私とクリスタと秘儀
本当にもう…。
ヴィーネとクリスタはすぐに殺そうとする。
今回の場合は被害者が出た可能性もあるし、余りにも酷いから仕方がないけど。
わざわざ寸劇までするんだから…。
乙女らしさの欠片も無い流れ星へのお願いだよ。
お願いされた流れ星も絶対にドン引きするよ?
流れ星に島に落ちろとお願いしているからね。
勇者クリスタは私と同じ異常者だね。
決定だよ!
ヴィーネはまた戻っていくし。
まあ、マリアンネが会話を聞いていたからね。
ヴィーネを恐れている人は多い。
世界最強であり、何が切っ掛けで殺されるか分からないと皆が思っている。
それなのに、ヴィーネと気軽に話すクリスタが気になってしまった。
マリアンネは気付かないと思う。
国内に限ればヴィーネよりクリスタの方が怖い。
結界か念力で強制的に止めないと瞬殺してしまうから。
国の決まり事を無視する。
最優先を私にしてるんだよ。
本当にもう…。
しかも、殺すと決断して行動するまでが早い。
私が不快に思うと感じたら殺そうとする。
私を侮辱したり馬鹿にしても殺そうとする。
そんな事は頼んでないし、して欲しくないのに…。
クリスタは私が殺すなと言っても絶対に止まらない。
「殺す前に止めればいいじゃないですか!」と笑顔で平気で言うと思う。
あの子は私に対して優し過ぎるんだよ。
勇者が魔人の為に動いたら駄目なのに。
本当にもう…。
「ただいまー。クリスタが結構話していたから時間が掛かっちゃったよ」
「おかえりー。マリアンネの感情が凄い動いていたね。聞いた事を後悔しているんじゃない?」
あの感情の動きだと、クリスタはかなり深いところまで話しているだろうね。
それを、マリアンネは恐れてしまった。
マリアンネはクリスタの強さを目指していたはず。
秘儀が死に直結するような技術だとは思っていなかった。
何か秘密が隠されていると考えていた。
だから、恐れたんじゃないかな?
強くなりたいと思っていたのに、クリスタの覚悟が余りにも重過ぎた。
そして、秘儀の真実の姿を知ってしまった。
死なんて頭の片隅にも無かったのに突然入り込んできた。
秘儀を使っていて、鍛えていて、死ぬ事なんて考えた事もないのに。
分からないから余計に怖い。
鍛えた先に死が見えてくると覚悟していなかったから。
マリアンネは不用意に聞いてしまった。
子供たちは聞いてはいけない、自分で気付く必要があると考えているのに。
クリスタはマリアンネが国防軍の隊長になった事で死ぬ覚悟は当然あると考えた。
それだから、話したんじゃないかな?
「絶対に死なない秘儀の到達点がある事を教えてきたよ。クリスタはそこを曖昧にしか話さなかったからね」
「それではクリスタよりかなり弱いよ。マリアンネは何を目指せばいいのか見失っていないかな?」
鍛えれば絶対に死なない到達点を用意してあげるつもりだった。
多くの人が鍛え上げた状態になったら追加の授業をする必要があったけど。
しかし、クリスタは私の予想を超えた動きをしちゃった…。
自分の魔力を全て使った秘儀の鍛錬を始めるとは思わなかった。
私が体を破裂させながら命懸けで生み出したと知った故の行動だと思う。
「安易に踏み込んだ罰だよ。クリスタを見て子供は異常だと感じ、大人は簡単に強くなれる秘密が隠されていると考える。母さんを深く理解すれば絶対に死なない到達点までは誰でもたどり着けると言ってきたけど、大人でたどり着けるのは孤児院にいる人たちだけじゃないかな。鍛錬があって初めて見えてくるものだから。その量の鍛錬をするのは国防軍の大人たちには無理。母さんもそこまで求めて無いでしょ?」
「そうだね。鍛錬を続けてくれればいいと言う思いでクリスタを見てもらったから。クリスタの事を理解して欲しいとは思っていないし、理解できないから。マリアンネがどこまで聞いてしまったのか知らないけど、私の秘儀を生み出す過程を正確に把握したらクリスタみたいになると思っていないかな?」
クリスタは私にもっと我儘になれと訴えているんだよね。
自分の命を懸けてまでする事じゃないよ…。
楽しみながらなのが救いかな。
そうじゃないなら、命を懸けた脅迫だよね。
クリスタの覚悟は分かっている。
死の淵を歩きながら絶対に死ぬつもりはない。
魔力を増やす事で死に近付いていっている。
それでも、私に動きを止めさせるつもりは無いんだよ。
クリスタは優し過ぎる。
私が秘儀を止めた時に教えたのを後悔すると考えている。
だから、絶対に失敗するつもりはない。
それなら、安全な秘儀を使えばいいのに…。
秘儀の最大限の可能性を知らずに使う人を許せないでいる。
努力しない人は殺そうと考えている。
私が見せてあげるつもりだったのは、クリスタより数段弱い秘儀の到達点。
だけど、それでは単に私が凄いと思われて終わり。
クリスタはそう考えたし、実際にそうだと思う。
でも、全員がそう思うとは限らないじゃない…。
クリスタはそれでも許せない。
だから全員に見せ付けた。
見えないけど…。
土地神様と言われている私に気持ちで寄り添う人間。
500年以上生きてきて初めての経験。
クリスタを馬鹿だと笑う人は私が殺す。
「流石に分かっているね。その通りだよ。そして、それは大間違い。正確に把握したら怖くて使えなくなるよ。母さんの魔力量だと安易に体が弾ける。でも、人の魔力量でも弾けるんだよね。それに気付いたら無理だよ。だって、自分の動かしている魔力量は目に見えないから。感覚で何となく動かしているだけだから。実際に死ぬ事はまずないけどね。死ぬ魔力量を動かす技術がないんだから」
「動かす魔力量の鍛錬は本能が拒絶する。体が拒絶する。生存本能との闘いだから。でも、絶対に死なない秘儀にはたどり着ける。秘儀の初期でも人としては異常な強さになる。死なない秘儀は更に強い。当然途轍もない鍛錬が必要になる。実戦で使える人はいないよ」
動かす魔力量の最大値を上げてしまうと、即座に死ぬ可能性がある。
魔力の初期位置は心臓に近い。
魔力の通る管を破裂させたら、心臓も破裂する。
だから、本能がそれを許さない。
「溜める魔力量、動かす魔力量を完全把握。そして、どんな状況でも同じ量の魔力を動かして溜める必要があるからね。それを実戦で使える速さで行う。溜める魔力量を間違えたら死ぬからね。でも、溜めてある魔力を固定する技術を身に付けて、動かす魔力量を常に一定にすればいいだけだから、工夫を重ねる子供たちならできるようになる子もいると思う。クリスタは異常者だから別枠」
魔力を溜める事ができる場所は全部で6箇所。
頭と両手と両足と胸。
体幹の肝となる胸の魔力量が一番の大切
魔力が通る管より溜める場所の方が容量が大きい。
つまり、胸に溜める魔力量を絶対に破裂しない魔力量で固定すればいい。
動かす魔力量を常に一定にすれば絶対に死なないからね。
人は感情や体調により動かす魔力量に若干の波がある。
その波の幅を把握して胸に固定する魔力量を決めるか、動かす魔力量を常に一定にする。
それが、絶対に死なない秘儀の形。
「異常者仲間が増えたよ。嬉しい訳ないでしょー!でも、否定できないのが悲しいね。教師をしながら、歩きながら、会話しながら、お風呂に入りながら、常に死ぬ可能性のある鍛錬をしているから。ディーン姉ちゃんが夢中になるんだから異常者に決まっているじゃない。竜王と組手できるんだよ?頭おかしいよ!」
クリスタは管が通せる魔力量の限界値を動かせる。
動かす魔力量も最適に変更できる。
一瞬で移動や攻撃や防御に最適な魔力配置にする事ができる。
しかし、魔力を動かす時には必ず胸を通る。
だから、魔力を動かす順番や量を間違えたら胸やその近くの管が破裂する。
実戦では手や足や胸の他に、管に魔力を止めておく必要もある。
組手でも手や足だけで攻撃を防ぐ訳ではなく、腕や脛等も使うから。
ディーン姉ちゃんはクリスタの全魔力量を見て即座に把握できる。
クリスタからの最大の攻撃。
手や足で防げる最大の攻撃。
管(腕や脛等)で防げる最大の攻撃。
防御時に吹き飛ばされないかどうか。
動ける最大速度。
その把握した最大より少しだけ遅く、弱くして攻撃している。
楽しみたいからディーン姉ちゃんも身体強化で組手をする。
クリスタより少しだけ多く魔力を使って。
一度も弾け飛ばない、弾け飛ばされないクリスタは凄い。
お昼から夕暮れまで組手をしていたからね。
「勇者クリスタだから。本能に打ち克ち、動かせる魔力量の限界値を把握。溜めてもいい魔力量の限界値を把握。体にある全ての魔力を使う。動かす魔力量が一定じゃないのに完璧に調整する。そして、行動によって魔力の動かす順番や量まで違うのに絶対に間違えない。それを、無意識で行えるまで鍛錬する。実戦で秘儀を使えるようにする為に。更に魔力量を増やすと言う暴挙に出る。生粋の変態だね!」
魔力量を増やしていくと当然破裂する可能性は高くなる。
そして、動かしていた魔力量が変化する。
体の中の魔力量が増える事により逆転現象が起きてしまう。
動かす魔力量を増やすのに苦労したのに、通常より少ない魔力量を動かさなければいけない。
動かしている魔力量が多ければ、当然把握しやすい。
少なくなるほど把握が難しくなる。
クリスタでも極小の魔力を動かすのは苦戦している。
動きながら手から魔力を吸収するのは人間には不可能な領域。
私とヴィーネの全力鬼ごっこは時間が経つにつれて動きが良くなる。
消費する魔力量より手から吸収する魔力量の方が多いから。
その結果、全身が魔力で満たされる。
消費された魔力は管の隙間を利用し満たしていく。
私は吸血鬼の姿でする事で人の体が溜めれる最大魔力量を超えないように。
ヴィーネは人の体が溜めれる最大魔力量で止める。
古代種ドラゴンや真祖は動かせる魔力量も、溜めれる魔力量も桁違いに多い。
絶対的な種族としての力の差。
竜の国のドラゴン族は古代種ドラゴンでも身体強化できなかった。
動かせる魔力量を増やす努力もしていない。
だから、極大魔法を使う事もクリスタに勝つ事もできない。
恵まれた体を持ちながら全く努力をしていない。
筋肉量や瞬発力だけで強弱が決まる魔獣と一緒。
だから、ドラゴンではなく大きな蜥蜴だね。
クリスタに種族差で勝てないと言われるのは許せる。
努力もしていない、知らない人が使っていい言葉じゃないよね。
「クリスタも魔力量を増やすのには慎重になってるよ。勇者にも人の心が少しだけ残っていたんだよ。私が一度破裂の経験を勧めたら、異常者じゃないと無理とか言われたんだよ?異常者に異常者と言われた私の気持ちを考えてよね!」
クリスタなら一度破裂させれば間違いなく感覚を掴む。
本能が限界値を超えるのを拒絶してくれるようになるはず。
かなり痛い思いを1回経験するだけなんだよ?
最高の案だと思ったのに…。
「クリスタに破裂を勧めたんだ…。ついに壊れちゃったかな?破裂させれば悩みも弾け飛ぶよとか言ったの?薬物の売人みたいだよ!母さんと違ってクリスタの体は再生しないんだよ?まさか、回復魔法を使ってあげるから弾け飛ばしちゃいなよって言ったの?実験のし過ぎで良心まで弾け飛ばしていたんだね。これは無理だよ。誰にも治せないね…」
「ヴィーネちゃん。酷くない?壊れたとか、薬物の売人とか、良心を弾け飛ばすとか…。寝ます!布団に封印されて心も体も治します!」
「そうなの?じゃあ、私も寝るー」
結局一緒に布団に入る事になるんだよね。
すぐにヴィーネは抱き付いてくるし。
甘えん坊の下克上かな?
もう母親を踏み越えようとしているの?
まだまだ、こんな程度で挫けたりしないんだからね!
土地神様の気持ちに寄り添った初の人間です。




