閑話 チャド エルダードワーフ
んっ、ここはどこだ…?
見慣れた天井や家具が視界の隅に映った。
あー、俺の店のようだな…。
ベッドで寝ているのか?
理解に苦しむぜ…。
俺は何で寝てんだよ?
今は仕事中じゃなかったか?
「あんた、しっかりしなさい!精霊様の前で恥ずかしい真似をするんじゃないよ」
耳元で煩いのはカーラか?
ああ、近くにいたのか。
カーラの言葉で重たい体を起こす。
ちょっと待てよ!
今何て言った…?
精霊様だと?
「嬢ちゃんがまた精霊様を呼んだのか?本気出し過ぎだぜ…。今度は誰なんだよ?」
「記憶が飛んでいるわね…。全ての精霊様がこの国に集まったわ。土の精霊様はノーム様という名前よ。恐らく私たちと一緒に暮らす事になるわ」
はぁ?
土の精霊様が一緒に暮らすだと?
洞窟に3人も精霊様が住むのかよ。
エルダードワーフが精霊様を3人も独占かぁ。
少しは勘弁してくれよ…。
「おいおい、マジか…。俺たちは何をすればいいんだ?嬢ちゃんは何か言ってたか?」
「お世話をお願いされただけよ。他の精霊様と同じようにお小遣いをあげるだけでいいと思うわ」
それだけで済むなら楽だが。
いや、楽なのか?
休む暇もねーな…。
「何で土の精霊様を嬢ちゃんは呼んだんだ?最近何かあったか?」
「ヴィーネちゃんが国名を変更したから、恐らくヴィーネちゃんの我儘。精霊様を全員集めて欲しいとシャーロットちゃんにお願いしたのよ」
我儘だぁ?
何でそんな事を口にしたんだ?
精霊様がいるから集めてしまおうってか?
実現する方もマジでおかしーだろ…。
精霊様が1つの国に全員いるとか意味不明だぜ。
頭がぼんやりしてやがる…。
「俺は余りの衝撃で倒れたのか?あんま記憶ねーからよ」
「ええ。あんたは倒れたわ。そんな事でどうするの!エルダードワーフとして全力を出しなさいよ。希少な素材を要求しようとしていたのを忘れたの?どんどん集まっているわ。何か1つでもいいから商品を生み出しなさい」
言ってる事は分かるけどよぉ…。
普通は素材を研究してから商品開発じゃねーのか?
研究時間もねーんだぜ?
次から次に伝説の素材が集まってるんだ。
これは流石に無理だろ…。
何をすればいいのか分かんねーよ。
もしかして俺だけが弱ってんのか?
「洞窟の奴らは頑張ってんのか?俺みたいに倒れてねーのか?」
「ええ。あんた以外は頑張っているわ。どうするの?シャーロットちゃんに素材の買い取りを中止にしてもらう?」
何を言ってやがんだ…。
エルダードワーフが素材の買い取りを中止だと?
それは許されねーだろーが!
「それはできねーな!エルダードワーフとしての誇りが許さねーよ。商品化に時間が掛かっても別に文句は言われねーんだ。俺たちのできる限りでいいだろ?無理する必要はねーよ」
「あんた…。本当に鈍ったわね。洞窟に帰るわよ。皆の姿を見なさい!」
突然何だよ…。
俺が鈍っただと?
俺以上に素材に本気の奴はいねーよ!
その俺が厳しいと思ってるんだ。
無理してるだけじゃねーのか…?
結局倒れて終わりじゃねーかよ。
カーラに手を引かれて洞窟まで帰った。
洞窟の中央には素材が積まれている。
笑うしかねー素材の量だな…。
しかし、この状況はなんだ?
マジでどうしたんだよ…。
全員が素材の可能性を引き出そうと必死じゃねーか。
洞窟で一体何があったんだ?
「おい!お前らそんなに無理すんじゃねーよ。焦らずやればいいじゃねーか。どうしたんだ?」
「好きでやってんだよ!好きな事を限界まで追求するのがエルダードワーフだ。お前こそ何を言ってるんだ?」
「あんた、アンディの言う通りよ。みんな好きでやっているの。あんたが鈍っているだけよ。これで分かったでしょ?素直に認めなさい。そして、好きな素材で商品開発しなさい」
俺が鈍っているだと…。
冗談じゃねーぞ!
「俺が鈍ってる訳ねーじゃねーか。お前らの体を気遣ってやってんだぞ?お前らがそれでいいなら止めねーぜ。俺も好きなようにやってやろーじゃねーか」
「そうだよ。好きなようにやってみなさい。どの素材を扱うの?」
どの素材を扱うかだと…?
マジで素材が多過ぎだぜ。
だが、ここでそんな事を言ったら負けを認めるようなもんだ。
男として言えねーよな!
「ハベロットとアラクネの糸で全属性に耐性のある服を作ってやろーじゃねーか。服屋と共同開発してやるよ」
「なかなかいい商品じゃない。やってみなさいよ。あんたが商品開発するところを皆に見せ付けなさいよ」
カーラがいつもと違うな。
どうしたってんだよ?
焦らせんなよ…。
「商品開発するのはいいが、何でお前がそんなに俺を引っ張るんだ。エルダードワーフは自由だろ?好きにやらせろよ」
「あんただけ腑抜けているのが妻として情けないからよ。いいから仕事しなさい」
今度は腑抜けているだと!
流石にそれは言い過ぎじゃねーのか?
「おいおい、俺がいつ腑抜けたんだ?いつでも全力だぜ?勘違いしてんじゃねーよ!」
「精霊様の前で気絶した癖によく言えるわね。今まであんなに恥ずかしい思いをした事はないよ。分かっているのかい?シャーロットちゃんに偉そうに希少素材を要求したのはあんたなんだよ?この国に移住を決めたのもあんたじゃないか。それなのに、1人だけ腑抜けているじゃない。ここに来てからシャーロットちゃんに素材を要求した事ないでしょ?シャーロットちゃんは私たちを凄い気遣ってくれているのよ?何で迷惑みたいな対応しているの。笑顔で素材を買い取りなさい。それか、洞窟の奥に引き籠りなさい」
「カーラの言う通りだぜ。伝説の素材をこれほど用意してくれているのに、素材が多過ぎて迷惑だと思ってるんじゃねーのか?情けねー限りだな。研究ばかりしていたせいで商品開発ができなくなってやがる。それに、自分の知らない素材には手を付けられていない。これが情けなくて何なんだ?そろそろ本気出せよ!」
どいつもこいつも言いたい放題言いやがって。
店で対応している俺の苦労を考えやがれ!
それに、商品開発するって言ったばかりだぞ?
どこが腑抜けてるんだよ!
「ああ、分かったぜ!お前たちは余裕があるって事だな?そういうつもりで対応してやるよ」
「あんた、その考え方が腑抜けているのよ。余裕がある訳ないでしょ?何を言っているの。そんな人なんていないわよ。それでも全力で仕事しているの。自分に余裕が無くて対応できないから、皆にも同じように対応してもらおうとしているだけじゃない。それが分からないの?」
何だと…。
そういう事かよ!
余裕がねーから皆を巻き込んでゆっくり仕事しようとしていたってのか?
俺はそこまで腑抜けていたのか…。
「なるほどな。確かに腑抜けていたようだぜ。素材は笑顔で買い取りだ!商品開発も全力だ!余裕なんてどうでもいいよな。そういう事だろ?」
「そういう事よ!やっと気付いたようね。皆が本気でやっているのよ。あんただけゆっくり仕事なんて妻として許せないわ。全力よ!」
「チャドの本気を見せてくれよ。アーロンの刀は精霊様の力を借りまくってるぜ。そのくらい貪欲に商品開発しろって事だ」
精霊様の力を借りまくってるだと…?
サラマンダー以外の力も借りてるっていうのかよ。
やるじゃねーか!
俺もそうしてやるよ。
精霊様が何だってんだ?
土地神様なめんじゃねーぞ!
「面白いじゃねーか。俺も手伝ってもらうかもしれねーな。エルダードワーフだからよ!」
チャド復活です!




