ジェラルウィーノ 会話
本当にもう…。
姉さんとクリスタは私の予想より仲良しだね。
反則だよ!
でも、私が切っ掛けで始まっているんだよね。
衝動的に行動して、また衝動的に行動して…。
カーリンを振り回しているだけだよ。
この状況でカーリンを鍛えるのを母さんに任せたら最低だよ。
そんな事は絶対にできない!
それに、話を聞いていてよく分かったから。
また母さんに説教されたけど…。
私は人を見ていない。
母さんの知識を披露して鍛えているつもりになっていただけ。
母さんに考える機会を奪ったと説教されたから考える機会を作ろうと思った。
その為にした事がカーリンに母さんの知識を披露しただけ。
カーリンは色々な駆け引きを知って考えなければいけなくなった。
だけど、私自身は何も考えていないじゃない…。
継承した知識と現実は全然違う。
知識の中でカーリンを知っているつもりでも、実際に話せば違う印象を受けるはず。
それなのに、私は何も感じていない。
つまり、カーリンと話をしていない証拠だよ。
私が勝手に母さんの知識を押し付けているだけ。
本当にダメダメだよ…。
母さんに言われた通りだね。
自分を見せていないしカーリンを見ていない。
顔を合わせて訓練しているのに相手を見ていない。
これほど最低な指導者はいないよ…。
古代種ドラゴンの種族特性のせいにはしたくない。
1人の人間も覚えられないのは絶対に違う。
それに、姉さんができているのに私ができないのは嫌だ。
私は絶対に色々な事を考えて生きる!
だから、カーリンを鍛えるのを諦めない。
転移魔法。
孤児院に移動した。
「カーリン、今日も訓練する?」
「はい。お願いします!」
転移魔法。
死体処理場に移動した。
3重結界。
「さて、これで邪魔は入らなくなったね。少し方針を変えようと思う。カーリンに目標はあるの?」
「はい。クリスタに勝てる強さが欲しいです。負けられません!」
クリスタに勝つのが目標か…。
つまり、姉さんに勝たないと駄目だね。
「カーリンには色々な駆け引きを見せてきたけど、クリスタとの試合で使えそうかな?」
「試合前に決めていれば使えるかもしれませんが、臨機応変には使えないと感じました」
やはり種族差があるね…。
カーリンは戦いの中で駆け引きを使うのが難しいと感じている。
「カーリンの中で鍛えたいものはある?して欲しい事はある?思っている事があるなら何でも言ってよ」
「クリスタは強くなったと言っていました。私にはどうすればこれ以上強くなれるのかが分かりません。ウィーノ様と組手しているので格上の方との対戦経験がないとは思えないです。しかし、クリスタは10分程の訓練で満足していました。注意されただけだと言っていました。威圧の強さも調整していただけたと言っていました。それらが、どのような状況なのかが想像できないのです」
クリスタは何を注意されたのかな…。
あ…、私はカーリンを知らないから注意なんてできないよ。
じゃあ、威圧か…。
どのくらいの強さの威圧にすればいいのかな?
「できる事から始めないとね!カーリンの希望する威圧の強さはあるのかな?」
「私が秘儀を使って動ける際にしていただけたら嬉しいです」
動ける際ね…。
それは、徐々に強くしていかないと危険だね。
「じゃあ、今から威圧を徐々に強くしていくから厳しいと思ったら手を挙げて。限界までは絶対に我慢しないでね。国防軍のテストの時の威圧から上げていくよ」
「はい!よろしくお願いします」
威圧を徐々に強くしていく…。
かなり強い威圧だけど手を挙げないね。
人間が出せるとは思えない威圧の強さだけど手を挙げない。
このままだと竜の国のドラゴンを殲滅できる強さになりそうだよ。
凄いね…。
カーリンはここまで心が強いんだ。
母さんの知識である程度は知っていたけど、実際に目にするとやはり違うよ。
あっ!
手を挙げたね。
「カーリン。この威圧の中で自由に動ける?」
「耐えているだけで精一杯です…」
話せるだけでも十分に凄いよ…。
絶対に中途半端な事はできないね。
「今から徐々に威圧を下げていくから動けると思ったら手を挙げてね」
「分かりました。お願いします」
威圧を徐々に弱めていく。
人間がこれ程の威圧に耐えるんだ。
衝撃的だよ…。
自分が威圧しているから余計にそう感じる。
手を挙げたね。
「この強さだね。少し動いて見せて」
「分かりました」
十分に動けているね…。
竜の国のドラゴンは身動きが取れない威圧の強さだと思う。
「ありがとう。じゃあ、今日から訓練はこの威圧の強さで行うよ。上げる時は徐々にするから体調の悪い日は教えてね」
「はい。ありがとうございます!」
まずはカーリンの事を知らないと駄目だね。
注意も何もできないよ…。
「私はカーリンの事を詳しく知らないから、今日からそれを知りつつ訓練内容を考えようと思う。カーリンは私を殺すつもりで攻撃して。私は反撃しないから好きなだけ攻撃していいよ。人間の魔力量しか使わない。但し、魔力を満たしていない攻撃をすると痛いと思うから気を付けてね。限界だと思ったら止めて」
「分かりました。全力で攻めます!」
「さあ、好きなだけかかってきて」
「では、いきます!」
凄い猛攻だね…。
・・・・。
3分くらい経ったかな?
体の魔力は半分くらいになったね。
足の魔力を最低限にして手だけで攻撃している。
私に対して駆け引きを仕掛けてきたりはしない。
隙を突くような攻撃もしない。
攻めてくるカーリンを見て感じるのは、戦闘中に特別な事はできない気がする。
既に魔力量は限界だと思うけど止めないね…。
カーリンは見掛けによらず直情的のように感じる。
小細工するよりも力で相手をねじ伏せるような戦い方をするね。
足を攻撃に余り使わないのは王女だったから?
それとも、隙に繋がるから?
それも、これから徐々に知っていけばいいね!
「ここまで!カーリン、自分の魔力がどの程度減っているのか把握していた?」
「細かくは把握していませんでした。全力で攻撃できれば問題ないと考えていました」
「課題が見えてきたよ!今のカーリンがこの威圧の中で全力で戦闘できるのは3分もない。その時には魔力量が半分以下になっていたから必ずどこか破壊される。後は視野が狭く心に余裕が無いのは直した方がいいね。戦闘できる時間を長くするのはこの威圧の中で組手を何度もすれば自然と慣れるから解決だね。希望の訓練はあるかな?」
「問題点の指摘だけでも十分ですのに、そこまでしていただいても良いのですか?」
「勿論だよ。私も鍛えているからね。考える事で頭も使えるしカーリンと仲良くなれるし問題なしだよ。希望の訓練があればそれをするし、ないなら私が考えるよ」
「ありがとうございます。同じ条件でも何もできずに圧倒的に負けるのを経験してみたいのです」
「なるほど。人間の身体強化で可能な動きで圧倒的に負けてみたいと…。魔力を回復するよ」
カーリンの手を握り魔力を送る。
「敗北条件は何にする?」
「私のおでこを指で軽く弾いて下さい。よろしくお願いします!」
それは、クリスタの説教じゃなかったかな?
まあ、私はカーリンの望みを叶えるだけだね。
「始めよう。いつでもきて!」
「よろしくお願いします。では、いきます!」
先程の猛攻で分かっている。
カーリンは必ず手から攻撃を始める。
全体を把握して駆け引きしてこない事を確認する。
右拳を突き出して私の顔を狙ってきたね。
拳を強く握り込んだから分かるよ。
受け止められたら左拳で攻撃するつもりだね。
演技だったらいいのだけれど、カーリンは真っすぐだから。
迫ってくる右拳を顔を傾けて躱す。
それと同時にカーリンの右腕と左腕に両拳で攻撃する。
【バシィ】
両腕を同時に攻撃された事に動揺したカーリンの顔を目掛けて左拳を突き出す。
頭に当たる直前に左拳の魔力を抜く。
中指でおでこを弾く。
【トンッ】
「ここまでだね。2ヵ所同時攻撃は予想外だったみたいだね。動揺が見えたよ」
「はい…。一度しか攻撃できないとは思いませんでした」
「今のおさらいをしよう。カーリンは受け止められると思って右拳を突き出した。その時に左拳を強く握ったから、次の攻撃は左拳で間違いないと分かったよ。カーリンを動揺させるには攻撃した腕と攻撃するつもりの腕を同時に攻撃するのが一番だと考えた。先程のカーリンを見ていて攻撃中は特に視野が狭くなっていると分かっていたからね。拳を握ったのが隙を生み出す為だったら面白かったけど、心に余裕が無いから考えていない。相手の全身を見る事は大切だけど、自分の体の動きも把握していないと。無意識に攻撃の予備動作を見せているからね。それと、先程よりも魔力の減りが早いのにも気付いていないね。攻撃される緊張感も影響するよ。カーリンはまだまだ強くなれるね。見付けた課題を乗り越えるごとに強くなるよ。課題が見付かって良かったよ。精神的に疲れたでしょ?今日はここまでにしよう。私も訓練方法を考えてみるから、カーリンも考えてみてね」
「分かりました。ありがとうございます!」
本当に大袈裟に頭を下げるね。
気にしなくてもいいと言った方がいいのかな?
威圧を消す。
高位回復魔法。
結界解除。
転移魔法。
孤児院に移動した。
「強い威圧の中で訓練したから、自分で思っているよりもかなり疲労しているから必ず休んでね」
「はい。今は少し興奮状態ですが落ち着いたら休みたいと思います。ありがとうございました」
「じゃあ、時間がある時に声を掛けるよ。またねー。転移魔法」
社に移動した。
母さんは闘技場でお仕事中だね。
「ただいまー。今日は課題がたくさん見付かったよ。カーリンは強くなるよ」
「おかえりー。真面目に訓練してきたんだ。諦めたかと思ったよ」
「諦める訳ないじゃん!カーリンは性格が素直過ぎて駆け引きは苦手みたい。今までが無意味だったよ…」
「カーリンは見掛けによらないからね。分かりやすい行動を取りそうだよ。クリスタとは逆だね」
「見掛けによらないにも程があるよ。威圧にも耐え過ぎだから。カーリンに希望を聞いたら自分の動ける際の威圧の中で組手したいだったからね。カーリンが動ける威圧の強さは竜の国のドラゴンが身動き取れないよ。耐えられる限界の威圧だと竜の国のドラゴンを殲滅できる。自分が威圧しているのを耐えられると衝撃も大きいね!」
「カーリンも人間辞めているからね。秘儀を極めたら人間卒業だよ。覚悟が違い過ぎるからね。分かっていると思うけど、カーリンに変な訓練したらカーリン軍が黙っていないよ」
「そうだね…。母さんが黙っていないね。本当にカーリン軍は面倒だよ…」
「まあ、否定できないね。この国を支配しているから。カーリンの為に何人処刑したのか覚えていないよ。国長で一番面倒な仕事だったね…」
母さんがカーリンを侮辱したら拷問して処刑すると決めているからね。
姉さんが処刑し続けていたのは流石に気の毒だよ…。
さて、次の訓練の事を考えよう。
性格は以前よりも分かったから、カーリンらしさを残しつつ強くしてあげたいね。
ウィーノらしい訓練でしたね。




