ジェラルヴィーネ 迷いと説教
何をしているか予想はついていた。
しかし、予想していたよりも現実は酷い状況だった。
私の考えが甘かったのかな?
助けに行く順番を間違えたのかな?
分からないよ…。
魔力と感情だけで大人か子供か区別がつかない。
魔獣に恐怖するのは当然の感情だし、奴隷が負けるのは分かっていた。
奴隷を魔獣と戦わせて娯楽として楽しんでいる国。
私はそのように予想した…。
2つの国が奴隷を使い戦争していると分かった。
国に残っている誰一人として、戦争を恐れても悲しんでもいなかった。
その為、戦っているのは奴隷だけだと判断した。
奴隷を奪い合う為の戦争というよりも奴隷を使った駒遊びに近いものだと考えた。
お互いの国で勝利条件を決めておき、勝った国は奴隷を奪う事ができる。
私の予想はほとんど当たっていたと思う。
1つの大きな誤算を除いて…。
絶対に勝てない子供に剣を持たせて魔獣と戦わせる。
そして、それを見て喜ぶ衆人。
同族の子が魔獣に食べられるのを見て何が楽しいの?
震えている子を見て何故笑えるの?
分からないよ…。
観客を魔獣のいる地面に下ろしただけで恐怖した。
魔獣に負けるから笑っていたのではないの?
魔獣に勝てないのは情けないと思っていたよね?
子供が捨てた剣を拾って魔獣と戦えば良かったはずだよ。
でも、誰一人として戦う意思は無かった。
観客は逃げる事だけを必死に考え助けて欲しいと懇願していた。
自分の非運を嘆き悲しんでいた。
ふざけるな!
母さんが孤児院に呼ばれた。
想像以上に酷い扱いを受けていたに違いない。
カーリンが母さんを頼ったのは初めて。
それ程の子供たちだった…。
たくさんの不幸な子を助けてあげるつもりだった。
もっと助けてあげられる命はあった。
私は間違えた…。
「ただいまー。ヴィーネは何も間違った事をしていないよ。助けに行く順番も間違えていない。本来は助からなかった命。これからも子供を助けるのであれば気にしたら駄目だよ」
「おかえりー。私は誰を助けたらいいの?悲しんで苦しんで痛い思いをしている人ばかりだよ。誰から助けてあげればいいの?分からないよ…」
間違えていないの?
私が順番を間違えなければ多くの命が救えたよ。
どうしたらいいのかな?
「ヴィーネ、不幸な人に順番はないよ。多くの人は自分が一番不幸だと思っている。一番不幸な人を探そうとしないで。ヴィーネが助けに行きたいと思った場所に行くだけでいい。辛いならいつでも止めていい。世界中の人々はヴィーネが子供を助けていると知ったら、ヴィーネを恨む人が増える。何故自分を助けてくれないの、とね。だから国を前面に出すんだよ。子供を助けている国がある。子供を不幸にしたら殺されるとね」
「この国を感謝するのは助けられた人だけ。他の人は恨む…。世界中から恨まれるよ?いいの?」
私のしている行為は恨まれるの?
世界一信用される国にしようとしているのにいいのかな?
でも、何も問題は無いよね…。
子供を不幸にしている国に信用される必要は無いから。
「恨むのであれば無視すればいい。攻めて来るなら滅ぼせばいい。私たちはいつでも誰でも殺せるし助けられる。それに縛られないで。精霊と一緒だよ?自分の力に縛られている。強大な力だからより強く縛られる。ヴィーネが世界を見る必要は無いんだよ?別に見なくてもいいんだよ?」
「でも、子供を助けるには見ないと駄目だよ。これからも不幸な子は助けてあげたいよ」
私は何に縛られているの?
世界を見ないと誰も助けられないよ。
不幸な人が世界中にたくさんいるのが分かる。
それなのに、私は何もしなくていいの?
「それなら、ヴィーネが助けたいと思った子を助ければいいだけだよ。他の子の方が不幸だったとかは考えない。ヴィーネは酷い環境の子を助けてあげようとしている。それで十分だよ。子供を最優先にする国でしょ?ヴィーネの気持ちが最優先だよ」
「私は多くの子を助けたかった。でも、間違えたんだよ。私の予想した状況じゃなかった」
少なくとも3回は確認している。
今回と合わせれば120人以上は助けられたはず。
90人以上の子が魔獣に食べられたんだよ?
私は知っていたんだよ?
痛みに苦しんでいる人は後からでも助けられた。
私は助ける順番を間違えたんだよ…。
「ヴィーネは間違えていないよ。子供を30人も助けられた。助けに行かなければ死んでいた子だよ。滅ぼさなければ更に子供が殺されていた。未来の子供の命を救ったんだよ。それに、私たちは連れてきているだけ。助けてくれているのはカーリンたちだよ?無理をさせたら駄目。多くの子を助けたいなら大国に行けばいいだけだよ?ヴィーネは不幸な子を多く助けたいのでしょ?何度も言うけど不幸な子に順番はない。何も間違えていない。ヴィーネはゴロゴロしたいのでしょ?違ったかな?」
「ゴロゴロしたいけど見て見ぬ振りはできないよ。どうすればいいの?」
母さんなら何か方法を見付けてくれるはず…。
私には思い付かない方法で助けてくれるはずだよ。
「ヴィーネは命令した。奴隷の大人を助けて命令すればいいよ。子供を世話しろとね。駄目なの?」
「あれは緊急措置でもうしないよ。命令して従わせたら奴隷と変わらないから。それに、孤児院の卒業生なら安心して子供を任せられるから」
どうして母さんがそんな事を言うの?
1回の命令がそんなに駄目だったの?
「ヴィーネは知っているはずだよ?人を助けるのは簡単じゃない。お母さんは私を助ける為に何十人も殺した。吸血鬼を守るお母さんと吸血鬼を殺そうとする冒険者や村人。どっちが正義かな?どっちが人を助けようとしていたのかな?ヴィーネは分かる?」
「そんなのは卑怯だよ。地上世界は魔人を悪だと考えているのだから。でも、お婆ちゃんが母さんを助けなければもっと多くの人が死んだよ」
当時お婆ちゃんを恨んでいた人は多いのかもしれない。
でも、結果的には多くの人の命を救っている。
母さんがいなければ世界はどうなっていたのか分からないよ。
「それなら、誰を助ければいいのか分からないよね?ヴィーネが間違っているのかどうかなんて分からないよ。いつ分かるのかな?この国に連れてこなくても子供は救われているのかもしれないよ?ヴィーネは世界の管理者じゃないよ?仕事のし過ぎだよ。もっと楽をしようよ」
「世界の管理をしているつもりはないよ。それに、忙しいとは思っていないから。不幸な人が分かってしまうから助けてあげたいだけ」
何もしていなくても不幸な人がどこにいるのか分かってしまう。
これが、力に縛られているという事なの?
「じゃあ、ヴィーネが助けたいと思った人を助ければいいんだよ。孤児院に負担を掛けないようにしてね。それに、これから子供をたくさん助けられる国を作ればいいんだよ。ヴィーネの好きな国にすればいいよ」
「どんな国ならたくさんの子供を助けられるか分からないよ。奴隷も眷属も使わずに子供をたくさん助ける事なんてできないよ!」
どうして…。
奴隷と眷属という言葉が駄目だったの?
どうして本気で怒っているの?
何が駄目だったの?
「母さん何をするつもりなの?」
「ヴィーネを苦しめる人は邪魔だから消すよ。私が守りたいのはヴィーネだから」
私の為に世界を滅ぼすの?
不幸な人を殺すの?
「私は苦しんでないよ。多くの不幸な子を助けたいだけだよ」
「苦しんでいるよ。多くの子供を助けないといけないと思っている。必要ないよ。繊細な力の使い方を教えたよね?世界の人の感情なんて見なければいいだけだよ。どうするの?見続ける?全てを消す?」
苦しんでいないよ!
多くの不幸な子を助けたいと思う事が駄目だったの?
世界を見なければ不幸な人がどこにいるのか分からなくなるよ。
「どうして追い詰めるの?この国の為に世界を滅ぼそうとしていた私の考えを止めたのは母さんだよ?」
「この国の為に世界を滅ぼしても、後で国民も殺す事になると分かっていたからね。私はヴィーネの為に滅ぼすんだよ。ヴィーネが私を裏切っても別にいいと思っている。違うでしょ?」
「何でよ!何でそんな事しようとするの?不幸な子を助ける事が駄目なの?」
「中途半端だからだよ。国長を辞めて奴隷を使ってでも世界中の子供を救う国を作ればいいじゃない。ヴィーネは国民を見ていない。見えない人を助ける事ばかり考えている。この国で子供を世話している人の事を考えていない。奴隷に任せても一緒だよ。何が違うの?」
中途半端なの?
私のしている事はどこが中途半端なの?
子供を世話している人の事は分かっているよ。
奴隷とは全然違うよ!
「子供の事を考えて世話してくれているよ。奴隷に命令してもそこまではしないよ」
「じゃあ、眷属に命令して世話させればいい。子供の事を考えて世話しろってね。駄目なの?」
何でそこまで追い詰めるの?
何でそんなに怒っているの?
「子供たちの事を細やかに見てくれないよ。カーリンたちのように世話しないよ」
「じゃあ、何でカーリンたちが世話できない人数を助けようとしているの?誰が世話するの?」
カーリンが世話できる人数を教えてくれたのは母さんだよ?
あと70人は助けられるじゃない!
「カーリンは100人大丈夫だと言っていたじゃない!」
「ヴィーネ。孤児院はカーリンがいなければ成り立たない。カーリンに感謝している?カーリンの事を考えている?カーリンが私に言った言葉を撤回できると思う?」
そんな事は分かっているよ。
カーリンが母さんに言った言葉を撤回できる訳が無い。
「私はカーリンを認めているよ。助けてくれていると思っているよ。信用しているじゃない」
「カーリンを見ていないよ。カーリンに何かあったら孤児院は崩壊する。今回助けた子供たちが100人だった場合、カーリンが潰れていた。私たちに言った言葉を撤回しないカーリンは全力で世話する。そして、過労で倒れてしまう。私はその前に助けてきた子供を殺す。私が呼ばれたという事はカーリンでも想定外の子だった。それ程に酷い。そんな酷い子供たちをカーリンだけに背負わせるの?私たちは連れてきただけで、後は任せている。ヴィーネは助けた順番を後悔して、次に助けに行く子供を探している。カーリンを不幸にしたいの?」
カーリンが酷いと思ったから余計に助けたくなったんだよ。
限界だと思うのなら言えばいいじゃない!
それは、撤回した事にはならないよ。
「そんなつもりは無いよ。カーリンが厳しいと思ったら言えばいいじゃない。カーリンの言葉なら私は納得するよ」
「そんな事を言っているからカーリンを見ていないと言っているの。カーリンが私たちに言えるはずがない。助けられる子供の人数を減らしてなんて言えない。ヴィーネが子供を最優先にする国と言ったから尚更言えない。私たちがそれを察してあげないといけないのよ。孤児院の大人たちが自然に働けるようにしてあげないといけない。ヴィーネは全く見ていない。助けたら終わりじゃないよ?今回助けた子は孤児院で10年世話しないといけない。それを分かっているの?国に連れてきたら助けたと思っている。完全に人任せだよ。国長ジェラルヴィーネ、何をしているの!あなたの仕事は国長。世界中の子供を救うのは仕事じゃない。国長として言いなさい。今の孤児院はあと何人の子供を助ける事ができるの?間違えたら世界を滅ぼす!」
母さんが本気で怒っている。
やはり私が何か間違えているの?
国長としての仕事は国を守る事だよ。
そんな事は分かっている。
孤児院に余裕があるから不幸な子を連れてきているんだよ。
あと何人子供を連れてこれるのかな?
でも、間違えたら世界を滅ぼすの?
母さんは本気だ…。
不幸な子を助けたいと思っただけで何でこんなに怒られるの?
どうしてなのか分からないよ…。
何人の子供を助ける事ができるのかな?
カーリンが倒れたら孤児院が崩壊するのは間違いない。
母さんに頼ったという事は、かなり酷い状態の子供たちだった。
30人連れてきたから70人?
30人で母さんを頼っているのに70人連れてきたら倒れる。
全然分からないよ…。
カーリンが倒れずに何人の子供を世話できるのか分からない。
私は大きな枠で人を見ていると反省したばかり。
それなのに、カーリンを見ていないんだね。
たくさん助けたいと言っているのにカーリンを見ていない。
孤児院がカーリン頼りなのは分かっているのに…。
だから、奴隷や眷属を使えと言われたんだ。
私が動くとカーリンが倒れるから。
連れてきた子を殺したくないから。
私は不幸な子を連れてきているだけ…。
助けているのは孤児院の大人たちだよ。
孤児院を見ていない私には分からないね。
私のせいで世界は滅ぼされるのかな…?
「分からないよ。何人助けられるのか私には分からない」
「正解よ。私にもあなたにも分からない。ヴィーネは初めてカーリンの事を考えた。私に頼ったカーリンがあと何人助けられるのか分からない。聞けば確実に70人と言うよ。でも、絶対に無理だと思った。それが正しい答えだよ。不幸な子を助けたいと思うのなら待ちなさい。最低でも今回の子供たちが学校に通うまでは動いてはいけない。ヴィーネが守らなければいけないのはこの国の子供たち。世界の子供たちは次でいい。どうすれば多くの不幸な子を助けられるのか考えてみなさい。カーリンだけに頼らずにね。そして、答えが出るまでは世界を見るのを止めなさい。分かったわね?」
「はい。分かったよ、母さん」
母さんが真祖から戻った。
生まれて初めて世界の感情把握を止めた。
母さんより少しだけ広い範囲で国に来る犯罪者を止められる程度にした。
そうだったんだ…。
孤児院はこんなにも大変な状況なんだ。
大人たちが集まって対策を考えている。
目の前の出来事に今気付いた…。
この状況で更に不幸な子を連れてきたらどうなるのか。
カーリンが過労で倒れて孤児院は崩壊するね…。
母さんが強い口調で言った国長ジェラルヴィーネ。
本当に何をしているの!
私は国長だよ。
犯罪者だけしか把握していなかった。
裏で母さんが動いていたのを知っていたのに、それでいいと思っていた。
今でも国をまとめているのは母さんだね。
私の甘い対応の尻拭いばかりしているよ。
何だか疲れた…。
「母さん、もう疲れたから寝たいよ」
「分かったよ。じゃあ、寝よう」
母さんはいつものように布団を敷いてくれた。
私はいつものように布団に入る。
母さんもいつものように隣に入ってくれた。
「じゃあ、おやすみー」
「うん…。おやすみー」
今日は抱き付いていいのかな?
もう怒っていないのかな?
どうしよう。
分からないよ…。
えっ!
布団の中で母さんに抱きしめられた。
こんな事は生まれて初めて…。
凄く気持ちよく眠れそう。
私は何を悩んでいたのかな?
何も浮かばない暗闇の中、母さんの温もりと優しい匂いに包まれて眠った。
世界最強でも国長でもなく、1人の娘として母親と眠りました。




