ジェラルヴィーネ 全力鬼ごっこ
まさか2対1で何もできないとはね。
桁違いに強過ぎだよ…。
ウィーノに勝てたから成長していると思ったけど、母さんから見たら誤差の範囲内だった。
もっと先を考えるようにしないと駄目だね。
でも、成長しているのは間違いない!
後から生まれたウィーノの方が有利な組手だった。
母さんの教育がなければ間違いなく負けていた。
私が孵化した後の知識も物凄い量だと言っていたからね。
一緒にゴロゴロしているのにどれほど考えているの?
全くそんな風には見えないのに…。
感情を隠すのも上手過ぎるよ。
何で母さんが感情を隠す必要があるの?
私とウィーノがいなければ感情を見る相手なんていないのに。
母さんはあらゆる最悪な状況を想定しているから、感情を読む相手がいる可能性も考えたんだね。
あらゆる可能性を考え過ぎだよ…。
昨日の組手は結構辛い結果だった。
母さんには勝てないと思っていても2対1で何もできないとは思っていなかった。
世界最強が2人同時に攻めて掠り傷1つ付けられない。
本当に規格外だよ…。
まあ、別にいいね。
私たちの母さんだから!
2人で攻撃しているから、相手が防げない攻撃を生み出す事もできたはず。
同時に攻撃する事ばかり考えてしまった。
指導されたけどさ…。
同時に攻撃する事も成功していれば違った結果になったはず。
母さんは組手で私が勝ったのを見て同時に攻撃はできないと判断した気がする。
戦う前から勝負は始まっていた…。
2人分の魔力を使っていると思わされてしまった。
その為、母さんに攻撃させる訳にはいかないと考えた。
母さんの言葉に完全に翻弄されているね。
魔力量を繊細に把握すれば分かる事なのに、そこまで考えていなかった証拠だよ。
母さんが攻撃しないのは、私たちの攻撃が上手くいっているからだと思っていた。
あそこまで鮮やかに私たちを相手にできる人が他にいるのかな?
絶対にいないよ…。
母さんが最強だよ!
「待ちわびていたようだね。全力鬼ごっこの時間だよ。君たちの全力を見せてもらおうじゃないか。あはははは」
始まったよ…。
母さんは異常者だよ。
母さんがついてくるから嫌な予感はしたんだよ。
絶対に何か言うつもりだと…。
それでも、子供たちの目つきが変わった。
この時を待っていたのがよく分かる。
「君たちに全力鬼ごっこを教えてあげよう。私の赤ちゃんが相手だよ。精霊も赤ちゃんだから同じでしょ?あはははは」
もう限界だよ…。
ウィーノは赤面しているね。
まだ耐性が低いみたい。
知識と現実の差に絶望しているね!
私は少し慣れたけど辛い。
慣れたくはなかったけど。
「監視員は黙っててよね。私とウィーノが参加するから」
「そうだよ。母さんは監視員だから終了だけ告げればいいの」
「ドリュアスちゃん。約束通り全力鬼ごっこを見せてあげるよ。本当にいいのかな?」
「くぅー!皆よく聞いてよ。今までは手加減されていたけど今日から相手は本気だよ。覚悟はできているね?」
「「はい!」」
鬼教官だね!
子供たちを統率しているよ。
「作戦通り行こう。5秒後に追い駆けてきていいよ」
「そうだね。今すぐでもいいけど、5秒後にしよう」
「なるほどね。流石シャーロットの娘だよ。私たちを煽る気だね!」
「絶対に捕まえて見せます。私たちの努力を甘くみないで下さい」
「やってやろうぜ!負けて泣いて悔しがる姿を拝ませてもらうぜ」
「勝つもんねー。私とウィスプが本気出せば負けないよ」
「もっちろん!負ける訳がないよー。どんな本気を見せてくれるのかな?」
「始まったよ。僕は美味しい食べ物を食べたいだけなのに…」
「儂もこの雰囲気で参加するのか…。気恥ずかしいぞ」
「私は楽しませてもらいましょう!」
「全力鬼ごっこだよ。捕まえたら1週間お菓子食べ放題だー。今日は娘2人が相手だよ。5秒後に開始だから精々頑張るんだね。あはははは」
また言っているよ…。
誰も母さんの言葉を聞いていないよ。
「姉さん、もう行こうよ。ここにいたらまた何か言い出すよ?」
「そうだね。行こうか!では、また会おう。バイバーイ」
「えっ?消えた!クリスタ姉ちゃんの説教と同じ…。そういう事だったんだ。完全に勘違いさせらていたみたいだよ。今日は全力で逃げるみたい」
「そういう事だよ。覚悟はできているね?絶対に捕まえる!見えないのは勘違いだよ。集中すれば見える。全員全力だよ!」
「「はい!」」
「いち、にい、さん、しい、ごお。開始ー!」
母さんが開始の合図を出すんだ。
別にいいけどさ…。
「みんな全力だー!」
「「おー!」」
さて、ドリュアスちゃんは木に隠れないみたいだね。
じゃあ、作戦通りにやろうか!
【パチン】
「何の音だろう?」
【パチン】
「もしかして…。ぐぬぬ…。私の前で手を叩いているんだね」
【パチン】
「全員、私の周りに集合。ここに相手がいるよ!」
「全員集合だー!」
「「はい!」」
【パチン】
「全員集中だよ!相手は近くにいるからね」
【パチン】
「相手は跳んでいるよ。空から音が聞こえた。飛行部隊は空に待機。ぶつかるかもしれないから身体強化は必須だよ」
「「はい!」」
【パチン】
「くぅー!地上部隊は密集」
「「はい!」」
作戦通りだね。
密集させると思ったよ!
「バイバーイ!」
「手を叩くの飽きたからもう行くね」
「あー!腹が立つー!2人の性格だと世界樹に行くはずだよ。全員全力ー!」
「「はい!」」
ドリュアスは自分が煽られると思っているからね。
私たちが世界樹で煽ると思っている。
これも予想通りだよ。
【パチン】
「嘘かー!もー、姿を見せろー!」
「「はい。どうぞ!」」
【パチン】
「バイバーイ!」
「またねー!」
「何なのこれ?鬼ごっこじゃないよ!私が煽られ続けているだけだよ」
【パチン】
「全力鬼ごっこだからね。ドリュアスちゃんがお願いしたんだよ?忘れちゃったのかな?」
「精霊がそんなに短気じゃ駄目だよ。冷静に視野を広くね」
「くそー!全員密集ー!相手は私を煽り続けるだけだよ。私の近くに必ずいるよ」
「全員集合だー!ドリュアス様を中心に密集」
「「はい!」」
【パチン】
流石に全員が集まったら厳しいね。
最後に声を掛けて走ろう。
「世界樹に行くよ。バイバーイ」
「またねー」
「絶対に嘘だ!近くにいるよ。注意して!」
「「はい!」」
先の先まで読むとはこういう事だよね。
もう普通に逃げるだけで勝ちだよ!
「ドリュアス、音が止まったぜ。もういないんじゃねーか?」
「いや、いるね。シャーロットの娘だよ。絶対にいる!」
「ここまで姿を隠せるとは…。秘儀の極みを甘く見ていましたね」
「ひきょうだぞー!出てこーい!」
「何これー!鬼ごっこじゃないよー!」
「本当だよ。誰を追い駆けているのか分からないよ」
「参ったのう。秘儀とはここまで凄いのか」
「流石シャーロットの娘ですね!」
私たちは耳もいいからね。
世界樹にいても君たちの声は聞こえるよ!
「姉さん、もう終わり?」
「そうだね。全部作戦通りだったからもう終わりだよ」
「探しに来ないのかな?」
「来ないよ。手を叩く音がトラウマになっているはずだからね。密集をやめる事はできないよ」
「ここまで作戦通りだとつまらないよ」
「何言っているの。今度ウィーノも作戦を考えてみるといいよ。作戦通りにいくと物凄く気持ちいいからね」
私も少しは考えられるようになったのかな?
1000人以上を手玉に取るのは気持ちいいね。
鬼教官の指示を予想するだけでいいから簡単だよ!
「ドリュアス、流石に近くにいねーって。半分でも探しに行った方がいいぜ」
「飛び越えられる人数になったら絶対に手を叩くよ。くそー!」
「これは参りましたね。打つ手なしですよ」
「流石シャーロットの娘ですね。なかなか面白い作戦です」
フェニックスはドリュアスの作戦に従っているだけで私たちの位置を把握しているのかも?
本能で把握しているのか姿が見えているのか…。
やはりフェニックスは侮れないね!
「ドリュアス、2人は世界樹にいますよ。世界樹にもたれかかっていると思います」
「フェニックスは何で分かるの?見えていたの?」
「秘儀を極めていないので見えていませんよ。但し、今回の作戦は分かりましたからね。ドリュアスが皆に指示を出しているのを利用したのです。そして、ドリュアスが手を叩く音が嫌になるように仕向けました。もう聞きたくないでしょ?それが、2人の作戦なのです。最後に世界樹で休憩する事により作戦完了でしょうね」
完璧に見破られている…。
やはりフェニックスは違う。
母さんと同じように考えられるんだ。
「フェニックスならどうやって捕まえるの?」
「秘儀を極めた人が10人はいないと無理です。つまり、全力鬼ごっこを要求したドリュアスの負けです。開催を要求しましたね?全力鬼ごっこは私たちに全力を出させるのが目的だったのでしょう。ですが、ドリュアスが要求したから相手は本気になった。違いますか?」
初めて参加するのに全力鬼ごっこの主旨を理解している。
そして、今回の経緯も予想通りだよ。
フェニックスが秘儀を極めたらまずいね。
本気で考えて逃げないと負けるよ。
「やはりフェニックスは違うね。極めたら相当きつい相手だよ」
「全てを読み切っているよ。やっぱり神様は違うね!」
神様と土地神様。
どちらが先を読めるのだろうか?
互角な気もする…。
神様と互角な母さんが凄過ぎるけどね。
「終了ー!夕暮れだよ!」
母さんからの念話だ。
「行こうか!」
「そうだね。最後に仕上げをしないとね」
学校の前に皆が集まっているね!
【パチン】
「フェニックスの大正解!流石母さんの友達だね。完全に警戒対象だよ」
「本当だよ。完璧に作戦を見破られたからね。凄いよ!」
「そうでしょう?凄いでしょう?シャーロットの友達ですからね!」
「ドリュアスちゃんはどっちの全力鬼ごっこがいいのかな?教えてくれないかな?」
「極めないと絶対に勝てないじゃないか…。くぅー!暫くは訓練するよ。みんな全力だよ!」
「「はい!」」
勝ったね。
完勝だよ!
「母さんが何か言う前に帰ろう!」
「そうだね。絶対に何か言うよ。早く帰ろう!」
「じゃあ、皆またねー。転移魔法」
社に移動した。
「そんなに慌てて帰ってこなくても良かったのに。どうしたの?」
「お風呂に入りたいからね。今日は気持ちいいお風呂になりそうだよ」
「そうだね。いつもより絶対に気持ちいいよ」
母さんは分かっていて聞いているね。
私たちが警戒しているのを含めて楽しんでいる。
多分ここまで母さんは読んでいる…。
どのようにしたら母さんに組手で勝てるようになるのかな。
2人の成長が楽しみですね!




