シャーロット 決意
やはり気に病んでいた…。
そして、想像以上に責任を感じている。
流れに任せて国長をさせるべきではなかった。
ヴィーネは生まれたばかりの赤ちゃんなのだから。
生まれた時から仕事をし続けている。
私は母親失格だよ…。
ヴィーネが楽しんでくれればいいと思ったけど、結果的には苦しめている。
子供を守る命令をしたのも私の感情に引っ張られた結果に過ぎない。
私が自立するまで20年近くかかっているのに。
私は何をしているのよ…。
ヴィーネが私とディーン姉ちゃんの感情に振り回されているのは分かっていた。
私が隣で見ていれば大丈夫だと安易に考えてしまった。
隣で見ていたのに追い詰めてしまった。
大馬鹿だよ!
ヴィーネは自分なりに答えを出そうと思ったに違いない。
そして、縛られ続けている事に気付いた。
今の状況が楽しい訳が無い。
人間と獣人を助けているのに、人間と獣人に縛られる。
王族や貴族は神に選ばれたと嘯く。
不愉快で仕方ないに違いない。
全て私の責任だね。
もっと子供扱いするべきだった。
赤ちゃんのように接するべきだった。
生まれたばかりの子を自由に行動させる親はいないよ。
子を守るのが母の役目…。
私はそれを身を持って知っているのに。
責任ある立場にして仕事までさせた。
子供に殺しを見せないようにしているのに、ヴィーネに殺しをさせる。
完全に矛盾しているよ…。
一番大切な子に一番残酷な事をさせ続けている。
犯罪者なんて入国する前に私が消せばいい。
ヴィーネの勢いを勘違いしてしまった。
その元となっている感情を理解するべきだった。
1つの綻びで瓦解した。
理由が無いと言わせてしまった。
国長を辞めさせたかったけど、やはり命令が尾を引いている。
ヴィーネを責める人はいないけど、ヴィーネ自身が許していない。
生まれたばかりのヴィーネには芯が無い。
あるはずが無いのに…。
最初は私の為に行動し、次は私の感情で行動した。
私がヴィーネを縛ってしまった。
私にできる事はヴィーネを甘やかす。
徹底的に甘やかす。
「ごめんね…。ヴィーネ」
寝ているヴィーネを強く抱きしめる。
「母さんの隣にちゃんといるのよ」
「うん…」
ヴィーネの頭を撫でながら今後の事を考える。
念話。
「マリアンネ、商人組合が忙しくなるから手伝ってあげて。今後の為にディアナにも人の見極めができるようになって欲しい。2人ともお願いね」
「「かしこまりました」」
今の状態ではできる事が限られる。
お母さん、血を止めるね。
【しっかりしなさい】
お母さんに叱られた気がする。
でも、分かっているから、ごめんなさい。
ヴィーネには私の隣で色々と見てもらう。
私のする事を一緒にする。
これからは親子の共同作業だよ。
「母さん、何で突然真祖になったの?」
「ヴィーネと一緒の髪色だからより親子に見えるでしょ?」
「そうだけど、それだけなの?」
「それだけだよ。他に何かあるの?」
「世界の事を考えていると思っていたよ」
「世界なんてヴィーネの次でいいよ。気にする必要は無いね」
「そっか。じゃあ眠るよ」
「それでいいの。私が守ってあげるから」
さて、世界を観察して助けに行く人を決めよう。
ヴィーネに色々と見せてあげたい。
・・・・。
翌日。
魔獣と戦っているけど傷ついている人がいるね。
あの人を助けに行ってあげよう。
「ヴィーネ。行こうか!」
「うん。私は母さんに付いて行くよ」
転移魔法。
南西の大陸の深い森の中に移動した。
大量の魔獣に囲まれている。
灰銀色の大きな狼が頑張って5匹の子狼を守って戦っている。
狼の灰色の目には諦めが感じられない。
自分の命が尽きまるまで魔獣を殺し続けるつもりだ。
お母さんだからね…。
子狼に群がる魔獣は不愉快だ!
「邪魔だ!闇魔法。高位回復魔法。さて、君は話せるのかな?」
「ああ、助かったよ。流石に今回は危なかった」
やはり子供を守りながら戦うのは大変だよね。
でも、お母さんは絶対に諦めないから凄いよ。
【あなたも頑張りなさい】
またお母さんに叱られた気がする。
本当に過保護なんだから…。
私も絶対に諦めないから!
「君は狼じゃないよね?種族は何になるのかな?」
「私はフェンリルだよ。まあ、狼みたいなものだね」
「母さんはこの人を助けにきたの?」
ヴィーネには私の行動を見てもらう。
何かの切っ掛けになってくれれば嬉しいね。
一番の目的は一緒に行動する事。
ヴィーネを私の側から離さない。
「そうだよ。子供を守る親は大変だから手伝いに来たんだよ。良かったら安全な場所を紹介しようか?子供も安全だよ。ただし、人を食べないのを約束してくれたらだけどね」
「ほう。面白い話だね。あなたが守っている場所なのかい?」
「母さんが500年以上も守っている場所だよ」
「それは心強いな。人を食べる趣味は無いが私たちは肉食だ。それは問題ないのかい?」
「国の人を食べなければ問題ないよ。知性があるし約束は守れるでしょ?」
「精霊や妖精や人間や獣人がいっぱい住んでいる国なんだよ」
「なるほど。それは凄いね。是非紹介してくれ。子供たちの安全が最優先だからね」
「母親はそうだよね!じゃあ、行こうか。転移魔法」
チャドの店の前に移動した。
とりあえず抜け毛が売れるか確認は必要だからね。
「チャド、フェンリルの抜け毛って売れるかな?」
「おいおい…、フェンリルだよ。マジかよ…。連れてきちゃったよ。抜け毛売ってくれるのか?」
「抜け毛ならいいよ。生え変わりの時期に溜まったら持ってくるよ」
「お金があれば美味しい食べ物も買えるから抜け毛は売ればいいね。流石チャドだよ。よろしくね」
「俺は限界だぜ…。素材に潰されそうな気分だ。エルダードワーフを困らせるのは流石だぜ」
「母さんは世界一だからね。当然だよ!」
ヴィーネが自然に甘えてくれているね。
私の隣で色々な世界を見せてあげたい。
ディーン姉ちゃんは私に世界を見て欲しいと望んでいた。
今になって気持ちが痛い程分かるなんておかしな話だね…。
「さて、フェンリルはどんな場所に住みたいの?」
「今まで森の中に住んでいただけだからね。希望はないけど、いい場所があるのかい?」
「妖精犬となら仲良くなれそうじゃない?」
犬と猫と鳥と狼ね…。
仲良くなれそうだね!
「そうだね。チャド、またねー。転移魔法」
念話。
「ベティーナとエラは外に出て来てほしい。ベティーナの家の前にいるから」
「「すぐに行きます」」
2人とも早いね。
早速フェンリルを見て驚いているよ。
もしかして凄い種族なのかな?
「この人はフェンリル。小さいのは子供だよ。これからここに住むから仲良くしてあげてね」
「フェンリルですか…。伝説の狼ではありませんでしたか?」
「私もそうであったと記憶しています」
「嬉しいね。私は伝説だったんだ。まあ、よろしく頼むよ」
伝説の鳥と伝説の狼に妖精たちだよ。
凄い場所だね!
「フェンリルに学校について教えてあげて。魔獣を食べるみたいだから強くなった方がいいでしょ?魔法も使えるようになるからね。せっかくだし、お風呂も教えてあげて。土地神りんごも一緒に食べていいからね」
「はい。分かりました」
「私が教えましょう。同族みたいなものですからね」
「強くなれるのかい。それは楽しみだね」
「かなり強くなれそうな気配がするね。まあ、魔獣なんて楽勝になるよ!」
ヴィーネの言う通りだね。
秘儀の初歩を覚えれば魔獣に苦戦する事はなくなるよ。
「学校に行く前に名前を決めておいてよ。フェンリルって種族名でしょ?子供たちも歩けるようになったら通わせてあげて。強くて元気な子の方が安心でしょ?」
「そうだね。名前を決めて通わせるよ。強い方が安心だからね」
世界樹から少しだけ奥に入った大きな家が作れそうな場所まで行こう。
森に大きく陽が差し込んでいるから最適だよ。
適当に魔獣も用意してあげないとね。
「ちょっと私について来て。この辺がいいね。木魔法。フェンリルはここに住んでよ。召喚魔法。闇魔法。今日のご飯は用意しておくよ」
「流石に驚くよ。本当に何でもありなんだね。戦い続けていたから空腹だったんだ。助かるよ。この大きさの家なら自由に出入りできるしありがたいね。子供たちも安心して眠れるよ」
「良かったね。ここは世界一幸せな国だからね。楽しんで生活してよ」
その通りだよ。
ヴィーネも幸せにしてあげないとね。
「これだけの種族が暮らしているんだ。納得だよ。楽しんで生活させてもらうよ」
「ベティーナとエラは色々と教えてあげてね。フェニックスとも仲良くできると思うからさ」
「分かりました。お任せ下さい!」
「凄い国になってきましたね」
「世界一の国だからね。凄いに決まっているよ。母さんがいるからね!」
「ヴィーネは褒め過ぎだよ。じゃあ、後はよろしくね。またねー。転移魔法」
社に移動した。
念話。
「今日はフェンリルが新しく国民になったよ。南の世界樹の近くに住む事になったよ。とても大きいけど優しい狼だから検問兵は通してあげてね。魔獣を食べに森に出るから。みんな仲良くしてね。またねー」
「私の隣にいてどうだった?これからも続けられそう?」
「うん。凄い気が楽だったよ。ずっと母さんを見ているね」
それなら良かったよ…。
やはり今までの負担が大きかったんだね。
「さあ、仕事をしたし寝よう!」
「うん。寝よう!」
布団を敷くとすぐにヴィーネが入るから私も隣に入る。
「じゃあ、おやすみー」
「うん、おやすみー」
これからは毎日ヴィーネを抱きしめよう。
今まではヴィーネが抱き付いてきていたからね。
「母さん、もしかして毎日続けるの?」
「ヴィーネが嫌になったら止めるよ。その時は言ってね」
「布団の中なら恥ずかしくないから嫌になる事はないと思うよ?」
「それならいいね。さあ、寝よう」
「あんなに傷ついても母親は子供を守り続けるんだね…」
「そうだよ。母親は子供が一番だからね」
「そうなんだ。じゃあ、寝るね…」
ヴィーネの頭を撫でてあげる。
「私の可愛い子は安心して眠りなさい」
「うん…」
ヴィーネが私から自然と離れるまで続けるよ。
お母さんに甘え続けた私と同じように、ヴィーネにも甘えさせてあげるから。
シャルも子供ですが、ヴィーネを全力で甘やかす決意をしました。




