ジェラルヴィーネ 私らしさ
母さんは優しくて甘えさせてくれる。
だけど、厳しいらしい…。
私が考えて何かした時に問題が起きる可能性があっても黙っているからだと思う。
母さんは問題も経験として考えている。
解決できるからだと思う…。
移住希望者の面接でも問題が起きるはずだよ。
どうしようかな…。
移住希望者が望んでいるのは私たちが提供している安心と安全。
あとは住民が努力して発展させている街や商品や飲食物。
貢献できる人なんているのだろうか?
この国は余りにも特殊な環境で、母さんがいなければ絶対にまとまらないよ。
母さんへの信用と信頼は絶大だからね。
過去の実績もそうだけど、現在の活動も含まれているのだと思う。
母さんが国を守る為に動く時には甘さが一切ない…。
私が原因の場合は説教で済むけど、他の人だと飛ばされるか殺されると思う。
母さんの一番の失敗が私に国長をさせた事みたい。
私が国長にならなければ住民のほとんどが飛ばされていた。
それは、孵化した時から分かっていた。
私が国長になって何が変わったのかな…。
飛ばされるのが先延ばしになっただけだよね。
本当に無意味だった…。
私は何故助けたのだろうか。
選別を偶々逃れている人は勘違いをしたまま勉強しない。
自分は国に必要な人材であると思い続けている。
毎年優秀な子が大勢学校から卒業するのを知っているはずなのに。
必要な人材の基準だって上がるに決まっているよ…。
国民の為に用意した施設なのに選別を逃れた人間と獣人は利用していない。
他種族は族長命令で夜の学校に通っている。
資料室でも見かけるね…。
それを見て何も感じないのは何故だろう?
この国の全てを把握しているつもりなのかな?
国長の私が通えと命令する必要があったのかな?
人間と獣人をまとめる人を用意する必要があったのかな?
族長は種族で決める事で私たちが決める事ではないから。
そんな事をしたら特別扱いになるよね…。
街長や区長を用意しても母さんに下らないお願いをするだけだった。
他種族で自分の為だけにお願いをした人なんていないよ。
やはり孵化してすぐに母さんに甘えて、母さんの仕事を見るべきだった。
私が国長になった事で仕事が増えただけだよ…。
母さんに甘えながら思い付いた事をするだけで良かった。
ほとんどが私の我儘でこの国は凄い事になってしまった。
だけど、多種多様な種族が楽しんで暮らしているよ。
母さんは凄いよ…。
私のお願いを簡単に叶えてしまうのだから。
不幸な過去を持つ種族はこの国で平和に暮らせるだけで満足する。
楽しく暮らせるのだから大満足だよ。
お風呂や美味しい食べ物もあるからね。
色々考えると、この国に問題を持ち込みたくはない。
私の経験は別の形ですればいいと思う。
皆の笑顔を奪いたくないから…。
不幸な過去を持つ人たちが集まった国に他国の人を移住させたら意味が無いよ。
決められた場所での観光や買い物しかさせたくはないね。
「母さん、移住希望者の書類審査や面接する意味が無い気がする。中止にしても大丈夫かな?」
「ヴィーネが中止にしたいならすればいいよ。ヴィーネが指示したから止めるならヴィーネが止めるべきだね」
実施した私の責任だという事だね。
「多くの人が国の近くに集まってしまっているのに、中止にしたら敵意を向けないかな?この国の周りの人から移住に関する記憶を消すのが一番かな?」
「穏便に解決したいんだね。でも、移住希望者は世界中から集まってくるよ。世界に向けて精霊が集まったと念話をしたし、各大陸でこの国の武力を見せ付けてきたでしょ?ヴィーネの対応は一時しのぎにしかならないよ」
私の行動は人を集めるんだね…。
不幸な子を減らしたかっただけなのに。
「それなら、世界に向けて移住希望者を拒否していると伝えたらどうかな?この国まで来てしまっている人は記憶を消す。駄目かな?」
「ヴィーネ、そもそも移住希望者なんて求めてないでしょ?この国を知れば住みたいと思う人はどうしてもいるよ。0人にする事は不可能だね」
どうすればいいのかな?
世界中の人の記憶を消せば解決するのかな?
それだと、振出しに戻るだけだね…。
私の目標とも違った形の世界になってしまう。
どうしよう…。
「ヴィーネ、何でも自分で解決しようとしたら駄目だよ。移住を拒否したところで国の近くに集落を作る人たちは必ずいる。それなら、移住希望者に対してどのような対応をするべきか方針を決めればいいだけだよ。その為に補佐室があるでしょ?」
「そうだけど、私が言いだした事で仕事を増やしたのに、また仕事を増やすのは気が引けるよ」
「ヴィーネが方針を変更する事は恥でも何でもないよ?気にし過ぎだよ。ヴィーネは国長なのだから好きなようにすればいいの。考えても決められないのなら私に相談すればいいよ」
「母さんだったらどうするの?」
考えても分からないよ…。
これは縋った事になるのかな?
「子供だけの場合や奴隷の子が利用されているような場合は保護してヴィーネが記憶を覗く。それ以外は移住拒否。この国に貢献できる極僅かな人を探す必要なんてないよ。この国は他国と違う。人間と獣人の国じゃないからね。多種族国家だから」
私が子供だけで逃げてきた時は移住許可すると言ったから記憶を覗いて確認しろという事だね。
そして、密偵や犯罪者などが奴隷の子を利用していた場合も同様に記憶を覗いて確認する。
書類審査は簡単になるし面接する人数も減る。
私が子供を助けたいと思っているからだね…。
母さんは最初から考えていたのかな?
私が聞いたから答えたとは思えないよ。
「私が商人組合にお願いした責任として私が言いに行かないと駄目だね」
「そうだね。国長を辞めていない以上は責任を果たしてきなさい」
こういうところが厳しいのかな…?
私は子供を救える道が残されていて嬉しいけど。
「じゃあ、行ってくるよ。転移魔法」
商人組合所の所長室に移動した。
「やあ、忙しいところごめんね。移住希望者について方針の変更を伝えに来たよ。大きく変わるからマリアンネとディアナもここに呼んでいいかな?」
「はい。揃ってから話していただいた方が良いかと思います。よろしくお願いします」
念話。
「マリアンネとディアナは今大丈夫かな?問題が無ければ商人組合所の所長室に呼び出すけどいいかな?」
「「問題ありません」」
2人とも大丈夫だね。
召喚魔法。
マリアンネとディアナを呼び出した。
「3人揃ったから話し始めるね。移住希望者についての方針を大きく変更する事にしたよ。基本的に移住希望者は全員拒否して。この国に貢献できる人を探す必要は無いから。但し、子供だけで来た場合と奴隷の子が利用されていると感じた場合は私が記憶を覗くから緊急用ボタンで呼んで。質問はあるかな?」
「急な変更ですね。何かありましたか?」
エルヴィーラに質問されちゃったよ…。
ここまで変わったら普通は何かあったと思うよね。
「母さんに色々と指摘されてね。子供は助けてあげたいから妥協案でこうなったよ。母さんだったら全員拒否で敵対した瞬間に殺すと思うけど、私が国長だからね」
「分かりました。そのように対応します。敵対を感じた場合は放置しますか?始末しますか?」
移住を拒否されただけでも敵対する人はいるだろうね。
家族連れで子供がいた場合だけ放置なんて事をしてもいいのかな?
本当に子供にだけ甘いよ…。
何故こんな風に考えてしまうのかな?
母さんに相談するべきかな…?
いや、国長の好きなようにすればいいと言うだろうね。
将来の仕事を増やすのかもしれない。
母さんなら絶対にしないよね…。
でも、子供が簡単に死んでしまうような状況を作りたくないし、子供を殺させたくない。
甘い考えだと思うけど、それが今の自分だと受け入れよう。
「家族連れで子供がいた場合は入国禁止と脅迫して放置。それ以外は堀に投げ捨てるだけでいいよ。堀の中に魔獣を入れておくから」
「かしこまりました。そのように対応します」
甘いと思わないのかな?
誰もそんな風に思わないみたいだね。
何故なのかな?
「あと補佐室の2人は余裕ができたら全種族に聞き取りをして欲しい。何でもいいから思っている事を聞いてみて。私と母さんが聞くよりも色々と話してくれると思うから。終わったらまとめて社に持ってきてね」
「「かしこまりました」」
「忙しい中でバタバタさせてごめんね。これからもよろしく。またねー。転移魔法」
社に移動した。
「ただいまー。母さん、また甘い事をお願いしてきちゃった。でも、誰も私を甘いと思わないんだよ。何でかな?凄く甘い事を言っているのに…」
「おかえりー。それがヴィーネだと皆が知っているからだよ。ヴィーネは優しいからね。子供の命を守ろうとする事が甘いとは思わないよ。ヴィーネらしくていいじゃない」
何で知っているの…?
聞こえるはずがないのに。
「そうだね。私らしくお願いしてきたよ。疲れたから寝たい」
「お疲れ様。じゃあ、寝ようか」
母さんが布団を敷いてくれるのが当たり前に感じる。
これも甘えているのかな?
別にいいよね?
母さんの赤ちゃんだもん!
布団に入って抱きしめてもらう。
それだけで、今日も頑張った気がする。
「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
母さんが優しく頭を撫でてくれる。
今日は今の私らしさに気付けたから良しとしよう!
子供に優しいヴィーネが可愛いのです!




