閑話 ジェラルディーン 予測から確信へ
古代種ドラゴンは産卵する時、ダンジョンの地下深くに潜る。
星の地熱で卵を温める必要があるからだ。(楽する為に)
私たち姉妹は双子だった。
ドラゴンは卵から孵ると、すぐに能力を発揮出来る。
私たちは古代種ドラゴンの中でも異常に強かった。
姉は目の前にいた親を殺した。
その後、目に映る全ての生物を楽しみながら殺していった。
異常者だと素直に感じた。
姉が殺す生物は魔人だろうが魔物だろうが関係なかった。
殺す相手を選んではいない。
当時の魔王も殺している。
私だけが対象外だった。
ダンジョンは瘴気に溢れている。
時間が経てば魔人も魔物も生まれる。
それを、姉は喜んでいた。
しかし、姉はダンジョンでの殺戮に飽き始めた。
地上に出ると言い出したのだ。
私は姉を封印すると決意した。
地上の生物はダンジョンと違う。
姉が出たら全ての生物は殺戮されると考えた。
私と姉は双子だ。
多く殺したから強くなれる訳じゃない。
結界を使用して姉を拘束する。
その時、初めて姉の殺意が私を襲う。
産まれて初めての戦慄を味わう。
しかし、私たちは同格だ。
結界を破ろうとする姉を封印する事が出来た。
ダンジョンの最奥に封印した姉を残し私は地上に出た。
長い歳月を暇な時間として過ごした。
誰も私の火の息すら防げない。
地上の生物は弱過ぎた。
そして、シャルと出会う。
楽しんで勝負をした。
殺し合いをしている訳では無い。
1回も勝てていないが別に良かった。
勝負の後はお酒を飲みながら話し込んだ。
その時間が大好きだった。
でも、小さな事に縛られているシャルを解放してあげたいと思った。
だから、村や街を破壊するような勝負をした。
同族だろうが他種族だろうが、殺し合いばかりする地上の生物達。
それを守る為、同じ場所に留まり続けるシャルを自由にしたかった。
結果、今回はやり過ぎた。
シャルが頑固だから絶対に避ける攻撃を放った。
シャルが真祖なのは知っている。
人の血を使い力を抑制しているだけだ。
見れば分かる。
問題はそこではない。
本来なら真祖の力を解放しても防げない攻撃だ。
500歳程度のシャルでは絶対に防げない攻撃だった。
しかし、シャルは真祖の状態で血を使った。
過去に聞いた話では、シャルには人間の血だけしか入っていない。
真祖が人間の血の力を使っても、弱くなる事があっても強くはならない。
しかし、私に戦慄が走った。
この感覚は姉の力だ。
シャルに姉の血が入っている可能性がある。
500年しか生きていないシャルに姉の血が入っている。
今回の攻防は人間の血と姉の血を上手く使い、シャルが私の攻撃を防いだ。
奇跡的な結果だと思う。
そして、私は考える。
今までシャルから聞いた話では、シャルは人間の血を欲しがっている。
真祖が血を欲しがる事は無い。
自分より弱い生物の血を入れても役に立たない。
この世界で真祖より強いのは、私たち姉妹しかいないと思う。
真祖の力に姉の力を足せば最強だろう。
そして、姉の性格を考える。
殺戮衝動により動いていた姉が、真祖の赤ん坊を見つけた場合。
姉が自分自身と殺し合いを楽しみたいと考えた場合、真祖は最適だ。
真祖の赤ん坊に姉は自分の血を飲ませ時限封印し、解除と同時に地上に転移するように魔法を仕込んでいたらどうだろうか?
封印した理由はダンジョンの他の生物から守る為かもしれない。
ダンジョンで自分が殺す相手を減らされると考えたかもしれない。
地上に出ようとしたのは血を与えた真祖と、殺し合いを楽しみたかったからではないだろうか?
姉の考えは分からないが、その可能性を考える。
封印を5000年で解除出来ると考えた場合、赤ん坊の時限封印も5000年に変更する可能性がある。
ドラゴンも吸血鬼もそうだが長命種は歳を取ると強くなる。
殺し合いを楽しみたいのに相手が強くなり過ぎていては蹂躙されて終わる。
だから、自分が封印される前に真祖の封印の延長をしたのかもしれない。
強くなった私が姉の封印を重ね掛けする事は、想定していなかったのだろうか?
姉の封印は未だに解けていない。
解くつもりもない。
しかし、赤ん坊は封印が解け地上に転移する。
偶然人がいたのか、一番近くにいる人を目標に転移させたのかは分からない。
吸血鬼は飲んだり吸ったりした血を、自分の力として使う事が出来る。
相手が強ければ強い程、血の量は多く必要になる。
姉から与えられた血の量では力を十全に発揮出来ない場合、さらに血を欲しがる。
それは吸血鬼の本能だろう。
しかし、赤ん坊は飲んでいる血が姉の血か、人の血かまでは分からない。
ただ、本能として喉が渇くから血を飲むだけだろう。
原因が姉の血だ。
人の血で渇きを潤そうと思うと、相当な量が必要になると思う。
そこでシャルの話と繋がる。
20年くらい後からの記憶しかない。
最低でも20年、人の血を飲み続けたと思われる。
喉の渇きが収まった為、意識と記憶が繋がった。
理性が本能を上回った結果だろう。
シャルには2人の血しか入っていないと思う。
多くの人の血を飲ませ続けて喉の渇きを潤していた場合、今回のような事にはならない。
人の血だからと1つにまとめる事など出来ない。
今回の現象は姉の血の力を、人間の血が抑えた事になる。
姉の血を抑えれる量の人間の血が、シャルの体には入っている。
とんでもない事だ。
1人の女性が吸血鬼に20年もの間、血を飲ませ続けたのだから。
それだけではない。
吸血鬼の知識があったシャルの母は血を与えながら、人間の血を使う事を教える。
真祖として姉の力を使い、殺戮を楽しむ場面を見た事もあるはずだ。
それでも育てる事を止めず、自分の血を与え教え続けた。
結果、姉の血は使われる事が無くなった。
今回の勝負、私の攻撃を見たシャルは理解した。
このままでは守る事が出来ないと。
そして、血の力を使った。
結果、姉の血がシャルを侵食するが人間の血で踏みとどまる。
十全に入っていないとはいえ姉の血を人間の血が止めたのだ。
私は感動すら覚えた。
どれほど愛されていたのだろうか?
シャルがあの場所にこだわり続ける理由が分かった。
街はついでに守っているのだろう。
母親のお墓の近くにいたいだけだと思う。
邪魔されたくないから社の周りに家は無い。
ん?
シャルが海上で真祖の力を解放している。
自分の中に眠る血の力に違和感を覚えた可能性が高い。
私は転移してシャルと話す。
やはりシャルの体には姉の血が入っている。
予測が確信に変わる。
2人の血だけしか入っていないのも間違いない。
姉の血が入っているから、私をお姉様と呼ぶように言って戻って来た。
シェリル。
その名前を私も胸に刻もう。
シャルに守られる街の住民じゃない。
シャルを守り、育て続け、愛し続けた偉大な人間の母親だ。
シャルの母の深い愛情に感動するジェラ。
ジェラの姉の考えは予測通りでしょうか?




