ジェラルウィーノ 疑問
私は何も考えずにカーリンに技術を教えてしまった。
間違いなく迂闊な行動だったと思う。
私も衝動的に行動しているよ…。
でも、疑問にも感じているんだよね。
できるのかもしれない事に挑戦するのは悪い事じゃないと思う。
母さんと姉さんはすぐ禁止にすると考えた。
私も禁止にした方が試合は面白くなると思う。
だけど、私には分からないよ…。
母さんは挑戦する人が好きなはずだから。
禁止にする事で可能性を奪っていないのかな?
本当にそれでいいのかな?
「ウィーノ。思っている事があるでしょ?言ってみなさい」
母さんは私の疑問にすぐ気付くよね。
姉さんもいるし丁度いいかな…。
疑問を聞いてみよう。
「母さんはカーリンに技術を教えた私を説教した。クリスタと組手した姉さんはいいの?」
「ウィーノがカーリンと組手を約束しているからだよ。だから、ヴィーネはクリスタと組手した」
私が組手したから姉さんも組手したんだ。
最初の切っ掛けは私だね…。
「姉さんは禁止になる可能性があると分かっていたの?」
「そうだよ。秘儀についてクリスタとカーリンは平等にしないといけないからね」
クリスタの覚悟は知っている。
カーリンも同等の覚悟を持っていると思う。
だからこそ、対等に試合させてあげたいのだと思う。
でも、秘儀の知識まで平等にする必要があるのかな?
あ…、本当に考えていないね。
私がカーリンに教えたからだよ…。
自分で気付いた知識なら教えなかったはず。
「母さんは挑戦する人が好きでしょ?禁止にしたら挑戦する機会を奪った事にはならないの?」
「ヴィーネに言ったばかりだけど直接言わないと実感が薄いみたいだね。ウィーノ、私たちの言葉には力がある。私たちが教えた事でできない事は存在してはいけないの。努力の差でできる人とできない人がいるのは仕方ない。でも、最初からできないかもしれない技術を教えてはいけない。何故か分からない?」
私たちの言葉には力がある…。
それは、母さんが今まで積み上げてきた結果だよ。
「できないかもしれないという事はできる可能性もあるのでしょ?努力してみればいいじゃない」
「それは、ただの無責任だよ。カーリン、クリスタ、レナーテは秘儀を極めたと言ってもいい。クリスタと2人の違いは隙間を埋めたかどうか。自分で思い付いて努力するなら私は何も言わない。でも、今回はウィーノが教えた。つまり、絶対にできる技術だと3人は考える。ウィーノ、あなたは可能性を教えた訳じゃない。考える機会を奪ったのよ」
私は奪ってしまったんだ…。
そんな事は思いもしなかったよ。
「私は3人から秘儀の可能性を考える機会を奪ったんだね…。攻撃が当たる直前に魔力量を増やす技術をカーリンやクリスタが試合前に気付いたら禁止にしなかったという事でしょ?」
「そうだね。最初の試合は禁止にしない。その後も定期的に試合を続けるなら2人の様子を見て禁止にする。人を指導するのは簡単ではないよ。できないかもしれない技術を私たちは教えてはいけない。何故なら絶対にできる技術だと皆が思うから。それが、私たちなの。人から崇められ尊敬されている私たちが、軽はずみな行動をしてはいけない」
やはり衝動的な行動は駄目だね。
何かを失敗してしまう可能性が高い気がする。
しっかり考えてから行動しないと…。
だけど、私は考える機会を奪ってしまったけどいいのかな?
「母さんは私が考える機会を奪うと分かっていて何故止めなかったの?」
「魔力の移動速度を上げるのは可能だから。それに、攻撃が当たる直前に魔力移動させた場合、その攻撃に魔力量を合わせて防御するのは不可能だと私が教える。人では不可能だとね」
「何で不可能だと教えるの?」
「ウィーノは前提を忘れているよ。秘儀は私が教えた技術。私が責任を持つ必要がある。それに、どうやって訓練するのか考えている?誰かに攻撃してもらい防御するしかない。何回手足が吹き飛ばされる事になると思う?できるか分からないのに激痛を伴う訓練を続けさせるの?ウィーノは頼まれたら3人の手足を吹き飛ばし続けるの?」
本当に何も考えていないね…。
私も限りなくできる可能性は低いと考えているのに。
数え切れない程の激痛を耐えなければいけない。
秘儀を極めるほど心が強い3人は何度手足を吹き飛ばすか分からない。
そして、絶対に諦めない…。
私はそんな訓練に付き合いたくないよ。
先が見えないのに激痛を耐え続けるのは拷問でしかない。
最悪の場合は精神が壊れてしまうかもしれない。
そんな姿は絶対に見たくないよ…。
母さんの気持ちは継承された知識で分かっている。
でも、母さんの声で聞いておきたい…。
「母さんはクリスタの隙間を埋める訓練は反対だったよね?クリスタが望まなかったら止めた?」
「絶対に止めたよ。私は秘儀で辛い思いを誰にもして欲しくないからね」
そうだよね…。
秘儀を生み出す痛みは母さんが一番分かっている。
それに、訓練の方法が隙間を破裂させるしかない。
カーリンにも同じ事をしなければいけない。
母さんの気持ちは分かっているよ…。
「私はカーリンと組手してもいいの?」
「約束は守りなさい。但し、考えて組手しなさい」
何も考えていないからね…。
同じ失敗を何度もできないよ。
「分かったよ。禁止行為はせずに格上としてカーリンと組手する」
「そうしなさい。カーリンもウィーノとの組手を楽しみにしているからね」
カーリンは格上の私を望んでいる。
種族差だけに頼るような組手をする事はできないよ。
シャルの教育が変わりました。




