ジェラルヴィーネ 商人組合の利用
この世界には不思議な事が多い。
一番不思議なのが母さんなんだけどね。
とりあえず、私は全力で国の発展と子供たちの事を考えよう。
できる事はたくさんあるのだから。
私は国長だから…。
転移魔法。
「やあ、突然の訪問でごめんね。商人の登録はどうかな?」
「いえ。いつでも来ていただいて構いません。商人の登録は順調でございます」
今までならそれで良かったかもしれない。
でも、子供の救出で考えが変わったよ。
基本的に国外の人は信用しない。
「それなら良かったよ。そろそろ要望が溜まっていると思ったんだけど違うかな?」
「その通りでございます。いくつかありますが、魔石を扱った商品の国外持ち出し厳禁は絶対なのでしょうか?」
魔石には可能性が詰まっているけど他国が知る必要は無い。
何も努力していないのに結果だけを欲しがるのは許さない。
それに、魔石を集めているのに世界に配るのはおかしな話だからね。
「エルヴィーラには軽く話しておくけど魔石の流出は世界の崩壊に繋がる。絶対に流出は避けなければならない。魔石の利用について実験されるのも避けたい。確実に子供が被害に遭うから。私と母さんが脅しているけど世界は成長していない。魔力の可能性を世界が知るには早過ぎる。持ち出したら厳罰だよ。登録していたとしても確実に殺すからね。この世界は崖の縁を歩いているようなものだよ。人間と獣人のお陰でギリギリだね。何も考えずに世界を崩壊させようとしていたのを止めているのは母さんだから。母さんの行動には全て意味がある。母さんは最悪を想定して動いているけど、それを上回る程の醜悪さが人間と獣人にはある。お陰で子供を助けに行けなくなったよ」
「世界の崩壊ですか。話の規模が大き過ぎて実感が湧きませんが、それを防ぐ為にしているのであれば持ち出しは厳禁ですね。しかし、この国は孤児院を基軸にしています。子供を助けに行けないのはまずいのではありませんか?」
子供を助けに行けないのも人間と獣人の醜悪さが原因だよ。
母さんが救出を禁止にするのは余程の事だから。
それ程に救出される子供の状態が酷い。
偶々訪れた国で奴隷の子供を助けている時は良かった。
不幸な子を探して救出に動いてしまうと孤児院が崩壊してしまう。
本当に最悪だよ…。
「私の気持ちとしてもまずいよ。でも、今の状況で子供を救出した場合、孤児院が確実に崩壊してしまうんだよ。これまでは奴隷の子を助けて学校に通わせるだけで良かった。食事の用意などは大変だけど、少人数の大人で何とかできた。今は救出に動くと学校に通わせられない子供ばかりだよ。戦争で奴隷を奪い合っているのは知っているよね?奪った奴隷を使って何をしていると思う?私が救出したのは人体実験で体を切断され腐って蛆が湧いていた子供。魔獣の餌にする為に育てられた子供。生贄にする為に産まされた子供。この子たちが学校に通うには時間が掛かる。流石に母さんの予想を超えたよ。次に救出に動いたらどんな状態の子がいるのか分からない。救出する為には孤児院の卒業生に命令し続けるしかなくなってしまう。それでは国が発展しないでしょ?だから、今年はこれ以上救出しないと母さんが決めた。卒業生の就職希望によっては来年以降に救出するかもしれないけどね。世界はこの国を見て発展させようと努力するのか戦争を仕掛けてくるのかは知らないけど、世界の発展に協力する気はないよ。他にどのような要望があるのかな?」
「そこまで腐っているのですか…。登録する商人たちはそのような国から来ているはずなのに何とも思っていないのですね。奴隷だから罪悪感も何も感じていないのでしょう。この国は奴隷が発展させていると商人に伝えて様子を見ましょうか?登録数は減りますが真っ当な商人だけになるでしょう」
世界中から商人が来て登録しているからね。
当然奴隷の扱いを知っている商人も登録されているはず。
今後の為には排除した方がいいね。
奴隷を同じ人だと思えない商人なら必要ない。
ただ残る人数は限りなく少ないと思う。
この国に来る商人はお金を持っていて世界を渡り歩いている。
何も知らないはずが無いから。
奴隷を人だと思っていない可能性が高い。
流石に笑えないよ。
階級ですら馬鹿らしいと思っていたのに、同じ種族だと認識しないのだから。
私には分からないよ。
どうしてそこまで残酷な事ができるのか。
何故笑えるのか…。
「そうだね。それで態度が変わるようなら排除だね。どんな要望があるのかな?」
「ほとんどがこの国の技術の流出に繋がるようなものばかりです。この国の商品は他国で真似できません。持ち込んだ商品を売る場所を用意して欲しいというものもありますが、確実な検品ができないので厳しいでしょう。ヴィーネ様の話を聞いた後ですと要望として挙げられるものはありません」
持ち込んだ商品に毒物があるかもしれない。
商人に悪意が無くても後ろには悪意のある王族や貴族がいるかもしれない。
この世界の状況で持ち込まれた商品を信用するのは難しいね。
私と母さんが毎回検品するのも馬鹿らしい。
珍しいお菓子屋やおもちゃがあるのなら買いたいけど。
外から持ち込まれた物を子供たちに触れさせたくない。
「商人組合を作る事によって世界一信用できる国にしようと思っていたけど考えが少し変わったよ。世界一信用できる国というのは変わらないけど、商人には宣伝役をしてもらいたい。賢く能力がある人の移住は受け入れるとね。勿論移住希望者の見極めは厳しく行う。この国を大きく発展させれば助けられる子供も増える。そして、更に発展する。他国は努力するのか現状維持か滅びるのか選択すればいいよ。そんな感じで商人組合を利用してよ」
「かしこまりました。そのように商人組合を運営していきます」
この国の努力を奪う真似は絶対にさせない。
同盟を申し出てきたとしても全て却下だね。
こちらに利益が何も無い。
この国だけ突出して発展させる。
世界を守っているのだから当然だよ。
「更に忙しくなると思うけどお願いね。またねー。転移魔法」
奴隷を人だと思わないのであれば必要ありませんね。




