ジェラルウィーノ 組手
今日は姉さんと組手だよー!
私の方が断然有利だよね。
私は母さんの知識を全て継承している。
姉さんが孵化した後に追加された知識は物凄い量だよ。
普通はここまで考えられないよ。
やはり母さんは特別なのだと思う。
産みの親は叔母さんだよ。
私は母さんの娘だからね!
「さあ、組手に行こう!」
「分かっているよ。自分の方が有利だと思っているね。本当にもう…」
「私も行くよ。転移魔法」
母さんに訓練場に連れてこられた。
組手を見学するつもりなんだね。
それよりも、姉さんに考えが見破られている。
感情は隠しているはずだけど…。
分からない事を気にしても仕方ないね。
「条件を付けるよ。人間の魔力量を使用しての組手ね」
「全力鬼ごっごもそうだからね。訓練場に来たしそうだと思ったよ」
「そうだね。全力鬼ごっこに合わせないとね」
さて、後に孵化した私の力を見せてあげよう。
姉さんは悔しがるに違いないね!
「ようい・・・・、始め!」
母さんの合図と共に私たちは動き出した。
人間の魔力量の組手なら分かっている。
姉さんは母さんに散々やられているからね。
「余裕がありそうだね。私が孵化した後の母さんの知識があるからだと思うけどさ」
「物凄い量の知識だよ。姉さんは母さんの知識に勝てるかな?」
組手でも母さんはあらゆる手段を考えている。
姉さんを散々苦しめたにも関わらず、全ての手の内を見せていない。
今の私ではできないけどね…。
だって、魔力操作が繊細過ぎるんだもん。
「相手が母さんなら厳しいと思うけど妹だからね。考えている事がよく分かる!」
「そんなはずないもんね!姉さんの心理戦には乗らないよ」
そろそろ姉さんの足を破壊しよう。
人間の魔力量だと相手の隙を突くしかない。
手に魔力を集め過ぎたと思わせる。
そうすれば、姉さんは私の足のどちらかを破壊しにくる。
姉さんが私の右拳を防御した瞬間に両手の魔力を右足に移動させる。
姉さんがどちらの足を狙ってきたとしても右足で迎え撃ち破壊する。
「行くよー!」
右拳を姉さんの胴に向かって突き出す。
姉さんは私の右拳の魔力量を見て左腕で防御する体勢をとった。
予想通り!
姉さんの腕に当たる軽い打撃音が頭の中で響いた気がした…。
【パァン】
えっ?
私の右拳が破壊された…。
防御せずに左拳をぶつけてきた。
「早く回復しなよ。続けるのでしょ?」
「勿論だよ!高位回復魔法、次こそ行くよー!」
「どんな攻撃をするのかな?」
「それは、見てのお楽しみだよ!」
2ヵ所同時攻撃は絶対に見破られる。
魔力操作で意表を突くのが一番のはず。
何でさっきは破壊されたの?
魔力量があからさまだったのかな?
攻撃が当たる直前に魔力量を増やす。
全体で使っている魔力量を減らしておいて魔力を手から吸収する。
左拳を胴に向かって突き出す。
姉さんは右腕で受けるつもりだね。
嫌な予感がする…。
私が魔力を直前で吸収する事を読んでいる?
まさかね…。
【パァン】
右拳をぶつけてきた。
姉さんも魔力を直前で吸収した?
「ほら、回復しないと。続けるのでしょ?」
「続けるよ!高位回復魔法、絶対に負けないからね!」
何でなの?
読まれているの?
こうなったら両手は捨てる。
姉さんの右足の破壊に集中する。
2ヵ所同時攻撃するかのように魔力を左手と右足に集める。
姉さんが私の魔力量に対応したのを確認してから攻撃動作に入る。
【パァン】
右腕が姉さんの左足の蹴りで破壊された。
何でなの?
「遅いよ。考え過ぎだね!」
「姉さん、私の魔力に合わせて受けるつもりだったじゃない」
「そうだけど、遅いから攻撃しただけだよ」
「そんなに遅くないよ。一瞬だよ!」
「一瞬遅いじゃん。だから、攻撃したんだよ」
「おかしいよ!ここまで一方的にやられるのは変だよ。隠れて特訓した?」
「していないよ。ウィーノの考えている事が分かるだけだよ」
「何で分かるの?姉さんの苦手な攻撃ばかりしているんだよ?」
「だから、分かるんだよ。母さんの記憶から私が苦手な攻撃を選択しているのでしょ?自分で考えて攻撃しないと駄目じゃない」
「私は考えて攻撃を選んでいるじゃない。ちゃんと考えているよ」
「選んでいるだけでは考えているとは言わないよ。それに、ウィーノは勘違いをしているね。母さんの攻撃方法を選んでも母さんと同じ結果にはならない。母さんには桁違いの感情把握があるから、相手の感情を把握して攻撃手段を瞬時に変える。ウィーノにはまだできないよ。勿論私にもできない。私にはウィーノの攻撃手段が分かっただけ。母さんの知識の中にあるでしょ?考える力は継承できないって。私の方が少しだけ考えて生きてきたから有利なだけだよ。色々と考えるようになれば追い付けるよ。高位回復魔法」
「ふーんだ!母さーん。姉さんがいじめるー!」
妹最大の特権…。
母さんに甘える発動だよ!
全力で母さんに抱き着く。
頭も撫でてくれた!
「ウィーノ、組手はもういいの?」
「だって、今は破壊されるだけだと分かったからね」
「絶対に母さんに甘えると思った…。予想通りだよ!」
「ヴィーネも抱き着きたかったの?よしよし。機嫌を直しなさい」
「別に怒っていないよ…」
姉さんも甘えん坊だね。
頭を撫でられて喜んでいるよ。
私と変わらないじゃない。
母さんが考えろと言ったのはこういう事だったんだ。
姉さんの方が考えてきたから今は勝てないのか…。
じゃあ、私の方が考えれば勝てるようになるね。
時間の問題だよ!
「何が時間の問題なの?同じ時間考えるから簡単には追い付かせないよ」
「ウィーノは勢いで国長になったヴィーネと一緒だね。まだまだ感情の制御が甘いよ」
「私は姉さんがした失敗はしないから違いますー」
「言うじゃない。組手続行だよ!」
「嫌でーす。負けるのが分かっている勝負はしない主義だからね」
「へー。ウィーノって叔母さんに似てるよね。双子みたいだと思ったけど違うんだ」
「絶対にないよ!叔母さんに似ているはずがないじゃない」
私は母さんの娘なの!
叔母さんに似ていたら影響されているみたいじゃない。
「ウィーノが組手を止めたいのは分かったよ。じゃあ、2人とも私と組手する?」
「「絶対に嫌だ!」」
姉さんが散々にやられている記憶があるからね。
それを、母の愛とか言っている母さんは異常だよ!
姉さんも二度としたくないみたいだね。
「ウィーノはしておいた方がいいよ。お祭りでシィーナ叔母さんが組手に誘うはずだからね」
「あれって拒否権ないの?母さんは実際に見ていないけど破壊を目的とした組手をしていると予想しているから、そうなのでしょ?」
「破壊しか考えていないよ。異常者だからね。ウィーノも母の愛を感じておいた方が絶対にいいって」
「じゃあ、母さん組手の相手して…」
「ヴィーネも母の愛を感じていたんだね。ウィーノに勧めるなんて優しいお姉ちゃんだよ」
絶対に違うよ!
笑うのを我慢しているもん。
そして、私は一方的にボコボコにされました。
あり得ないくらいに一方的だよ…。
ここまでやられる?
行動する度に破壊されたよ。
「成長した姉さんはどれくらい強いの?母さんと組手して見せてよ」
「そうだね。ヴィーネの成長を見ないとね」
「余計な事を言わないでよ。本当にもう…」
そして、姉さんも一方的にボコボコにされました。
私たち姉妹は世界最強だよ?
魔力量を抑えているといってもここまで差が出るの?
母さんは私と同じ攻撃をしているのに姉さんは防げない。
私相手に防げた攻撃でも母さんがすると防げない。
思考を完全に読まれているから?
「3年くらい考えて母さんに勝てるなら苦労しないよ。化け物なの!」
「やっぱりそうだよね。化け物だよ!」
「母親に対して酷くない?私が人間2人分の魔力量にするから2対1なら勝てそう?」
母さんは世界最強の2人を同時に相手できるの?
そんな無茶苦茶な存在なの?
「姉さんどうするの?」
「流石に2対1は負けないよ。仮にも世界最強だからね」
そうだよね!
私と姉さんは世界最強として生まれている。
それなのに、母さんは勝てそうな雰囲気だよ。
「じゃあ、やってみよう。かかってきなさい!」
「姉さん、全力だよ!」
「分かってるよ。流石にこれは負けられない!」
私と姉さんの攻撃が全て防がれる。
母さんはあえて攻撃してこない気がする。
何故かな…?
こちらの攻撃は完全に読まれている。
攻撃する魔力量まで完璧に把握されている。
防いでいる時の魔力量に全く無駄が無い。
母さんはここまで凄いの?
「そろそろ攻撃するよ。魔力量を繊細に意識しなさい」
既にしているよ!
これ以上ないくらいに意識しているよ。
「どんな時も慌てない。平静を保ちなさい」
無理だよ!
こんな状況でそれは無理だよ。
私と姉さんは同時に攻撃するようにしている。
母さんには2人分の魔力量があるから同時に攻撃しないと必ず負けるから。
「ヴィーネは感情を隠そうとし過ぎ。自然に隠せないなら明かしているのと一緒だよ。ウィーノは焦り過ぎ。落ち着いて視野を広くしなさい」
私たちを相手にして指導する余裕まであるよ。
おかしいでしょ!
「おかしくないよ。先の先まで考えなさい。人の攻撃手段は限られる。無理な体勢から無理な攻撃はできない。相手の動きを冷静に見れば次は絶対に攻撃されない箇所も見えてくる。そこに、魔力を集めるのは無駄だよ。それに、同時に攻撃する事だけを考えずに防げない攻撃方法も考えなさい」
完全に読まれているね…。
勝つどころか完全に指導組手じゃないの。
「2人の攻撃は微妙にずれているよ。同時ではない。同時に攻撃できていたら私の腕や脚を破壊できるはずだよ。私の魔力量を正確に把握している?」
一瞬で動かしている魔力量を把握するのは本来難しい。
でも、私と姉さんならそれが可能だよ。
まさか…。
まさかまさか。
そんな馬鹿な!
「攻撃は手と足だけじゃないよ。言葉で揺さぶる事も魔力移動で隙を突く事も攻撃に繋がる。私が攻撃すると言ったら身構えた。でも、私の魔力量まで把握しようとはしなかった。2人とも視野が狭いよ。私が攻撃しない理由を考えるべきだったね。はい、今日はここまで!」
1人分の魔力量で私たちの攻撃を防ぎ切られた。
その気になれば母さんに勝てると思っていた叔母さんは視野が狭過ぎるよ。
私たちのお母さんは桁違いだよ。
赤ちゃんだから勝てないのは仕方ないよね!
「帰ってお風呂に入るよ。転移魔法」
社に移動した。
血塗れになった服は桶に入れておく。
母さんが洗ってくれるからね。
「ふぅー!お風呂気持ちいいねー。知識より現実の方が最高だよ」
「はぁ…。母さんはどれだけ先を考えているの?私たち2人の攻撃だよ?双子の竜王は防げないよ」
「シィーナ姉ちゃんは防げるかもね。考える力が大切なんだよ。それより、ウィーノはディーン姉ちゃんに念話した?私からした方がいいのかな?」
完全に忘れていたよ!
孵化した報告をしておいた方が面倒が少なくていいね。
「私から言うよ。念話、叔母さん、私はジェラルウィーノ。孵化したよ!またねー」
「待ちなさい。何で叔母さんなのよ!お母様と呼びなさい!教育できていないわよ」
全員に念話してきたよ。
煩い叔母さんだね。
「私と姉さんを2人同時に相手して勝ったらお母様と呼んであげるよ。いい条件でしょ?」
「叔母さん、それなら私も納得だよ。お母様と呼ぶ事にするから」
「不可能な条件を言わないでよね。あなた達2人は最強なのよ。同時どころか1人でもきついわよ」
普通はこう思うはずなんだけどね。
今日やられちゃったからさ…。
「残念ながら今日母さんにボコボコにされたよ。2人同時に相手したのに手加減までされたよ。もう世界最強とは言えないよ。母さんのただの娘として生きていくよ」
「私もただの娘だね。手加減されたもん。強過ぎでしょ!」
「シャルはそんな事したの?あなたどうなっているのよ!普通は不可能でしょ?何で2人同時に相手して勝っているのよ」
「2人がまだ赤ちゃんだからだよ。赤ちゃんに負ける母親はいません!ディーン姉ちゃんも母親なら勝てるでしょ?赤ちゃんが相手だからね」
「どのような勝負をしたのか言いなさい。シャルに有利な勝負だったのでしょ?」
「私は人間1人分の魔力量で2人もそれぞれ人間1人分の魔力量だよ。それで、1対2だね。国民に被害が出ないようにしたんだよ。ディーン姉ちゃんもクリスタと組手しているから人間1人分の魔力量にするのは得意でしょ?」
「クリスタと娘たちだと動きの速さが全く違うじゃない。しかも、同時に相手したらクリスタが相手でも厳しく感じる勝負しているじゃないの。裏技使ったでしょ?教えなさい!」
「私と姉さんの攻撃が一瞬ずれていたんだよ。それで、全て防がれただけだよ。完璧に合わせたつもりだったけど駄目だったみたい。一瞬猶予があるから2人が相手でも防げたみたいだよ。母さんおかしいからね」
「そういう事だよ。叔母さんも訓練中でしょ?シィーナ叔母さんに相談しなよ」
裏技って何かあるのかな?
やはり叔母さんは厄災の火吹きドラゴンだね。
「地獄の訓練が更に厳しくなるじゃない。卵を手渡ししただけで十分でしょ?お母様と呼びなさい!」
「だから、叔母さんと呼んでいるじゃない。卵を手渡ししてなかったら他人だよ。産みの親として叔母さんと呼んでいるの。ドラゴンは強さが全てでしょ?母さんと同じ条件で私たちに勝てたらお母様でもなんでも好きな言葉で呼ぶから」
「竜王が勝負から逃げるとかおかしいよ。相手は赤ちゃんだよ?楽勝でしょ?待ってるね!」
「シャルの魔力が濃過ぎるのよ。予想通り生意気な子になっているじゃない。きちんと教育しておきなさいよ。またねー」
「また魔力が濃いとか言っているよ。2人の攻撃を防ぎ切るだけだから挑戦すればいいのに」
同じ条件で組手したら母さん以外は間違いなく死ぬよ。
組手中に指導までする余裕があるのはおかしい。
母さんはおかしいの!
姉さんは魔力を満たした状態でもボコボコにされている。
能力や魔法を解禁しても無理だね。
「そろそろ出ないと逆上せるよ。お風呂から出て寝るよー」
「はーい。もう寝たい!」
「私も寝たい!疲れたー」
母さんが布団を敷くと私と姉さんが同時に布団に入る。
お互いの位置は決まっているからね。
後から母さんが真ん中に入って抱きしめてくれる。
片手だけど十分だよ!
「じゃあ、おやすみー」
「「うん、おやすみー」」
姉さんに勝てなかった…。
それは、理由が分かったから改善できる。
母さんにはどうすれば勝てるのかが分からない。
世界最強の赤ちゃんの母親は宇宙最強だと思っておこう!
母は子の考えをお見通しです!




