ジェラルヴィーネ 母の愛
魔力の移動速度は継承されないみたい。
私たちの体の中は魔力が満たされているのが前提だからなのかもしれない。
あー、駄目だね…。
楽に力を手にしようとしている。
母さんにしてみれば感情把握するまでもなく私たちを組手で圧倒できた。
秘儀を極めているのと極めていない程の差があるのだから。
私たちが魔力移動を使って隙を突く戦法は眠たいほど遅く感じるはず。
母さんとこれ程までに差があるとは思わなかったよ…。
私たちの母さんは凄い!
本来は人間の魔力量だけを使った組手をしないからなのかもしれない。
だからこそ、余計に母さんとの差を感じてしまう。
母さんの暇つぶしで動かしていた魔力はぶつかれば確実に魔力路を破裂させる。
つまり、ぶつかる直前に両方の魔力の形を変えてすれ違わせている。
暇つぶしをしている母さんが同じ方向に動かしているとは思えないから。
私たちが見えない速度で魔力を動かしながら形も変える事ができる。
私が魔力注入しても効果あるはずがないよ…。
母さんにしてみれば私の魔力注入速度は遅過ぎる。
見ながら隙間を作る余裕があるという事だから。
感情把握で先読みされていると思っていた。
全然違うじゃない…。
基礎能力だけで圧倒されていたんだ。
更に真祖の能力まで使われたら手に負えないじゃない。
知識の継承は本当に駄目だよ…。
叔母さんの知識が邪魔で仕方ない。
母さんだけの知識が欲しい!
母さんの考え方を少しでも知りたいよ。
それに、私が孵化した前後でかなり考え方が変わっているはず。
ウィーノが羨ましいよ!
母さんが国作りに余り手を貸さないのも間違いなく暇つぶし。
私が孵化するまでは早くお婆ちゃんと一緒に眠りたいと考えていたのだから。
暇つぶしだから新しい何かを見せてくれないとつまらない。
新しい何かを見せて欲しいから土地神様になっていると考えた方が自然だよ。
母さんの暇つぶしはおかしいよ。
暇つぶしだと思ってはいても、深層心理では意味があると分かっている気がする。
だから、私たちにはそれが分からない。
母さんだけの知識を継承していたら探せる可能性があったのに。
いや、理由を探すのは止めよう…。
それよりも、最低でも同じ事ができるようになるのが大切だよ。
魔力路に魔力を注入する恐ろしい技術があるのだから…。
母さんがもし他人だった場合。
母さんに邪魔な存在だと思われたら瞬殺されていた。
母さんは見えない速度で魔力を動かし最弱を装う事ができる。
私は体も魔力で満たせない弱い相手だと考える。
そんな状態の母さんを警戒するはずがない。
そして、母さんに肩を軽く叩かれただけで即死だよ。
母さんから属性魔力を注入される。
私の体の中の無属性魔力と合わさって内部から大爆発。
母さんは感情も隠す事ができる…。
挨拶する感情で殺意を隠し相手を殺す事ができる。
世界最強の暗殺者。
魔力や感情が見える相手でも関係なく殺せる。
今の私は結界で体を守っているのが癖になった。
母の愛は本当に大切だよ…。
かなり痛いけどね!
母さんは常に最悪を想定している。
そして、間違いなく私たちの命を最優先に考えている。
だからこそ、母の愛が生まれた。
私の隙を徹底的に潰す為に。
私には警戒心が足りないと注意された。
いつ、どこで、誰に、何をされても殺されないように母さんは私を鍛える事にした。
母さんがいなければ何もできない赤ちゃんだよ…。
母さんに赤ちゃんと言われても自然に受け入れてしまう。
母さんの赤ちゃんを卒業するのは大変だよ。
今は母さんがいないから丁度いいね。
恒例の孤児院のお肉補充に出かけている。
「ウィーノは母の愛を知っていて実際に経験もしたけど、どう感じた?」
「絶対に経験しておかないとまずいね。母さんの最悪の敵は母さんだよ。母さんが簡単に殺せない状態まで私たちを鍛えれば即死は防げると考えているから。母の愛は母さんが知らないうちに私たちが殺されないようにする為に生まれたんだよ。即死を防げるなら後は母さんが何とかするつもりだからね」
ウィーノは私が知らない事も知っている。
それが、とても羨ましい!
母さんはこの星で自分よりも強い存在を知らない。
だから、母さんが瞬殺できない状態まで私たちが鍛えられていれば守れると考えている。
母さんが駆け付けて敵と対峙するだけの時間が欲しい訳だね。
私たちを最強に育てるつもりでも戦わせる気は無い。
お婆ちゃんと同じ考え方をしているね。
知らない事を教えてくれたからウィーノにも私の考えている事を教えよう。
「恐らく赤ちゃんの卒業は母さんと組手して、母さんに感情把握を使わせたらだと思うよ」
「使って行動予測していないの?私たち2人を同時に相手して能力なしで圧倒したって事?」
無茶苦茶だよね…。
でも、私たちの母さんだから!
「母さんから見たら私たちは秘儀を極めていない子供たちと一緒だよ。魔力の移動が見えなかったじゃない。人間の魔力量で戦う時は魔力を移動させて攻撃する。母さんから見れば私たちの攻撃は丸見えだったんだよ。本当はボコボコにできたと思うよ。私たちより多い魔力で殴り返すだけだからね」
「そっかー。母さんは私たちが見えない魔力の移動速度でも見えている訳だからね。私たちの魔力移動なんて遅過ぎて、攻撃が当たる直前に移動させたとしても丸見えだね。殴り返されて破壊される。指導だから破壊されなかっただけだね。強過ぎるよ…」
だって、私たちの母さんだからね。
強いのは当然だよ!
「ウィーノ。魔力移動速度を鍛えておいた方がいいよ。その為に母さんが見せたのだから。シィーナ叔母さんは次のお祭りでその戦法を使ってくるかもしれないからね」
「そうだね。その可能性大だよ。やりたい事を考えるのが大変だよ。する事が多過ぎだよ。姉さんは母の愛がお祭り間近になると行われる理由を知らないでしょ?あれはね、母さんの我儘だよ。娘を鍛えるのは母の特権だと考えているから、シィーナ叔母さんから技術を学ばせるつもりがないんだよ」
我儘って…。
母さんの凄さが際立つだけだよ。
シィーナ叔母さんの考えまで予想して的中しているじゃない。
だから、母の愛は一度に全てを行わないんだ…。
でも、母さんが最終的に言いたいのは特別な事をしなくても圧倒できるという事だと思う。
私たちなら魔力の移動速度を鍛えるだけで双子の竜王は敵じゃない。
見せてはくれるけど理由は言わない。
感情把握の勉強方法は私が勘違いしていたから丁寧に教えてくれた。
本当は理由も自分で考えて欲しいのだと思う。
人間の魔力量で組手するのも必ず意味がある。
母さんは2人の差がよく分かると言った…。
普段の努力で物凄い差が出るよ。
魔力を満たした状態の組手だと使わない技術がたくさん必要になる。
いや、別に魔力を満たしているから強い訳じゃない。
母さんが本気で勝負する時には体の魔力をわざと満たさないのかもしれない。
魔力が見える相手なら魔力移動速度が速いだけで攻撃を誘発できる。
感情把握を使わなくても相手を思いのままに動かせる。
それに、母さんの魔力移動速度なら一瞬で体を魔力で満たせる。
基本的な技術だからこそ使える幅が物凄いある気がする。
私は母さんの力が感情把握にあると勘違いしていた。
感情把握に囚われていたんだ…。
視野を広くもたないと!
母さんが強い理由を簡単に決めたら駄目だね。
赤ちゃんが母の強さの理由が簡単に分かる訳が無いのだから。
妹は私と同じで負けず嫌いだと思う…。
100年も負けたままでいられる訳が無い。
努力しつつあえて努力していないように見せよう。
勝てると思ったウィーノをボコボコにして作戦完了だよ!
戦う前から勝負は始まっています!
相手は妹ですけどね。




