ジェラルヴィーネ 私の母さん
母さんを悲しませる存在を許せなかった。
だから、孵化した後すぐに動いた。
母さんはその事を後悔しているみたい。
私に甘させるべきだったと…。
私の方が経験も知識もあるから判断を間違えたと言っていた。
間違いではないけど、赤ちゃんの私に仕事させたのが判断を間違えたという事だと思う。
私には2人の経験と知識があるから。
継承したものを活かしきれていないけど、母さんは私の方が賢いと思っている。
私も母さんより賢いと思っていた。
本当に馬鹿だよ…。
侮っていた訳ではなく、2人の経験があるから負ける訳が無いと思っていた。
そんな事は何も関係ない。
母さんの知識と経験があっても私は母さんに勝てないと思い知らされた。
私が自分を見失って孤児院だけ守るようになってから、母さんの動きを注意して見ていた。
そこには、予想とは全然違う母さんの姿があった。
母さんに隠し事なんてできる訳が無いとよく分かる。
結界を解除している訳ではなく、外に出た時の集中力が桁違いだよ。
国民は少ないのかもしれないけど、一度に皆の話を聞いて内容を理解している。
本物の化け物だよ。
そして、問題になりそうな会話をしている人の感情の動きで何をしようとしているのか判断する。
母さんは凄過ぎるんだよ…。
母さんに赤ちゃんだと言われても納得してしまう。
実際に赤ちゃんだし、母さんの力を見た後だと自分は赤子なのだと痛感させられたから。
そして、母さんは母親である事を楽しみたいと言っていた。
私の母親でいる事を楽しみたいんだって。
凄く嬉しかったんだ…。
私が母さんを縛っていると言いながら、それでも母さんの言葉が嬉しかった。
私は母さんを独占している。
そして、母さんは独占しろと言っている。
物凄い幸せだよ。
私の作りたかった国の完成形に近いのだから。
それなのに、我儘を言ってしまう。
不幸な子を助けて欲しいと。
私では孤児院に負担を掛けてしまう。
母さんは不幸な種族を助け、不幸な子を助け、それでも国は乱さない。
母さんに助けられた人は皆笑顔だよ。
それが凄い誇らしかった。
私の母さんは凄いんだと皆に自慢したいんだよ。
だから、またお願いしたんだ。
不幸な子を助けて欲しい。
母さんが助けた後の笑顔が見たい。
物凄い難しい我儘なお願いだとは分かっているよ。
母さんだって分かっているのだから言い訳の1つでもすればいいのに。
それなのに、実行して笑顔を見せてくれた…。
凄過ぎるよ!
世界を守り、星まで守ろうとしている母さんが最強で最高だよ。
それが、とても嬉しい。
母さんの子供なのがとても嬉しい。
妹も考えたけど今は嫌だ!
毎日母さんに両手で抱きしめて欲しいから。
片手でもいいと思ったら叔母さんに言おうと思う。
本当は母さんと1日布団の中で寝ていたい。
でも、命令した責任を感じてしまってそれができない。
母さんもそれが分かっているのだと思う。
そして、私に責任が無いと分かって欲しいのだと思う。
でも、それは無理だよ…。
決まり事を破って命令した事実は消せない。
命令してまで子供を助けると宣言したのも消せない。
それなのに、子供を助ける事ができない。
その結果、私には子供を助ける理由が無いと気付いてしまった。
何で子供を助けているのかが分からなくなってしまった。
そして、母さんの感情に流されて命令したのだと分かった。
尚更責任を感じてしまうよ…。
私は何の意思も無いのに卒業生の時間を奪ってしまった。
最低な国長だよ。
自分の思いがある訳ではなく、継承した知識に引っ張られただけの命令。
それだから、次の策が何も思い付かない。
この先どうすれば良いのかが分からない。
自分を見つめ直したら、自分の意思で行動している事が何もなかった。
無駄に力を持っているだけの赤ちゃん。
好き勝手に動き回れる力があるせいで始末に負えないよね。
好き放題に動いた挙句の果てに分からなくなった。
動いていた理由が自分の意思ではなかったから。
そんな馬鹿な話があるの?
好き放題に動いているのに、自分の意思ではないなんて普通に考えたらふざけているよ。
そんな馬鹿な言い訳が通用する訳が無い。
でも、母さんはそれを信じてくれた。
そして、物凄く後悔している。
母さんが私の勢いを勘違いしてしまったから。
私が悪いんだよ…。
自分の感情がどこから湧いてくるのかを考えるべきだった。
今の私は母さんに甘える赤ちゃん。
自分の行いを放棄して母さんに背負わせた最低な赤ちゃん。
それでも、母さんは今の私がいいと言う。
確かに本来の赤ちゃんは何もできない。
でも、最低限の責任だけは果たさないといけないと思った。
だから、国長として孤児院だけは絶対に守る。
孤児院の感情把握だけは真剣に行う。
他には何もできないし思い付かないんだよ。
皆ごめんね…。
それでも、直接は謝れない。
そんな事をしたら孤児院の子を否定してしまう事になるから。
命令しなければ飛ばされていた子が多く残っている。
その子たちを否定する事はできないよ…。
「ヴィーネ考え過ぎだよ。子供のした責任は親が負うものでしょ?赤子なら尚更だよ。ヴィーネは失敗したかもしれない。でも、多くの子供の命を救った。責任を感じているのなら、その責任は私が負うから、それについては考えるのを止めなさい。答えが出ないのは分かっているでしょ?そんな事を考えても時間の無駄だよ。ヴィーネはやりたい事を見付けるのが最優先。そして、私の赤ちゃん。そろそろ認めなさい。ヴィーネの命令は正しかった。母の言葉を信じなさい。ヴィーネは私より優しい。それは、誰かの感情に引っ張られた訳ではなくヴィーネだけのもの。子供を守りたいという思いは私の感情に引っ張られたものかもしれないけど、命令してまで助けたのはヴィーネの思いも入っている。全てが無駄じゃない。ヴィーネは考えて行動しているよ。自分が無いと思っては駄目。行動の中に少しずつヴィーネ自身の気持ちも入っているからね。分かった?」
「分かったけど、どうすれば認められるの?私はずっと責任を感じているよ。どうすれば、責任を果たせるの?」
「ヴィーネは人の心を見るのが甘い。今から言う事をしっかり聞きなさい。ヴィーネに責任は無い。何故なら孤児院の卒業生は絶対に子供を守るから。自分が守られたから誰かを守りたいと思っている。ヴィーネが命令しなくても絶対に守った。だから、責任は無い。命令したのは駄目だったけど、協力をお願いしたとしても同じ結果になった。私が言うのだから間違いないでしょ?ヴィーネが失敗したのは命令してしまった事。協力をお願いすれば何も問題はなかった。それだけだよ。分かった?」
「母さんの言葉だから信じるよ。命令したのが駄目だったんだね。それには、何も負い目を感じる必要は無いの?」
「ヴィーネはずっと負い目を感じて考えてきた。十分に反省した。これ以上は必要ないよ。軽犯罪を犯した人は時間経過で釈放される。ヴィーネも十分に釈放される程の時間は反省したよ。罪を犯してないのにそれだけ反省したのだから十分だよ。誰もが許される機会が与えられているのに、ヴィーネだけ反省し続ける必要は無いよ。この国では私が許せば全て許されると知っているでしょ?ヴィーネは許されたの。私が許した。母としてではなく土地神として許した。満足した?」
「土地神の母さんに許されたら認めるしかないね。じゃあ、次は何がしたいかを考えるよ」
「それでいいの。私に甘えながら何がしたいかを考えてみなさい。但し赤ちゃんだから勝手に行動したら駄目だからね。ヴィーネが勝手に行動したら赤ちゃんを卒業した事にするから」
「卵もらう気でしょ?絶対に駄目だからね。私は母さんの両手で抱きしめて欲しいの。片手だって奪わせないよ。それは、まだ早いの。今の私は母さんを独占したいの。妹はまだ欲しくない」
「それなら仕方ないね。今日はどうするの?寝て過ごす?」
「うーん…。母さんには助けられそうな種族や不幸な子はいるかな?」
寝ていたいけど、母さんが何をするのかも見ていたいんだよ。
難しい我儘ばかり言っているけど、どう答えてくれるのかな?
「そうだね。人間や獣人の王族の考えそうな事は大体把握したから助けに行けるよ」
「じゃあ、助けに行こうよ。その子が可哀相だよ」
「ヴィーネは優しいね。じゃあ、行こうか。転移魔法」
私は転移してから世界を魔力で覆った。
ここは南西の大陸にある国だね。
自国と比べるとかなり大きな国だと思う。
母さんは不幸な子を助けるなら大国に行けばいいと言っていたけど、そういう事なのかな?
大国の不幸な子ならすぐに学校に通えるようになるから孤児院に負担が掛からないのかな?
今は国の上空にいる。
悲しんでいる子は多くいるよ。
「ヴィーネ。私は誰を助けに来たと思う?」
「大国にいる不幸な子じゃないの?孤児院の負担にならないからだと思ったけど」
「この国には不幸は人がいっぱいるね。誰が一番不幸か分からないよね?」
「うん。大きな家には必ず不幸な人がいるよ。奴隷として酷使されているのだと思う。誰が一番不幸かは決められないよ」
「じゃあ、この中から決められた人数しか助けられないのだとしたら誰を助ける?」
助ける人を選ぶって事だよね…。
不幸な人の順番なんて分からないから誰を助ければいいのかなんて決められないよ。
「私には選べないよ。助ける人と見捨てる人を選べない」
「それがヴィーネの気持ちだね。私は選べるよ。じゃあ、行こうか。転移魔法」
王宮の離れにみすぼらしい建物がある。
物置小屋のようだ。
この場所には似合わないね。
「さあ、あの建物に行くよ」
「母さんは誰がいるのか知っているの?」
悲しい感情の人がいる事は分かっている。
どうしてこの場所を選んだの?
母さんと一緒に建物に歩いて行く。
何故この建物は誰も守っていないのだろうか?
入り口に見張りが2人立っているだけだよ。
2人がこちらに気付いたけど動かないね。
既に母さんが念力で固めていたよ。
そのまま素通りで中に入ると6人の子供と1人の大人がいた。
母さんはどうする気なのだろうか?
「やあ、君たちを助けに来たよ。私たちの国に来る?それともここにいる?」
「ここより良い暮らしをさせていただけるのですか?私たちに何をさせるつもりですか?」
まあ、普通は警戒するよね。
私たちは不審者だから。
「君が教えていたのかな?君を助けるかどうかは決めてないんだよ。子供たちは助けてあげるつもりだけどね。勿論今より生活は向上するよ。王族の為に魔法を鍛える必要も無い。さあ、君はどちら側の人間かな?」
そういう事ね。
回復魔法が使える子を集めて訓練させていたんだ。
王族を回復する為だけに。
国中の人を試験したのだと思う。
魔法の仕組みを知っていればもっと集まったと思うけど。
やはり世界が魔法の仕組みを知る必要は無いよ。
不幸な人が増えるだけだから。
「私は王族の専属医です。まあ、奴隷ですよ。回復魔法を使わなければ殺されるのですから」
「そうだろうね。君には選択肢をあげよう。600人程の子供を世話する孤児院で働くか、ここで働くか決めて。私たちは世界中の奴隷の子を助けているんだよ。世話する子供たちは元奴隷だよ。自由時間もあるし給料も出る。賑やかで楽しい職場なのは保障するよ。どうする?」
「お姉ちゃんも一緒に行こうよ」
「そうだよ。ここに残る必要は無いよ」
「ここは嫌だよ。一緒に行こうよ」
子供たちに懐かれているみたいだね。
優しい人なのは間違いない。
「私も行きます。この子たちを放ってはおけませんから」
「決まりだね。私はシャーロット。隣は娘のジェラルヴィーネ、愛称ヴィーネだよ。君の名前は?」
「私はアレクシアです」
「アレクシアはここを出る前に王族を皆殺しにしたい?私なら簡単にできるよ。どうする?」
何でそんな事を聞いたの?
今までは皆殺しにしているのに。
「いいえ、必要ありません。王族と貴族を皆殺しにしても何も変わりませんから」
「とても賢いね。まあ、この国は私たちの国に戦争を仕掛けてないから無視しようか。転移魔法」
孤児院に移動した。
「カーリン。子供と新しく世話する女性を連れてきたから出て来て」
「はーい。私は孤児院長のカーリンです。よろしくお願いしますね」
「アレクシアです。よろしくお願いします」
カーリンは魔力探知できるのかな?
出て来るのが早過ぎるよ。
ここまで早いと流石に驚くよ!
「この子に秘儀を教えるかどうかはカーリンの判断に任せるよ。まずは、皆をお風呂に入れてあげて」
「分かりました。さあ、中に行きましょう。ここは世界一幸せな国ですからね。驚くわよ」
「お風呂とは何でしょうか?とりあえず、みんな行くよー!」
「「はーい!」」
この子たちなら大丈夫だ。
明日から学校に通えるよ。
それに、孤児院の大人がまた増えた。
母さんは孤児院の負担を軽くしようとしているのかな?
子供を助けると同時にそんな事まで考えていたのかな?
助ける人を決める理由はこれだったの?
そんなの分からないよ…。
「ヴィーネ。帰ろうか」
「うん…。転移魔法」
社に移動した。
「母さんにとって最初から予定通りの結果なの?」
「そうだね。最近は世界を見ているから何をしているのか分かっていたから。彼女が来るのも予想通りだよ。子供たちを庇っている可能性が高いからね」
意味が分からないよ…。
感情把握と魔力探知で世界をどこまで把握しているの?
「回復魔法を教えているのは分かったとして、彼女が子供たちを庇っていると思った理由は何?」
「子供たちは怯えていたでしょ?理由は彼女がいつ呼び出されるのか分からないからなんだよ。夜になると彼女は子供たちと一緒に寝ているよ。こっそり食事を届けているのかもしれないね。だから、子供たちの感情を見ると喜んでいる事が多いんだよ。突然呼び出される事もあるけど、その時の子供たちの感情は不安でいっぱいだよ。帰ってきた彼女を皆で励ましたりもしていた。回復魔法は簡単に向上しないでしょ?王族から八つ当たりを受けているんだよ。だから、庇っているんだと判断した。子供たちに見込みなしと彼女が判断したら殺されるでしょ?彼女は子供たちが殺されないように頑張っていたんじゃないかな?あくまで予想だけどね」
おかしいよ。
どこまで予想しているの?
それに、感情把握が細か過ぎるよ。
全体を見ていたら分からないから、あの場所の把握を主にしていたと思うけど…。
回復魔法を使っている人がいるのが分かったから、王宮を感情把握していたのかな?
レナーテもそうだけど、王族は回復魔法の使い手を確保したがる。
しかし、酷い扱いをされてきている。
助けてくれる相手を暴行する意味が分からない。
そんな相手を回復しないといけないとかふざけているよ。
「母さんは孤児院の負担を軽くしようとしているの?」
「それもあるけど、なるべく卒業生が安心して孤児院を離れられる環境を用意してあげたいと思っているんだよ。このままでは大勢の卒業生が孤児院に就職する事を選択してしまう。そうなると、国の発展がかなり遅れてしまう。それに、多くの奴隷の子は助けられるかもしれないけど、孤児院の子は奴隷の子を助ける為に助けた訳じゃない。自由に楽しい人生を送って欲しいから助けたんだよ。最終的な判断は子供たちに任せるけど、なるべく本当に好きな仕事に就いて欲しいからね」
そうか…。
孤児院の子は奴隷の子が助けられない状況を見て見ぬ振りはできないんだ。
だから、母さんは少しずつでも新しい子を助けているのかもしれない。
子供たちを助ける事を中止にしていると思われないように…。
そして、その間に孤児院の体制を強化する。
上手く行けば卒業生を5年間も縛る必要が無くなる。
希望者だけで孤児院が運営できるようになる。
母さんの考えている事を予想するだけで疲れるよ。
感情把握と魔力探知を孤児院だけに戻そう。
ふぅー。
私は赤ちゃんだもんね!
「母さん、もう寝ようよ」
「話を聞きたいと思ったけど寝たいんだね。本当にもう…」
聞きたいけど疲れたよ…。
母さんの考えている事はゆっくり分かればいいよ。
素早く布団に入る。
母さんに抱きしめてもらうのを待つ時間も楽しい。
母さんに抱きしめられると本当に幸せだよ。
「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
私も成長したら母さんみたいに考えられるようになるのかな?
まずは、世界を魔力で覆っても情報量に押しつぶされないようにしないと駄目だね。
母さんは平気だって事だから。
世界を見ながら国も管理している。
土地神様は凄いよ!
分からない事ばかりだけど1つ分かった。
母さんの隣で色々と見ていれば私も成長できそうだよ。
お母さんは凄いんです!




