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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第3章 神国シェリル

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閑話 クリスタ 譲れない思い

ジェラルシィーナ様との訓練は本当に痛かった。

いいえ、痛かったという言葉で表現するのは生易しいと感じた。


毎回意識を失いそうになるほどの激痛。

シャーロット様は何回この痛みを耐えたのだろうか?


私たちの魔力の動きを見て、破裂する危険があると分かれば即座に止められる。

つまり、私たちの為に必要のない痛みを相当回数耐えている事になる。


絶対に死ぬ訳にはいかない。

笑みを絶やす訳にもいかない。


やっと秘儀を使う権利を得たのだから。

今までは仮免許だった。


痛みを知らないのに秘儀を使う自分が許せない。

だから、絶対に生きて使いこなしてみせる。


・・・・。


何回破裂したのかな?


数えてられなかった。

余りの激痛に意識が朦朧としていた気がする。

でも、笑みを絶やす事なく攻撃を続ける事ができたみたい。


休憩はできない。

今のは訓練だったのだから。


ジェラルディーン様との約束の組手をまだ終えていない。

魔力を整えて万全の体制にする。


痛みの記憶は全く消えていない。

腕や胸や脚が破裂する幻覚と激痛に襲われる。


でも、笑みは絶やさない。

秘儀でシャーロット様を悲しませる事は絶対にしない。


訓練は無事終わった。

組手も無事終わった。

それなのに、シャーロット様の言葉で涙が出てしまった。

見られないように急いで走って孤児院を出たけど意味がないよね。


シャーロット様は見ていない振りをしてくれると分かっている。

分かっているけど恥ずかしいね…。


いつものようにシャーロット様に送り出してもらった。

孤児院の大人たちは土地神リンゴ飴と土地神りんご酒を買っていつもの場所に座っている。


恒例の信者からの尋問会だよ。

今日は疲れているんだけど参加しないとね。


「クリスタ、あなた大丈夫なの?流石に疲れが見えるわよ」

「大丈夫よ。シャーロット様に送り出してもらって疲れているから寝ますとは言えないでしょ?」

「あなた、それで中立派とか言っているからおかしいのよ。完全に信者じゃない」

「本当ですね。信者の考え方です」

「お祭りなんだからどっちでもいいじゃない」

「私はまだ良く分からないお話です」


クリスティーネが信者に染まってしまうわ。

だけど、今日は言葉が出ない。


「クリスタに聞きたい事があるの。あなたの言う中立派って秘儀と関連しているわよね?」

「へー。カーリンがそんな事言うんだ。先にレナーテに言われると思っていたよ」

「私は敬虔な信徒です。シャーロット様の思いを無視する訳にはいきません」


そうよね。

レナーテは無視できない。

分かっているからシャーロット様の目指した形にしようとする。


「どういう事なの?秘儀と中立派が関係あるのかしら?」

「あるわよ。信者では絶対に中立派に勝てない。断言してあげるわ。カーリン、どうするの?」

「やっぱりね。あなた何をしているのよ。シャーロット様の思いを無視してまで自分を追い詰めているじゃない。そこまで追い詰めてしまえばシャーロット様は悲しむわ。分かっているでしょ?」


分かっているわよ。

今日否定されちゃったけどね。

でも、私は自分で決めた事を守り続けるだけ。


「分かっているわ。それでも無視したの。許せないのよ!秘儀の可能性も知らずに使う馬鹿を見るのは。もっと許せないのは努力をしない馬鹿。私は秘儀の限界を見せ付ける事にしたの。絶対に失敗するつもりは無いわ。そして、失敗をしていない。だから、今の私がある。レナーテはシャーロット様が設定した秘儀を追求するのでしょ?カーリンはどうするの?」

「あなた、私の想いを知っていて何故そんなに追い詰めるの?何故そこまで行ってしまったの?あなたと私の何が違うの?シャーロット様に対して同じ思いを抱いているはず。何故あなたは無視したのよ?」


「カーリン。私はあなたよりシャーロット様が大好きなのよ。信者ではないけど土地神様だと思っているわ」

「なるほどね。そういう事をシャーロット様に対してしているの。そんな事を思っているのはあなただけじゃないわ!みんな我慢しているけどあなたは突き進んだのね。訓練したのよね?どこまでたどり着いたの?」


カーリンは気付いちゃったか。


そうなんだよね。

秘儀をある程度訓練すれば誰でも気付く。

そして、伝えたいけど我慢をする。

シャーロット様の意思を尊重する為に。


「私は秘儀の到達点。人間の限界にたどり着いた。追い越すのは不可能よ。追い付くのは可能だけどね。信者では追い付けない。カーリン、私に追い付きたいのであれば信者を辞めなさい。その覚悟があればの話だけどね」

「クリスタ、あなたはそんな場所にいるの?私では想像できないけどカーリンやレナーテは想像できているのね。私はまだまだ未熟という事ね」

「私はシャーロット様の教える予定だった秘儀を目指します。だから、残念ですがクリスタには勝てません。ですが、私はそれでも満足です!」


レナーテはそれでいいよ。

教師としても生徒に私がしている事は教えられないのだから。


ところで、何故土地神りんご酒を一気飲みするのかな?

何かの儀式なの?


「クリスタ、あなたは勘違いをしているわ。私の方がシャーロット様を大好きなのよ。もともと形にこだわるつもりは無かった。孤児院を守れるならそれで良かった。でも、あなたが私よりシャーロット様を大好きだと断言するのだけは見過ごせない。それだけは譲れないわ。今から鍛錬の形を変える事にする。秘儀で互角まで追い付いた時、シャーロット様を世界で一番好きな私が勝たせてもらう。力が互角でも気持ちで負けない。私はあなたに負けられないのよ!」

「その時を待っているわ。カーリンは私に追い付くと言える程の鍛錬をしているけど足りない。分かっているわよね?絶対に失敗は許されないわよ?」


カーリンが私に負けたくない理由は2つある。

当然それも分かっている。


私は2人の想いを無視した事になるわね。


カーリンには酷い事をしてしまった。

でも、後悔はしていないから。


「分かっているわよ。失敗したら何が起きるのかも想像できる。それだけは許されない。失敗するくらいならレナーテを目指すべきなのは十分理解しているわ。それでも、私はあなたに並ぶわよ。理由なんて1つで十分。私の方がシャーロット様を大好きなのよ!」

「分かっているならいいわ。そうなのよ。理由なんて1つしかないのよ。せっかくだから皆にも教えてあげるわ。私とレナーテの大きな違い。シャーロット様の理想を無視するか体現するか。信者も中立派もどうでもいいのよ。私に並びたいなら無視するしかない。シャーロット様はどちらの考えも否定しない。私が許されているのがその証拠よ。レナーテの強さで十分過ぎる。私の強さは過剰。当然だけど桁違に危険よ。鍛えた先で選択肢を迫られる時が来る。私はどちらも否定しない。強くなりたいと思っていないのだから」

「え?クリスタは強くなりたいと思っていないのにそこまで強くなったのですか?」


「クリスティーネ。秘儀をある程度鍛えると強さなんてどうでも良くなるの。本当の事よ。あとは自分の心で決めるだけ。道は3つ。途中で鍛えるのを止める。レナーテの目指している道。私の到達した道。レナーテと私が鍛える理由は変わらないのよ。あー、今日は疲れているから本音で話してしまうわね」

「本当ね。分かっていたけど叩きのめして言わせたかった。叩きのめす理由が変わったわ。私の方がシャーロット様を好きだと証明する。負けましたと言わせるわ。私が鍛える理由はそれだけよ。ビアンカとチェルシーはもう少し時間が掛かるわ。その時に自分で決める必要がある。クリスティーネは魔法を鍛えたいのであれば秘儀をもっと鍛える必要があるわよ。魔法の可能性を広げる事と秘儀を鍛える事は同じなのですから」

「カーリンが信者らしくない事を言うわね。つまり、派閥はなくなった訳ね。もともと孤児院の大人たちが鍛えている理由は全員が一緒だったという事ね。分かりました。更に鍛えましょう」

「そうだね。皆が見ている世界を見てみたいよ!」

「私も魔法の可能性を広げたいのでもっと鍛えます!」


ついに派閥も解散か。

余計な事をしちゃったかな?


結構楽しいやりとりだったのに…。


でも、なくなっても変わらない気がする。

理由は変わっていないのだから。


その理由に1つだけ追加する必要がある事をレナーテもカーリンも気付いている。

シャーロット様に自分の気持ちを訴え続けるかどうか。


傲慢とも言えるかもしれない。

土地神様に対して自分の気持ちを押し付けているようなものだから。


私はいつでも受け入れるつもりでいた。

秘儀の到達点を変えて欲しいと言って欲しかった。

でも、シャーロット様は別の言葉を送ってくれた。


【私はクリスタに秘儀を教えた事を後悔していないよ。例え止める事があったとしてもね】


涙が出てしまった。

あれ程の激痛に耐え続けて生み出した秘儀を自分勝手に使った私を思っての言葉だったから。


カーリンは必ず私の元までたどり着く。

そんな事は最初から分かっていた。


私は最強の人間としてカーリンを待つ。

その時が来たら、どちらがシャーロット様を好きか勝負しましょう。


誰にも言えない大切な思い出が今日だけで2つも増えた。

シャーロット様から頂いた土地神リンゴ飴は味まで優しくなっていたよ。

カーリンが覚悟を決めましたね。

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