閑話 レナーテ 土地神リンゴ飴
クリスタが処刑人として去った後、マリアンネさんに土地神リンゴ飴の作り方を習いました。
難しくはないのですが問題は数ですね。
普通の土地神リンゴ飴は2000本。
妖精用は1200本。
流石におかしいですよね…。
妖精用の数にだけ違和感があり過ぎます。
「マリアンネさん。妖精は1人最低でも4本は食べるのですか?」
「ああ、食べる。しかも、足りなくて普通の大きさも食べていた。妖精用を作った意味が分からなくなったぞ。だが、フーゴが用意したものを今回用意できないなんて許されるか?フーゴより手抜きする事なんて孤児院として許せるのか?作るしかないだろ!」
妖精用を4本食べたら普通の1本と一緒ではありませんか。
食べやすくする為に小さくしているのですよ?
以前用意されていた数を今回用意できないのはあり得ません。
孤児院として絶対に許してはいけません!
「許されません!フーゴが用意できたものを孤児院が用意できないなんて事はあってはいけないのです」
「ええ。必ず用意します!全力で用意すれば半日で終わるでしょう。孤児院の本気を見せますよ。いいですね?」
「「はい!」」
ビアンカの呼び掛けに卒業生たちが答えます。
これだけ気合が入っていれば大丈夫でしょう。
絶対に用意します!
何故ならそれが孤児院ですから。
「販売は税理官室の人がして下さいね。屋台には立てませんから」
「ああ、それは分かっている。クルトとベンノには声を掛けてあるから問題ない」
流石マリアンネさんですね。
後は作るだけではありませんか。
「土地神りんごと砂糖と串の支払いはお肉の補充で賄えますか?税理官室に借りれますか?」
「代金は税理官室で用意して購入まで済ませる。運搬だけは手伝ってもらうが後は大丈夫だ」
完璧ですね。
できたも同然です!
マリアンネさんが帰られた後にヴィーネ様から念話が届いたのです。
国防軍と警備隊を急遽解散したと。
何という不届き者たちでしょうか!
クリスタの予想通りです。
そして、クリスタが戻ってきました。
孤児院の代表として仕事をしたのか確認する必要があります。
「処刑しましたよね?大罪人を生かしてはいませんよね?」
「ヴィーネ様に防がれたよ。罪の大きい3人は飛ばされちゃった。また手の届かない場所だよ」
「それなら仕方ありません。ヴィーネ様の御判断ですから」
「本当に駄目な人ばかりね。何度裏切れば気が済むのかしら?不愉快だわ!」
「組織される度に記憶を消す事になってしまっていますね。歴史の勉強をしていても駄目なのですね。しかも、秘儀を使っていて秘密があると考える理由がよく分かりません。どのような秘密があれば簡単に強くなれるのでしょうか?シャーロット様が秘密は無いと言ったにも関わらず疑っているのですからおかしいですよ」
あれ?
クリスティーネが静かに怒っていますね。
普段は無関心なのですがどうしたのでしょう?
「クリスティーネは心境の変化でもありましたか?選別で飛ばされる人に関しては無関心だったのにどうしたのです?」
「強くなる事は簡単ではないと分かったのです!それなのに、簡単に強くなろうとする人が許せないだけです。秘儀も体の中で魔力を動かす技術なのです。秘密で魔力が速く動かせるようになったり、早く溜められるようになる訳がありません。誰でも分かる事ではありませんか!シャーロット様の言葉まで疑い、子供たちや私たちの努力を疑い馬鹿にしたのです。記憶を消されて当然ですよ!」
「魔獣見学でよく分かったみたいだね。殺せなかったのは残念だけど、今は土地神リンゴ飴を作るのが最優先だよ。どうでもいい人の事は忘れて、そっちを頑張らないとね」
「その通りですよ。孤児院としては許せませんが、今回は他に優先事項があります。国内にいないのであれば無視するしかありません。いずれ天罰が落ちるでしょう」
土地神リンゴ飴は前日から準備する事になりました。
早く準備してしまうと子供たちの食事の用意ができなくなってしまうのです。
前々日の夜に材料の運搬だけを済ませました。
籠に入った土地神りんごを見ると眩暈がしそうです。
指揮は孤児院長のカーリンがする事になっています。
旧孤児院の大人は教師も兼任している人が多いですから。
授業と子供たちの午後の食事が終わり、子供たちを寝かしつけた夜に作業開始です。
「土地神りんごを洗い妖精用に切り分ける作業は卒業生の皆にしてもらったわ。さあ、ここからは私たちが全力を出す番よ。身体強化を使って作業を行います。いいですね?」
「3200本作るだけだよ。何も問題ないね。やろうか!」
「そうだね。何も問題が無いよ。朝まで時間は十分にあるから余裕だね。始めよう」
「全力ですね。私も頑張ります!」
「そうですね。孤児院として大切な仕事ですから全力で行いましょう」
そこから怒涛の土地神リンゴ飴作りが始まりました。
物凄い早さで出来上がっていきます。
身体強化と土地神りんごを食べる事により疲労はそれほど感じません。
予定通り土地神リンゴ飴作りは終わりました。
孤児院は優秀なのです。
お2人の為になるのであれば全力です!
お祭りの日に朝ご飯はありません。
お昼前からお腹いっぱい食べるのが恒例だからです。
マリアンネさんがお2人にお祭りの報告を行く前に顔を出しました。
「問題は無さそうだな。屋台への運搬を頼む」
「はい。何も問題はありません。孤児院ですから!」
カーリンが代表で答えました。
孤児院とはお2人と子供たちの為にある施設なのです。
カーリンとカミラを新旧孤児院にそれぞれ残し、皆で運搬します。
大切な物ですから丁寧に運びます。
屋台への運搬が終わったところで私たちの作業は終了です。
お2人がいつものように食べて下されば良いのです…。
そして、お祭り恒例の回復魔法の魔方陣が空に展開されました。
これこそが神の御業なのです!
拝まずにはいられません…。
いつも通りにお祭りが進みます。
そして、子供たちにお小遣いをあげた後にシャーロット様が屋台に向かわれました。
土地神リンゴ飴を買って転移をされてしまいました。
組手をしている4人に渡すつもりなのでしょう。
こればかりは仕方がありませんね…。
しかし、シャーロット様が噴水前に戻られた時、土地神リンゴ飴を口にしてはいませんでした。
ヴィーネ様といつもの噴水の縁に座ると笑顔で食べ始めました。
この光景が見たかったのです…。
シャーロット様のお気持ちなのかもしれません。
私の心は満たされました。
全力で土地神リンゴ飴を作った甲斐がありました!
孤児院で働いている大人だけではなく、国民が笑顔でその姿を目にしました。
お祭りにはシャーロット様が笑顔でリンゴ飴を食べている姿が必要なのです。
シャーロット様は全てを知っていて、しかし何も言えないのです。
私たちもシャーロット様の為に作ったとは言えません…。
しかし、最高のお祭りです!
そして、夜の大人の時間になりました。
シャーロット様が分身したのは驚きましたが、神ですから何でもできるのでしょう。
いつもの場所に土地神リンゴ飴と土地神りんご酒を購入して座ります。
土地神りんご酒もダニエルではなく学校の卒業生が造っているので問題はありません。
「最高のお祭りだわ。問題ばかり起きましたが綺麗に片付きました。国防軍と警備隊は必要ありません。これこそが神国シャーロットなのです」
「あそこまで酷いとは思わなかったからね。子供たちが卒業する前に国を守る組織を形だけでも用意したかったのだと思うけど、あれは駄目だね。ヴィーネ様は優し過ぎるよ。裏切る馬鹿が悪いけどさ…。アリスターはこの国の記憶を全て消されて飛ばされたけど、アンゼルムとハーラルトは秘儀の記憶だけを消されて飛ばされたよ。天国から地獄に落とされたのを痛感しているだろうね。あの獣人2人はどれほど問題を持ち込んで、何回説教されているんだか…。最低だよ」
「そうなんだ。この国の記憶が残っているなら辛いだろうね。まあ、自業自得さ。忘れた方がいいよ。覚えている事で得する事は何も無いからね」
「何故当たり前の事ができない人ばかりなのでしょうか?私には分かりません。シャーロット様を疑い人の努力を侮辱する気持ちが分からないのです」
「自信過剰か自己満足のどちらかでしょう。子供たちより弱い事を自覚していながら、それを正そうともしない。子供たちより弱いのに、守りたいとか守るとか笑わせますよ。その言葉を口にするのであれば、それ相応の努力をするべきです。それをしなかったのですから国防軍と警備隊には何の資格もありません。国民にプレートを下げている姿を見せて自慢していただけですね。忘れましょう!」
「今日は最高の日です。シャーロット様が土地神リンゴ飴を笑顔で食べていたのです。それだけで私は満足です。他はどうでも良いのです。今日の土地神リンゴ飴は格別に美味しいですね。こんなにも気持ちの良いお祭りはありませんよ。土地神りんご酒も美味しいですね」
最高です!
全てが格別ですよ。
「ちょっと待った!今日こそは残しなさい。毎回倒れるのは恒例じゃないからね。おかしな事をしている自覚を持ってよ」
「そうですね。そろそろ加減を覚えてもいい頃です。大人なのですから倒れるまでの飲むのは恥ずかしい事ですよ?女性が外で倒れるまで飲んで無事でいられるのはこの国だけです。レナーテは分かっているでしょ?」
「恒例だよ、恒例。お祭りだから楽しまなきゃ損だよ。好きなように楽しめばいいんだよ」
「毎回運んでいるのは私とクリスタです。チェルシーが代わりに運びなさい」
「本当に素晴らしい国ですね。間違いなく世界一でしょう。この国を知ってしまったら他国には住めませんよ」
「倒れているのではありません。余りの幸福の為に立っていられないのです。皆は勘違いしているようですね。神の御加護を感じていないのですか?まだまだですね!」
この仲間たちだからこそ安心して飲めるのです。
何も心配する必要が無いのです!
そして、私は一気飲みします。
「あー、また一気飲みして…。何で毎回私とビアンカなの?偶には代わってよね」
「クリスタは一番仕事をしていないでしょ?レナーテを運ぶのも仕事です。組手を楽しんでいるのは分かっているのよ?仕事を一番していないのだから仕事をするのは当然です」
「運ぶのも恒例だよ。クリスタとビアンカが運ぶのが恒例なんだよ。シャーロット様もそうだと思っているよ」
「本当にもう…。運ぶのは別に苦ではありませんが、淑女として自覚を持ちなさい」
「毎回クリスタとビアンカが運んでいるのですか?恒例ですね!」
私はクリスタとビアンカに運ばれて孤児院に帰りました。
孤児院で待っていて下さったシャーロット様が去り際にお礼を言われたのです…。
「シャーロット様からお礼を言われるなんて…。皆は分かっていると思いますが、この事はここだけの秘密です」
「レナーテは勿体ない事をしたね。毎回倒れる罰だよ。まあ、幸せそうだし問題ないね」
「そうですね。幸せそうにしているのですから、これでいいのですよ」
「いつもの恒例とは違ったね。レナーテは惜しい事をしちゃったよ。残念だね」
「今夜は気持ちよく眠れそうです!」
今回ばかりは自分の足では立てませんが意識は残っています。
シャーロット様からお礼を聞く事ができるとは思っておりませんでした。
私たちはシャーロット様の為に用意しましたが、それを口にする事はできません。
シャーロット様も分かっているとは思いますが、それについては何も言われないと思っておりました。
全てを分かった上でお礼を言って下さったのです。
胸の内に秘めておかなければならないでしょう。
最高に幸せな秘密です!
何も言わないつもりでしたが、思わず言ってしまったシャルでした。




