崩壊するかもしれないよ?」
カーリンを殺すとまで言った…。
母さんにとってクリスタはそれ程の存在なんだ。
「私は孤児院より友達の方が大切だから。それに、カーリンがいなくても孤児院は崩壊しない。そんなに弱くないよ。カーリン軍が何かするなら全員飛ばす。ヴィーネ、知っているでしょ?」
「そうだね。母さんは容赦しない。分かっていたけどカーリン相手に母さんがそこまでするのが想像できないよ」
カーリンとカーリン軍は同じ扱いにする可能性まであるんだ。
本当に母さんは容赦しないね…。
「カーリンは特別だよ。でも、クリスタは私の友達なの。比べるまでもないよ。但し、カーリンは多大な貢献をしてくれているのも間違いないから機会を与える。それは、ヴィーネも分かっているでしょ?」
「分かっているけど無理だよ。どんな機会を与えたらカーリンは立ち直るの?」
私には想像できない…。
今のカーリンが立ち直る姿が見えない。
「ただいま。カーリンは無理だよ。全く話を聞いていないから。何であそこまで人の話が聞けないの?」
「おかえりー。今までそうやって生きてきたからだよ。陰でクリスタが支え続けてきたからね。だから、生きてこられたのだと思う。クリスタには悪い事をしちゃったよ」
「母さん!クリスタに何をさせたの?ウィーノは諦めて帰ってきたの?」
母さんはクリスタに何か指示を出したね。
何でそんな事するの?
「私は母さんに呼ばれたから帰ってきただけだよ。全然話を聞いてくれないからね」
「ヴィーネはクリスタの事になるとすぐに熱くなる。私とクリスタの秘密を話してもらうだけ。本当は2人だけの秘密にしたかったけど仕方ないよ。クリスタもカーリンの為なら話すよ」
「クリスタがカーリンを助けるかどうかなんだ…。侮辱してくる相手を助けさせるなんて酷いよ」
母さんとクリスタの秘密を打ち明ける程の価値があるの?
クリスタを侮辱している相手だよ?
「ヴィーネ、クリスタはカーリンに助かって欲しいと思っているからお願いしたんだよ。そうじゃなければ、クリスタにお願いしない。それと、ウィーノの衝動的な行動でここまで騒動が大きくなったね。何か言いたい事はあるかな?」
「やっぱり説教で呼ばれたんだね…。一度の組手からここまで繋がるとは考えてもいなかったよ。カーリンを知ろうとしたけど、真意には気付けなかった。クリスタに勝ちたいとは聞いたけど、あそこまで意固地になっているとは思わなかったよ」
「ウィーノ。クリスタに勝ちたいと聞いたのなら理由まで聞くべきでしょ?何でそこで止まっているの?カーリンを知ろうとしたのなら情報が全然足りていないじゃない。何をしているのよ!」
「ヴィーネ、すぐに怒らない。ウィーノ、相手を知る事は簡単ではないよ。私は考えて組手しなさいと言ったよね?何を考えていたのか正直に言いなさい」
「カーリンを強くする事だけを考えていました。カーリンの戦い方や癖などを見て、カーリンの事をどんどん知っている気になっていました。結局は何も知りませんでした」
「何をしているのよ。あなたはクリスタを侮辱する言葉を何度も聞いてきたでしょ?あの隙間を埋める行為をただの作業のように考えている。クリスタが隙間を埋めた理由も知ろうとしない。何も知ろうとしていないじゃない。それなのに、対等になりたいから隙間を埋めると言った。クリスタの想いをただの意地の張り合いまで落とそうとした。どうしたら許せるのよ!」
「ヴィーネ、落ち着いて熱くならないようにしなさい。ウィーノが産まれて初めて関わった人間なのよ?どのようにすればいいのかまだ手探りだよ。クリスタを侮辱したのはウィーノの責任じゃない。確かにウィーノは考えが足りなかった。以前の私の教育ならウィーノにカーリンを殺させていたかもしれない。でも、ヴィーネは辛かったでしょ?同じ思いを妹にさせたいの?違うでしょ?クリスタを侮辱されているから許せないのでしょ?隙間を埋めるなんて普通は簡単に言える言葉じゃない。カーリンは正しく理解していない。秘儀が生まれた過程を本当に理解しているのはクリスタだけだから仕方ないじゃない。クリスタの判断に任せてあげなさい」
「姉さん、ごめんなさい。次からは必ず気を付けるよ…」
「私が言い過ぎたよ…。クリスタが隙間を埋めている時の光景が頭を過るから。何も覚悟していないカーリンが、クリスタと対等になりたいから隙間を埋めるなんて発言をしているのが許せない。別にウィーノに怒っている訳じゃないよ」
理解していないから何を言ってもいいの?
それだと、言われた方が辛い思いをするだけじゃない。
「ヴィーネ。クリスタが許したなら水に流しなさい。辛い思いをしたのも侮辱されているのもクリスタでしょ?ヴィーネの気持ちも分かるけど、クリスタに任せなさい。いいわね?」
「分かったよ。クリスタはカーリンを救おうとするよ。それを、尊重するから」
「姉さんは何を見たの?クリスタは隙間を埋める時にどんな状態だったの?」
今でも鮮明に覚えているよ…。
あれは本来許されるべき行為じゃない。
「話してなかったね。組手しながらシィーナ叔母さんに隙間を埋められて全身を破裂させられた。クリスタは笑顔だったよ。笑っていた。母さんの感じた痛みを少しでも知りたかったと言ってね。一度も攻撃を止めなかった。一度も休まなかった。隙間を埋め終わったら魔力を吸収して叔母さんと組手した。それも、終始笑顔だった。クリスタはずっと笑顔だったよ…。あれは人間が経験するべき痛みじゃない。何十回死の痛みを経験したか。死ぬより辛い事だよ。人間が胸を破裂させられても笑顔で組手を続けた。叔母さんも止めようとしたくらいだよ。隙間を埋めるなんて軽い言葉に聞こえるけど、あれは地獄だよ。クリスタはその地獄を望んだの。しかも、足りないと感じていた。母さんの感じた痛みはもっと辛いと想像してね。痛みを知らない自分は秘儀を使ったらいけないと言っていたよ。それが、クリスタなの。普段の軽い感じにみんな騙される。本当は誰よりも優しくて信念の強い女の子だよ」
「ウィーノ、そんなクリスタが呼んでいるよ。行ってきなさい」
「はい。分かったよ…。転移魔法」
カーリンがクリスタに助けを求めた気がする。
クリスタはカーリンを助ける為にウィーノを呼んだね。
「今のヴィーネなら分かるでしょ?カーリンがクリスタに助けを求めた。これで大丈夫だよ。クリスタはカーリンから助けを求められなければ何もしなかったと思う。クリスタは何度もカーリンを救ってきた。今回は流石に見極めていたのだと思う。これで、クリスタがカーリンを助けるのは最後だよ。クリスタも忠告しているから」
「分かっているよ。私も今回は水に流すから。ところで、何でウィーノは喜んでいるの?」
カーリンを助けに行ってウィーノが喜ぶ何かがあるの?
全く理由が思い浮かばないよ。
「クリスタは勘が鋭いからね。ウィーノを説教から救ってあげたと言っているね。それで、大喜びだよ。そして、条件を飲ませるから上手いよね。カーリンを自分と戦えるまで鍛えろとウィーノに要求したよ。勇者は凄いね。やりたい放題だよ。カーリンは隙間を諦めて心身を鍛えると言っているから反省しているよ」
ウィーノがクリスタに丸め込まれただけなんだ。
クリスタなら平気でするだろうね。
どのような顔をして帰ってくるのかな?
「ただいまー。私が責任を持ってカーリンを鍛える事になったよ。綺麗に解決したね!」
「それと、説教は話が別だね。さて、何から説教しようかな。多過ぎて困るね」
「ウィーノ、母さんの説教は始まっていなかったよ。何か勘違いしていない?」
満面の笑みだよ…。
反省が余りにも足りないみたいだね。
「えー!クリスタに騙されたよ。悪辣非道な手段でカーリンを鍛えろと迫るんだよ。姉さん、助けてよ」
「それは、酷いね。助けてあげるよ。今からクリスタを説教しに行くから一緒に付いて来なさい」
「そうだね。悪辣非道な手段を許したら駄目だね。行ってきなさい」
「いや…、私が我慢すれば平和に治まるからやっぱりいいよ。姉さんの手を煩わせる訳にはいかないよ」
「ウィーノの嘘を直接聞くのは二度目だね。今回は水に流してあげるよ。三度目は母の愛が待っているから期待していなさい」
「母の愛が待っているなら私も水に流すよ。母の愛には勝てないからね」
素直になればいいのに…。
母の愛は流石に同情しちゃうね。
「母さん、もう大丈夫だよ。心配しないで!」
「そうなの?じゃあ、ウィーノは赤ちゃんを卒業したんだね。今日からヴィーネを抱きしめて寝るよ」
「私はまだ赤ちゃんだからね。姉より早く卒業するとは成長したね」
「待って待って。私は赤ちゃんだけど心配をかけたくないんだよ。母さんなら分かるでしょ?」
「ふーん。このやり取りが長く続くと三度目の嘘と見做すからね。どうするの?」
「あらら。もうすぐ母の愛が待っているんだ。まだ寝れないね」
「ごめんなさい!カーリンは私が責任を持って鍛えるから水に流して」
「ウィーノ、自分の発言には責任を持ちなさい。その発言は信じていいの?」
母さんの本気だ…。
流石にこれは有耶無耶にできない。
「本気で鍛えるよ。カーリンは心を鍛えたいと思っていたはずだから心の鍛え方を考えないといけない」
「心を鍛えるのが一番難しいよ。カーリンと話し合いをたくさんして本当に分かり合えるまでになりなさい。前回も中途半端は許さないと言ったわよね?同じ失敗は許さないよ。いいわね?」
「分かりました。私から始まったから同じ失敗はしない。カーリンを必ず鍛えるから」
「ヴィーネ、これならいいね?」
「分かったよ。ウィーノに任せる。私はクリスタを鍛えるから」
妹を責めたい訳じゃないから。
クリスタを侮辱しないならそれでいいよ。
「さて、寝よう。今日は疲れたでしょ」
「「うん」」
母さんが布団を敷いてくれたからすぐに入る。
布団に入る早さは毎回互角だね…。
侮れないよ!
母さんが入って抱きしめてくれる。
これで1日が幸せな気持ちで終われるよ。
「ヴィーネ、ウィーノ。人間の寿命は驚くほど短く別れが早い。中途半端な事をして後悔だけは残さないようにしなさい。関わるなら全力で関わりなさい。いいわね?」
「「はい」」
「それじゃあ、寝よう。おやすみー」
「「うん、おやすみー」」
そうだね…。
世界樹や身体強化で寿命が延びたとしても私たちからしたら然程変わりない。
クリスタを後世の歴史にまで残るような最強の人間として鍛える。
お婆ちゃんとクリスタの名前だけは絶対に残す!
私のやるべき事が1つ増えたけど絶対にやり遂げるから。
シャルもヴィーネもクリスタを友達だと思っています。




