閑話 ディアナ 秘書
シャーロット様より移住希望者の取り纏めを頼まれました。
とても重要な仕事になります。
注意事項までありました。
精霊様の信者は問題を起こすので移住の条件に当てはまっても移住不可。
それに、子供だけや家族連れにも注意するように。
ヴィーネ様の考えとは違うのでマリアンネさんに相談しなければいけません。
それに、国土も広げましたね。
精霊様の信者が近くに集落でも作るのでしょうか?
国外に出て食事されているフェリシア様に何かあれば即座に飛ばすか殺すでしょう。
商人組合所で多くの碌でもない人を見ました。
人間や獣人を同じ人として扱わない人がいるのが本当に衝撃的でした。
それにより、他国の人間や獣人は信用できなくなりました。
始末した商人の中にはエルヴィーラさんのお話にあった催しを見た人もいたのかもしれません。
反応が怪しい商人は即座にマリアンネさんが話せなくしたので分かりませんが、登録されていたほとんどの商人が消える事になりました。
私は余りにも世界を知らなかったようです。
救出された子を注意深く見ればもっと分かる事があったはずです。
移住希望者への対応は商人組合と協力して行います。
希望者が多過ぎるのです。
もう1つ国ができる程なのです…。
既に国の周辺には移住希望者の為の宿などが出来始めています。
シャーロット様やヴィーネ様が守る事はありませんが商売にもなっているのです。
移住できない人で集落を作り国になるのも近いかもしれません。
審査はかなり慎重に行っています…。
この国に移住するというのはそれ程の事なのですから。
今は大量の書類審査の最中です。
この作業は商人組合で行っていただいています。
私とマリアンネさんは面接から本格的な仕事になります。
お2人に縋りたいだけの人を移住させる訳にはいきません。
過去の過ちを繰り返す訳にはいかないのです。
人口が多ければ豊かな国になる訳ではありません。
この国は世界一幸せで豊かな国であり移民を受け入れる必要が無いのです。
面接するのは私とマリアンネさんとエルヴィーラさんです。
今日は面接が始まる前の打ち合わせです。
面接は1週間後から始める予定です。
「マリアンネさん、シャーロット様の注意はヴィーネ様とは違った形の審査になってしまいますが、どうしましょう?」
「シャーロット様の言葉が最優先だ。何か思い当たる節があるから言われた言葉だと思われる」
「なんだいそれは?どんな注意事項があったんだい?」
私とマリアンネさんにしかお伝えされていないのでしょう。
それが、補佐室なのですから!
「精霊様を神格化している人は問題を起こすので移住不可です。子供だけの場合、家族連れの場合も注意してという事でした。子供に何か疑惑があるのでしょうか?」
「ディアナ、少しは自分で考えてみろ。まず、子供だけで他国からここまで来る事が可能だと思うか?つまり、逃げてきた子供なのか送り込まれた子供なのかを正しく見極めろという事だ。それに、家族連れの場合も本当に家族かどうかが分からない。この国は子供に甘いと思われている。シャーロット様はそれを注意されているのだと思うぞ」
「ヴィーネ様の子供だけで逃げてきた場合は受け入れるというのも中止という訳だね。ますます面接が重要になってくるじゃないか。書類審査だけで大多数は落とせるが、本当に有益な人が他国にいるのかどうかは怪しいと思ってしまうね」
他国が子供を密偵にするという事ですか。
死んでもいいから試しに送り込むだけというのも考えられますね。
そして、家族連れも有能な人に密偵を付ける訳ですね。
全てが怪しいではありませんか。
「この国に移住できる人はいるのですか?いないように思えてきました」
「そう思って対応しろという事だよ。国の発展に貢献できる人とはどんな人かお前は分かるか?資料室の研究内容を把握しているか?」
「すみません。目の前の事で精一杯でした。そこまでは把握できていません」
「ディアナには刺激が強かったかもしれないが補佐室の秘書としては甘いね。商人組合が忙しいから手伝いを頼まれただけだと思ったかい?移住希望者を面接するにあたってディアナは人を知らな過ぎるからだと私は思うよ」
そうなのですか?
確かに私に人殺しをしてもらうつもりはないと言われていました。
しかし、人の始末に関わる仕事が続いていたので忘れていました。
「完全に忘れていたようだな。元々ディアナに人の始末をさせるつもりはないと言われていただろう。ここからが本番なんだ。ただし、面接するにもある程度の力は持っておいた方がいいのも間違いない。だから、今までは人を知る事と処理に関わるような仕事をしてきたんだ。お2人の秘書は楽な仕事ではない。二度と忘れるなよ」
「はい。分かりました」
「この国で育って外に出た事がないディアナに移住希望者の取り纏めを頼もうと思うと準備が必要だったという事さ。それに、移住希望者の取り纏めだけに終わらない可能性が高いよ。この国の周りにできる集落の調査なども頼まれるかもしれない。お2人を抜きにしてどれ程の仕事ができるのか見ているのさ。シャーロット様は間違いなくそうだと思うね」
補佐室の秘書はお2人の秘書になるという事です。
今まで耐えてきたつもりでしたが、まだ仕事が始まっていなかったのですね。
この国しか知らない私に必要だった準備時間ですか…。
しかし、補佐室の秘書として働ける程の能力は未だなさそうです。
「そういう事だな。シャーロット様がただ優しい訳が無い。意味の無い事はされないお方だ。全てに意味があると思って行動しないと駄目だ。ディアナ、この国はなんだ?お前の思った事を言ってみろ」
思った事ですか…。
そのままを言えばいいのですよね?
「世界の覇権国家であり、精霊様や世界中の種族が集まる多種族国家です」
「それが、他国が思うこの国だ。実際はこの国が世界なんだ。この星はこの国がなければ滅びる。だから、勘違いした馬鹿な国が侵略しようとしたり密偵を送ってきたりするんだ。他国はこの国と共存を選ぶか滅びるしか選択肢がない事に気付いていない。この国がこの星の基軸だよ」
「ディアナは勉強不足だね。この国に集まっているお方が何を意味するのか理解していないようだ。補佐室の秘書になっておいて良かったね。次の選別で飛ばされるところだよ」
勉強不足なのは間違いありませんが、マリアンネさんやエルヴィーラさんの言った事は勉強すれば分かる事なのですか?
それに、次の選別とは何ですか?
そのような情報は何も聞いていません。
「全く分かりません。どのような勉強をすれば分かる情報なのでしょうか?それに、次の選別とは何ですか?選別の予定は聞いていません」
「勉強方法か…。子供たちの遊んでいる光景を見たり、新しく来た種族はどういう人なのかを随時確認する事だな。そして、選別の予定など言う訳が無いだろ。区長会議の時に秘書をしていたせいで勘違いしているな。シャーロット様は500年以上も国を守ってきているのだぞ?一々飛ばす人の事を考えていると思うか?そんなに甘いはずがない」
「そうだね。シャーロット様は飛ばす人の事なんて一々考えないよ。残る人の事を考えているだけさ。目の前の仕事で手一杯のようだね。視野が狭くなり過ぎているよ。明らかに飛ばされるような人間が国内に残っているじゃないか」
私のシャーロット様の印象が区長会議のものだから分からないのでしょうか?
手一杯なのは間違いありませんが、そこまで視野が狭くなっているのでしょうか?
子供たちの遊んでいる光景を見て分かる事があるのですか?
新しく来た種族の人とは会話していません。
駄目です…。
何も分かりません。
「すみません。全く分からないです。シャーロット様は事前に予告して努力を促すと思っていましたが違うのですか?それに、子供たちの遊んでいる光景で分かる事があるのですか?」
「まあ、お前にとって辛い日々だったから手一杯だったのだろう。今回は丁寧に説明するが次回は自分で理解しろ。まず、事前予告して努力を促すと言ったが新しい何かが用意される度に努力を促している。資料室ができた時も、大人の学校の全教科合格者に缶バッチが用意されるようになった時も。それらを、既に国民だから関係ないと思っていたのであれば終わりだ。国民の為に用意した施設なのだから。夜の学校にこの国の人間や獣人がほとんど通っていないのを知っているか?つまり、この国に人間と獣人はほとんど残らないよ。そして、シャーロット様が一番繊細に扱っているのはフェニックス様だ。呼び名まで変えている。そして、フェニックス様は精霊様を呼び捨てにしている。精霊様も当然のように受け入れている。つまり、フェニックス様は精霊様よりも上位の存在である可能性が高い。呼び名を変えたのはフェニックス様を刺激しないようにする為だと思われる。何故かまでは分からないが意味があると考えるべきだ。そして、フェニックス様はシャーロット様と友達だと嬉しそうに話す。つまり、シャーロット様もフェニックス様と同等の存在。精霊様よりも上位の存在になっていると考えられる。全ての精霊様に名前を付けているんだ。精霊様が下位の存在に名前を付けると言われて受け入れると思うか?それに、シャーロット様が誘った伝説の種族も平和に移住している。土地神様はその名の通り神様なんだ」
「そうだね。常に努力を促しているよ。理解していないのは人間や獣人の大人だけさ。そして、もう遅いんだよ。シャーロット様は選別を終えている。飛ばすだけだと思うよ。後はマリアンネの言った通り、土地神様は神様なのさ。つまり、友達のフェニックス様も神様なのさ。分ったかい?」
伝説の吸血鬼で土地神様として崇められているのではなく、本当に神様となったのですか?
そんな事が起きているのですか?
訳が分かりません…。
何故2人ともそんなに詳しいのですか?
選別もそうですが何も情報が無いではありませんか。
「何故そんなに詳しく分かるのですか?私に足りないものは何でしょうか?」
「ディアナ、お前は知ったはずだ。この国は泣くほど安心できる国だと。その価値はお金で計れるものか?選別から逃れている国民ほど勘違いするんだ。自分は国に必要な存在だとな。何故それが分かる?この国の事を何も知らないのに何が分かる?学校に通わない種族の族長は夜の学校に大人全員を族長命令で通わせている。何とかしてこの国に貢献しようとしているんだ。補佐室の秘書なら全てを知る必要がある。夜の学校に通え。全種族の族長と会話しろ。お2人の補佐として訪れた時、必ず丁寧に持て成してくれる。お2人の秘書として仕事しようとした時に何も知らないようでは仕事にならないぞ」
「ディアナ、あんたは運がいいよ。特別な職に就く事ができたのだから。しかし、その職に就いている以上はこの国の事を誰よりも理解している必要があるよ。何かを頼まれた時に対応できる準備だけはしておくんだね。シャーロット様は優しいから最初は準備して下さる。でもね、そこから先に進むのか立ち止るかで選別が行われるのさ。今日からでも進むんだね。あんたの立場でなら間に合うよ」
話し終えた後に2人がポケットから缶バッチを取り出しました。
それは、夜の学校の全教科合格者のバッチですか?
「何故それを持っていて付けていないのですか?」
「この剣で十分だろ?それに、バッチ取得は当然だから付けていないだけだ。補佐室の人間がバッチも取得していないようでは話にならないだろ?お前に言わなかったのは、そこまでの余裕がなかったからだ。だから、今話しているんだ。今日の夜から通え」
「私の歳では関係ないだろうけど、まぁ道楽さ。夜の学校では様々な種族と会話が楽しめるんだ。通った方が楽しいじゃないか。マリアンネの言った通り。ディアナには余裕がなかったみたいだからね。話すには今がいい機会だっただけさ。秘儀を覚えて、魔法を覚えて、魔獣で訓練して、商人の処理の手伝いだ。あんたには刺激が強過ぎて他の事なんて考えられなかっただろう?面接が始まったらどんな事になるか分からないよ?動ける時に動いた方がいいだろうね」
私はこの国の安心と安全を身を持って知りました。
それで、この国の事を知ったつもりになっていました。
秘書として動く為には事前の準備が大切です。
この国の事を知らなくては動ける訳がありません。
またマリアンネさんに救われたようです。
私はとても恵まれていますね…。
マリアンネさんが気を配って下さるのですから。
ディアナには甘いのです。




