閑話 アンゼルム 結末
不合格者の考えに賛同している奴が多い。
獣人の里から俺たちが移住した結果、この国に問題を持ち込み過ぎている。
シャーロット様は問題解決する為には、躊躇わずに移住した獣人を全て飛ばすか殺すだろう。
それだけで解決する問題だから噂が広まるのを放置したに違いない。
ヴィーネ様が移住を推薦した責任を感じている為、手を出さないだけ。
娘の対応を見守っている母親だ。
今回殺された奴らは余りにも酷過ぎた。
テストを実施した責任としてシャーロット様が自ら手を下したのだと思う。
あそこまで殺気を出さなくても不合格者は死んでいたはず…。
俺たちに本来予定していたテストを見せるつもりだったと考えた方がいいな。
俺たちの対応もテストされている。
族長として問題なく部族をまとめる事ができるのかどうかを…。
約束の13時だな。
帰ってこない夫の心配をしている妻もいるみたいだ。
まだ何も話していないからな。
隊長とハーラルトと俺は既に待っている状態だ。
部族の者が全員集まったようだし始めるか。
俺から先に話すか。
ハーラルトに目線で俺が話すと伝える。
「まず、最初に言っておく。夫が帰ってこなくて心配している妻もいるみたいだが、国防軍のテストで不合格だった者は全員処刑した。理由はシャーロット様とヴィーネ様を侮辱したからだ。更に子供を戦争の為に鍛えていると吹聴して回った。拷問しなかっただけありがたいと思え。それで、お前たちを集めた理由だが、子供を戦争の為に鍛えていると考えている馬鹿がかなりの数いると分かった。処刑した奴らの考えに耳を傾けるような奴は殺してもいいと思っている。勿論許可は得ているぞ。獣人はいつから子供に守ってもらう種族になった?強くなった子供なら戦争で死んでも平気だという事か?お前たちのせいで獣人の里から移住した獣人は皆殺しにされそうなんだ。元々住んでいる獣人にな。何故殺されるか分からないだろ?教えてやる。このままだと、この国に獣人は必要ないと思われる。問題ばかり起こすし、お2人を侮辱し続けている。正直お前らを説得するのは面倒なんだ。二度目だし何も変わらなかったみたいだからな。意見があるなら聞いてやるから、真面目に考えてから口を開け。馬鹿な発言は昨日で聞き飽きている」
「どのようにお2人を侮辱したのですか?殺されるような発言をしたのですか?」
ああ、こいつの夫は昨日殺されたな。
本来なら同罪で処刑だが…。
「真面目に考えた発言がそれか?子供を戦争の為に鍛えているという考えが侮辱しているんだ。自分たちに都合のいいようにシャーロット様の考えを捻じ曲げている。誰がそんな事を決めた?授業内容にもないし、今まで聞いた事がない。移住した獣人だけが考えている。そして、テスト結果にも不満だったみたいだ。お前の夫が弱いのはシャーロット様の責任か?死ぬ可能性のあるテストに参加して不合格だったのに生きていたんだ。文句を言う筋合いはない。本来死んでいた奴が余計な事を言い触らした。だから、本来の形に戻しただけだ。お前が夫を口止めすれば死ななかったかもな。黙って夫の言う事を聞いて頷いていたなら同罪だ。処刑対象だが、お前も侮辱していたのか?」
「未来を考えれば戦争で戦うのは今鍛えている子供たちではないですか。何も間違った事は言っていません!」
こいつは自分の子供が戦うと考えて発言しているのか?
それとも、自分の子供は安全だと楽観しているのか?
お前は母親だろうが!
分からない…。
どんな気持ちで発言しているのか理解できない。
「そうか…、これだけの大人がいるのに鍛えるつもりのある奴はいないのだな。国防軍の再テストは受けず、子供に守ってもらいたいのか。獣人の里からお前たちを連れて来たのは失敗だったよ。処刑が決まったこの女と同じ考えの奴しかいないだろ?」
「やはりこいつらも駄目か…。俺たちも族長責任として記憶を消されて飛ばされるか殺されそうだ。こんなに不愉快な事はない。お前たちと一緒に里で暮らしたいとは思わないから皆殺しだ」
「おかしいじゃないですか!そんな横暴が許させるはずがありません」
「再テストを受けても死ぬだけじゃないですか!死ぬのが分かっていてテストを受けろと言っているのですか?」
お前らの言動や行動が横暴なんだよ。
それに、こいつらもテストでは死ぬと考えるだけかよ。
鍛えて挑戦する気はないんだな。
誰も彼も簡単に強くなれると考えている。
俺たちも同じだったが、国や部族を守るつもりがあった。
こいつらは簡単に強くなりたいだけで、他には何もない。
「再テストで死ぬなら今殺すのは止めてやるよ。俺たちも再テストを受けるんだ。分かっているのか?今のままでは死ぬのが分かっているのなら、死なないように鍛えればいいだろ。テスト内容は周知されているんだ。その女とお前は今日処刑する。他の奴はどうするんだ?」
「何故俺たちにだけそんな事を強要するのですか?他ではそんな事を言われていないはずです」
お前たち以外は子供に守ってもらいたいなんて考えていないからな。
そんな簡単な事も分からないのかよ。
「馬鹿な発言は止めろと言ったはずだ。お前たちは飛ばされるか殺されるから、この国に残れる方法を教えてやっているだけだ。もしかして飛ばされたいのか?俺たちが何の根拠もなく話していると思っているのか?」
「残るには子供に守ってもらうと考えなければいいだけのはずです」
その考え方が終わっているんだよ。
考えないのではなく守ると考えなければ意味がない。
「それで?どうやって考えないんだ?お前は子供に守ってもらおうと考えているんだろ?どうやって考え方を変えるんだ?」
「何も考えなければいいじゃないですか。誰にも守ってもらうつもりがなければ問題ないでしょ?」
何故この言葉に誰も反論しない!
もしそうなら、お前は既に死んでいるか奴隷だぞ。
「ヴィーネ様に守られ続けているのに、誰にも守ってもらうつもりがないだと?お前は国民を守り続けてくれているヴィーネ様を侮辱しているのか?」
「何故ですか?守って欲しいとお願いしていないじゃないですか!」
駄目だ…。
こいつは今すぐ殺す必要がある!
曲刀を抜こうとした時、上空から微かな声が聞こえた。
最初からこの言葉を聞かせたかったかのですか?
「ヴィーネ。これが教養のない人の考え方だよ。選別を変える?」
「うん…。移住した獣人の里の大人は今すぐ飛ばす。でも、この親たちの子供は捨てられたんじゃないかな?自分の子供を戦争の兵器として考えている。孤児院に100人増えるのは厳しいかもしれないけど、何とかならないかな?」
「ヴィーネは優しいね。そっか、孤児になっちゃったか…。異例だけど娘の頼みだから解決しないとね。授業中に急いで準備しちゃおう。とりあえず、目の前の大人は里に飛ばすよ。バイバイ。闇魔法、転移魔法。さあ、ヴィーネ。孤児院に行くよ!」
「ごめんなさい、母さん。転移魔法」
全員が飛ばされた。
ほとんどがシャーロット様の想定内に違いない。
会話の内容が予想できていたから2人で見学していたんだ。
ヴィーネ様の成長の為に。
それよりも、ヴィーネ様が謝って子供を国に残した。
シャーロット様なら子供も飛ばすと知っているからだろうか?
「ヴィーネ様の選別予定より飛ばされた奴が多いだろ?勘違いしている奴が多いが、選別で厳しいのはシャーロット様の方だ。お前たちも危なかったと思うぞ?最後の言葉に少しでも共感していたら飛ばされていたはずだ。全員消えたという事は共感していたんだろう。シャーロット様は国内の全てを把握している。ヴィーネ様に国民がどんな発言をするのか聞かせたかったのだろう。ヴィーネ様はこの国に害のある奴を弾くだけではなく、未来で害になりそうな奴まで弾いているんだ。犯罪者の拠点を多く潰す為に、わざと時間を掛けたりもしている。世界規模で犯罪者の動きを把握しているんだ。この国の大人は馬鹿ばかりだよ…。そこまで国の為に考えて守って下さっている人を恐れているのだからな。シャーロット様だったら子供も確実に飛ばしていた。100人も受け入れる余裕は孤児院にはない。それでも、娘の頼みだから受け入れたのだと思う。ヴィーネ様が私たちがいるのを気にしないで謝る程の異例だよ」
確かに、ヴィーネ様が言っていた選別で飛ばす予定の人数より多い。
この話し合いがなければ、かなりの人数は選別を逃れたはず。
シャーロット様は警告する事により、俺たちが部族の者を集めて話すのを促したんだ。
上手く説得できるならそれで良し、駄目なら問題を完全に潰す為に怪しい奴は全て飛ばす。
そして、飛ばす相手がヴィーネ様の選別より多くなる可能性を予想して一緒に見ていた。
感情が分かるヴィーネ様なら、その理由がよく分かるから。
シャーロット様なら子供たちも確実に飛ばされていたのか。
この問題をどのように解決するのだろう?
ヴィーネ様が謝ってまで部族の子供たちを残して下さった。
それなのに、族長だった俺は何もできないのが心苦しいよ…。
「俺たちもテストされていたのだろう。里で選別して連れて来たのは俺たちだからな。ヴィーネ様が責任を感じる程、移住しただけで問題を持ち込んだんだ。お2人がいなければ死んでいるか奴隷になっている事すら理解できない。飛ばされて当然だよ。まさか、ヴィーネ様が謝る姿を目にするとはな…。族長だったのに何もできないのが情けないぜ」
間違いなく殺されている。
奴らはそんな簡単な事にも気付けなかった。
挙句の果てに自分の子供を兵器と考えていた。
本当にどうしようもない奴らだ。
「勉強できる機会は十分にあった。命令をしたのは歴史の授業を受ける事だけだが、他の授業を受けなかったのは自分たちの判断だからな。シャーロット様は俺たちが命令をして授業を受けさせた事まで知っていた。この国でシャーロット様に隠し事をするのは不可能だな。奴らは守ってもらわなければ死んでいた可能性が高い。それなのに、勝手に守ってくれただけだから感謝する必要も無いといった感じだった。殺されなかっただけマシだろう。自分たちの言動や行動を後悔させてやりたいが、それができないのが残念だ。天国で神様を侮辱し続けた結果、地獄に落とされた事だけでも教えてやりたいぜ」
「その通りだが、地獄に落ちるのは時間の問題だ。あいつらでは里を守る事ができないから、殺されるか奴隷しか先がない。俺たちはこの国を守るだけだ。既に族長ではなく獣人の1人に過ぎないのだから」
その通りだな。
俺たちは国防軍としてこの国を守る為に秘儀を鍛える。
鍛えれば鍛えるほど少ない人数で国を守れるようになるのだから。
予想外のヴィーネのお願いです。




