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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第4章 神国シャーロット

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閑話 クリスタ 魔獣見学

「クリスタは今日の授業休みだよね?魔獣見学をもう一度やってよ。餌が商人組合に入ったから、プレートを首から下げていたら商人組合も説教しておいて。餌の目的はハーピィの誘拐だよ。警備隊の2人を連れて行ってね。任せたよ」

「はーい。分かりました」


魔獣見学のせいで仕事が増えたじゃない。

完全に自業自得だよ…。


もー、私のバカー。

まだまだ見通しが甘過ぎるよ!


効果的だとヴィーネ様が認めたら私の仕事となるに決まっているじゃない。

だって、私が思い付いて実行してしまったのだから。


ですが、今回は我慢しましょう!

一月の間は毎週土地神りんご酒を貰えるからね。


孤児院を出ようとした時にふと背中に視線を感じた…。

「何か用?」

「偶には外出しようと思ってね。どこに行くの?」


「魔獣見学よ。その前に犯罪者の始末をする必要があるけどね。一緒に行く?」

「面白そうね。いい気分転換になりそうだわ!」


はぁ…。


カーリンまで急遽参加だよ。

どうなっても知らないからね…。


「とりあえず、フーゴさん呼んできて。私はダニエルさん呼んでくるから。噴水前に集合ね。早くしないと犯罪者が来ちゃうから」

「分かったわ!」


孤児院から出て真っ直ぐ酒屋に向かう。

「ダニエルさん、残念なお知らせだよ!仕事が入ったから付き合って。犯罪者の対処と魔獣見学だよ」

「マジですか…。経験が足りないと思っていましたのでいいのですが、今の俺では犯罪者に対処できるとは思えません」


ふーん…。

意外と真面目なんだね。

1回で自信を持つのかと思ったけど足りないと感じたんだ。


真面目な人なら仕事をしてもいいね。

少しやる気が出てきたよ!


「犯罪者を見てから判断して下さい。私とカーリンがいるので何とでもなりますから」

「分かりました。犯罪者を見ていけそうだと思ったら対処します」


ダニエルさんと一緒に噴水前に行く。

フーゴさんとカーリンも一緒にいるね。


はぁ…。


私たちも見学されているよ。

隠れているし気にしないでおこう。


「さてと、真っ直ぐ歩いて行けば犯罪者とぶつかるよ。商人証明プレートを首から下げていたら商人組合も説教だって。アグネスとエトヴィンが楽をして犯罪者を通しているかもしれないからね。後で回収すればいいとでも考えていたら地獄の説教だよ」

「それは駄目ね。説教しましょう。あなたが説教すると泣いちゃうから私がするわ」


カーリンの説教は甘過ぎるでしょ?

説教された無所属の子がカーリン軍の一員になるもん!


でも、任せようかな…。

2人ともカーリン軍だからね。


「来たよー。犯罪者は4人。狙いはハーピィの誘拐。真ん中の馬鹿が偉そうに首からプレートを下げているから説教決定!」

「ハーピィの子供を誘拐するような相手を登録するようでは駄目ね。説教が必要だわ」


商人と護衛かな?

冒険者組合は消されたのにプレートを付けている意味は何かな?


元Aクラスの冒険者だと宣伝しているのかな?

普通は消された組織のものは怖くて付けられないよ。


馬鹿決定です!


「はーい。あんた達はここから先は通れません。犯罪者はここまでなの。首からプレートを下げていても意味ないよ。お金があれば何をしてもいいと思った?」

「どういう事だ?この国で商人が活動する為に必要だと言われたから金を払ったんだぞ。俺が何をしようが許可を得たはずだ!」


そういう考えね。

ハーピィの誘拐は商人活動なんだ…。


「馬鹿じゃないの?子供の誘拐が商人活動な訳が無いでしょ!あなた達は殺すのが決定しているの。後ろの3馬鹿も冒険者組合が無くなったのにAクラスのプレートを付けているし、頭悪過ぎだね」

「おいおい、俺たちを馬鹿にするのか?僅か4人で何のつもりだ!護衛の仕事としてお前たちを殺してもいいんだぞ?」

「まあ、待てよ。いい女がいるじゃねーか。殺すのは勿体ないぜ!」

「ああ、そうだぜ。適度に痛めつけるだけにしておこうや」


典型的なクズだね!

こんなのばかりだから冒険者組合は消されたんだよ。


生き残ったって事は、他の大陸からわざわざ来たのか、弱小犯罪ギルドでヴィーネ様の目に入らなかったのか、どちらかだろうね。


「ダニエルさんとフーゴさんの仕事だよ。4人を動けなくするだけ。どうする?」

「子供の誘拐犯なんだ。俺はやるぞ!」

「上手く手加減できるか分かりませんが対処します!」


魔獣見学からそれ程経っていないからね。

本気で鍛錬すれば手加減は覚えられるかもしれないけど。


駄目だろうね…。


「おいおい、おっさんが2人相手かよ。軽く殺してお楽しみだな!」

「ああ、わざわざ女連れで来てくれたんだ。お礼でもしてやりたいぜ」

「目立つ前に早く終わらすぞ!」


街中で剣や斧を振り回す訳にはいかないから短剣だね。

普段の得物って訳ではないのかな?


様にならないね!


「カーリン、無理そうだったら助けてあげて」

「ええ。分かったわ」


魔力の動きを見れば上手く対処できるのかどうかは分かる。

ダニエルさんは力を抑え過ぎ。

フーゴさんは力み過ぎ。


やっぱり鍛錬が甘いね…。

国防軍や警備隊は真面目に鍛錬しているつもりでも甘過ぎる。


大人たちはなるべく多くの時間を鍛錬しようとしている。

それでは、子供たちに追い付けないしたどり着けない。


子供たちは無意識に魔力を動かせるように努力している。

だから、魔力を動かしている時間が段違い。


秘儀の鍛錬の仕方は丁寧に教えない事になっている。

助言はしてあげるけどね。


授業中のレナーテを見れば気付けるはずなんだよ。


授業しながら魔力を意識して動かせる訳が無いのだから。

子供はそれを感じ取り、大人は差があると思うだけ。


秘儀に向き合う真剣さが違う。


「フーゴさんは力み過ぎて血塗れになるよ。ダニエルさんは力を抑え過ぎていて反撃を食らうよ」

「秘儀で人を殴る経験は余りできないから藁人形を使うべきね。拳の跡を残せる程度に抑えないといけないわ。明らかに練習不足よ。回復してあげますから一度刺されてみますか?」


レナーテと一緒でカーリンも異常者だね。


回復魔法が使える人は変だよ。

腕や脚が取り換えできるものだと思っているよね?


あー、怖い怖い!


カーリンの見た目と言葉が合わなくてフーゴさんとダニエルさんが焦っているね。

ドレスを着たら貴族のお嬢様にしか見えないから。

元王女のクリスティーネにも引けを取らない。


素材の無駄遣いだよ…。

私と交換して!


「何をごちゃごちゃしゃべってやがる。おい、早く始末するぞ。時間の無駄だ!」

「あー、間違いねーな」

「終わらすぞ!」


3人が動き出したね。

刃物を持った人が接近してきたら恐怖で固まってしまっている。

魔獣見学をしたダニエルさんは少しだけ動けそうだけど、何かできる訳でもなさそう。


刺されるか、闇雲に拳を振り回して血塗れだね。


「カーリン、商人のプレートが傷つかないように回収して。私が終わらすよ」

「分かったわ。一度は刺された方がいいと思ったけど残念ね」


いい経験になるかどうかは刺される箇所によるよ。

心臓を刺されたら死んじゃうよ?


心臓まで即座に回復できるのは世界で4人だけだよ。

2人が見ているけどね…。


しーらない!


今の2人が器用に避けれるとは思えないから、どこを刺されるか分からない。

心臓に刺されそうになったら止めればいいと考えているのかな?


異常者の考えている事なんて分かる訳が無いね。

考えるのは止めておくよ…。


急接近して3人の頭をくるっと回転させよう。


私の動きが見えていないね。

視線が固定されている。


【グキィ】

【グキィ】

【グキィ】


死んではいないのかもしれないけど、動く事もできないだろうね。

カーリンは商人のプレートを奪ってから同じように首の骨を折ったみたい。


「警備隊の2人は秘儀を使って4人を検問所まで引き摺って。食器より重たい物を持った事がないの」


カーリンが白けた目で見ているよ。

ムカつくわね!


私の台詞だとでも言いたいの?

確かにあなたの方が似合う台詞なのは認めてあげるわよ!


「まあ、いいわ。警備隊の仕事ですからお願いします」


自分も運ぶ気が無いじゃん。

私だけ悪女みたいに思われるよ。


2人は申し訳なさそうに4人を引き摺っている。

こちらに気付いた検問兵が荷車を引いてきてくれた。


「すみません。ありがとうございます」

「慣れてるねー。マリアンネさんがいつも対処しているからかな?」


検問兵が驚いているね。

現場にいないから知っているのが不思議なんだね。


「マリアンネさんのお手伝いをする時もあるの。だから、聞いた事があるだけだよ」

「そうでしたか。お手数をお掛けします」


カーリンが疑いの目を向けているね。

特別報酬を探っているのかな?


ほんと諦めが悪い女だね。


孤児院の癒しはクリスティーネだけだよ。

欲深い女たちは駄目だね!


「あなた、私とクリスティーネを比べて欲深いと思ったでしょ?」


何でそれに気付いてカーリン軍に気付かないの?

純粋な私には理解できないね!


「クリスティーネは誰よりも純粋だからね。この国の癒しだよ!」

「どんどんと規模が大きくなるわね。子供たちにも優しくしなさいよ」


「飴と鞭が必要でしょ?あなたが飴で私が鞭なの」

「私が飴なの?説教ばかりしているわよ?」


それは、子供たちが態と怒られているからだよ。

カーリンの気を引きたいからね。


何でそれに気付いてないの?


子供は笑顔で説教を聞いているじゃない。

本当に子供に対してだけは鈍いわね…。


「そういう風に孤児院はなっているのよ。シャーロット様も認めて下さるわ」

「そうなの?それなら認めるしかないわね」


フーゴさんとダニエルさんは黙って荷車を引いている。

後悔していても実戦でそんな暇は無いよ?


毎日覚悟を持って鍛えないと!

ヴィーネ様は優し過ぎだよ。


「少し商人組合所に寄るので待っていて下さいね」

「あなたも行くの?」


「飴のカーリンだけで行っても意味が無いからね」

「話していても時間の無駄ですから行きましょう」


カーリンと一緒に商人組合所に向かう。

検問所から歩いてすぐだけどね。


「あれ?カーリンお姉ちゃんどうし…、ぐえっ!」


物凄い酷い反応じゃない?

私の顔を見て、踏み潰された蛙のような声を出したよ…。


「とりあえず、もう1人の馬鹿を呼んできなさい」

「すぐに呼んできます!」

「クリスタ、もっと優しい言い方があるでしょ?」

「何かありましたか?」


「病院の受付をしていた人だね?卒業生の馬鹿が雑な仕事をしたから説教しに来たの」

「クリスタの言う通りだけど、本当に言葉遣いが悪いわね。直しなさいよ!」


私の見た目だとこれでいいんです。

あなたと一緒にしないで下さい!


「何だよアグネス。慌てた顔して無言で押すな!誰が来たん…」

「あなた達は雑な仕事をしたわね?プレートを返しに来たわ。もっと真面目に仕事をしなさい!」


商人から奪ったプレートを受付の女性に返したね。


あれ…?

説教は終わったの?


カーリンはそれが説教なの?

犯罪者を商人登録した馬鹿にその説教は甘過ぎるわ!


「あんた達なら殺してお金奪えばいいでしょ?誘拐犯を登録してどうするの。見たら犯罪者だと分かるでしょ?何か言い訳はあるの?」

「こちらを脅す事もなく刃物も抜かなかったので登録しました…」


誘拐犯が入り口近くで問題を起こす訳が無い。

誘拐が成功すれば更にお金が入るのだから。


不愉快な話だね!


「刃物を抜かない犯罪者なら通しちゃうんだ。説教決定だね。今夜孤児院に来なさい!」

「今後は気を付けますから、それだけは許して下さい!」

「はい。今後は必ず始末しますから!」


「クリスタ。反省しているみたいだし、これくらいでいいじゃないの」

「ふーん。どちらでもいいわよ?あいつらカーリンを侮辱したからね。好きな方を選びなさい!」

「嘘でしょ?クリスタお姉ちゃんの嘘でしょ?」


自分たちが今までしてきた事をされるだけだよ。

死ぬ直前まで痛めつけられて埋められる。


卒業生だから手加減はしてもらえると思うけどね。

流石に可哀相だからレナーテに回復してもらうつもりだよ。


「私を痛めつけてお楽しみだとか言っていただけよ。よくある事だし気にしていないわ」

「本人から証言されちゃったね。さあ、どうする?」

「アグネス、これは流石に諦めるしかないよ。俺たちは失敗したんだ」

「クリスタお姉ちゃんの説教の方が優しいね。今夜孤児院に行きます」


「待っているわよ!ヴィーネ様は商人組合に説教しろと言っていたわ。所長と副所長に言っておきなさい。さあ、カーリン。行くわよー」

「2人とも仕事を頑張ってね。クリスタの説教が終わったら土地神りんご酒を一緒に飲みましょう」

「「はい!」」

「ヴィーネ様の説教ですか…」


激甘だよ!


私の事を言えないじゃない…。

子供だけじゃなくて卒業生まで対象なんだ。


この国を無意識に支配するつもりなのかな?

そういえば、シャーロット様が一員だから支配は完了していたよ。


「お待たせしました。さあ、行きますか!」

「ええ。本当の目的はここからですからね」

「フーゴ、気合を入れろよ!」

「さっきは何もできなかったんだ。同じ失敗はしない!」


そういう問題じゃないけどね。

経験すれば分かるだろうけど…。


死体処理場まで荷車を引いてもらう。

私とカーリンは手ぶらで歩いているだけ。


森を散歩するお嬢様と従者みたいだよ。

カーリンの雰囲気が明るいから余計にそう感じるね。


「着いたね。犯罪者を適当に転がして落ちている剣で首を切断して」

「分かりました…」

「そうだよな。止めを刺す必要があるよな…」


それもあるけど、血の臭いで魔獣を早く呼ぶのが一番の目的だね。

今回はどうしようかな?


「カーリンは魔獣を退治したいの?」

「せっかく荷車があるのですからお肉を補充したいわ」


お嬢様はお肉をご所望のようです。

ここで魔獣を捌くんだろうね…。


それにしても、動かない犯罪者に止めを刺すのに手間取り過ぎだね。

剣を拾って刺すだけだよ…。


「犯罪者に剣を突き刺すのを躊躇っていたら自分か子供が刺されますよ?早く刺して下さい!」

「まだ刺していないのですか?流石に仕事が遅いですよ!」

「そうですね。遅過ぎますよね。俺は何やってんだ…。誘拐犯だぞ…」

「その通りですね。早く刺さないと…。何で手が震えているんだよ…」


人を殺すのはそんなに楽な仕事じゃない。

警備隊は人を殺す必要が無いのかもしれないけど、秘儀で人を殴る以上は殺す時もあると思う。


こんな状態では誰も守れないね…。

守る為には殺す必要もあると考えていなかったのかな?


軽微な犯罪なら取り押さえればいいだけ。

だけど、神国シャーロットに来る犯罪者は圧倒的に誘拐犯が多い。


子供を誘拐しようとする犯罪者なのだから確実に殺す必要がある。

2人とも分かっていると思うけど現実に直面すると躊躇ってしまう。


自分が人殺しになると考えていなかった証拠だね。

人を守る覚悟が足りていない!


あっ!

カーリンが怒り始めたよ。


「何をしているの?警備隊なのでしょ?子供に殺させたいの?それとも、子供を血塗れにしたいの?遅過ぎるわ。もし、子供たちが弱かったら何人殺されているか分からない。流石に時間切れよ。私がやるわ。どきなさい!」


美人に言われるときついよねー。

カーリンが躊躇いなく犯罪者たちの首を切断する。


こんな綺麗な子が躊躇いなく犯罪者を殺す。

より惨めな気持ちになるだろうね…。


「さあ、下がっていなさい。何もできないのなら邪魔です。今から孤児院の子供たちの為にお肉を調達しなければならないの。クリスタに守ってもらいなさい」


カーリンの優しさは片寄り過ぎだよ。

孤児院の関係者とお2人だけだね。


「カーリンの言う通り何もできないのなら下がってなよ。もうすぐ魔獣がたくさん来るからね。せめてボアくらいは殺して欲しいけど、無理なら今日はここまでだね」

「待って下さい!ボアなら俺だって殺す事はできます」

「そうです!ボアなら間違いなく殺せます」


本当に駄目だね…。


考えが甘過ぎる。

状況をまるで理解していない。


ボアを狩に来た訳ではないんだよ?


「ボアを殺す為に魔獣の群れに入って行けるって事かな?最弱のボアが先頭にいる事はないよ」

「来たわね。荷車の大きさから考えるとグレートボアが限界ね。グレートベアは肉に臭みがあって余り好きじゃないの。殺しましょう」


カーリンがお肉の調達を始めたよ。


落ちていた剣を拾って、グレートベアの首を切断した後にグレートボアの首に剣を突き刺した。

ベアの首は秘儀を使えば切断しやすいけど、ボアは首が太いからね。


落ちている剣では切断するのが難しいと判断したんだね。


お陰で更に血の臭いが充満しているよ。

カーリンは気にせずグレートボアを捌き始めた。


水魔法が使えるからやりたい放題だよ!

少し羨ましいね…。


丁寧に皮を剥いでからお腹を剣で開いているね。

内臓も取るみたいだよ。


お嬢様の行動は想像以上だね!


魔獣の数がとんでもない事になっているよ。

2桁超えたね。


「あっ!ファントムタイガーだ。カーリン、ファントムタイガーの素材が欲しいから殺してきて。チャドさんに渡したら包丁とか作ってくれそうじゃない?」


見た目は瘴気に纏われた大きな虎だけど、遭遇する事が極端に少ないの。

警戒心が強くて頭もいいから人前に出る事がない。


ほとんどの人には勝てるはずなのに…。

魔獣の中でも上位だから。


魔獣がこれだけ集まっているから安全だと判断したのね。

これは新しい大発見だよ!


「この状況でも一番奥にいるわね。本当に警戒心が強いわ。殺してここまで引いてくるからクリスタが解体して。後で手を洗ってあげるから」

「分かったわ。逃げ足も速いから早くしてよ。警戒されたら終わりだからね」


カーリンは私にヒラヒラと手を振った後に一瞬で移動してファントムタイガーの首に剣を突き刺した。

その後、魔獣に食べられないように引いてきてくれた。


「いやー、悪いね。皮も綺麗だし超高級品なんだよ。絨毯や服に使われる事が多いよ。牙も固くて鋭いからね。短剣や包丁の刃にすれば、かなりの切れ味になるんだよ。ボアはあそこにいるよ?殺してくるなら頑張ってね」


ボアはギガントボアの後ろに隠れるようにカーリンが捌いたグレートボアの内臓を食べている。

グレートベアは既に跡形も無いね。


カーリンは魔獣に囲まれているよ。

動物に餌をあげているお嬢様かな?


ウサギや小鳥だったら可愛い光景だけど魔獣だからね。

殺気を出してグレートボアを捌いているから襲われない。


2人は震えていて立っているのがやっとといった感じだね。

剣を地面に突き刺して支えにしている。


ダニエルさんは前回の見学である程度は耐えられると考えていたようだけど、駄目みたい。

立っているのがやっとの状況になるとは想像できなかったみたいだね。


本当に考えが甘過ぎるよ…。


今回は魔獣との距離を前回よりも近くしているからね。

剣を前に突き出せば刺さる距離まで魔獣は近付いてくる。


「解体で忙しいのでボアを殺すのであれば私の近くで殺して下さいね。食べられちゃいますから」


2人からの反応が無いよ…。

カチカチ音がするから歯の根が合わないみたい。


今はそれどころじゃな。


ああー、綺麗に皮を剥がないとね!

お腹から割いて全身の皮を剥がないと価値が下がっちゃう。


冒険者だったカーリンはそれが分かっているから剣を真下から首に突き刺している。

割く時に剣の通り道になる位置だから素材の価値は下がらない。


流石だね!


ふふーん!

貴重な素材だよ。


冒険者に戻った気分だね。

でも、冒険者の時にはこんな貴重な素材を得る事はできなかった。


ファントムタイガーを見かけた事はあっても殺した事はないから。

Sランクの冒険者が極稀に殺す事があるくらい貴重な獲物なんだよ。


天然カーリンの魔獣解体が功を奏したね。

服に血が付かないように気を付けないと。


・・・・。

全身の皮を綺麗に剥いでと…、完璧だよ!


剥いだ皮は丸めて、後は牙だけどせっかくだし他の歯も欲しいね。

貴重な素材だし歯は全て持ち帰ろう。


そうと決まれば口の中に剣をぶすぶすと突き刺していく。

素材採取は何でこんなに心が躍るのかな?


ああー、最高だよ!


エルダードワーフに任せれば奥歯でも何かに加工してくれるはず。

楽しみだね!


「クリスタ、全部の歯は必要ないでしょ?牙だけでいいじゃない」

「勿体ないわよ。エルダードワーフなら何かに使ってくれるわ」


「それにしても、とんでもない数の魔獣を呼んでしまったわね。他に珍しい魔獣はいないのかしら?」

「荷車に乗らないじゃない。とりあえず、手を洗ってよ」


荷車に生肉を限界まで乗せているのに、まだ探そうとするとか心が冒険者に戻っているね。

カーリンも生粋の冒険者だよ。


「忘れていたわ。はい、水魔法(ウォーター)

「ありがとー。あー、飲んでもいいわね。羨ましいわ。私は焼く事しかできないから」


水魔法と回復魔法は便利でいいよね。

火魔法なんて焼く事しかできないもん。


「2つの魔法の鍛錬は大変なのよ。特に回復魔法が難しいわ。レナーテの授業を受ける必要があるわね」

「孤児院の近くで回復魔法の授業をしているから行けばいいじゃない。子供たちも授業中だし、孤児院の中にはチェルシーかクリスティーネが残っていれば大丈夫だよ」


カーリンはなるべく孤児院の中にいるように心掛けているからね。

孤児院長として孤児院を守っている。


今日はチェルシーとクリスティーネの2人が孤児院にいたから外出した。

お嬢様は真面目なのよね。


「そうね。2人にお願いして授業を受けましょう。回復魔法を鍛えて損はないわ」

「そうそう。一番大切な魔法だよ。レナーテも回復魔法を鍛えているけど、成長が止まったらシャーロット様が授業をして下さると思うわよ。500年以上も人を治療してきたシャーロット様の知識は研究員が簡単に追い付けるものではないからね」


「それは素晴らしいわね!レナーテに追い付いて限界まで鍛える必要があるわ」

「そうそう。子供たちの怪我も治せるしいい事しかないよ。…、2人はボアを殺すのを諦めた?」


危うく忘れるところだった…。

気付いて良かったー!


「反応が無いね。帰りますから荷車に座って下さい。置いて行きますよ?」


動かないよ…。

荷車の縁に座る事もできないのかな?


「ボアを殺すのは無理だと判断します。生肉と一緒に運ばれたくなければ荷車の縁に座って下さい」

「埒が明かないわ。子供より甘えん坊ね。時間の無駄よ。生肉と一緒に運びましょう」


カーリンが厳し過ぎる!

子供たちへの優しさを平等にしなさいよ。


「肉の上に皮を広げるからその上に乗せてあげようよ。カーリンは厳し過ぎだよ」

「手間が掛かる人たちだわ。警備隊なのでしょ?何を守るつもりなのよ!」


気持ちは分かるけど…。

平和な国にいるのだから慣れるのに時間が掛かるだろうね。


ファントムタイガーの皮をグレートボアの肉の上に広げた。

2人とも自分で動く気配が全くないね。


ずっと震えている。


剣を取り上げてからダニエルさんを持ち上げて皮の上に乗せる。

同じようにフーゴさんも皮の上に乗せる。


「甘やかし過ぎよ!警備隊の訓練が目的だったのでしょ?何もしていないじゃない!」

「そういう日もあるよ。とりあえず帰ろう。散れ!」


殺気を魔獣に当てる。

ちゃんと退散してくれたみたいだね。


無益な殺生は好きじゃないから…。


「はい。私が荷台を後ろから押すからカーリンは引いてよ」

「分かったわ。無駄な荷物のせいで重たく感じるわよ。本当に駄目ね!」


厳し過ぎでしょ?


少し殺気が漏れているのからおかしいよ。

孤児院軍を止められている理由が国防軍と警備隊だからって、2人は他の人より頑張っているよ。


「カーリンは厳し過ぎだよ!他の国民より努力しているじゃない。2人は粛清対象じゃないのだから殺気を出す必要は無いでしょ?」

「何を言っているの?優しいテストに合格しただけでしょ?誰でも合格するわよ。不合格する人は殺せばいいだけじゃない。クリスタが甘やかし過ぎよ!」


どこまで厳しいの?

孤児院の子供たちを基準に見ているのかな?


流石にそれは可哀相だよ!


「孤児院の子供たちの努力と比較したら駄目だって。あの子たちは特別なの。シャーロット様に救われた子だから。他の国民と比較しなさいよ。何で犯罪者を見逃した2人より厳しいの?」

「あの子たちなら今日の魔獣を皆殺しにできるじゃない。努力量が違うわ。一緒にする方がおかしいわよ。それに、大きな失敗をした訳ではないわ。商人組合のプレートを渡す基準が曖昧なのがいけないのよ。2人の判断に頼っているようではおかしいでしょ?」


その通りだけどね。


だけど、カーリン軍には通用しないよ?

カーリンを侮辱する相手を素通りさせたとバレたら終わりだね。


200人で商人組合所を襲撃だよ…。

無茶苦茶だね!


ヴィーネ様の説教してという言葉も本気で説教するつもりではないだろうね。

もう少し厳しく審査してという意味だと思う。


とても優しいから。


商人の審査を2人に頼り切っているのなら、エルヴィーラさんたちが甘え過ぎ。

強ければ全てを頼って良い訳ではないから。


責任者なら行動する基準を作ってあげないと。


「その通りだけどね。でも、説教は決定だよ。犯罪者を見逃したのは間違いないから。だけど、ヴィーネ様の言葉は所長と副所長に言っておくように伝えたじゃない。2人に頼り切っているのなら所長と副所長は必要ないのだから」

「分かっているのなら優しい説教にしなさいよ。あなたは子供たちに恐れられているのだから」


何で恐れられているのかが分からないのよね…?

飴と鞭とは言ったけど鞭役をしている自覚はないから。


そろそろ検問所だね。


「ちょっと荷車を借りるわね。お肉を取ってきたから」

「「かしこまりました」」


さてと、2人を検問所で降ろしてあげる。

お2人の見学も終わったみたい。


「私たちが引いている荷車に積まれているのを見られたくないでしょ?ここからは歩いて帰ってね」

「甘過ぎよ。あなたの判断基準が分からないわ。可哀相な人にだけ優しいの?」


「普通の心遣いだよ。特別優しくした訳ではないから」

「まあ、いいわ。軽くなったし早くお肉を冷凍箱に入れないと悪くなってしまうわね」


私は結構平等だと思うけどね。

カーリンが片寄り過ぎているんだよ。


2人を降ろしてから少し急いで孤児院まで荷車を引いていく。

食事場所までは荷車で入れないから最後は手でお肉を持つ必要がある。


汚れが落ちやすい前掛けを着ないとね。

水が染み込まない素材でできているから、血も染み込まない。


石鹸で軽く洗うだけでいいから便利だよ!


私とカーリンは前掛けを着て冷凍箱までお肉を運ぶ。

冷凍箱の中にはお肉を吊り下げられるようになっている場所があるから、そこに吊るす。


これだけお肉を補充してもあっという間に無くなるのよね。

子供たちの食事の用意は大変だよ。


専任料理人が増えたから楽にはなったけど、手伝ってあげないと仕事量が多過ぎる。

子供たちには食器を自分で下げるように教えているけど、洗うのは私たちだからね。


机を拭いたり床を掃除したり毎日大変だよ。


「カーリン、荷車を検問所に返しに行ってきてよ。私はチャドさんの所に行くから」

「分かったわ。包丁とか孤児院で使える物をお願いしなさいよ」


「一応言っておくよ。じゃあ、よろしくねー」


ファントムタイガーの皮を丸めて歯は袋に入れる。

さて、行きますか。


歩いてすぐだけどね。

「チャドさん。素材持ってきたから何か作って下さいよ。孤児院で使える物だと嬉しいです」

「ほー、何を持ってきたんだ?ん…、おいおい、ファントムタイガーかよ!歯も全部抜いてきたんだな。やるじゃねーか!入手難易度が高い素材だから皆やりたがるぜ」


「お金が必要ならシャーロット様に請求して下さいね。孤児院で使う物ですから」

「俺らの暇つぶしに何か作ってやるよ。少し素材を貰う代わりにただでいいだろ?」


「いいですよー。好きなだけ素材使って下さい。包丁1本だけでもいいですからお願いします」

「気前がいいなー。最高だぜ!包丁だけは絶対に作らせるからよ。任せておきな」


チャドさんに頭を下げて、お店から孤児院に帰る。

まな板まで切断する包丁ができそうだよ。


大丈夫かな?


うーん。

少し血の臭いがするね…。


お風呂に入ろう!


「あれ?カーリンもお風呂に入っていたんだ」

「血の臭いがする状態で子供たちを迎える訳にはいかないわよ」


さっきとは別人かな?

肉塊の中に2人を突っ込もうとした人と同じ言葉だとは思えないね。


「包丁は必ず作ってくれるって約束してくれたよ。後はお任せ」

「それはいいわね。そういえば、あの2人がまだ検問所で座っていたわ」


心が折れたのかな?

子供たちの事を考えたら自分に嘘を吐いてでも除名はできないね。


「警備隊なんだから自分で立ち直るしかないよ」

「あそこまで何もしないとは思わなかったわ。成人した男性なのにだらしないわね」


「最初が一番辛いじゃない。人を刺すのって抵抗あるよ。私たちは命懸けだったから、そんな事を考える余裕も無かったけど、あの2人は平和な国しか知らないから難しいよ」

「何を言っているのよ。秘密裏にシャーロット様が犯罪者を殺していただけじゃない。誰かが犯罪者を殺していた事を知っていて、自分で人を守る側になると決めたのだから擁護する必要は無いわよ。ヴィーネ様があの2人にだけ経験させたのも、他の人たちには必要ないという事でしょ?甘えているのよ」


その通りだけどね…。


外の世界を想像でしか知らなくて甘えているんだよ。

ダニエルさんも前回の魔獣見学だけで今回は何かができると考えていた。


前回何もしていないのだから今回何かができるかは分からなかった。

そして、次回があるとしても何もできない可能性がある。


一刺しでもいいから魔獣に剣を刺せたら違っていたんだけどね。

恐怖の中でも動いて何かをしないと変わらないよ…。


恐怖を知っただけでは意味が無いと気付いたかな?

抗って行動してこそ価値がある。


2回も無駄にしちゃったね…。

立ち直れるかな?


お風呂から出て2人の感情を探る。

ヴィーネ様が訓練場の宿舎に移動させたみたいだね。


ダニエルさんが何かを懇願している…。

まさか、除名を懇願していないよね?


ヴィーネ様からの念話(テレパシー)だ。

かしこまりました。


最悪だよ!


立ち直る事もできずに除名を懇願したんだ。

お店がどうなるのかも想像できないの?


子供たちの笑顔を守りたい?

何の覚悟も無いのにふざけるな!


お店に立ちたいから記憶を消して除名を懇願した気がする。

子供たちを裏切った後ろめたさを忘れる為に…。


自分に嘘を吐いてでも子供たちの笑顔を守る気は無かったの?

口だけにも程がある!


お2人を裏切った事に変わりない。

ヴィーネ様は理由を話さなかったから、シャーロット様が嘘を吐く可能性がある。


子供たちが違和感を覚える事なくお菓子を買いに行けるように。

何も悪くないヴィーネ様を庇う為に…。


シャーロット様がどんな悪役になろうとも多くの人は騙されないと思う。

誰かに引継がないとお店の閉店は間違いない。


お2人は次のお祭りで土地神リンゴ飴を食べない気がする。


最悪な予想ばかりが浮かんでくる。

魔獣の餌にすればよかった…。


無駄に気を使って損したよ。

気分が悪い!


土地神リンゴ飴と土地神りんご酒はしばらく控えよう。

2人のお店で何かを購入する気が起きない…。


どうしてシャーロット様やヴィーネ様を裏切る事ができるの?

お2人のお陰で世界一恵まれた平和な国に住む事ができているのに…。

クリスタとカーリンは激怒を我慢中!

子供たちの前では平静を装いますからね。

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