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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第3章 神国シェリル

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閑話 マルティナ お母さん

シャーロット様に呼び出された時は冷や汗が出たよ。

お兄ちゃんとドキドキしながら待っている時間は本当に怖かった。


まさか、お母さんがあんな事を言うなんて。

呼び出された理由は国防軍関係だと思っていたけど、秘儀についてだった。

魔力をほとんど動かせない人がクリスタ先生に追い付くと言っていたら、大変な事になったよ。


シャーロット様には助けられてばかりだね。

お母さんは気付いているのかな?


話し合いが終わって家に着いた後、3人で椅子に座っている。

机を挟んでお母さんが1人、私とお兄ちゃんが隣同士。

お父さんは仕事で帰ってきてないね。


「お母さんは恵まれ過ぎている事に気付いてる?」


不思議そうな顔をしているよ…。


「恵まれ過ぎているか?結構辛い思いをしているぞ」

「お母さん、本気で言っているの?この国で一番恵まれているよ。どれくらい恵まれているかというと3回以上は飛ばされる可能性があった」

「そうだね。それくらいは飛ばされる可能性があった。怖かったもん」


更に不思議そうな顔をしているよ…。


「そんなに私は酷い事をしているという事か?」

「しているよ!何で気付いてないの?多分今回が最後の機会だよ。普通はこんなに機会をもらえる事は無いからね」

「多分立場が変わっているから許されているんじゃないかな?ヴィーネ様だったら終わりだよ」


ちょっと不安そうな顔に変ったよ。

もっと心配して欲しいけど。


「シャーロット様が言っていた私が変わった事はな、最前線で戦えなくなっているんだ。お前たちを残して死ぬのが怖くなってしまっていると思う。シャーロット様は隊長として作戦や実務を責任感を持ってやってくれればそれでいいと考えていたはずだよ」


子供を残して死ぬのが怖い…。

親になってみないと分からない感情だよ。

シャーロット様はどれだけお母さんを理解してくれているのだろうか?


「僕の感じではね、お母さんは1人で仕事をするのに向いているんだよ。冒険者の時も1人でしょ。人の気持ちを読むのが下手だし、人を見る目がいいとは言えない。人をまとめる力があるのかも分からない。街長の時のお母さんの印象だけどね」

「結構酷い事を言うな…。まあ、その通りかもしれない。街長になってすぐに区長会議の在り方を変えなければいけなかった。流れに身を任せてしまった結果の選別だよ」


街の方針を決める区長会議の在り方を変える。

つまり、問題がある区長会議だって事じゃん!


「何それ。大問題だよ!どんな区長会議していたの?とんでもない事してるでしょ?」

「ここだけの話だが、シャーロット様へのお願い相談会だよ。しかも2人の区長は自分の事しか考えていないお願いを繰り返した。飛ばされたけどな」

「勘弁してよ。土地神様に何て事してるの!飛ばされるどころか殺される可能性まであるじゃん。何で気付かないの?」


お母さんに物凄い欠点があるよ。

致命的だよ。


「お母さんは秘儀よりもそれを直すべきだよ。国防軍の隊長にそれほど強い秘儀なんていらないんだから。初歩だけで国を守れるよ」

「そうだよ。気付けない事を直すべきだよ。周りの人がどう考えるかも気付けないと駄目だよ。失敗の原因のほとんどがそれじゃないの?」

「そうなのか?そんなに気付けていないのか…。クリスタにも言われたな。シャーロット様にお願いし続けたのにシャーロット様の気持ちに気付けていないって」


シャーロット様の気持ちに気付けていたら、お願い相談会なんてできないよ。

区長会議でお願いされるなんて嫌に決まっている。


「シャーロット様は笑顔で嫌々お願いを聞いていたと思うよ。区長会議の方針からずれ過ぎだから」

「クリスタだから分かる事じゃないのか…。誰でもそう思う事を私は分かっていなかったのか。クリスタの事もかなり分かっていない気がしてきた」

「分かってないに決まってるじゃない。クリスタ先生に追い付くなんて発言は絶対にできないんだよ。秘儀を使っていたら気軽に言える言葉じゃない。子供は皆分かってるよ。もしかして国防軍の大人たちって追い付くとか言ってるの?子供たちに潰されるよ?」


「子供たちが国防軍を潰す理由はなんだ?クリスタに追い付くつもりの奴ばかりだと思うぞ?」

「秘儀を舐め過ぎているんだよ。僕たちでも不愉快なくらいにね。カーリンさんにばれたら終わりだよ。カーリン軍が動くからね」

「本当だよ。何でそんなに馬鹿なの?秘儀の初歩を知って、私たちに鬼ごっこで付いてこれないのにクリスタ先生に追い付くとか言っているのって、シャーロット様が言っていた秘密が隠されていると思っているからじゃない?簡単に強くなれる秘密を探しているんじゃないかな?」


だから、シャーロット様は子供と訓練をしない隊員の記憶を消すと言っていたんだ。

秘密が隠れていると考え、私たちと同じ訓練をしていたら追い付けないと思うから。


「ヴィーネ様も言っていたな。カーリン軍の事を。そんなに凄いのか?」

「カーリンさんが国防軍に不満を持ったら、孤児院にいる子供の半数以上が潰しに行くからね」

「カーリンさんはシャーロット様の言葉で止まるかもしれないけど、国防軍に不満は感じる。カーリン軍がそれを感じたら確実に国防軍を潰すよ」


「本気でまずそうな話だな。カーリン軍に隊長はいるのか?」

「いないけど、実質的な隊長はクラーラじゃないかな?でも、全員が阿吽の呼吸で動くよ。指示なんて必要ない。しかも、カーリン軍の行動は全て黙認されるから。誰も止めてくれないよ?」

「本気でまずいからシャーロット様が私たちを呼び出したんだよ。国防軍は孤児院を敵に回す可能性があるんだ。シャーロット様がしたテストも多分嘘だ。本気でやっている風に見せただけだよ」


この国の大人たちは駄目な人ばかりなのかな?

全員落とさない為にかなり手加減している気がする。


「クリスタを想定した殺気と言って合格した後に、クリスタ本人がマッサージに丁度いい優しさに溢れた殺気だと言っていたな。そういう意味だったのか?」

「そう言えば皆が自信を持ってくれると思ったんじゃないのかな?でも、クリスタ先生の実演見たんでしょ?何で簡単に追い付けるなんて言えるの?」

「そうだよ!実演見ているなら言えないはずだよ。何で?」


本当に手加減されているよ。

しかも、手加減のされかたが凄い。

大人は誰も気付かなかったのかな?


「秘儀で簡単に強くなってしまったからだと思うぞ。私はそれが原因だと思ったが、他の奴は分からないな」

「手加減されて合格させてもらったのに、勘違いしていて訓練もしていないなんて最悪な組織だよ。大丈夫なの?」

「本当にそう思う。あり得ないよ。何でそんなに駄目なの?お母さんが隊長なんだよ。どうするの?」


「シャーロット様に言った通り子供と訓練するよ。拒否した奴は記憶を消してもらう。それしかないだろ?後はクリスタに追い付く事を考える前に子供に追い付けと言うしかない」

「シャーロット様はクリスタ先生に追い付くと考えている馬鹿な隊員に街を歩いて欲しくないんだよ。冗談抜きで殺されるよ?」

「そうだろうね。秘儀を舐め過ぎだよ。お母さんも真剣に考えた方がいいよ。本気で殺されるかもしれないから」


真剣になってくれるかな…。

本当に危ないんだから。


「クリスタだからそういう考えになると思っていたが違うのか…。何故子供たちまでそういう考えになるんだ?」


やっぱり気付けないんだ。

お母さんは人の気持ちに鈍感過ぎるよ。


「シャーロット様を馬鹿にしているからだよ。秘儀を舐めているという事は、シャーロット様を舐めているのと一緒なんだよ。命懸けで生み出されたと知っているでしょ?何で雑に扱えるの?何で気軽に扱えるの?逆にそっちの気持ちが分からないよ」

「シャーロット様との距離か遠いんだ。命懸けで生み出されたと言われても、秘密は守ろうと思うが強くなる技術だとしか考えないんだ。強くなる為に必要だからシャーロット様の事を深く知ろうとしているんじゃないかな?」

「そんな事を目の前で言われたら本気で殴るよ!子供たちは皆そうだよ。舐めるにも程がある。この国でこれだけの恩恵を受けていたらシャーロット様を知ろうとするのは当たり前の事だよ。秘儀なんて関係ない。それに、秘儀の鍛錬を真面目にしたらシャーロット様の事は伝わってくる。秘儀にはそれだけシャーロット様の思いが詰まっているよ」


強くなりたいからなんて失礼過ぎるよ。

大人はそんな事を考えている可能性まであるんだ。


流石にイライラしてきたよ。


「相当まずそうだな。隊員の考え方や意識を変えさせる必要がある。そんなところか?」

「子供たちは真剣だから、一度駄目だと思われたら二度と相手にしなくなるよ。それと、近道しようとしても終わり。呆れられる。大人たちが恐怖を感じるまでにどれくらいの時間が必要か分からないけど、何かを教えたりしないよ。大人たちは早く強くなりたいのかもしれないけど、子供たちは全力鬼ごっこでシャーロット様たちを捕まえたいだけだから。それを邪魔するなら参加して欲しくない」

「全力鬼ごっこでシャーロット様たちを捕まえるのが子供たちの最終目標だからね。その訓練で強くなるけど、ただの遊びだと思うのなら参加して欲しくないな」


「それは、シャーロット様の提案を無視するがいいのか?」

「お母さん本気で言っているの?」

「お兄ちゃん、お母さんは気付いてないんだよ。シャーロット様は子供たちにお願いなんてしていないよ。大人が子供に合わせろって言ったんだよ。だから、私たちはいつも通りに動くだけ。当然大人に合わせる訳がない。意味が無いから」


「子供たちは教えあったり、話し合ったりするんじゃないのか?それに混ざるつもりだったのだが…」

「新しい発見があったり、面白い作戦を思い付いたらね。それ以外は適当に半分に分かれて鬼ごっこしているだけだよ。魔力を動かす速さや、走る時の魔力配置、飛ぶ時の魔力配置、色々あるけど全部個人練習だよ。皆で相談しながら基礎練習なんてしないよ。鬼ごっこの中で使えないと意味が無いから、個人練習したのを鬼ごっこで試すんだよ。鬼ごっこで使う為に鍛えているんだから」

「鬼ごっこの時に魔力配置は見れば分かるんだから説明する必要ないよ。大人たちを子供たちが引き上げると思っていたの?甘え過ぎじゃない?私たちがこれだけ必死にやっていてもクリスタ先生の背中すら見えないんだからね。追い付くと言っているのがどれ程馬鹿げているか分かったでしょ?身の程知らずにも程があるよ!」


子供に鍛えてもらうつもりでいたの?

この国の大人の標準なの?

お母さんだけかな?


「国防軍は子供たちの鬼ごっこに参加させてもらって勝手に鍛えろって事だな?」

「そういう事だよ。僕たちの魔力配置を見れるだけでも恵まれているって気付いてる?」

「本当だよ。どれだけ試行錯誤して魔力配置を考えているか…。それを見せてもらえるんだよ?恵まれ過ぎているよ」


「大人と子供の意識に差があり過ぎるな。ここまでとは思っていなかった。シャーロット様は何を目的としてこんな提案をされたんだ?」

「え?何を言っているの?現実を見ろって事だよ!それ以外にあるの?」

「私もそう思う。現実を見ろって事だよ。現状クリスタ先生に追い付くと言える人はこの国にいないと思うよ。まだ動きが見える私たちの方がマシでしょ?」


「お前たちと一緒に鬼ごっこしたにも関わらず意識が変わらないから、参加を拒否する奴の記憶を消すという事か。シャーロット様の予定では鬼ごっこに参加した時点で意識が変わると思っていたんだな」

「子供たちは国防軍より強い。でも、クリスタ先生に追い付くとか言っているからおかしいよね。子供たちが見付けていない秘密を知れば追い付けると考えているんでしょ?頭悪過ぎるよ。秘儀を使っていてそんな事を考えているようじゃ解散だよ」

「そうだね。秘儀を知らないならまだしも、使っているんだから気付かないといけないよ。基礎が何もできていないんだからね。基礎ができるようになると、クリスタ先生が異常だと分かる。あの動きを再現しようと思うと、全身が弾け飛ぶくらいの事をしていると分かるはずだよ。それは、僕たちが恐怖している事を全身でしているんだよ。目に見えない速さで動くという事は目に見えない速さで魔力を動かして溜めている。秘密を見つけるどころか、基礎力が違うんだよ。目に見えない速さで魔力を動かせるようにもなっていないのに、全身に広げる事もできないのに、何で追い付けるって言えるの?シャーロット様が言っていた通り、常に魔力を動かして鍛錬しているよ。授業中の時の魔力の動きですら目で追えないんだよ?魔力の動きが速過ぎて全身に魔力を満たしているように見える。だけど、点滅するという事は全身を満たす程の魔力は無い。同じ人間だから魔力量に差はほとんど無い。お母さんも理解できた?」


物凄い速さで点滅して、全身が光っているように見える。

点滅しているから魔力を動かしていると分かる。

一瞬で魔力をどんな配置にもできると分かる。


異常でしょ!


授業中に何回点滅するか数える事もできないけど、点滅の回数だけ弾け飛ぶ可能性があるのだから。

失敗したら確実に死ぬような事を平気で授業中にしているんだよ?


おかしいでしょ!


「納得したよ。一瞬で動いていると言う事は一瞬で魔力も動かしている。一瞬で魔力を動かせないのに何を言っているんだという話だな。動く訳だから一瞬で魔力の配置を変える必要まである。それができるようになっても同じ動きができないなら、何か秘密があると思えるけど、そこまで到達していないのだから考える意味が無いな」

「そういう事だよ。子供たちはそれが分かってても同じ速さで魔力を動かせない。それをずっと個人練習している。でも、全く実現できない。片手だけに限定しても、一瞬で魔力を溜める事すらできないんだよ?国防軍は授業受けててそれも分かってない。鬼ごっこしても現実を見ない。それなのに、秘密を見付けてクリスタ先生に追い付くとか言ったり思ったりしている。馬鹿にも程があるよ。はっきり言って既に相手にしたくないと思っているよ」

「そうなるよね。お母さんと話していると国防軍がいかに駄目か分かった。邪魔だよ。私たちがこう思うって事は、孤児院の子供たちからしたら不愉快だと思う。あそこの子供たちは命懸けだから。お母さんに国防軍をまとめる事ができるの?」


孤児院の子供たちは、私たちとは覚悟が違う。

経験してきたものが違うから、今の日常に深く感謝している。


勉強や秘儀の訓練に取り組む姿勢が他の子供とは違う。

厳しい境遇から救い出された子供が多いから、私たちも触発される。


子供たちの輪に国防軍は入ってこれない気がする。

余りにも秘儀を舐めているし、甘えている。


「2人にこれ程きつく言われるとは思わなかったよ。国防軍は合格した事で全員が夢を見ている。そして、全力鬼ごっこを経験しても覚めていない。既に致命的な状況か…。真剣な子供からしたら目障りになる可能性もある。怒りを買った場合は潰される可能性まである。私たちは頭を下げて鬼ごっこに混ぜてもらいながら経験を積ませてもらう。参加する気が無いなら記憶を消されて終わりだが、参加しても必要ないと考えるような奴がいたら全員が終わりか。これは、無理な条件だったのかもしれないな」


「やっぱり逃げ癖があるんだね。何で国防軍の隊長になったの?たった7人動かす事もできないのに国を守るつもりだったの?しかも、シャーロット様の提案を自分で選んだのに無理な条件だったって、何言ってるの?シャーロット様が騙したみたいに聞こえるよ。社に行って無理な条件を選んでしまいました何て言ったら終わりだからね。自分の能力不足をシャーロット様の責任にしている。シャーロット様なら可能な条件だと思う。特別な事をしなくてもね。カーリンさんなら子供たちにお願いできるから可能だよ。クリスタ先生なら実力で黙らせる事ができるから可能だね。お菓子屋のおじさんもできる気がする。お母さんは人の上に立つ仕事ばかりしてきた。それなのに、人との繋がりが弱過ぎるんだよ。頼れる大人もいない。頼れる子供もいない。つまり、人付き合いが苦手でしょ?協力する事が苦手でしょ?それに気付いてないでしょ?シャーロット様は子供を産む前と後で変わった事に気付いてないと言っていたけど、本当はもっといっぱい気付いてない事あるよ。そして、受け入れるべきだって言っていたじゃない。受け入れたら?」


「お母さんが隊長になったの嬉しかったけど、ここまで酷いと思わなかったよ。人の気持を知ろうとしていないもん。見た目だけ、表情だけで判断しているよ。この国で一番大切なシャーロット様の気持ちを知ろうとしてないから、他の人の気持ちが分かる訳が無いよ。今まで逃げる事と投げ出す事ばかりしてきたという事は、お母さんは自分の許容量を超えたらどちらかを選択するんだよ。お母さんのその性格を知っているから、シャーロット様から呼び出されて選択肢が出されたんじゃない。あの時のお母さんは既に秘儀の鍛錬から逃げていた。4つのうち3つも秘儀の鍛錬と無縁の仕事だったのが、シャーロット様の気持ちを表してるじゃない。選んだのはお母さんだよ?無理だと思ったのは私とお兄ちゃんの話を聞いたからでしょ?もし、何も話さずに子供に混ざろうとしたら失敗して終わりだよ。だって、鬼ごっこしている子供たちの気持ちも知らないじゃない。お母さんはお兄ちゃんに雑だと言われたから国防軍に入った。普通は同じ職場で挽回しようとするはずなのに、お母さんにはどうすればいいのか分からなかったんでしょ?街長の時に隊長をやるべきだと思っていたのもあって都合が良かっただけだよ。お母さんは常にシャーロット様に助けてもらってきた。だから、街長は長く続けられた。税理官や国防軍はシャーロット様が手伝う事がない。助けてくれないから躓いた時にどうすればいいか分からない。社に行って相談する勇気も無かった。そして、今日は子供2人が厳しいと感じている。理由は分かる?今まで本気で積み上げてきた努力を消されたくないから。人魚だって親を捨ててまでここに残った。子供は真剣に積み上げているから怖いの。自分の子供の気持ちには気付いてよ!」


「参ったな…。お前たちが成長したと喜ぶべきなんだろうな。私は成長していないようだ。どうすればいいのか本当に分からない。認めたとして私の記憶が消されて終わるのか?最後の機会だと言っていただろ?私に対してなのか家族全員に対してなのか分からない。どうしたい?」

「3人で社に行く。そこでどんな判断がされるか見届けて決める」

「私もそれでいいと思う。知らずに何かが決定されるのは嫌だ」


お母さんは苦笑いだね。

気持ちが分からないからかな…?


「分かった。じゃあ、今から行こうか」


暗い雰囲気だけど、3人で社に向かったよ。

途中で会話する事はなかった。


「シャーロット様、お願いが会って来ました」


お母さんの声を聞いたシャーロット様が笑顔で社から飛び出してきました。

ヴィーネ様は社の中にいるみたいです。


「3人揃ってどうしたの?やっぱり厳しい?」


シャーロット様はお母さんの欠点を知り尽くしている気がします。

その上で挑戦するなら歓迎するという意味の選択肢だったのでしょう。


「私は気付けない事が多いみたいです。自分の欠点を子供たちに散々言われましたが、どうすればいいのか分からないのです。シャーロット様は私の欠点をご存じですか?そして、どうすればいいのか教えていただく事はできますか?」

「欠点を聞きたいなんて珍しいね。えっとね…、人を導く力が無く、人をまとめる力も無く、人の感情が分からず、人を見る目も余り良くない。周りを見る目も聞く耳も無く、自分だけの世界にいる。そして、自分の変化にも気付けない。人との連携が苦手で、何かあると自分を変えようと努力するけど中途半端になる。そして、失敗をした自分を拒絶する。その結果、投げ出すか、自暴自棄になるか、迷走する。いいところはね、自力があり責任感も強い。マリアンネは税理官だと自力があるから適切な仕事はできるかもしれないけど、目標を持てない。何故なら自分が成果を出す仕事ではないから。個人で成果を出す仕事が最適なんだよ。勉強する気があるなら研究員だね。今のままなら魔石発掘でもいいね。マリアンネは仕事をしたいの?そして、したいなら何を求めるの?」


物凄く把握されていました。

納得できる欠点ばかりです。

税理官で駄目な理由まで教えてくれました。

やっぱりお母さんは1人で仕事をするのが最適ですか…。


何を求めるのかな?

お母さんの答えが怖いよ。


「子供も大きいので仕事はしたいです。仕事には充実感や達成感が欲しいです」


難しい要求だよ…。

お母さんが求めるには厳しい条件だと思う。

素直に言ったのだと思うけど、どんどん恐怖が膨らむよ。


「忙しい仕事でいいなら、私とヴィーネの補佐。活動報告書の問題解決をほとんどしてもらう事になるかもしれない。ただし1つだけ言っておくよ。マリアンネには機会を与え過ぎている。自覚していないかもしれないけど、この国で一番機会を与えている。贔屓しているくらいにね。だから、次は絶対に無いよ。それを覚悟した上で仕事をするしないも含めて決めて。飛ばすのはマリアンネだけだよ」


本気で忙しい仕事ですね。

この国で一番忙しいのがヴィーネ様ですから。


やはり、お母さんが一番機会をもらっていましたか。

シャーロット様が贔屓しているくらいというので、相当でしょう。

飛ばされるのがお母さんだけというのは安心していいのか、悲しむべきなのか分かりません。


仕事をしなければ飛ばされる心配はありません。

ですが、お母さんがどうなるか分かりません。

外に出たいと思っている人を家に閉じ込める事になる訳ですから。


ヴィーネ様も出て来られましたね。

「へー、母さんが本気で飛ばすと宣言したんだ。マリアンネ、私の補佐は本当に忙しいよ。1人で国長をしているからね。私の補佐をすれば相手の事なんて何も考える必要はないよ。私が指示した相手を好きなように排除してくれればいいだけ。秘儀をある程度鍛えれば連携なんて必要ないから。全部1人で対処できる。緊急用ボタンを渡すから記憶を覗く必要があると思った時や、無理な状況になった時は押してくれてもいいよ。ただし、年齢以外の理由で辞めるのは許さないからね」


充実感も達成感もあるでしょう。

住民から感謝もされるでしょう。

ただし、忙し過ぎる可能性があります。


そして、途中で辞めるのは許さないという事ですね。

過剰に機会を与え過ぎているからでしょう。


「シャーロット様とヴィーネ様の補佐をしたいと思います。よろしくお願いします」

「決定だね。ヴィーネ、税理官室の横に補佐室を用意してあげて」

「はーい。じゃあ、大体何でもできるように用意してくるよ。暇な時もあるから昼寝してもいいよ」


物凄い好待遇です。

建物が一軒建つのですから。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


ヴィーネ様は転移(テレポート)されました。


「秘儀は親子で鍛えるといいよ。税理官室の皆には説明してあげて。国防軍の隊長は兼任しておいて。隊長として仕事をしてもらう事はないと思う。あったとしても私の補佐だから安心して」

「分かりました。帰りに税理官室に寄って説明します」


流石に早いですね。

ヴィーネ様が戻ってこられましたね。


「終わったよ。昼寝もできるし、お風呂も入れるよ」

「ありがとうございます。頑張ります」

「ヴィーネありがとう。じゃあ、マリアンネはこれからも鍛錬を続けてね」


「分かりました。鍛錬を続けます」

「他に何か相談はあるかな?もう終わりかな?」


「クリスタと会話した日の記憶を全て消す事はできますか?」

「1日の記憶を消すのは簡単だけどいいの?クリスタの本気の思いを聞いたんでしょ?」

「私との会話も消えちゃうよ。もー、頑張って色々と話したのに」


お母さんはクリスタ先生との会話を後悔しているんだ。

本気の思いを聞いただけで?

秘儀を使う思いかな?


どれだけ本気だったんだろう…。


「安易に聞いてはいけませんでした。知るべきではありませんでした」

「それが素直に言えるなら大丈夫じゃないかな?ヴィーネお願い」

「まあ、そうだね。闇魔法(メモリー・オブ・デス)、終わったよー」


「ありがとうございます。これで秘儀の鍛錬ができます」

「クリスタは何で秘儀を極め続けるか分かる?」


「誰よりも強くなりたいからでしょうか?」

「問題ないね。記憶はちゃんと消えているから安心して」

「マリアンネも頑張って強くなってね」


クリスタ先生の秘儀を極めている理由はやっぱり違うんだ。

強くなりたいと思う大人たちの中で、クリスタ先生だけは違う思いがある。

特別な思いがあるから危険でも止まらない。


そんな気がするよ。


「そうですか。ありがとうございます。では、失礼します」

「「ありがとうございました」」


平和に終わったよ…。

お母さんが記憶消去を望むとは思わなかったけど。


クリスタ先生の本気の思いはお母さんを追い詰めてしまった。

余りにも苦しい事をしているから秘儀が怖くなった。


クリスタ先生に追い付かないといけないと思っていたから。

だから、記憶を消してもらわないと秘儀が怖くて使えない。


そんな感じかな?


「私はこのまま税理官室に行って説明をしてくるから、先に家に帰ってなさい。迷惑をかけたな」

「別にいいよ。お母さんなんだから」

「そうだよ。飛ばされなくて平和に終わった事を喜んだ方がいいよ」


「そうか。じゃあ、後でな」

お母さんは笑顔でそう言うと、税理官室に向かって歩いて行った。


「良かったね、お兄ちゃん」

「そうだな。シャーロット様は優しいから。それでも、過剰だと思える程お母さんは機会をもらっていたんだな…」


「思った通り気付いてないんだよ。だから、何度も同じ事をしちゃったんじゃないかな?」

「そうだな。気付いてないだろうな。シャーロット様はあれだけお母さんを理解していたのに、お母さんは何も理解してないから」


秘儀でクリスタ先生に追い付くと言った事で、シャーロット様の中で確信に変わったのかな?

選択肢を用意してくれたのも、私たちに聞かせたのもそれが理由な気がする。


お母さんは自分の世界にいて、周りの声も感情も伝わりにくい。

直接話し掛けても、伝わる時と伝わらない時があるくらい壁が厚い。

その世界の壁をシャーロット様やヴィーネ様の声だけは綺麗に通り抜ける。


お母さんに人と協力する事は難しいと判断したシャーロット様は、忙しいけど分かりやすい仕事を紹介してくれたのだと思う。


シャーロット様やヴィーネ様からの指示という名目があれば、お母さんは好きなように動ける。

自力や責任感があるから、ほとんどの問題を解決できると思ってもらえた。


本当に恵まれているよ。


普通なら記憶を消されて飛ばされている。

過剰だと思える程の機会をもらい、何度も失敗している。

それなのに、お2人の側で仕事をさせてもらえるのだから。

子供たちに救われましたね。

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