ジェラルヴィーネ 我儘
本当に凄過ぎるよ…。
母さんはどこまで考えているの?
人間や獣人の王族が神に選ばれたと言っているのを見て、精霊の関与を疑った。
神という概念をこの世界に持ち込んだのは精霊女王であると。
全て母さんの予想通り。
そして、風の精霊を呼び出した。
空気に姿を隠す事ができるあの子は適任だ。
母さんは風の精霊の能力を予想して呼び出したに違いない。
「母さん、ここまで来たら土の精霊も呼べばいいんじゃないの?」
「精霊の聖地にしちゃう?ヴィーネが呼びたいならいいよ」
私では駄目だと思う…。
精霊は母さんが呼ばないと姿を現さない気がする。
母さんは特別だと思えて仕方ない。
「母さんは土の精霊の使命を予想しているの?」
「勿論しているよ。今までの精霊の使命はフェニックスの監禁や拷問が前提だったでしょ。じゃあ、土の精霊は何をするのが一番だと思う?」
土の魔法でフェニックスの監禁が一番楽な気がする。
違うのかな?
「フェニックスの監禁じゃないの?」
「似ているけど違うよ。それはね、人間や獣人にフェニックスを食べさせる事だよ。不死になる実験をしなくても、フェニックスを殺さないように肉を削げば何度でも食べられる。拷問だよ。土の精霊は地上にいるフェニックスの足留と、人間や獣人にフェニックスを食べさせるのが使命だよ」
何でそんな予想ができるの?
精霊はそんな使命を納得するのかな?
「そんな使命を受けたとして、どんな理由で精霊は納得するの?」
「世界に不死という存在を知らしめる必要があるとでも言えばいいだけだよ。精霊同士は連絡を取り合えない。何人の精霊が世界にいるのかも分からないんだよ?自分が与えられた使命と役割が絶対なんだよ。殺させる事で不死だと誰でも分かるようになるでしょ?逆を言えば殺さないと不死だと証明できないんだよ。だから、土の精霊はフェニックスを殺させる事に協力したはずだよ」
絶対に母さんはおかしいよ…。
土の精霊の使命が土と全く関係ない。
それなのに、自信を持って使命を予想している。
これまでの精霊を見てきたから予想できたの?
それとも、フェニックスの拷問が前提になっているから予想できたの?
地上にいるフェニックスを捕捉する事ができる場合は可能だね。
人間や獣人に食べさせる事で不死だと認知させると共に拷問にもなる。
とても酷い話だよ…。
でも、当たっている気がする。
母さんの話を聞くと何故か納得してしまう。
「母さん、精霊に名前を付けている本当の理由は何なの?」
「自我を確立させる事だよ。ユッタの娘たちと一緒の事をしているだけだよ」
それだけではないと思う。
私でもそんな簡単な事は思い付くから。
「絶対に他にもあるね。何かあるでしょ?」
「本当にもう…。あくまで予想だよ?空気や水や瘴気に姿を隠せる能力は無敵に近いよね?そんな能力を与える事ができるのかな?自分の能力を貸している気がするんだよね。もし、精霊女王と戦闘になった時に精霊が吸収されると面倒な相手になるでしょ?だから、吸収できなくしたんだよ。世界に漂う魔力のような存在だったら簡単に吸収できたと思うけど、今の精霊たちを吸収するのは無理だろうね。名前を得てから時間が経つごとに厳しくなっていくよ」
やはり考えていたよ…。
それに、精霊女王との戦闘を前提にしている。
名付けの時までそんな事を考えているんだ。
本当に意味が分からないよ。
私の予想通りだけど、全く勢いで行動していないね。
周りから見るとそう見えるだけだよ。
確かに精霊の能力は規格外だね。
あれだけの能力を誰にでも与えられるのであれば精霊女王に勝つのは厳しい。
精霊女王を殺そうと思うと全ての生命を殺さなければいけない。
それ程に厳しい相手になってしまう。
「母さんは土の精霊で終わりだと思っているの?」
「間違いなく光の精霊もいるよ。あと2人は確実だね」
光の精霊の使命は何かな?
もう何も思い付かないよ。
何故自信を持って言えるのかな?
隣で母さんを見ていても分からないよ。
「光の精霊の使命は予想しているの?」
「飛んでいるフェニックスを地上に落とすのが使命じゃないかな。フェニックスだって何度も食べられるのは嫌だから地上を避けて生活するようになるでしょ?それなら、光で目を潰せばいい。フェニックスは地上に落ちるよ。そしたら、土の精霊が感知して人に食べられる生活に戻る。フェニックスは拷問され続けているんだよ。あくまで予想だけどね」
フェニックスの拷問を前提にした使命だね。
絶対にそんな気がするよ…。
もう、この国を聖地シャーロットにした方がいいんじゃないのかな?
土地神様は凄過ぎるから…。
私の母さんは凄いからね!
「母さん、そこまで分かっていて何で呼び出さないの?」
「興味ないからだよ。ヴィーネが一番だからね!」
本当にもう…。
完全に本音だよ。
まるで興味が無いみたいだね。
私の為だったら何でもするのに他はどうでもいいみたい。
それなら、我儘を言ってもいいよね?
母さんなら絶対に何とかしてくれるから。
私は母さんと違って不安材料は全て消しておきたいよ。
「精霊女王と戦う事になったら大変だよ?いいの?」
「大丈夫だよ。この国を守るだけなら何とかできるからね。それに、戦う事にはならないと思う。こちらから攻撃しない限り気付かないから」
この国だけなら守り切れる自信があるんだ。
だから、精霊を探したりはしない。
私の我儘を聞いたらどうするのかな?
集めてくれるのかな…?
うーん…。
私の為に全ての精霊を集めて!
「じゃあ、この国を聖地シャーロットにするから集めて。それならいいでしょ?」
「急にどうしたの?精霊を集めるなんてついででいいのに。何か思い付いたの?」
精霊を集める事よりも私が何か思い付いたかの方が大切なんだ。
やはり母さんは私が一番大切なんだね…。
駄目だよ!
ここで喜んではいられない。
「土地神様の治める土地に精霊が揃っていないのはおかしいでしょ?私はおかしいと思ったの!」
「物凄い強引な理由だね。んー、集めても一緒だからいいかな。社の外に行くよ」
素直に私の為に集めてと言った方が良かったかな?
でも、母さんが動いてくれたからいいね。
母さんと一緒に社の外に出た。
「土の精霊。フェニックスは保護したよ。君の使命のお陰で大勢の子供が実験されて大変だったよ。本当に最低な結果を生んだね。だけど、精霊女王からの使命だったという事で許してあげるよ。今から土の魔石を置くから姿を現しなさい。姿を見せなかったら今までの拷問を君にする事に決めたよ」
とんでもない脅しをしているよ…。
母さんは南東の大陸にだけ念話をしている。
場所まで分かっているんだね。
少しして土の魔石から20㎝くらいのドワーフみたいな人が出てきた。
緑色のトンガリ帽子を被り白い髭が口を隠している老人だよ。
炭鉱夫みたいな服装で手足が太いからドワーフに見えたのかも。
「儂は不死ではない。食べるのはやめてくれ。使命だったから許してくれんかのう?」
母さんの予想通りだよ。
精霊女王は誰を敵に回したか理解しているのかな?
私の母さんだよ!
「使命なら許してあげるよ。フェニックスにちゃんと謝るんだよ。君の名前は?」
「フェニックスがおるのか…。謝ろう…。儂に名前など無い。土の精霊じゃよ」
「じゃあ、今日からノームね。決定!フェニックスは私の友達だから安心していいよ」
「儂はノームか。ふむ、悪くないのう。フェニックスが友達なのか…。凄いのう」
絶対に納得するし名前を気に入る。
何故だろうか?
名前が無かっただけだとは思えないよ。
母さん以外の人は精霊に名前を付けられないと思う。
違うね…。
フェニックスと精霊女王は付けられる。
「光の精霊。フェニックスは保護したよ。目を焼かれたら痛いし辛いよね?君の目も焼いてあげようか?地上に下りたフェニックスは拷問ばかりだよ。本当に最低だね。精霊女王からの使命だったのなら許してあげるよ。今から光の魔石を置くから姿を現しなさい。姿を見せなかったら目を焼くよ」
やはり脅しているよ。
母さんは竜の国にだけ念話をしている。
竜の国に精霊が隠れていたんだ。
ドラゴンが誰も気付いていないのに母さんは知っている。
完全に双子の竜王を超えているよ!
知識も経験も継承しているのに私には何も分からない。
私が孵化した後に考えたに違いないね。
「待ってよー。そんなの酷いじゃん。使命だったんだよ?逆らえないじゃん」
光の魔石から20㎝くらいの物凄い軽い感じの女の子が出てきた。
シャドウの髪を金髪にして目元を柔らかくした感じだね。
「君の役割も分かっているんだよ。魔力を星から出さないように頑張っているから許してあげるよ。名前はあるの?」
「分かってくれたー?私も頑張ってるんだからね。魔力を世界に分配するのは大変なんだよー。名前は無いよ。光の精霊だよー」
使命を当てて役割まで把握しているんだ。
本当に土地神様は凄過ぎるよ。
私の母さんだけどね!
「じゃあ、君の名前はウィスプね。君の努力を皆に知ってもらうべきだよ」
「私は今日からウィスプなんだ。そうだよねー。陰の努力を知ってもらわないとね」
私の我儘は母さんからしてみれば簡単なんだね。
本当に呼んじゃったよ…。
何で簡単に精霊を2人も呼び出せちゃうの?
母さんは精霊をいつでも集められたんだね。
絶対にそうに違いないよ。
余裕があるというのはこういう事なんだね…。
全てを把握していて、いつでも実行できるから放置していたんだ。
「じゃあ、皆に紹介しようか。転移魔法」
チャドの店に移動した。
彼が少し可哀相になってきた…。
今回は私が悪いから何も言えないけど応援しているから。
頑張って!
「やあ、チャド。土の精霊の面倒を見てよ。名前はノームね。ドワーフみたいな見た目だし愛称いいでしょ?お願いね」
「ほー。エルダードワーフがおるのか。凄いのう。儂に何かしてくれるのか?楽しみじゃぞ」
「嬢ちゃん。本気出し過ぎだぜ。もう1人も精霊なんだろ?もしかして全ての精霊集めちゃった?母さん、後は頼んだ、ぜ…」
チャドが倒れた…。
限界を超えたらしい。
心の中で謝っておくよ。
ごめんね!
「ノーム様のお世話はエルダードワーフがさせていただきます。安心して下さい」
「カーラお願いね。じゃあ、学校に行こうか。転移魔法」
学校に移動した。
「フェニックスと精霊は出て来て。新しい友達を紹介するから」
「また授業妨害ですか?2人もいるではありませんか。2人とも精霊様ですか?ここは何ですか?国ですか?もう無茶苦茶ですよー!」
クリスタが混乱して叫んでいるよ。
教えている相手がどんどんおかしくなっていくから仕方ないよね。
「やりすぎだよ…。何でこんな事ができちゃうの?ああ、土地神様だったね。じゃあ、この土地は神様が治めているから精霊が集まるのも当然だよね。はぁ…」
ドリュアスが呆れているね…。
私が悪いからここでも何も言えないよ。
「皆集まったね。土の精霊、ノーム。光の精霊、ウィスプ。ヴィーネが精霊の集まった国にしたいと我儘を言うから呼んだよ。みんな仲良くしてね」
私の我儘だと言っちゃったよ…。
でも、精霊に夢中で誰も聞いていないね!
「おいおい、精霊を全員集めたのか?マジで無茶苦茶だな。何でもありが過ぎるぜ。敵対しなくてほんと良かったわ…」
「凄過ぎるよ。こんな短期間に集めちゃうんだ。予想以上だよ。もうついて行ける気がしないよ」
「凄いですね。精霊が揃ったのかもしれないのですか?楽しい学校生活の始まりですよ!」
「わー。こんなに精霊がいたんだ。凄いね!よろしくねー」
「流石私の友達ですね。全ての精霊を集めた気がします。凄いですねー」
フェニックスの言葉を聞いて確信だよ。
母さんは全ての精霊を集めた。
この星の生命体の完成形だからね。
何でもありだよ!
「メージェリー、ウィスプ保護官に任命だよ。ノームもここで魔力の使い方を学ぶといいよ」
「精霊がたくさんおるし、フェニックスもおるようだし、儂も参加するかのう」
「私ですか?精霊様のお世話をするのですか?任せて下さい!一緒にお風呂に入りましょう」
「よろしくねー!私が入れる隙間があるし、ここに入れてー」
メリュジーヌの胸の隙間にウィスプが入ったよ。
意味不明な光景だね。
でも、何故か違和感が無いよ。
これで全ての精霊がこの国に集まった。
国名の変更だよ。
大切な事だから世界に伝えないとね。
念話。
「世界各地にいる精霊は全て巨大な世界樹のある神国シャーロットに集まったよ。神国シャーロットから聖地シャーロットに国名を変更するからよろしく。世界で聖地と呼べるのはここだけだよ。聖地に犯罪者は入れないから訪れるなら命を捨てるつもりで来てね。聖地シャーロットが覇権国家でもあり世界の中心だよ。神に選ばれたと勘違いしている馬鹿も理解する事だね。私たちは戦争を仕掛けないけど、仕掛けられたら必ず皆殺しにする。今までの警告で分かっているはずだよ。ここから先は警告しない。肝に銘じておくんだね」
今日の我儘は終了だね。
ここまで綺麗にまとまるとは思いませんでした。
皆ごめんね!
「今日の私のやりたい事は終わったから帰ろうよー」
「えー!世界にとんでもない事言っちゃったね。まあ、事実だけどさ。またねー。転移魔法」
社に移動した。
「母さん、寝ようよー」
「はいはい。分かりました」
母さんが布団を敷いてくれたらすぐに入る。
今日も抱きしめてもらえたよ!
「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
私の我儘で精霊が揃っちゃった。
母さんは世界を把握し過ぎだよ。
それに、精霊の使命と役割も把握している。
精霊女王の考えをほとんど予想して当てている。
意味が分からないよ…。
同じ時間を過ごしたのに母さんの予想が全く分からない。
どれ程の差があるのだろうか?
でも、私の母さんだからね!
この国は不幸な子を助ける事ができる聖地にしたいな。
ヴィーネの我儘は凄いですね!




