閑話 クリスタ 阿吽の呼吸
孤児院に新しい子がいる。
額に角が生えているけど可愛い顔をしているね。
初めて見るけど何て種族だろう?
静かに手招きでカーリンを呼ぶ。
「ねえ、カーリン。新しい子はなんて種族なの?」
「あの子はジェナで10歳。お肉しか食べない鬼という種族よ」
鬼?
鬼ごっこの、鬼?
いたんだー!
流石に驚いちゃうね。
お肉しか食べないのか。
鬼ごっこって鬼から逃げる遊びだけど…。
人を食べたりしないよね?
あの可愛い顔で人を襲って食べたら怖いよ。
シャーロット様が人を食べる子供を孤児院に入れる訳が無いけどさ。
もしかしたら他の鬼は人を食べるのかもしれない。
まあ、それなら大丈夫だね。
・・・・。
翌日、活動報告書が更新されている。
ふむふむ。
えー!
あの子、ヴィーネ様に立ち合いを申し込みに来たの?
確実にシャーロット様が激怒したはず。
生きて孤児院に入れたのが奇跡的だよ。
シャーロット様は優しいから。
素直な性格で良かったね。
そして、やっぱり鬼は人を食べるんだね。
あの子は食べた事が無いし、これからも襲わないし食べないと約束したんだね。
予想通りだけど凄いね。
土地神様の国は鬼まで生徒だよ。
鬼が鬼ごっこするのを目にするとはね。
鬼ごっこって、鬼に食べられないように逃げる教訓から始まった遊びかも。
そして、真面目そうでクズだった検問兵は飛ばされたのか…。
犬区長関連は全部駄目だった訳だね。
何で殺してないのかな?
確実に殺さないといけない人たちでしょ。
報告書を読む限りだとそう思うんだけどなー。
何気に教員室の窓から外見る。
あ、ヴィーネ様がお1人で外に出ているよ。
珍しいですねー。
笑顔でヴィーネ様に駆け寄る。
「ヴィーネ様。シャーロット様に隠れて何かしようとしてます?」
「何を言ってるの?母さんに隠し事なんて無いよ。ただの日向ぼっこだよ」
絶対嘘ですね!
間違いなく何かする気でしたよ。
「そうなんですか。てっきりどこかの島に魔法でも放つのかと思いましたよ」
「ふーん。報告書読んだんだ。クリスタならどうしたの?」
私の責任にする気ですね?
今回は特別にいいでしょう。
確実に殺したいですからね。
是非協力しましょう!
ここは満面の笑みですね。
「私ですかー?鬼の子が立ち合いを申し込みに社まで行った時点で検問兵を殺してますね。どこかの島に飛ばされていたら殺せないじゃないですか。何とかなりませんか?」
ヴィーネ様も笑顔になりましたね。
気持ちが伝わったみたいです。
「何とかなるけどさー、母さんが悲しむじゃない?クリスタならどうやって母さんに言うの?」
「夜空を見ていたら流れ星が見えたのでお願い事をしましたって言いますよ。女の子ですからね!」
げっ!
シャーロット様を呼び出すとは…。
卑怯なり!
「クリスタが話したいみたいなんだ。母さん聞いてあげて」
「私を呼び出してまで話したいの?クリスタにしては珍しいね。何かな?」
シャーロット様を呼び出して話したい事はありませんよ。
信者にばれたら命を狙われるじゃないですか。
しかし、覚悟を決めましょう!
「検問兵がどこかの島に飛ばされたじゃないですか。私は殺したくてしょうがないんですよ。でも、私は殺せないから悲しくて夜空を見上げていたら流れ星が見えたのでお願い事をしたんです。検問兵の飛ばされた島に落ちてくれないかなーと。この乙女の願いって叶います?」
「どこが乙女の願いなの?女の子らしさの欠片もないじゃない!ディーン姉ちゃんは島の形が変わる隕石を落としていたけど、私はこの国だけ把握しているから難しいよ。ヴィーネやってあげたら?勇者として許せないみたいだよ」
流石ジェラルディーン様。
やる事が壮大ですね!
そうじゃなくて…、完全に私の責任になってる。
それに、勇者としての仕事にされてる。
しかーし、今回は我慢しましょう!
「ヴィーネ様、勇者として許せないんですよ。軽く島に隕石落として下さい。検問兵の他にドミニクの馬鹿も島にいますよね?まとめて何とかなりませんか?」
「流石勇者クリスタだよ!全く隙が無いね。3人の位置を確認するよ…。少し離れているから島の形が変わるけど仕方が無いよね?」
「島の形を変えるの?クリスタは本当に大胆なお願いをするね。流石だよ」
私の事を異常者だと思っていませんよね?
悲しくなってきましたよ。
ですが…、今回は我慢しましょう!
「気になって夜も眠れないんです。ヴィーネ様、お願いします」
「孤児院を守るクリスタが寝不足はまずいよ。すぐに解決しなきゃいけないね、時空魔法。少し待ってね…。クリスタ、問題は解決したよ!ゆっくり眠ってね」
「珍しく2人の息が合ってるね。作戦会議でもしたのかな?」
シャーロット様甘いですね。
そんなもの必要ないんです。
だって殺したい人が一緒なんですから。
「そんな事しませんよ。私がヴィーネ様にお願いしたら、シャーロット様に相談しないとできないと言うので、こういう形になったんですよ」
「母さん、そういう事だよ。相談なんてしていないのは把握しているから分かっているでしょ?」
「まあね。分かっていけるど、そう感じたからさ。殺されても仕方がない人たちだったし、しょうがないね。クリスタもあんまり人を殺す事ばかり考えたら駄目だよ?」
「勿論ですよ!シャーロット様が笑顔でいる限り誰も殺そうなんて思いませんから。信者に知られると孤児院の平和が乱れるので中立派の私が泥を被っているんですよ。信者たちは全ての獣人を殺そうとするはずですからね。仕方が無いのです」
「クリスタの言う通りだね。今回の件もドミニクも信者にばれたら大変だよ。終わった事にしておかないとまずいよ」
「ほんとにもう…。孤児院なんだよ?何やってるの?まあ、私もそれを想像できちゃうから仕方がないね。終わった事にするのが正解かな」
シャーロット様まで納得してくれた。
今回の私って完璧じゃない?
成長しているよ!
「ありがとうございます。これで孤児院も平和ですし私も安眠できます」
「良かったよ。全てが綺麗に収まったね。母さん、帰ろうか」
「そうだね。クリスタが悩んでいたのは間違いないだろうし、ゆっくり休んでよ。またねー。転移魔法」
やっぱりシャーロット様にはばれているんだよね。
本気で悩んじゃうから把握されてしまう。
でも、私の感情は把握する必要なく分かっている気がする。
あえて分かっていない振りをしてくれているんだと思う。
私が気を使わないようにする為に…。
シャーロット様は優し過ぎるんです。
もっと御自分を大切にして欲しいんですよ。
ヴィーネとクリスタの相性は抜群です。




