ジェラルヴィーネ 私の甘さ
母さんと会話していて間違いないと感じた。
問題になりそうな事については常に助言してくれている。
それに、私が気付いていないだけ…。
問題が表面化するかどうかは私次第だね。
今でも母さんであれば選別で飛ばす人を多く国内に残している。
私が国長になった事で母さんの選別を止めたから。
母さんは問題がある人を残さない。
更生する機会は一度だけ。
国民を詳細に把握しようとしたら本気で止められた。
間違いなく母さんには動機が分かっている。
それは、私の衝動的な思いだった…。
冷静になると本当に馬鹿だと自分でも思う。
努力していない人を助ける為に私が努力する必要は無い。
それが、母さんの伝えたい事だと思う。
多くの人に幸せに暮らして欲しい。
何も考えずにこんな事を思っているから母さんに怒られる。
この国は努力しなくても幸せに暮らしていける。
私はこの国がより良くなるように努力できる施設などを用意した。
それなのに、努力しない国民が多くいる。
私が努力して何もしていない人を幸せにするの?
そう考えると自分の考えがいかに浅いのかが分かる。
私が助けて幸せにしてあげたい子は世界中にたくさんいるのだから。
そして、母さんにはそれが分かっている。
国民を詳細に把握する事で何かいい事はあるのだろうか?
努力していない人が分かる。
何もしていない人が分かる。
・・・・。
不愉快になるだけだよ…。
依頼を自分なりに考えてより良く解決しようとしてくれる人なんて限られる。
全く効率的にはならないよね。
母さんの言う通りだよ。
私は目の前の不幸になりそうな人を助けたいと思ってしまった。
だけれど、それはその人が何も努力して来なかった結果だから。
完全に自業自得だよ。
あの人は最低限の努力すらしていなかった。
与えてあげた努力する時間すら無駄だと思えてしまう。
自分が任命したから責任を感じているのだろうか?
それなら、即座に飛ばせばよかったじゃない。
甘い対応をしてしまったのは私だよ…。
嫌な思いをしているのも自分が甘い対応をしたから。
そもそも私と母さんは無理な依頼を出さない。
できない人には頼まない。
これからは、補佐室に気を遣って依頼を出すの?
私が補佐室を補佐するの?
そんな馬鹿な話はないよ。
本来の役割と真逆じゃない。
絶対に嫌だよ…。
あの2人に補佐室と名乗らせたくない!
私たちの補佐をしていると国民に思わせたくない。
母さんの信用と信頼を元に補佐室も同様の立場のように見られる。
それがあるから物凄く嫌だ!
今更になってこんな事を思っている。
だから、私は甘いんだよ…。
「ヴィーネ、そんなにイライラしていたら何も考えられないよ?」
「分かってるよ。今更なのに自分の対応にイライラしているの」
母さんは理由も分かっているはずだよ。
本当にもう…。
「どうしたいの?」
「2人に補佐室と名乗らせなくない。本当に今更だよ…」
「なるほどね。冷静になって考えてみたら、補佐室の為に国民を詳細に把握しようとしていた。補佐室の為に依頼内容を考えようとしていた。それは、補佐室とは言えないと思った訳だね?」
「その通りだよ。私が補佐室を補佐するなんて馬鹿みたいじゃない。補佐室の権限は凄いよ。でも、それは彼女たちが努力して得たものじゃない。自分の甘さが嫌になるよ!」
孤児院と補佐室は特別扱いされる。
しかし、桁違いに努力している孤児院と同じだと思われたくない。
「甘くないヴィーネだったらどうするの?」
「今更発言を撤回できないよ。それに、検問は絶対に必要だからはずせない。子供を保護しようと思うと誰かが検問する必要があるから。最悪な気分だよ!」
「ディアナを補佐室の秘書にした時点でディアナ基準でしか仕事を依頼できないよ。ディアナは凄い努力したつもりだけど、飛ばされる人に毛が生えたようなもの。ヴィーネ、検問はマリアンネがディアナを庇いながらする必要がある。ディアナは秘儀を覚えていても簡単に犯罪者に殺される。討伐隊が検問しているようなものだよ。検問ならできると思っているの?まだまだ甘いよ」
「母さんは何が起きるか予想できているの?」
もしかして、検問できないの?
「助言してあげる約束だからね。マリアンネの身体強化では大した事はできない。もし、奴隷の子供を2人人質にされた場合、ディアナか子供が死ぬ可能性がある。マリアンネも検問中の不意打ちに対応できるか分からない。ディアナがそれを阻止する事はできない。ああ、検問兵が死ぬ可能性もある。犯罪者次第では検問が潰される。この国に多くの犯罪者が来る事は知っているじゃない。検問を待っている他の犯罪者が何かをする可能性もある。補佐室に検問する力は無いよ」
商人組合のお手伝いの時は母さんが犯罪者を事前に殺している。
商人に質問する時はマリアンネの他に孤児院の卒業生が2人も付いている。
「マリアンネとディアナをフルプレートにしても検問兵か子供が死ぬ可能性があるんだね?」
「そうだね。犯罪者は死に物狂いで抵抗するから」
母さんの手間は何も変わらない…。
ややこしくしているだけなのかもしれない。
「母さんは今も犯罪者を殺しているんだね?」
「そうだね。検問の近くで殺しているから洗脳されていない子供なら助かるかもしれない。入国してから商店街に向かわずに何かを探している人も殺しているよ。この国にはフェニックスや精霊や妖精が多くいるからね」
見逃し過ぎじゃない?
期待し過ぎなのかな…。
「そんな状況で2人は検問している気になっているの?」
「そうだよ。そんなものなんだよ。ヴィーネは期待し過ぎているね。孤児院を見ているからかもしれないけど、当てにはならないよ」
補佐室が母さんの仕事を減らしていない。
既に仕事を失敗していると考えられるよ。
「犯罪者が来ない事には気付かないの?」
「敵対する移住希望者を犯罪者だと思っている。犯罪者に対する嗅覚が弱いからね。私たちからの念話か感情把握の魔石を持たせないと無理だね」
感情把握の魔石は物凄い特別なものだよ…。
母さんはクリスタだから渡したのに、それを補佐室に渡してとは言えない。
それに、仕事が楽になるとしても渡したくない…。
仕事で渡すというのであれば、孤児院の卒業生くらいの努力はして欲しい。
ここまで酷いと補佐室にお願いする仕事が思い付かない。
私たちの補佐をしてくれていない。
「母さん、どうすれば補佐室を私たちの補佐だと思う事ができるの?補佐室は物凄い特別な目で見られる。それに値するだけの仕事が思い付かないよ。念話で犯罪者だと伝えた人を処理する事しかできない。あれも、冒険者ギルドや犯罪ギルドを潰す為にしていた事だから二度手間だよ。それに、犯罪者になる人が減らないから意味が無かった。何も思い付かない場合はどうすればいいの?」
「特別な職で特別な権限を持っているから特別な仕事をさせたいのでしょ?無理なのだから、そのままでいいんだよ。マリアンネとディアナは本来なら飛ばされている人。努力したとしてもそれなりだよ。それに、マリアンネにディアナという枷がついた。依頼の基準はディアナになる。マリアンネは分かっていてもディアナを選んだ。今後はディアナができそうな仕事があれば依頼すればいいだけ。補佐室はなくなったと思っておけばいいよ。ヴィーネは気にし過ぎだね。補佐室がなくてもヴィーネの目標とは関係ないでしょ?やりたい事を考えて実行する。それが、ヴィーネのすべき事だよ」
「本当にいいの?母さんの積み上げて来たものにただ乗りしているんだよ?」
「いいよ。問題になりそうなら飛ばすから。それに、誰かに何かを指示する事なんてできないよ。飛ばされる予定の人に指示するだけ。マリアンネだってそれくらいは分かっているよ。それに、自分の選択が私にどう映ったのかもね」
マリアンネは補佐室にディアナが必要ないと分かっていても残す事を望んだ。
それは、母さんが特別に用意した補佐室を貶める行為だと気付いているという事かな?
母さんを裏切ったと思われても仕方ないよ。
マリアンネに自由に指示を出せなくなっているのだから。
「私の甘い選択肢でディアナを残したから?」
「関係ないよ。ディアナに残って欲しいという思いが私を裏切っているのだから」
元街長が選別で我儘を言ったからだね。
散々飛ばした人間が言ってはいけない言葉だよ。
マリアンネはディアナの状態を知った後に飛ばして欲しいと言うべきだった。
母さんはマリアンネを完全に見放している。
飛ばさないのは私が仕事を与えてしまったから。
私の甘さが補佐室を残してしまった…。
自分の甘さの責任とはいえ最低な気分だよ。
私らしさ…。
ただ甘いだけじゃない!
「よく分かったよ。いい経験になったと思っておく。もう寝たいよ」
「分かったよ。じゃあ、寝ようか」
母さんが布団を敷いてくれたらすぐに入る。
抱きしめてもらえればそれだけで幸せだよ。
「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
母さんが経験させたかったのはこういう思いかな?
とても勉強になったよ…。
私は目標に向かって色々と考える事に集中しよう。
ヴィーネの経験になりました。
集中できるのでしょうか?




