2人の血の力
私の中には2人の血が入っている。
思い出した言葉は本当に力の解放なのかな?
過去の記憶を覗いた時に使っていた言葉。
その後、お母さんに怒られた言葉。
社の中にある鏡の前に立つ。
深紅の髪と瞳。
間違いなく吸血鬼だと思う。
お母さんの血を少しずつ使うのを止めて行く。
完全にお母さんの血を使うのを止めた時、心臓は止まった。
鏡を見ると違う私がそこにいる。
銀色の髪が足下まで伸びている。
瞳は灰色だけど視界は変わらない。
殺戮衝動もない。
なるほど。
多分これが真祖だ。
私は転移魔法で誰もいない、海の上空に移動する。
この状態で力を解放する。
勿論、あの言葉は使わない。
視界が灰色に染まっていく。
世界中の生物が手中に納まているような、支配しているような感覚。
意識するだけで殺す事が出来てしまうだろう。
これが、真祖の力なんだ。
私は力の解放を止めると、お母さんの血を意識する。
心臓が動き出し、髪の毛も縮んだ。
この状態で力を解放する。
世界が深紅に染まる。
そこまで自分が強くなったとは感じない。
真祖の力を解放するまでもなく殺されると思う。
なるほど。
何となくだけど理解出来た。
あの時、私は体の中にある2人の血を使ったんだ。
真祖が血の力を利用する為の言葉だったんだ。
だから、強制的に真祖に戻った。
殺戮衝動に飲み込まれそうな私を、お母さんが止めてくれた。
だから視界が深紅に戻った。
そして心臓も動き出した。
考えると無茶苦茶な状態だ。
真祖でしか使えない力を、普通の吸血鬼の感覚で使っている。
私が普通の吸血鬼に見えるのは、お母さんの血のおかげだ。
人間の血が真祖の力を、普通の吸血鬼の力まで抑制している。
お母さんの血の利用を止めるだけで真祖になるのが、その証拠だね。
でも、お母さんが拾った時の私は真祖だよ。
私がお母さんの血を求めたから吸血鬼だと思ったのかな?
お母さんは真祖の私があの力を使うのを止めてくれたんだ。
吸血鬼の特性を知っていたお母さんは、幼い私に人間の血を使えと教えた。
私の今までを振り返っても、そうだとしか思えない。
吸血鬼としては弱くなるけど関係ない。
真祖よりお母さんと親子でいる事の方が大切だよ。
だから、幼い私もお母さんの血を利用したのだと思いたいな。
お母さん、ごめんなさい。
やっぱり、使ったら駄目だったよ。
でも、あの力が無いと街を守れなかったんだ。
ジェラは私を解放して好きに生きて欲しいと思っている。
考え方はお母さんと一緒なんだよ。
でも、街を滅ぼす必要は無いよね?
あー、馬鹿が来る。
やっぱり馬鹿が転移してきた。
「やっほー!悩み事があるみたいだね。いい事を教えてあげようか?」
何か言ってるよ。
ジェラのせいで、お母さんに怒られた力を使ったんだからね。
「何を教えてくれるのかな?私は今、非常に辛い気持ちでいっぱいだよ」
「あの時の攻防で分かった事が1つあるんだ。聞きたいでしょ?」
ジェラが馬鹿な事は良く分かったよ。
想像以上に馬鹿な事は本当に良く分かった。
それ以外に分かった事ってあるかな?
「私を馬鹿にしている事は目を瞑るよ。悪かったと思っているからね。真祖の力を解放して見当はついたけど、謎が1つ残ったでしょ?」
「その通りだよ。相変わらず鋭いね」
真祖の力を解放したのを察知して転移してきたんだ。
謎を答えてくれる為だと思うけど…、嫌な予感だよ。
「拾われた時に真祖だったシャル。お母さんの血が入っているのは分かるけど、もう1つの血が誰か分からないでしょ?その血は私の双子の姉の血だよ。今から私をお姉さんかお姉様と呼びなさい」
馬鹿な事を言いながら重要な事を言わないで。
ジェラの姉の血が入っているって、いつ入れたの?
それに、私は存在を感じないけど死んでいるの?
「馬鹿なお姉ちゃんが非常識な攻撃をした結果、私が嫌な血を使う事になったけど、その血がお姉ちゃんの姉の血なんだ。今は何してるの?そもそも、どうして私の中に血が入っているの?」
「私達姉妹はダンジョンの地下深くで産まれたんだけど、姉は産まれてすぐ目に付く私以外の生物を楽しみながら殺していたわ。ダンジョンの生物は瘴気で産まれるから、どれだけ殺しても好きにすればいいんだけど、ダンジョンに飽きた姉は地上に出ようと考えた。だから私が封印した。地上から生物が消えちゃうからね。5000年以上前の話だよ。シャルも分かったと思うけど、あの血を使うのは駄目だからね」
「500年前に産まれた私がどうやって、5000年以上前に封印されたお姉ちゃんの姉の血を飲むの?」
「そこは、深く気にしないで。予測も入っているから。大切な事は、シャルは私の姪な訳だよ。分かるかなー?お母さんも大切なら、お姉ちゃんも大切だよね?だよねー?」
うざいよ。
物凄くうざい姉ができた。
別に姉じゃなくて叔母さんでいいよね?
でも、予測は出来ているんだ。
気にしないようにしよう。
実際に使いたくない力だから。
まあ、お姉様と呼ぶのは無いよね。
頑張って姉ちゃんと呼んであげよう。
「使ったら駄目な血を使う羽目になった理由忘れてない?あれは、勝負で使ったらいけない力だと思うよ?しっかり反省してよね」
「絶対に避けると思ったの。まさか、姉の血を使って防御するとは思わないじゃない。反省しているわよ」
余程の事なんだ!
まさか反省を口にするとはね。
「星の半分が砂漠化して生命が死滅する攻撃しておいて、避けると思ったは無いよ。お姉ちゃんは馬鹿なのかなー?」
「挑発ばっかり。真似しないでよね!とりあえず話はそれだけよ。次会ったらお姉様と呼べるように訓練しときなさい。じゃあねー」
姉がすっきりした顔で転移していった。
ジェラ姉ちゃんの姉の血が入っているのか。
殺戮衝動を考えるとジェラ姉ちゃんが封印する理由も分かる。
あーー!
面倒くさいよーー!
私はお母さんの娘なのに勝手に変な事しないで欲しいよね。
お姉ちゃんができました。
シャーロットが自分の事を少し理解しましたね。




