ジェラルヴィーネ 奴隷の想い
母さんには何が見えているのかな?
ここまでの全てが予想通りの展開なのだと思う。
クリスタを呼び出したのは、カーリンだと有言実行しようと全力で世話してしまうから。
母さんに一度言った言葉を変更するなんて考えは絶対に無い。
クリスタは母さんになら孤児院の状況を伝えやすい。
子供を最優先にすると言った私には本音を言ってくれたのか分からない。
それに、母さんはクリスタの考えに協調しているから、より言いやすい。
クリスタの本音は人間と獣人を私たちが悩んでまで守る価値が無いという事だった。
本来は助ける必要が無いとまで言った。
母さんは5年間孤児院を満員にするという考えは無理だとはっきり言った。
妥協案を既に考えてあり、孤児院の卒業生の選択により救出回数を変えるつもりだ。
私が命令した時から分かっていたんだ。
絶対に破綻する計画だと。
それでも、私の経験になるから黙って見ていた。
しかし、私が孤児院を崩壊させようとしてしまったから怒った。
それは、国の崩壊にも繋がるから…。
孤児院の動き方も知っていたに決まっているよ。
これ以上助け続けると子供たちの時間を奪い続ける事になると。
この国で母さんに隠し事はできないから。
母さんの予想と違ったのは奴隷の子供たちの状態。
想像以上に酷い状態の子の救出が続いた。
これ以上の救出は無理だと判断した。
どのような状態の子がいるのか予想できないから。
母さんがクリスタに聞きたかった訳ではなく私に聞かせたかった。
孤児院で働いているクリスタの言葉を直接私に聞かせる為に呼び出したんだね。
全部母さんの掌の中だよ…。
そして、私は母さんに頼り続けている。
その理由は私にもよく分かっている。
だって赤ちゃんだもん。
悔しいけどね…。
母さんに反発して1人でできるとは言えない。
できない事が分からない程馬鹿ではないから。
母さんは今の生活を楽しんで欲しいと思っている。
だったら、私は全力で今の生活を楽しもうと思う。
この国は何もしなくても自然に発展する土台ができている。
簡単に世界を見る私にできる事は不幸な子を助ける事だけだと考えていた。
不幸な子を助ける事で孤児院に負担が掛かるとは考えていなかった。
本当に駄目な国長だよ…。
少しずつできる事を頑張っていこう。
まずは、気になる人を訪ねてみよう。
1人でずっといるのは寂しいよ…。
「母さん、寂しそうな人を助けに行くよ」
「それは元気にしてあげないとね。早速行ってみよう!」
母さんが隣にいるだけで安心できるよ。
母さんが許す限り甘え続けよう…。
「じゃあ、行くよー。転移魔法」
ここは北東の大陸の森の中。
隠れるように一軒の邸宅がある。
今でも誰かが隠れ住んでいそうな場所だけど魔力反応が1つしかない。
ずっと1人動いている魔力反応があったから気になって仕方なかった。
綺麗に片付いた邸宅だね…。
私たちが来たから部屋に隠れた。
隠れている部屋は分かるからその部屋まで迷わず進む。
綺麗に掃除された邸宅だよ…。
「この部屋の中に1人いる事は分かっているよ。隠れてないで出てきてくれないかな?」
「誰かのお家だね。綺麗に整えられているのに誰も住んでいる気配が無い。隠れている子が掃除しているのかな?君が掃除しているのでしょ?良かったらお話しようよ」
私たち2人が気付いていたから観念したのかな?
フワリと机の下から出てきてくれた。
見た目は綺麗な絹の服を着た金髪の女性。
でも、妖精だと思う。
感情の動きが無さ過ぎる。
「私はジェラルヴィーネ。隣は母のシャーロットだよ。君の名前を教えてくれないかな?」
「名前はありません。私はこの家の掃除をしています」
この子は妖精だよね…?
名前も無く掃除をし続けていたのは不思議だよ。
「ここには誰も住んでいないみたいだし、賑やかな場所に行かない?君は妖精でしょ?掃除が得意な妖精なら最高の職場があるんだよ。どうかな?この家から離れられない?」
早速孤児院に誘っているよ。
母さんはブレないね。
「私が何故ここにいるのかも、何故出られないのかも分からないのです。お話し相手がいた方が楽しいとは思いますけど、どうすれば良いのか分かりません」
妖精が何かに縛られる事なんてあるのだろうか?
ここで生まれた妖精なのかな?
「君は綺麗な絹の服を着ているから今日からシルキーと名乗るといいよ。君はシルキーね。縛られた感じが無くなったでしょ?」
「私はシルキーですか。シルキー…。あれ?ここにいる理由が分かりません」
何が起きたの?
母さんが名前を付けると何かあるの?
精霊も絶対に納得するし不思議だよ。
「はい。シルキーは孤児院で働く事に決まりました。ヴィーネ帰るよ」
「何が起きたか全く分からないよ。転移魔法」
孤児院に移動した。
母さんに任せよう。
「カーリン、孤児院の助っ人だよ。紹介するから出て来て」
「はーい…。綺麗な服を着た女性ですね。人間ですか?」
やはり疑われているよ。
雰囲気が人間のそれではないからね。
「この子はシルキー。なんと妖精だよ。掃除が得意な妖精なんだよ。凄いでしょ?」
「シルキーです。よろしくお願いします」
いやいや…。
どう考えてもおかしいよね?
孤児院に助っ人連れてきたと言って妖精紹介するとか無茶苦茶だよ。
自慢気に紹介しているけど普通は混乱するよ?
掃除が得意な妖精に何してもらうの?
掃除しかないね!
「シルキー、ここには200人以上の子供がいるけど大丈夫かな?君の掃除能力を超えないかな?」
「余裕です。お任せ下さい。私に掃除できない建物はありません!」
母さんは何で挑発しているのかな?
そして、シルキーは何でやる気出しているの?
普通の私とカーリンは置き去りだよ。
シルキーも異常者だね?
「カーリン、この子に秘儀と魔法を教えてあげて。妖精だから大丈夫だと思う。悪い子じゃないから心配しなくていいよ」
「かしこまりました。では、シルキー。中でお話しましょう」
「分かりました。カーリン、よろしくお願いします」
母さんの人選に間違いはない。
特に孤児院で働く人は厳しく見極める。
どこで判断したのかな?
「じゃあ、社に帰ろうか。ヴィーネは今日もいい仕事をしたね」
「何もしていないよ!説明してよね。転移魔法」
社に移動した。
「母さん、あの子は何に縛られていて何で連れてこれたの?妖精だと思っていたけど違うのかな?」
「ヴィーネ。妖精は何で生まれて何で自我を持つのか忘れちゃったの?」
「それは覚えているけど、あの子は何で生まれたの?」
「あの子は奴隷の子の憧れの姿だと思う。妖精のユッタの気持ち1つで妖精は増えるでしょ?人間の奴隷の気持ちでも妖精は生まれる可能性はあると思う。綺麗な服はあの邸宅のお嬢様が着ていた服だよ。奴隷の子はあの服に憧れを持ったまま死んでしまった。でも、奴隷だから妖精になっても命令されていた掃除以外の事を知らない。だから、掃除をし続けていたのだと思う。自分の憧れの姿になって自我も忘れたけど、命令だけは忘れられなかった悲しい妖精。名前を付けてあげた事で自我を持った。これからは自由に動けるようになるよ」
人間の強い想いが妖精を生んだと言う事なの?
生命の誕生を全て知る訳ではないからあり得ないとは言えない。
母さんの話を聞くと、それが正しいと感じてしまう。
私が母さんの子供だからなのかな?
「それだと邸宅の人が何かしないかな?あの子だけいたのは変じゃない?」
「あの子の姿は誰にも見えないと思う。誰とも繋がりのない妖精だから。ドリュアスも見える人と見えない人がいたでしょ?普通は精霊や妖精は見えないんだよ。ユッタの娘たちが人間に捕まったのはユッタ自身に自我があった事とユッタとの繋がりが明確にあったから。精霊は精霊女王が繋がりを切っているから見えない。私たちは当たり前に見えるし、この国は結界で覆っているから誰でも見えるんだよ。あの家の人は不審者が隠れていると思って怖くて逃げ出したかもしれないし、没落しただけかもしれない。あの子を見るには魔力が見える状態でないと駄目なんだよ。私たちの当たり前は普通じゃないんだよ?それを忘れたら駄目だからね」
念話。
「やあ、国長のヴィーネだよ。全国民に話し掛けているよ。今日から孤児院に新しい仲間が入ったよ。妖精のシルキー。皆よろしくね」
そうだったね。
当り前に精霊や妖精がいるから勘違いしていたよ。
普通は見えない存在だったね…。
私たちの結界で覆っているからこの国では誰でも見える。
ユッタはハイエルフに名付けられた。
娘たちとの繋がりも明確にあり何人囚われているのかまで把握していた。
奴隷の女の子は毎日掃除させられていた。
でも、何かが原因で死んでしまった。
その時に強く想ったのだと思う。
私も綺麗な服を着て楽しく生活したいと。
生きている時に助けてあげられなくてごめんね…。
でも、君の想いはこの国で楽しく生き続ける事になったよ。
楽しい毎日を送って欲しいですね。




