閑話 フリッツ 討伐隊の行方
区長たちからの伝達を聞いて考えている。
討伐隊に意味はあるのかと。
シャーロット様から様々な魔獣の討伐方法や訓練方法、更には魔力の使い方まで教わった。
しかし、魔獣を討伐して意味があるのだろうか。
シャーロット様は子供を救いたいと考えている。
多く孤児や奴隷だ。
僕たちが訓練をしてこの国を守った事は無い。
そして、この国を守れると思えない。
街長が言っていた言葉が胸に響く。
厄災のドラゴンはシャーロット様を縛り付ける、私たち寄生虫の駆除に来た。
反論出来るかのか?
無理だ。
だって僕達たち何もしていない。
国の為に何もしていないのだから。
「隊長、討伐隊は何故あるのですか?」
「国を守り、魔獣の討伐をする為だ」
あまりに普通の答えに愕然とする。
それでいいと本当に思っているのだろうか?
「隊長は討伐隊が魔獣の駆除をして、国の役に立っていると考えているのですか?」
「ああ、お前の言いたい事は分かる。他に何かするべきじゃないか、だろ?」
「その通りです。訓練なら農作業しながらでもできます。このままでいいのですか?」
「良く無いと思うが、どこで農作業をする?」
どこで?
どこでもいいじゃないですか。
食糧生産は必ず国の為になります。
「国の外でいいでは無いですか。木を切り倒す事から始めてもいいと思いますが?」
「お前は農作業する余裕がある程度しか訓練していないのか?自分たちだけで国を守れるようになろうとするべきじゃないのか?」
「そうですが。現在僕たちは何の役にも立てていません」
「じゃあ、もっと鍛えるしかないんじゃないか?お前の言いたい事は分かるが、それはシャーロット様が国を守っている前提での話だろ?討伐隊だけで国を守れると言えるのが本当の貢献じゃないのか?」
それは無理です。
100人程度では足りません。
国を守れる力はありません。
「この人数で国を守る事は難しいと思います」
「お前は魔力で身体強化を経験したよな?十全に使えるんだよな?そこまで鍛えた状態での話だよな?」
「それは…。まだ全然できていません」
「話にならないな。やるべき事から逃げたいだけにしか聞こえないぞ。自分の可能性を教えてもらってもそれに見合った努力をしていない。お前は言いたい事を言っているだけだ。ただの青二才だよ。全然できていませんだって?お前は討伐隊の中でどれほど強いんだ?お前は国の外を1人で歩けるか?国の外に1人で出た事があるか?」
国の外を1人で歩ける人が討伐隊にいるのですか?
僕以外にも出た事の無い人ばかりだと思います。
それに、国を守る事と関係ない話です。
「歩けるか分かりません。1人で出た事もありません」
「街長は元冒険者だ。外の世界を知っている。だから、甘えるなと皆に伝えているんだ。討伐隊でいるのが恥ずかしいなら辞めればいい。お前は甘えていない振りをしたいだけの甘えん坊だ。お前、国を守る為に鍛えていると言ったじゃないか。つまり、言っただけで本音は国を守る気は無いんだよ」
「そんな事はありません。国を守る為に鍛えています。この人数では厳しいと感じているだけです」
「何故弱いお前が厳しいと感じているんだ?お前が一番強ければ説得力があるかもしれないが、一番弱いだろ。俺も街長たちから伝達される言葉を聞いて考えていたが納得したよ。お前は甘え過ぎだ。他にもお前と同じ考えの奴がいるのか?」
「私は一番弱くありません。上を目指して鍛えています」
「鍛えているから一番弱く無いと考えているのか?シャーロット様の魔力操作の訓練は何処でもできる。訓練が終わって余裕があれば何処でもできる訓練だ。別に体を動かす必要もないからな。全然できるようになっていないお前は、訓練をしていないよ。誰になら勝てるんだ?言ってみろ。ああ、討伐隊の中からは選びにくいな。俺が対戦相手を決めてやる。教師になったクリスタだ。当然勝てるだろ?」
「勿論です。子供に勉強を教えた後、孤児院で働いているのです。鍛えている僕の方が強いです」
「じゃあ、呼んで来い」
隊長は何を考えているんだ?
訓練もしていないクリスタさんに勝っても何の証明にもならないのに。
授業が終わるまで待ち、クリスタさんに声を掛ける。
「クリスタさん。僕と模擬戦をしてくれませんか?」
「え?授業が終わったばっかりなのに…。ちょっと、孤児院にだけ寄らせてね」
「分かりました」
孤児院にクリスタさんと一緒に向かった。
「カーリン。ちょっと、討伐隊から呼び出しがあったから行ってくるね」
「分かりました。孤児院は少し余裕が出来たので大丈夫ですよ」
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
クリスタさんと訓練場に戻る。
「隊長、連れて来ました」
「久しぶりだな、クリスタ。かなり忙しそうだな」
「ええ。忙しいですよ。そんな私に模擬戦させるとか、嫌がらせですね?」
「まあ、そう言うな。フリッツと模擬戦をしてやれ」
「はーい…」
「お願いします!」
相手は魔法使いだが、訓練もしていない教師。
しかも、騎士に有利な模擬戦。
負ける理由が無い。
「じゃあ、一本勝負な。構えて・・・・始め!」
「ファイアボール」
この距離で魔法?
問題無い。
盾で防いで攻撃…。
「うぐっ…」
「そこまで。弱いな。勝てるんじゃなかったのか?」
詠唱を囮に使ったのか。
詠唱した振りをして距離を詰められた。
警戒して身構えた僕に詰めて攻撃を入れられた。
「今のは詠唱に騙されただけです」
「フリッツ、それは言ったら駄目だよ。討伐隊を辞めたら?」
模擬戦で負けただけで討伐隊を辞めろだって?
何故クリスタさんはそんな事を僕に言うんだ。
もう二度と僕には勝てないよ!
「クリスタから有難いお言葉を貰えたな。もう1回やれば勝てるとか考えているんだろ?」
「勿論です!」
「もう1回とか。討伐隊は蘇生魔法でも使えるんですか?まぁ、いいですけど」
「そう言うな。じゃあ、最後の1本な。構えて・・・・始め!」
同じ失敗はしない。
詠唱に騙される事も無い。
こちらかが先手を取る。
「あがぁ…」
「隊長。フリッツって討伐隊で一番弱いですよね?訓練の無駄です。農作業でもさせて下さいよ。忙しいのに呼び出されて、一番弱い相手と模擬戦とか酷く無いですか?」
単純な身体能力で負けている?
正面から接近され、普通に斬られた。
何故教師をしている相手に負けるんだ?
「怒るなって。クリスタは訓練しているのか?」
「そりゃしますよ。私は魔法使いですから、剣を振ったりはしていませんけどね。常に子供と関わっているんですよ?他国の人間に1対1で負けるような状態はありえません。あれだけ教えてもらったんですから」
「聞いているかフリッツ。お前はシャーロット様の秘儀を使える中で一番弱いよ」
「何故?あれだけ訓練しているのに。何故僕が一番弱いんですか?」
「いや、訓練してないじゃん。何を言ってるの?訓練してて私より弱いなら討伐隊を解散させてよ」
「そりゃそうだ。フリッツは訓練をしていないよ。皆と同じ動きをしているだけだ」
「ああ、そういう事ですか。勘違いしちゃってるんだ。フリッツは自分が死ぬ可能性を考えた事が無い。相手を殺す事も考えた事が無い。だから、皆と同じ素振りをしているだけでしょ?分からないけど、あの授業を受けた後なら魔力操作を意識しながら訓練するべきだよ。時間が勿体無い」
「正解だな。お前も外を知っている。外を知らない人間はこんなもんだよ。だから、街長が怒ってるんだ。見えない所で、シャーロット様がどれだけ人を守って、どれだけ人を殺しているのかも知らない、知ろうとしない。街長自身が自分は寄生虫だと言っているんだぞ。フリッツ、お前は何だ?」
シャーロット様が人を殺している?
そんな話は聞いた事が無い。
隊長が知っているだけじゃないのですか?
「隊長、この国に寄生虫じゃない人はいないですよ。寄生虫でも頭使って考えろって話なんですから。フリッツは何も考えていない寄生虫ってだけだよ」
全ての人が寄生虫だって?
僕は国を守る為に鍛えているんだ。
何も考えていない寄生虫じゃない!
「さっきから何を黙っているんだ。自分の価値がそれ程あると思っていたのか?皆が無価値の中から精一杯、価値のある住民になろうとしてるんだぞ?」
「討伐隊の中で他の皆と何が違うのですか?」
「フリッツは覚悟が無さ過ぎる。一本勝負の模擬戦で騙されたからとか言うのは恥ずかしいから止めた方がいいよ。1回死んだんだよ。その後もう1回死んだの。模擬戦じゃなかったら違うとか言わないでよ。まぁ、隊長の指導が悪いから街長に報告しときますね」
「ちょっと待て!それは関係無いだろ。俺は今、指導してるんだからな」
「模擬戦したの私ですよ?討伐隊関係ないじゃないですか。そもそも、教師しながら孤児院にいる私に負けるような隊員がいる時点で減給ですよ。あらら…、街長に聞こえたみたいですよ」
「おい!逃げようとするな」
「クリスタもいい仕事をするようになったな。討伐隊で弱い奴は減給だよ。当然だ。私より弱い奴、全員減給な。公平だろ?隊長」
「そうですよ、全員減給です。訓練しても強くなれないなら、魔獣の肉を孤児院に寄付して下さいよ」
「名案だね。魔獣の討伐訓練しつつ肉の調達。そして、全員減給と。私に勝てると思ったらいつでも勝負を受けてあげるから声をかけな。クリスタ、お前は仕事に戻れ」
「はーい」
「ところでフリッツ。お前、クリスタに負けたのか?」
「はい。負けました」
「何故負けた?」
「弱いからです」
「ん?討伐隊に向いてないか?隊長、どうなんだ?」
「ぎりぎりです。でも、今の考え方では他の仕事も務まりません」
討伐隊に向いていない?
他の仕事も務まらない?
何故そんな話になるんですか?
クリスタさんに負けたのがそんなに悪いのですか?
「弱いから駄目だと言う事ですか?」
「お前は国から追い出されたいのか?かなり不愉快な事を言っているのを理解しているのか?」
「街長、討伐隊でパーティ組んでダンジョンに潜らせた方がいいかも知れません。こいつらの意識は言葉だけでは変わりません。先程クリスタに言われていても気付いていないのですよ」
何に気付いていないのですか?
僕が負けた以外に何も無かったじゃないですか。
模擬戦でクリスタさんに負けただけです。
「そうか。どいつもこいつも腹が立つな。授業内容を極秘に出来るならそれでもいいが大丈夫なのか?外に漏らすくらいなら殺した方がいい」
「その問題がありましたね。確かに他国に漏らすくらいなら殺した方がいいですね」
「信用もされていないという事ですか?」
「お前!報告書すら読んでいないな?腕と足を斬り落とされても話さないのか?呪いをかけられても話さないのか?洗脳されても話さないのか?隊長、こいつと同じ考えの奴はどれくらいるんだ?」
「こいつより弱い奴はいないと思いますが、同じ考えの奴はいるかもしれません。報告書を読む事を徹底してはいませんでした。強くなる為に必要無いと思っているのかもしれません」
報告書が何の役に立つのですか。
何か特別な情報が書いてあったのですか?
「すみません。報告書には極秘情報が記載されているのですか?」
「お前は何を言っているんだ?報告書には討伐隊がするべき仕事が記載されている。シャーロット様の行動が記載されているんだぞ。目を通した事すらないのか…。これは隊長の責任も重いな」
「フリッツ、お前はまさか自分たちが選ばれたから授業を受ける事ができたと思っているのか…」
そうじゃないですか。
シャーロット様に選ばれたから授業を受ける事ができた。
報告書に特別な事が書いてあるなら伝えるべきですよ。
「討伐隊は寄生虫じゃなくて害虫だ。シャーロット様が秘密にしてと言った理由も理解していない。教えてくれた理由も理解していない。隊長、何やってるんだ。甘えているなら腕を斬り落とすべきだ。剣を突き刺すべきだ。回復してもらえるんだからいいだろ?」
「俺もこいつがここまで馬鹿だとは思っていなかったので…。考えが甘かったですね」
秘密にする理由は危険だからって言っていたじゃないですか。
ちゃんと理解していますよ。
それに、そんな訓練は誰も付いていけません。
何故これまでの話で僕が馬鹿にされるのですか!
「最悪だ。本当に最悪な気分だよ。隊長、討伐隊の記憶消去か、喋ったら死ぬ呪いをかけてもらう。どちらがいい?これもシャーロット様頼みだが仕方ない」
「喋ったら死ぬ呪いでダンジョン探索が一番でしょう。ほとんど死ぬと思いますが、しょうがないですね」
何がそこまでいけないのですか?
訓練しているんです。
死ぬ訳がない。
元冒険者の何が特別なんですか。
冒険者を辞めて街に逃げて来ただけじゃないですか。
翌日、シャーロット様を連れて街長が来た。
「討伐隊全員集まっているな。4人パーティを作ってダンジョンに潜ってもらう。出発前に、シャーロット様に、魔力の扱いに関する事を話したら死ぬ呪いをかけてもらう」
「みんな大丈夫?本当にいいんだね?呪術。指定した言葉を話すと死ぬからね。気をつけてよ。言葉は【魔力】だから絶対に話さないで」
本当に呪いをかけてまで秘密にする必要があるのですか?
全く信用をされていないじゃないですか。
何が目的か僕には分かりません。
「全員ダンジョンの地下5階まで潜り、モンスターを討伐し体の一部を持って帰ってこい。地図に記してあるダンジョンなら好きな場所に行けばいい。仲間と相談しろ」
「「分かりました!」」
「どこのダンジョンに行きますか?」
「どこでもいいと思うけど」
「そうか。では、一番近い場所を目指そう」
「それで決定だな」
僕達4人で街の外に出た。
偶に魔獣に遭遇するが訓練をしているので問題ない。
普段と同じ要領で軽く討伐する事が出来る。
これならダンジョンも楽勝だ。
元冒険者と何が違うんだ。
「呪いまでかけられて、こんな簡単な事をする意味があるのでしょうか?」
「分からないが外の空気を吸う為の気分転換だろ?」
「油断はしない方がいい。まさか、呪いをかけられた理由も分かっていないのか?」
「街に戻るまで油断するなよ。敵は魔獣だけじゃないんだぞ?」
魔獣討伐も問題ない。
油断もしないし、十分対応出来ている。
呪いをかけられた理由なんて嫌がらせだよ。
もうすぐダンジョンだ。
全く問題ないじゃないか。
「つっ…」
「うっ…」
「攻撃を受けているぞ!大丈夫か?」
「油断するなと言っただろが!」
物凄い眠気に襲われる。
起き上がる事が出来ない。
何をされたんだ。
どこから声がするんだ?
「馬鹿だな。お前らは終わりだよ」
「本当に長かったよ。お前達みたいな馬鹿を待つのはな」
「分かりやすい奴がいて助かる。歩き方だけで、あの国の人間だと分かる」
「くそ、他国の人間か。油断するなと言ったのに…」
「2対3だ。ここを斬り抜けてダンジョンは諦めて帰還するしかない」
「おい、お前ら2人で勝つつもりか?相手の力量も判断出来ないのか?」
「話す意味は無い。俺達は仕事をするだけだ」
僕の意識があったのはここまで…。
現実は非常です。




