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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第3章 神国シェリル

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閑話 アンゼルム 現実

隊長の言葉を理解するのに時間が掛かってしまった。


ハーラルトが勧めてくれた訓練は本当に地味だ。

秘儀で強くなれるのに体を動かす事なく毎日が終わる。


物足りない気持ちにさせられた。


だが、魔力を見る事ができるようになった。

時間は掛かったが、ようやく初歩の入り口にたどり着けたようだ。


「ハーラルト、これで初歩を卒業したと言えると思うか?」

「そうじゃないか?ここから手や足に魔力を集めるのが次の段階だと思うぞ」


「そうか。やっと歩き出せるな。追い付くとは言えなくても目標とは言ってもいいだろ?」

「そうだな。目標にはするべきだと俺も思う。強くなりたくない男はいないだろ?」


その通りだぜ!

そして、それを実現する為にもっと秘儀を知る必要がある。


俺は平日の仕事を早く切り上げ、子供たちの鬼ごっこを見続けた。

隊長に言われた魔力の動きを見たかったからだ。


誰を目標にするんだ?

本当にどれだけ甘えていたんだ!


そこには、俺が想像していたような優しい世界は無かった。

普通に見たら運動能力が物凄く高い子供たちが遊んでいるだけ。


現実は全く違った。


魔力を全身に延ばして終わりではない。

手や足にどれだけの魔力を溜めるのか動作により違う。


数えきれない程の訓練をして最適な魔力配分を探したに違いない。

細かく調整しているのが見ているだけで伝わってくる。


次の段階が魔力を溜めるだけ?

乾いた笑い声すら出ない。


ここまで魔力を動かしている子供たち、それでもクリスタ先生との差は歴然だ。

クリスタ先生はどんな魔力の動かし方をしているのだろうか?


一瞬で魔力を動かすとは聞いたが自分の目で見た事がない。

一瞬とはどんな速さだろうか?


純粋な気持ちで孤児院を訪ねた。

カーリンさんが入り口近くにいたのでクリスタ先生を呼んでもらう。


「クリスタ先生にお願いしたい事があります。少しの時間でいいので魔力の動きを見せてくれませんか?」

「おおー!魔力が見えるようになったのですね。少しだけですよー」


全身が常に光っている。

意味が分からない。


「全身を魔力で満たしているのでしょうか?全身が光って見えますので…」

「異常者だと言われましたからね。少し速くしたのですよ。じゃあ、今から子供たちが異常者だと言っていた速さで動かしますね」


全身が光って点滅している。

本当に意味が分からない。


言葉通りなのだろうか?

魔力を動かしているから点滅するのだろうか?


「全身が光って点滅しているように見えます。魔力を動かしているから点滅するのでしょうか?」

「うーん…。いつもしている鍛錬とは違うけど分かりやすい動きにしますね」


分かりやすい動きとは一体なんだろうか?

クリスタ先生の魔力の動きに集中する。


えっ?

動かしたと言えるのか?


結果だけしか俺には見えない。

手や足に魔力を溜めてくれている。


しかし、魔力を移動させた形跡が全くない。

隊長の言葉通りじゃないか。


見えない速さで動くから、魔力も見えない速さで動かせる。

子供たちが片手だけ一瞬で魔力を溜める訓練をする理由が良く分かった。


基礎力の次元が違い過ぎる!


「ありがとうございました。とても勉強になりました」

「真面目に訓練するなら殺そうとしないので安心して下さいね。あの後に、私に会いに来たのだから真面目ですね」


クリスタ先生に一礼をして孤児院を後にする。


クリスタ先生は魔力を動かしていなければ普通の女の子だ。

年相応の人間の女の子にしか見えない。


基礎力が化け物だ。

覚悟も違い過ぎる。

全身が弾け飛ぶ鍛錬をしている異常者だと言った隊長の言葉が良く分かった。


ここまで現実を思い知らされるのか…。

あの時の授業が身に染みるようだぜ。


クリスタ先生に追い付くと言うだけで秘儀を侮辱していると思われる。

追い付くと言っていた俺は間違いなく侮辱していたんだ。


自覚のない侮辱だ。


何も見ていないのだから自覚できる訳がない。

そんな奴が一番上にいる人に追い付けると自信満々に言っている。


鍛えている人からしたら不愉快で仕方がないだろう。

秘儀を侮辱し、命懸けの鍛錬を侮辱しているのだから。


秘儀を鍛えている全員を敵に回す発言だった。


誰でも国防軍を皆殺しにできる。

あの授業は紛れもなく俺たちを殺されないようにする為のものだったんだ。


シャーロット様をこの国で侮辱し続けて生きていける訳がない。

秘儀はシャーロット様が命懸けで生み出した技術。


誰でも知っている常識だ。


秘儀の侮辱はシャーロット様の侮辱と受け取られる。

それは、授業でも習うし当然の事だと思う。


孤児院から帰る途中、現実をすぐにでもハーラルトに伝えたくなった。

仕事終わりのハーラルトが帰ってくるのを待つ事にした。


少し待つだけで会う事ができた。

タオルを肩にかけて少し疲れた顔で歩いてきた。


「待ってたぜ、ハーラルト。俺たちが目標にするのは子供たちだ。追い付けたのならその先を考えればいい。クリスタ先生は化け物だ。子供たちに追い付くのも相当困難だ。甘過ぎたよ。言葉で聞くのと目にするのでは全く違う。俺は鬼ごっことクリスタ先生を見てきた。両方とも桁違いだ。隊長が子供たちを見るだけで教えてもらおうと考えるなと言った意味が良く分かった。俺たちには教える意味が無いんだ。子供たちの魔力の動きを再現できない。子供たちは躊躇なく物凄い早さで魔力を溜め、更に動きに合わせて最適な配置に変えている。訓練の結晶が全力鬼ごっこに詰まっていたんだ。クリスタ先生は一瞬だ。文字通り一瞬なんだ。魔力の動いた残像すら見えないし何も分からない。結果だけしか見る事ができない。俺たちは魔力を手に溜める訓練をする予定だろ?子供たちもクリスタ先生も遥か彼方だよ。今の俺は秘儀を覚えたばかりの奴が子供に追い付くと言っていても、秘儀を侮辱していると思ってしまう。早い内に自分の目で見るんだ。それを伝えたかった」

「お前をそこまで追い詰めるのか…。分かった明日にでも見に行く。クリスタ先生は見れるか分からないが、子供たちの鬼ごっこは必ず目に収める」


魔力を闇雲に動かして運動能力が上がるのを鍛錬していると勘違いしていた。

あるかのも分からない秘密を探す意味のない事を続けていた。


馬鹿な真似をするのはもう終わりだ!


魔力を手に溜めて戻す事を繰り返す。

子供たちの魔力の動かす速さに少しでも近付ける為に。


手に溜め続ける事で痛みを感じる時が破裂する予兆だと思う。

授業の通りだな。


何という無駄な遠回りをしていたんだ。

頭が悪過ぎるだろ!


翌日の夜にハーラルトが訪ねてきた。

「よお、お前の言った通りだった。甘え過ぎていた。殺されてもおかしくない程に秘儀を侮辱していた。子供たちがあれ程の速さで魔力を動かしているとは想像もしていなかった。目に見える速さだがそれでも速い。動作の繋ぎ目をほとんど感じない程の速さで魔力を動かす。そして、ただ溜めるだけではなく、配置まで考えている。桁違いだよ。目標は子供たちだな。一番下から鍛えるつもりだったが、次が遠過ぎるぜ。笑えるほど初心者に優しくないな」

「本当にそうだな。再テストまで半年あるんだ。手が破裂する予兆は分かるようになった。その恐怖を毎日感じながら訓練を続けるしかない」


「そうだな。いつでもできる訓練だ。どんな時でも訓練する。それを当たり前の日常にする。やっと授業中に習った事を実践できる」

「ああ、授業内容をやっとできる。ここからだ。再テストは絶対に合格する!」


そして、祭りがあった。

シャーロット様の始まりの合図と共に、国中に広がる無数の魔方陣から降り注ぐ回復魔法の光。

知識として知ってはいたが、実際に目にすると神様だと思わずにはいられない幻想的な光景だった。


土地神様として崇められているのも当然だと思う。


それを抜きにしても、この国の祭りは凄い。

こんなに華やかで活気のある祭りは初めての経験だ。


セイレーンの歌声がこんなにも素晴らしいとは知らなかった。

里長だったのに知らない事ばかりだな…。


そして、土地神リンゴ飴がどうしても気になったから食べたが美味過ぎる。

土地神リンゴ飴と土地神りんご酒だけで十分に祭りを堪能できるぜ。


翌日、隊長に呼び出された。

祭りの次の日に呼び出しとは何かあったのだろうか?


ハーラルトと並んで集合場所に向かう。

「最近の俺たちに問題は無いと思うが、何だと思う?」

「分からないな。祭りの次の日というのが特に分からない。何かあったのか?」


お互いに色々と話しながら集合場所に到着する。

皆の顔つきが変わっているな。


秘儀の訓練を始めたから良く分かる。

真面目な顔をしていも、魔力を見ればそいつの日常が見える。


クリスタ先生の言った通りだ。


あれだけ説教された後でも何も感じていないのか?

それとも、自分は特別だとでも思っているのか?


一応国防軍だが再テストを控えているんだ。

本当の仲間だと思う必要はない。

無駄な時間を使うつもりはない。


子供たちが感じたであろう気持ちが少し分かった。


隊長は全員が揃ったのを見ると訓練場に向かった。

隊長の次にいた俺はすぐに目に入った。


訓練場は殺戮現場の跡にしか見えない。

ここで何人死んだんだ?


クリスタ先生が誰かを処理した跡だろうか?

これくらいの事は平気でできると分かっている。


心が折れる事はない!


ん?

隊長が声を出している。

何を言っているんだ?


どういう事だ?

隊長はクリスタ先生が死を体験したと言っている。

訓練場を血に染める程の数、クリスタ先生は死を意識するような激痛を耐えたのか?


そんな相手はこの国にいない。

シャーロット様やヴィーネ様がクリスタ先生を血塗れにするとは思えない。


混乱する頭を落ち着かせようとしていた時にヴィーネ様が現れた。

そして、現場の説明をしていただけた。


この血に染まった地面がクリスタ先生の訓練の跡だそうだ。

相手は竜王様の姉。

訓練の後は竜王様と組手。


俺が祭りを堪能していた時に地獄の訓練か…。

しかも、相手は竜王様。


祭りの日の昼から夕暮れ前まで笑顔でやり遂げた。

この技術が生まれる為に必要だった痛みを少しでも知りたかった。

本来は痛みを知らない私が使っていい技術ではない。


覚悟で竜王様に勝つ人間の女の子。

俺は何も分かっていなかったようだ…。


獣人の里にも秘儀と呼ばれるような技はあった。

生み出す為に先人の並々ならぬ心血が注がれている。

命懸けの鍛錬が必要なものも当然ある。


秘密を漏らした者は処刑される。


国防軍に入って秘儀を教えてもらい、獣人の里にあった技はどれも必要ないと感じた。

シャーロット様が秘儀を生み出す為に命懸けだったという話も知っていた。


俺は秘儀を習得する為に必要な痛みを知らない。


覚悟が違う。

基礎力も違う。

全身が弾け飛ぶ鍛錬をしている異常者。


見た目は普通の女の子。


人を見る目がないにも程があるな…。

血塗れの訓練場を見ながら殺意が芽生えた。


秘儀を教えてもらい、強くなる為の秘密を探していた。

秘密を知ればクリスタ先生に追い付けると考えていた。


過去に戻る事ができるのなら今すぐ殺しに行く。


理由は1つ。

秘儀を侮辱しているからだ!

この国で秘儀を侮辱する罪深さを知りましたね。

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