閑話 マリアンネ 充実感と達成感(後半)
ヴィーネ様から選別の予告がされた。
内容を聞くと納得できる選別だと私は思う。
子供を戦争の為に鍛えていると考えている大人がいるのは知っている。
その考え方をシャーロット様が許せるはずがない。
何故歴史の勉強をしていて気付かない?
私でも分かる話だ。
土地神様に守ってもらえないなら子供に守ってもらう。
余りにもふざけた考えだ!
多くの獣人が移住した事で悪化した。
余りにも目立つようになった為、脅迫して改善も促しているのだと感じた。
ヴィーネ様の選別にしては優しいとさえ思う。
御自身が獣人の里に移住許可を出したのを後悔されているのかもしれない。
選別の予告の後に仕事の念話があった。
いつも通りの内容。
子供たちのお陰で日々成長している。
犯罪者に堕ちた冒険者に後れを取る事はないと思うが油断するつもりはない。
この国で対人戦の経験が蓄積されていくのを不思議に感じてしまう。
お2人に国防を任せ過ぎている為だと思う。
補佐として少しでもお2人の負担を減らしたいと考えている。
ヴィーネ様が対応している相手は常にいるのだから。
私が対応できる相手を回してくれているのだろう。
恵まれているし感謝の気持ちしかない。
あれだな。
商人風の男の後ろに冒険者が2人、3人で歩いてる。
2人ともAランクか…。
「そこの3人止まれ!既に目的は分かっている。大人しくこの国から退去しろ」
当然追って殺すけどな。
「私どもに何か不審な点でもございますかな?」
最初から素直に認める奴などいないからな。
こうなる事は分かっている。
「目的は分かっていると言ったはずだ。誰から人魚がいると聞いた?」
大体これで終わる。
目的が露見していると理解するからだ。
逃げるか戦うか。
まだ検問所からそれ程離れていない。
こんなにも多くの冒険者がこの国の事情を知らないのが不思議だ。
アリスターは失脚しているのかもしれない。
この国の怖さを理解しているのだから。
「俺たちが相手をしますよ。少し下がってて下さいや」
「相手は女1人。軽いですよ」
「頼むぞ!成功報酬は約束する」
成功報酬か…。
内容を知っているだけに不愉快だな。
「1つ聞きたい。今の冒険者組合の所長はアリスターではないのか?」
「死人と会話する気はねーよ!」
街を血で汚さないようにするのが苦労するよ。
本気で殴ってしまえば弾け飛ぶ事は最初の仕事で分かった。
緊急ボタンを押してヴィーネ様に掃除してもらった程だ。
とても申し訳ない気持ちになったよ。
「そうか…」
冒険者2人とも短剣を主武器にしている。
ダンジョンに潜っているのではなく、暗殺などの仕事が多いのかもしれない。
ますます不愉快だ!
急速に接近し左の男の股間を右足で蹴り上げる。
潰した感触はあったし、白目を剥いているから気絶したな。
右足を地面に着けると、右の男の腹部に左足で後ろ回し蹴りを叩きこむ。
まだ動くなら追い打ちをかけるが、2人とも止まったな。
「ああー!何をしている。たて、たて、早く立てー!」
商人風の男に急接近し鳩尾に右拳をめり込ませる。
踏み潰された蛙のような声を発して、泡を吹いて前のめりに倒れた。
気絶してようが、激痛で動けなかろうが関係ない。
結末は一緒だからな。
こちらを見ていた検問兵が荷車を引いてくる。
「いつもすみません。我々が見過ごしてばかりで…」
「気にするな。ヴィーネ様からの連絡が無ければ私も分からない。いつも荷車を悪いな」
3人を荷車に乗せると、国から少し離れた場所まで引いていく。
血の跡は残っているが死体は無いな。
いつも同じ場所で殺しているが魔獣や獣は綺麗に食べてくれる。
ハイエルフや獣人の子供が攫えなくなれば次の獲物を探す。
冒険者と名乗るのは烏滸がましいと思う。
偽勇者が使っていた魔石の剣を国内で抜いた事はないな。
エルダードワーフに研いでもらった事で驚くほど切れ味が上がっている。
冒険者のプレートを奪い、3人の首を切断する。
街長の時はシャーロット様にこんな仕事をさせ続けていたんだな…。
今更だが本当に私は愚かだ。
時間を問わずに侵入を試みる密偵の処理に比べたら楽な仕事だ。
私がこいつらを殺す事で子供たちは汚い血を見る事もない。
大切な仕事だと思う。
荷車を検問所に返すと補佐室に戻る。
報告書を記載した後に緊急用ボタンを押す。
「補佐室にいるのに何かあった?」
「はい。プレートの数が100個溜まりました」
初めて補佐室に入った時にヴィーネ様から念話があった。
プレートの数が100個以上になったら教えて欲しいと。
「マリアンネが補佐になってからすぐだったね。一緒に行く?」
「はい。最期を見届けたいと思います」
「最期と決まった訳じゃないけどね。まあ、行ってみよう。転移魔法」
冒険者組合本部の組合長室に移動した。
組合長はアリスターのままだったか。
以前の私と重なって見えてしまう。
「やあ、組合長。今日は君に会いに来たんだ。私の事は知らないよね?エルヴィンたち冒険者を返してあげた神国シェリルの国長だよ。よろしくね」
「国長殿とマリアンネか…。何か用がありましたか?」
街長から逃げた時の私と一緒なのか…。
表情がそれを物語っている。
「マリアンネ。渡してあげて」
「かしこまりました」
プレートが詰まった箱を渡す。
「お前は冒険者組合から膿みを出すと言っていたな?手伝ってやったぞ」
「そろそろ摘出を考えているんだけど、どうかな?」
ヴィーネ様は冒険者が全員膿んでいると考えておられる。
今の時代は間違っていないのかもしれない。
いや、私の時代も変わらないか。
シェリル街に押し寄せた奴らはほとんど飛ばされたのだから。
「できるのですか?俺は疲れました。このプレートの冒険者たちが何をしたのか断言できませんが、人攫いではないですか?Sランクがギルドを作り、商人などから直接仕事を受ける。組合本部を通した人攫いの仕事は一度も無いですからね」
「記憶を覗かせてもらうよー」
ヴィーネ様はアリスターを念力で固めているのだろうか?
手を頭の上に置いて記憶を覗かれている。
「君は頑張って防ごうとしたみたいだね。それを邪魔だと思った冒険者が組合を介さないギルドを作り、組合を通した仕事は激減した。これは止められないね。昇格した冒険者は次々とギルドに引き抜かれているみたい。ここに人が少ないのもそれが理由だね」
「その通りです。A、Bランクまでは頑張る奴が多いですけど、簡単に引き抜きにあう。人攫いを割りのいい仕事だと考える。最初から膿んでいるんです。冒険者組合は膿みを増やすだけの組織ですね」
元々一獲千金を狙って冒険者になる奴が多い。
ダンジョンに潜るより割のいい仕事があれば靡くだろうな。
しかし、ダンジョンで腕を磨いて人攫いか。
ハイエルフと獣人の子供を攫っていた時と何も変わっていない。
終わっているな。
「そっか。君は許してあげるよ。じゃあ、人攫いの依頼を受けたギルドは殲滅するね。闇魔法。建物ごと綺麗にしたよー」
国に来た犯罪者の拠点を全て把握されていたのですね。
世界を視ているヴィーネ様が、小さな人間の動きまで記憶している。
まさに世界最強ですね…。
「人攫いをしようとした冒険者が拠点にしていた場所を全て潰したのですか?」
「死体を残すと面倒でしょ?だから消したよ。君はどうしたいの?」
「この方はシャーロット様の御令嬢だ。竜王様も認める世界最強だよ。言いたい事があるなら言っておいた方がいいぞ」
「それ程ですか…。家族と共に神国シェリルに移住する事は可能ですか?仕事は私にできる事であれば何でもします」
「ふーん…。税理官をしてもらおうかな。組合長をしていたんだから計算とかできるよね?あと、夜の学校に通うのは必須ね。学校は勉強する所だよ。その条件を飲めるなら移住してもいいよ」
「税金をどのように使うか決める場所だ。シャーロット様とヴィーネ様がいる限り犯罪は不可能だし、住民は税金を誤魔化さない。私では目的を持った税金の配分はできなかったが、お前ならやりたい事が見付かるかもしれないな」
「新参者をそのような仕事に就けていいのですか?国のお金を動かすのですよ?」
「新しい意見が入っていいと思うよ。今まで悪い事もしていないみたいだし、これからもしなければ十分だよ」
「良かったな。ヴィーネ様の推薦だから絶対に悪いようにはならない。後は自分次第だ」
「そうですか…。では、その仕事を頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
「決まったね!ここが最後の冒険者組合だけど残しておく?」
本部以外は全て潰したと言う事ですね。
組合支部は人攫いを斡旋していたのか。
本部からどれだけ声を上げても無視されたのだな…。
「消して下さい。後を継ぐ人もいませんし、新人も減りましたから」
「建物の中に何人かいるけど、一緒に消しちゃえばいいの?」
「どこかの国に飛ばしてくれませんか?根無し草しかおりませんから」
「分かったよ。じゃあ、狼王の国に飛ばしちゃおう。転移魔法。君の家族も呼ぶよ。召喚魔法」
私と同じ子供2人か。
親なら人攫いを許せるはずがない。
それでも止められなくて諦めていたのか。
本部の組合長が努力し続けても止められないんだ。
組織としての終わりを迎えたのだと思う。
「説明は後でしてあげて。転移魔法」
神国シェリルの噴水前に移動した。
「中央で働くから近くに家があった方がいいよね。ちょっと待ってて」
ヴィーネ様はそう言うと飛んで行ってしまった。
「昔馴染みだ。私が税理官の仕事と家の説明と学校の説明をしよう。子供も大人も無料で学校に通って勉強できる。家は説明を聞いて驚く事になると思うが楽しみにしておけ。税金は収入の1割だ。家はヴィーネ様の紹介だからただで貰える。運が良かったな」
「ああ、もう別世界に来た気分だ。説明が楽しみだよ」
突然連れて来られたのに子供たちは興味津々だな。
奥さんは驚いているのか怖がっているのか分からない顔だ。
冒険者組合はなくなってしまったが後味は悪くないな。
シャーロット様に紹介して頂いた補佐の仕事は充実感と達成感を満たしてくれています。
必要になれば誰かがまた組織するでしょう。




