閑話 ビアンカ 変わり目
「「はい!」」
えっ?
学校中に大音量の返事が響き渡りました。
何の返事ですか?
今は選別の希望を記入してもらっているところです。
ですが、この返事は聞き慣れているので何となくですが分かります。
シャーロット様が孤児院の子に全力を出せと言ったのではないでしょうか?
授業中に何を全力でさせるのでしょう?
この後の展開が怖いですね。
「ビアンカ先生。選別の希望を記入する必要がなくなりました」
一番前に座っていた獣人の子が教えてくれました。
選別が終わったのですか…。
尚更何を全力でするのですか?
初等科の授業中ですので返事をした子がこの中にいません。
クリスタやレナーテの教室は大変でしょうね。
きっと2人は大慌てですよ。
「そうでしたか。選別が終わったのなら紙を回収します。一番後ろの席から前に渡して下さい」
「「はーい」」
良かったですね。
親と離れる事なく暮らせるのですから。
ヴィーネ様からの選別の終わりの念話が入りました。
無理を言って子供を残したのですね。
シャーロット様の選別は親子一緒に飛ばしますから。
つまり、親が飛ばされている子がいるのですか。
この中にも親が飛ばされた子がいるのかもしれません。
ヴィーネ様はとても優しいですからね。
孤児院が賑やかになりますよ。
授業が終わり、子供たちが記入した選別の希望を教員室で見てみます。
初等科の生徒は移住してきて日が浅いといっても半年近くは勉強しています。
希望は親だけを飛ばして欲しいというものだけでした。
親が選別対象だった場合、戦争の為に鍛えられている兵器だと思われている訳ですからね。
親が子に対して思う事ではありませんよ!
飛ばされる親なら離れたいと思ったのかもしれません。
賢い子供たちですね。
今までの選別では子供の意見は無視して親と一緒に飛ばしていました。
このように子供の意見が見えてしまうと少し悲しいですね…。
過去には親と離れてでも残りたかった子がいたでしょう。
この国では努力しない大人が子供の未来を奪っていきます。
掴みかけた明るい未来を親が邪魔をして逃してしまう。
この世界で不幸から身を守る為には知恵や力が必要です。
大人は理解せず子供は必死に努力する。
本当に愚かな大人ばかり…。
足音は余りしませんが、光って眩しいのでよく分かります。
来たみたいですね。
「クリスタ、突然の返事があったでしょ?何を全力でするのか分かるかしら?」
「凄かったよー!突然だったから流石に驚いたね。全力で小さい子の面倒を見るらしいよ」
どういう事でしょうか?
少し頭が混乱しているみたいですね。
「親が飛ばされた子がいるのは分かりましたが、私たちでは手が足りないのですか?」
「流石のカーリンでも厳しいよ。半年後ならカーリン軍になっている可能性が高いから大丈夫だと思うけどね。ビアンカは選別の結果を聞かなかったの?獣人の里から移住してきた子供が全員孤児院に来るよ。つまり、100人以上増えるね」
移住してきた子は初等科にいますね。
飛ばされた親と一緒に暮らしたい子はいませんでした。
全員孤児院に来るのですね。
賑やかどころではありませんよ。
300人を超えているではありませんか!
ヴィーネ様の言った無理とはこれの事でしたか。
移住してきた親は全員が選別対象になったのでしょう。
ですが、子供を兵器だと考えている為、一緒に暮らすのは可哀相だと思ったのですね。
レナーテも教員室に戻ってきたので孤児院に帰ります。
学校から外に出るだけで分かりますね。
予想通りですけど…。
当然大きくなっていますよね。
4階建てですか。
これは先が大変そうですね。
中に入ると少し眩暈がしました。
お風呂が倍の広さになっています。
今日から始まる日常が想像できますよ…。
「お風呂で泳げるよ。とんでもない事になっているね。食事を取る場所も用意したのかな?」
「300人以上の子供が同時に食事を取るのですか?専任料理人も倍に増やして欲しいですね。きっとお願いして下さっていると思いますが…」
ところで、カーリンたちがいませんね。
そして、魔石で時空魔法が発動しているのがとても気になります。
「クリスタは怖いものなんて無いでしょ?あそこの時空魔法に入ってみてよ」
「なんで私なのよ!ここはカーリンでしょ?孤児院長なんだから代表で入るべきよ」
「そうですね。私も流石にどこに繋がっているのか分からないので怖いです」
誰が入るか言い争っていると時空魔法からカーリンたちが出てきました。
「どこに繋がっているの?」
「400人同時に食事ができる食事場所よ」
更に100人増やす予定でもあるのですか?
流石に怖くなってきましたよ。
「見に行ってみたら?ヴィーネ様が作った食事場所は完璧だよ!」
「魔法の極致は凄いですね。私も秘儀の鍛錬を頑張ります!」
チェルシーとクリスティーネは平和ですね。
私はこれからの生活が不安ですよ。
「とりあえず見に行こうよ!もう怖くないから先に行くね」
「それでは、私も行きます」
「私も行きますよ!」
時空魔法を通ると孤児院の倍以上は広そうな食事場所に出ました。
この建物に出入りする扉はないみたいですね。
「広過ぎるね!ここはハイオークの畑の横の建物だよ。森だった場所にでかい家が建っていると思ったけど、孤児院の食事場所だったんだ。特別扱いが凄いね。ついに専用の食事場所まで用意されちゃったよ」
「専任料理人が揃うまでは私たちが料理をするのですよ?秘儀を使えば楽にはなりますが、それでも300人以上の食事を用意するのですよ?あなたは何でそんなに暢気なのよ!」
孤児院にばかり目が行ってしまい、ハイオークの畑の方を見ていませんでした。
心に余裕がない証拠ですね。
「かなり大変な日々になりそうですが、子供たちが全力を出すので大丈夫でしょう。授業中に突然の返事で秘儀の鍛錬を失敗しそうになりましたけどね」
「私も魔力を動かしていたら危なかったかも。あれは不意打ちにも程があるね。子供たちはお祭りの時の癖で声に出しちゃったんだよ」
お祭りの時によく聞く返事ですからね。
子供たちも声に出して返事をするのが癖になっているのでしょう。
「台所も凄いわね。10人分の焜炉が用意してあるわ。冷凍箱も私の身長を超えているし、両手を広げた大きさですね。ほとんどの子が10歳近くですから、更に賑やかな毎日が始まりますよ。カーリンに頑張ってもらうしかありませんね」
「そうそう。カーリンも全力出せば100人くらい増えても余裕だって!カーリン軍が強くなるよ」
「獣人の子はチェルシーに懐くかもしれませんよ?どちらにしろ、2人に任せましょう!」
クリスタはいつも通りですが、レナーテは現実逃避をしていませんか?
余り人に任せようとしないのでとても珍しいです。
あれ?
ヴィーネ様から念話ですね。
ええー!
選別が終わったと思ったら何故こんな宣言をする事になるのですか?
「国名が神国シャーロットになりましたね。ヴィーネ様が本気で動くという事は邪魔な人は消えていくでしょう。ああ、素晴らしいです!」(拝んでいる)
「これはあれだね。選別でシャーロット様に無理を言ったから、ついでに全てを任せてしまおうという作戦だよ。国長なのに我慢しているヴィーネ様を焚き付けたね。きっと思い通りに動かされた仕返しに国名を変えたんだよ」
「ヴィーネ様が国長として好き勝手にするのは良い事ですね。恐怖している人は今頃震えていますよ。確実に飛ばされますからね。シャーロット様はヴィーネ様に我慢して欲しくなかっただけだと思いますよ?国長を辞めるか好き勝手にするか、どちらでも良かったのでしょう」
今回の選別でも分かりますが、ヴィーネ様はとても優しい方なのです。
この国はヴィーネ様の力で平和が保たれているのに、恐怖している大人が多過ぎます。
感謝もせず恐怖しているような大人は守る価値なしです。
国長として好き勝手にして、シャーロット様とのんびりできる国を作りそうですね。
孤児院はカーリンがいれば大丈夫です!




