閑話 マルティナ 違和感
絶対におかしいよ。
お母さんに何かあったに違いない。
違うね…。
お母さんが何かしたに違いない。
ヴィーネ様の念話は納得できる内容だった。
だって、補佐室は何もしていないのに孤児院と同じように見られていたから。
孤児院の努力は桁違いだから…。
秘儀を覚えた大人で子供より弱い人がいないのがどれだけ凄いのか皆が知っている。
子供だって本気で鍛えているのだから。
だけど、孤児院の子供よりも強い。
後から覚えて追い抜くなんてとんでもない事だよ。
孤児院の子供の覚悟は異常だからね…。
それに、孤児院と教師を兼任している3人は物凄い。
クリスタ先生やレナーテ先生は意味が分からないしビアンカ先生も子供を軽く超えている。
孤児院は特別な施設だけど、働いている人の努力もあって尊敬されているんだよ。
それは、補佐室とは全く違う。
でも、国防軍の隊長にするのは変だと思う。
国の職業にするとか勘違いしないように注意するだけでも良かった気がする。
補佐室という職業を消したかったように思えて仕方ないよ。
そうだとしたら飛ばされるはずだけど、ヴィーネ様と約束していたら分からない。
ヴィーネ様はとても優しいから…。
問題を起こしたお母さんの目の前にいたら救済の道を用意すると思う。
約束を破れないから飛ばさないだけで、本来は飛ばされるような事をしたんじゃないのかな?
ヴィーネ様は咄嗟に約束してしまったけど、後から考え直したら絶対にしてはいけない約束だったのかもしれない。
何故かそんな気がする。
授業が終わり鬼ごっこした後に家に帰った。
全然集中できなかったけど…。
早く帰ってもお母さんが家にいないから時間を潰していただけ。
お兄ちゃんも同じように行動していたよ。
「お兄ちゃん絶対におかしい。お母さんが何かした気がして仕方ない」
「そうだね。お母さんに聞くしかないけど何かしている気がする。それも、取り返しのつかないような事をしている気がして仕方ないね」
お兄ちゃんもそう思うんだね…。
補佐室に就いた時のやりとりを見ているから。
「お母さんは話してくれるかな?」
「問い詰めるしかないよ。流石にまずい気がするから」
お兄ちゃんは本気だね。
私も絶対に聞いておいた方がいいと思う。
「そうだね。問い詰めるしかないね。手遅れだけど知っておいた方がいい気がするもん」
「手遅れなのは間違いない。だけど、僕たちまで手遅れかどうかは分からないから」
お母さんを飛ばしてもらうかどうかだよね。
できればそんな決断したくないよ…。
「待つしかないね…。そろそろ帰ってくると思うから」
「そうだね。帰ってきたら話を聞こう」
・・・・。
やっと帰ってきた!
どれくらい待ったのかな?
時計を全く見ていなかったよ。
私とお兄ちゃんは横並びで椅子に座っている。
お母さんが自然と私たちの前に座るように。
「2人揃ってどうした?何かあったのか?」
「お母さん、何か隠しているでしょ?僕たちはそれを知らなくてもいいの?」
「私も何か隠している気がする。それが、怖いんだよ…」
お母さんが私たちの前の椅子にゆっくりと座った。
話してくれる気になったのかな?
「何もしていないから飛ばされていないじゃないか。何をそんなに心配しているんだ?」
「ヴィーネ様の念話は納得できるよ。でも、補佐室はシャーロット様が用意した特別な職業だよ。普通に考えたらヴィーネ様は消さないよ。勘違いを注意するか国の職業にするだけで良かった。お母さんが国防軍の隊長に戻るのは違和感しかないよ。ヴィーネ様と何も約束していないよね?」
「私もそれが気になる。ヴィーネ様と約束していないよね?」
シャーロット様なら絶対にこんな事はしない。
国防軍の隊長にするくらいなら飛ばしている。
でも、ヴィーネ様は優しいから分からない。
飛ばさないと約束していたとしたら…。
「ヴィーネ様と約束したらまずいのか?一体どうしたんだ?」
「まずいよ!シャーロット様はヴィーネ様との約束を優先するはずだから。ヴィーネ様は優しいから約束を破る事はしないと思う。でも、補佐室は消したくて国防軍の隊長と秘書にされた気がするんだよ。本当に何も隠していないの?」
「お兄ちゃんの言う通りだよ。補佐室という職業を消す必要は無かったはずだよ。注意までしているんだから、それで終わるはずだよ。絶対に何かあったでしょ?」
特別に用意した職業を消したのは余程の事な気がする。
だって、お母さんの職業が変わるのはあり得ないから。
職業が変わっても平気なお母さんが怖いよ…。
あれ程のやり取りをして就いた職業なのに何も感じないの?
「じゃあ、お前たちに質問する。ヴィーネ様からディアナに全種族の要望や悩みを聞く依頼が出された。ディアナはその依頼をできるかどうか答えてくれ」
「何なのその質問…。何かあったという事じゃない。そんな簡単な依頼なら誰でもできるよ」
「そうだね。簡単な依頼だと思う。誰でもできると思うけど、それがどうかしたの?」
凄く嫌な予感がするよ…。
何でそんな質問をするの?
「そうか…。じゃあ、この依頼ができない場合はどうするべきだと思う?」
「補佐室の秘書がこの依頼をできないのはまずいよ。どうするも何も失格じゃない。シャーロット様との約束がディアナさんにも適用されるなら飛ばされるべきだよ」
「私もそう思う。補佐室じゃなくてもできないとまずい依頼だよ。それなのに、補佐室の秘書ができないなんてあり得ないよ。お母さんと同じ約束で補佐室に入っているなら飛ばされるべきだよ」
あー、もう最悪だよー!
ディアナさんはその依頼ができないんだね。
それなのに、飛ばされていない…。
ヴィーネ様と約束している気がするよ。
「なるほどな。お前たちはそう考えるのか…。じゃあ、私がヴィーネ様に飛ばすのは止めて欲しいと頼んだらどうする?」
「それを言ったの…?もうやめてよ…。何しているの?お母さんは今まで飛ばして欲しいと何度もシャーロット様にお願いしてきたのに、ディアナさんだけは飛ばさないで欲しいと頼んだの?それも、ヴィーネ様に?最悪だよ…」
「そんなやり取りがあったの?ヴィーネ様にお願いしたの?何でそんな事が言えるの?」
本気で意味が分からないよ…。
お母さんは何人飛ばしてもらったのか分かっていないの?
絶対に言ったら駄目な言葉だよ。
それに、ヴィーネ様にお願いしている…。
ヴィーネ様は目の前で頼まれたら断れない気がする。
「ディアナと一緒に訓練しているじゃないか。それに、凄い努力もしている。選別が行われるまでに勉強させれば済む話じゃないか。ディアナに対する選別も他の人たちと同じ時期にして欲しいと思っただけだ。そんなにおかしな事か?」
「ディアナさんは補佐室の秘書だよ?お母さんは補佐室に必要の無い人を残して欲しいと言ったんだよ?補佐室を辞めさせられるという事はお2人を裏切ったという事だよ。だから、補佐室は覚悟を持って就く必要がある。ディアナさんは補佐室として相応しくなかった。簡単な依頼すらできないのだから。依頼もできない秘書は必要ないでしょ?ディアナさんには依頼せずに勉強する時間を下さいと言ったの?他の職業だったらそれでも良かったかもしれないけど、補佐室がどのように見られているのか知っているでしょ?お2人の代理だよ。この国を把握しているのが前提の職業だよ。ヴィーネ様は飛ばさないと約束したけど、補佐しない人を補佐室なんて呼ばせたくないから職業を変えたんだね。納得だよ…」
「お母さんは今まで選別で飛ばす時に飛ばされる人に何か言った事はあるの?みんな突然飛ばされているよ。区長会議でシャーロット様にお願いしてね。それなのに、シャーロット様の前で飛ばして欲しくないとヴィーネ様にお願いしたんでしょ?他の人たちと同じ時期って何なの?この国に相応しくない人は時期に関係なく飛ばされているよ。補佐室の人間がお2人を邪魔したんだよ?お2人を裏切ってこの国に残っているのはお母さんとディアナさんだけだよ。どうしようもないね…」
お2人に意見するとか何故できるの?
そんな事ができる立場じゃないのは分かっているでしょ?
分かっていないのかな…。
補佐室に就いた時のやり取りを忘れたのかな?
お母さんに次は無いんだよ…。
「エルヴィーラもそんな事を言っていたから私もそうだと思ったけど、国防軍の隊長にしてくれているじゃないか。何がおかしい?」
「ヴィーネ様と約束したから飛ばさないだけだよ。補佐室に就いた時のやり取りを忘れたの?シャーロット様は次は無いと言ったよ。ヴィーネ様は年齢以外では辞めさせないと言ったよ。それなのに、補佐室を辞めさせられたね。お母さんはお2人のあれだけ近くにいたのに二度と話せないよ。お母さんが言うようにディアナさんを教育して、どうして飛ばされないと思うの?この国に必要だと自信があるの?」
「補佐として必要ないから国防軍の隊長にされたのに、何で飛ばされないと思うの?」
何でそんな風に思えるの?
国防軍の隊長になったのがお2人の思い遣りのように言わないでよ。
「仕事をしているからに決まっている。検問兵の代わりに検問しているよ」
「シャーロット様が何もしていないと思うの?お母さんもディアナさんも弱いじゃない。犯罪者に対応できるとは思えないよ」
「シャーロット様とヴィーネ様が検問兵を募集したら孤児院の卒業生が必ず就職するよ。高等科で回復魔法が使える子とかいるけど、お母さんの仕事は残っているの?圧倒的な力でほとんど対応できる家族で仲間の孤児院の卒業生がどんどん学校を卒業するよ。みんな高等科だからね。この国は孤児院が中心だって知っているでしょ?今の仕事で残りたいなら高等科と同じ努力が必要だよ。今の検問兵が足手まといだと思っているでしょ?お母さんが足手まといになるよ。大丈夫なの?」
飛ばされている人だって仕事していたよ。
それでも、必要ないから飛ばされているんだよ?
何で自信を持っているの?
お母さんが分からないよ…。
「それはおかしいだろ。何故私たちだけ選別の基準が違うんだ?」
「区長制度が終わってからシャーロット様が選別しているんだよ。選別の基準なんて公表していない。シャーロット様しか知らないよ。お母さんが何故基準を知っているかのように話しているの?街長の時の感覚が抜けていないの?お母さんは選別される側だよ?飛ばすのを止めて欲しいと言う言葉がどれほど非常識か分かったでしょ。シャーロット様の補佐をしていた人間が言う言葉じゃないよ」
「どんな約束をしたの?飛ばさないとヴィーネ様は言ったの?」
お母さんは何を言っているの?
街長の時は区長会議で選別の基準を決めて飛ばしてもらっていたの?
もしそうなら、区長会議は一体何なの?
自分たちで住民を増やしておいて飛ばして欲しいとお願いしていたの?
馬鹿げているよ!
「ディアナを秘書にして一緒に仕事する。ディアナが補佐室の秘書として誰かに指示を出す事は許さない。ディアナが勉強する時間は仕事が終わった後と休日だけ。ディアナが選別対象になったら一緒に飛ばす、だよ。ヴィーネ様が選別の基準はシャーロット様だと言っていた気がするね」
「選別が行われる日付も基準も入っていないよ。シャーロット様の選別基準を超えられるなら一緒に仕事すればいいって事だよ。お母さんもエルヴィーラさんも選別の日と基準を知っているつもりになっているから何も感じないんだよ。ディアナさんは選別対象に入っていると思うよ。シャーロット様が飛ばさない理由は、ヴィーネ様がお母さんたちを必要としているからで、ヴィーネ様の考えが変われば飛ばされるよ」
「私もそう思う。ヴィーネ様の計画にお母さんたちが必要だから飛ばされないんだよ。仕事として依頼されているんでしょ?お母さんたちがいないとできない事は何なの?」
街長と区長だったから何も感じないんだね…。
当り前のように選別の日と基準をシャーロット様にお願いしていたみたい。
もう嫌だよ…。
「子供の保護だよ。今のところ保護していないけどね」
「保護される子供を連れて来る可能性が高いのは犯罪者や他国の密偵じゃないの?シャーロット様が入国前に殺しているとは考えないの?シャーロット様も子供を守りたいと考えていると思うけど、今の孤児院を壊すような真似はしないよ。その為なら子供でも殺す人だと知っているでしょ?」
「犯罪者が子供を人質にした場合、お母さんたちに助けられるの?犯罪者を殺すだけとは物凄い差があるよ?お母さんは秘儀の初歩を極めたところで鍛えるのを諦めている。ディアナさんはそれ以下だよ。とてもじゃないけど人質を助ける力があるとは思えないよ」
おかしいでしょ?
子供の保護を依頼されているのに誰も保護していない時点で違和感があるよ。
絶対にシャーロット様が裏で色々としているよ。
「そこまで言うなら何故私たちは飛ばされない?」
「ヴィーネ様が飛ばして欲しいと言っていないからじゃないの?ヴィーネ様から仕事を依頼されたんでしょ?ヴィーネ様がその仕事が必要ないと思った時が飛ばされる時だよ」
「シャーロット様ならそのように考えていると思う。お母さんがディアナさんを庇った時点で飛ばすつもりだったのを、ヴィーネ様が仕事を依頼したから飛ばさなかっただけだよ。いつまで時間があるか分からないけど、高等科を超える努力をするの?2人とも高等科を超えないとシャーロット様は飛ばすと思うよ」
「そんな事は不可能じゃないか。お前たちも分かっているだろ?」
「不可能じゃないよ。カーリンさんがあっという間に追い抜いているからね。聞いた話だともうすぐクリスタ先生に追い付きそうだよ。残念ながらお母さんとディアナさんの覚悟では無理だけど」
「お母さん、シャーロット様を裏切り過ぎだよ…。3人で社に行った時に誓ったんじゃないの?シャーロット様や私たちよりディアナさんが大切だったの?お2人に意見を言えるのはクリスタ先生とカーリンさんだけだよ。補佐室の人間として必要な事を言うだけで良かったじゃん。何でディアナさんを飛ばして欲しくないなんて言っちゃうの?それは、お2人が決める事だよ。国を守っているシャーロット様の選別に意見を言うなんてどうして?もう分からないよ…」
お母さんは諦めているのかな?
飛ばされるかもしれないと思っても努力しないんだ。
飛ばされるとは思っていないだけなのかもしれないね。
「全てお前たちの悪い予想だろ?思い込みじゃないのか?国防軍の隊長に戻ってディアナを秘書にして仕事する。この国に国防軍は必要だろ?その準備を始めただけじゃないのか?」
「お母さんがそう思うならそれでいいよ。だから何もしないで。静かに今の仕事を続けて。僕は耐えられないよ。シャーロット様を裏切り続けるお母さんたちと一緒に訓練はできない。僕も間違えたよ。お母さんがシャーロット様に仕事の希望を言った時にまずいと思ったのを正直に言えば良かった。補佐室にお母さんは相応しくないと言えば良かった。お母さんは自分の気持ちを言っているだけなのかもしれないけど、それが何を意味するのかまでは考えていない。言ってはいけない言葉を平気で口にしているよ。僕はまた間違えているのかな?今度こそ自分から動くべきかもしれない。マルティナはどうしたい?」
「お兄ちゃん…。お父さんが帰ってきてから決めようよ。今回は本気でまずいからさ」
「本当にお前たちはどうかしている。考え過ぎだよ」
お母さんのその言葉を最後にお兄ちゃんも私も言葉が出なかった。
そんな空気じゃなかったから…。
そして、すぐにお父さんが帰ってきた。
「ただいま。3人でどうした?静かに座っているなんて何かあったのか?」
「お父さんは何も感じないの?補佐室から国防軍の隊長になった事に違和感がないの?」
「子供たちが考え過ぎているんだよ。何か言ってやって」
お父さんはどっちだろうか?
私はお母さんと同じだと思っているよ。
何も感じていないみたいだからね。
「何かして国防軍の隊長になったのかい?何をしたんだ?」
「ヴィーネ様にディアナさんを飛ばさないで欲しいと頼んだんだよ。その結果が国防軍の隊長だよ。お父さんは何も感じないの?」
「ディアナは頑張っているし一緒に訓練もしている。選別で飛ばされないように努力する事くらいできるさ」
「何だそういう事か。一生懸命に頑張ればいいじゃないか。この国は努力する人を選別で飛ばしたりはしないよ」
分かっていたよ…。
でも、聞きたくはなかったかな。
「よく分かったよ。マルティナ、行こうか!」
「分かったよ。お兄ちゃん…」
「2人で今から社に行くのか?それこそ何を考えている!」
今回は一緒に行けないから。
私はもう限界だよ…。
「この国は世界一安全だから時間は関係ないよ。マルティナ、行くぞ!」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
「迷惑を掛けるんじゃないぞ。私たちまで飛ばされてしまうからな」
「そうだぞ。余計な事はするなと言っておいてお前たちが動くのか?私にはそれが分からないよ」
両親の最後の言葉は離れた場所から話しているように聞こえた。
お父さんも間違いなく選別対象だね。
お母さん、お父さん、さようなら。
私たちの家はシェリル区の近くだから社にすぐ着いたよ。
お兄ちゃんと会話する事はなかった。
お願いする事は決まっているから。
色々と考えてみたけど私はこの国で皆と暮らしたい。
お2人や友達と暮らしたいから…。
それに、今までの努力を消したくない。
「シャーロット様、ヴィーネ様、お願いに来ました」
少しして社からお2人が出て来られました。
「こんな時間に子供だけでお願いに来たの?何をお願いするのかな?」
「マリアンネの子供たちじゃない。どうしたの?」
シャーロット様は全て分かっている気がする。
ヴィーネ様は不思議に思っている感じだね。
「両親とディアナさんを飛ばして下さい。僕たちは孤児院に行きたいです。お願いします!」
「私も兄と一緒です。お願いします!」
「私がマリアンネとした約束を知っていて言っているの?」
ヴィーネ様は飛ばさないと約束したと思っている。
シャーロット様はいつでも飛ばせると知っている。
お2人の表情を見ると予想は間違っていなかったね。
「はい。シャーロット様の選別に決められた日はありません。基準もシャーロット様が決めるものです。今日3人に対して選別を行って下さい。ディアナさんは選別の基準に満たないはずです。父も満たないと思います。ヴィーネ様は約束を破った事になりません。ディアナさんがシャーロット様の選別の基準に満たなければ飛ばすと約束しただけです。それに、母が飛ばさないで欲しいと言った時に飛ばさなかった事で約束は守っています。何も問題はありません」
「賢いね。マリアンネもエルヴィーラも勘違いしていたけど、よく気付けたね。選別する日は私が決める。ヴィーネは飛ばさないと約束したつもりになっているけど、私の選別対象にディアナがなったら飛ばすと言ったでしょ?私の選別の基準はこの国に必要かどうかだよ。それも、私が決めるからいつでも誰でも飛ばせる。ヴィーネは怒って視野が狭くなっているね。皆が選別の予定日があるかのように話していたから気付かないんだよ。今年の学校の卒業生が就職した時に選別が行われると思っている。甘過ぎだよね」
「母さんが私にそれを言わなかったのは検問を依頼したから?」
優しいヴィーネ様が怒って視野が狭くなっている。
その理由が怖いよ…。
「そうだよ。ヴィーネが検問を依頼したからそれに沿った助言をした。2人には検問は無理で犯罪者は私が殺していると言ったよ」
「母さんは検問の近くで犯罪者を殺しているから子供は助かるかもしれないと言ったじゃない」
「普通の子供ならね。この国で犯罪をしようとしている人が普通の子供を連れて来ると思う?検問で人質騒ぎなんてしたら犯罪ができないじゃない。洗脳された子は孤児院で手に負えないし、密偵になるように育てられた子はどうしようもない。それに、社にいるから大人か子供か分からない。今まで保護された子供がいないという事は普通に人質として連れてこられた奴隷の子はいなかったという事だよ」
「何それ…。子供を助けたいなら私たちが動くしかないって事になるじゃない」
シャーロット様は全て分かっている気がする。
それでも、孤児院で手に負えないから殺していると思う。
「そういう事だよ。だから、子供を助けられる国に作り変える事を考えるようにと言っているじゃない。視野を広く持ちなさい。ヴィーネが考えてやりたい事に集中しなさい。分かった?」
「本当にもう…。分かったよ。それで、母さんの選別基準だと3人はどうなの?」
お母さんが飛ばされないのはシャーロット様の教育だったみたい。
この状況だともう必要ないよね…。
「この国に必要ないね。今すぐ飛ばしても何も問題が無いよ。ヴィーネが検問を辞めさせてもいいと思うのならいつでも飛ばせるけど、どうする?」
「子供を助けられないのなら必要ないよ。検問に2人は必要ない。でも、君たちはそれでいいの?両親と一緒に過ごしたくないの?」
ヴィーネ様は本当に優しいですね…。
この状況でも私たちの心配をして下さるのですから。
お母さんはヴィーネ様の優しさを悪用しました。
許されない事をしたのです。
「一緒に過ごしたいとは思いますが、この国にシャーロット様を裏切った人間がいてはいけません。しかも、何度も裏切った人間です。何度機会を与えていただいても、それが分からない人なのです。一緒に住んでいるのが怖いです。孤児院に行かせて下さい」
「お願いします。孤児院で暮らしたいです」
「母さん、狼王の国に飛ばしてあげて。あそこなら死ぬ事なく暮らしていけると思うから」
「本当にヴィーネは優しいね。特別扱いになるけど子供たちから来たから良しとしよう。闇魔法、転移魔法。終わったよ。今から孤児院に行く?明日の朝行く?」
両親を特別扱いして下さるのですね。
私たちが安心できるようにして下さったのでしょう。
本当にヴィーネ様は優し過ぎますよ…。
「今から行きます」
「分かったよ。着替えと必要な物を持って旧孤児院に行ってね。カーリンには伝えておくから」
「分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「頑張ってね。孤児院は楽しい所だからさ」
「2人とも賢いから大丈夫だよ」
私たちはお2人に一礼をして社を後にしました。
家に着くと当然ですが両親はいませんでした…。
着替えなどを荷袋に詰めている時にお兄ちゃんが話し掛けてきた。
「マルティナは後悔していない?勢いで行動した感じもするからね」
「別にいいよ。お2人の話を聞いていたら予想より酷い感じがしたから」
「そうだね。怒りで視野が狭くなっているけど飛ばさないと約束したから、国防軍の隊長にしたという感じだったね。シャーロット様を裏切りヴィーネ様を怒らせても平気なんだから恐いよ。やっぱり補佐室になった時に言うべきだった」
「ディアナさんと一緒にいたいみたいだから、これで良かったんだよ。もう十分だよ…。記憶を消されて飛ばされる恐怖を感じながら生活したくないよ」
「確かにもう十分だな…。一緒に飛ばされるよりこの国で暮らしたいから」
「そうだよ。シャーロット様もヴィーネ様も子供に怒りは向けないけど、シャーロット様は子供も一緒に飛ばすから。シャーロット様を裏切っているからどうなるか分からなかったよ」
「シャーロット様を裏切っているからヴィーネ様が怒っていたと思うからね。お2人を怒らせていた可能性があるから本当にどうなるか分からなかったよ。こんな恐怖は二度と嫌だ」
「そうだよ。早く孤児院に行こうよ。怖くなってきた…」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
夜だけどこの国は明るい。
他国がどうかは分からないけど道に迷う事はないよ。
孤児院のすぐ近くに住んでいたし、あっという間に着いた。
扉を開けるとカーリンさんと大勢の子供がいた。
とても綺麗な人だよね。
でも、秘儀はとんでもない状態だよ。
どれほど努力すればこんな状態になるのかな?
以前のクリスタ先生とほとんど一緒だよ。
全身が点滅しているもん。
「待っていたわ。マリウスとマルティナね。食事はしてきたの?」
「いえ、何も食べていません」
「今からお風呂の時間だから先に入ってちょうだい。後から食事にしましょう。荷物は2階に置いてきて。クラーラ案内してあげて」
「任せてよ!カーリンお姉ちゃんにお願いされたら全力だよ」
クラーラはカーリン軍の筆頭だからね。
皆が話し掛けられたクラーラを羨ましそうに見ているよ。
カーリン軍多過ぎだよ…。
「さあ、荷物を置きに行こう」
「案内をよろしく」
「うん。よろしくね」
クラーラと一緒に2階の部屋に入った。
とんでもなく広い部屋だよ!
しっかりとした寝る場所まである。
家より寝心地が良さそう。
「空いている籠はここら辺だね。誰も盗ったりしないから心配しないで。2人とも荷物を籠に入れたら1階に戻ろう。男子のお風呂の時間が始まっているからね」
1階に戻りお兄ちゃんは別の友達と一緒にお風呂に向かった。
男子はお風呂から出るのが早いみたいだね。
家だとどうだったかな?
お風呂から出たお兄ちゃんは笑いながら2階に行っちゃった。
何か面白い事でもあったのかな?
私はクラーラにお風呂を案内してもらったよ。
いやいや…。
流石に広過ぎるよ!
1階の半分はお風呂じゃないのかな?
シャーロット様のこだわりだよね…。
特別な施設は凄過ぎるよ!
石鹸は使いたい放題で香油まで選べるんだ。
とんでもなく贅沢だね…。
お風呂から出た後、私たちはカーリンさんに案内してもらって食事場所に行った。
明日からはカーリンお姉ちゃんと呼ばないとね。
ここが食事する場所なの?
いやいやいや…。
意味不明な広さだよ!
新旧孤児院の子供が全員一緒に食事するんだって。
明日から食事はとんでもない事になりそうだよ…。
楽しそうだけどね!
私たちは残り物を食べたけど凄く贅沢だったよ。
何種類も料理があるし、お代わりは何度してもいいみたい。
美味しい料理ばかりだったよ!
孤児院はやはりとんでもないね。
何もかもが想像以上だよ!
お腹いっぱい食べたけど後片付けも必要ないみたい。
本当に子供の為の特別な施設だね…。
勉強を頑張らないといけない気がする。
もっと頑張ろう!
そして、夜に枕投げに参加したよ。
我慢しようと思ったけど楽しそうだったもん。
ぶつけられたらやり返さないとね!
そして、翌朝クリスタお姉ちゃんに説教されました。
孤児院の鬼と呼ばれているんだって。
とても納得しました…。
説教で殺されると思ったのは初めてだもん。
こうして、私たちの孤児院生活は順調に始まりました。
お母さん、お父さん、元気で過ごして下さいね…。
子供たちのお陰でマリアンネは助かりました。




