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土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第3章 神国シェリル

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閑話 アードリアン 族長

ダークエルフは過酷な環境で生きてきた。

長年魔獣を討伐してきた狩猟民族と言っても過言ではない。


この国に所属する事になった以上、国の防衛力になるのは当然の事だ。

世界樹もあり、精霊様もおり、何よりこの国は奴隷もおらず、戦争を仕掛ける事が無い。


本当に防衛の為の戦力なのだから遣り甲斐がある。


ダークエルフで狩猟を得意としている者は皆がテストに参加した。

魔獣の殺気を物ともしない猛者ばかりだ。

心の耐久力がテスト内容だった事もあり、ほとんどの者が合格すると私は思った。


日々、魔獣の殺気に耐えてきたのだ。

子供たちから話は聞いていたが、関係ない。

孤児院の女性を想定しての殺気であるならば問題ない。


何故なら、彼女たちは殺気を知らないはずだから。

この国の中にいては本物の殺気を当てられる事は無いだろう。


そう、子供たちから話は聞いていたのだ。

この国でお2人の次に強いのは孤児院にいるクリスタ先生だと。


実際は、その女性が耐えられる殺気までたどり着かなかった。

孤児院で働いている別の女性が耐えられる殺気で全滅に近かった。


そして、クリスタ先生が耐えられる殺気で私以外は気絶した。

魔獣を狩猟してきた事による大きな勘違い。

孤児院の女性が魔獣より弱いと思い込む。

殺気を知らないと思い込む。


合格した中での心の強さでもマリアンネさんに敵わなかった。

これがこの国の現実か。


クリスタ先生の強さは常軌を逸していた。

巻藁を粉微塵に粉砕した。

結果だけしか分からなかった。

動きが視界に映らないのだから。


精霊様が特別扱いするシャーロット様。

シャーロット様が大切にする孤児院の子供たち。

その子供たちを世話する女性が普通であるはずが無かった。


気絶したダークエルフを起こしている最中、クリスタ先生の声が聞こえてきた。

今回の殺気は優しさが滲み出ていたようだ。

マッサージに良さそうな殺気。


これだけの気絶者を出しながら死者は1人もいない。

本当に優しさに溢れた殺気だった。


狩猟を得意としていた猛者たちは訳が分からないようだった。

自分たちが気絶するなどとは微塵も思っていないのだから。


体力的にも精神的にも今日話すのは止めておこう。

受け止めきれない可能性が高いと判断した。


翌日の秘儀の授業で自分の世界の狭さを知った。

魔法や魔石の授業を受けてもそうだ。

余りにも知識が無さ過ぎた。


そして、秘儀で身体強化された状態でも、大人は子供に勝てない。

子供たちから聞いていた通りの結果だ。

何も間違った事は言っていなかった。


鬼ごっこを終え、街に帰り、試験を受けた者を集める。

説明をする必要があるからだ。


「お前たちには辛い話になるが、現実を今から話す。子供たちから聞いていた者もいただろう。その通りだ。私たちはどの種族の子よりも弱い。子供たちは魔獣など苦も無く瞬殺する程の力を得ている。私も秘儀を習ったが、初歩の段階で今まで討伐していた魔獣が赤子のように感じる。この国で3番目に強いのは孤児院で子供の世話をしており、教師もしているクリスタ先生だ。彼女の動きは視界に映らない。過酷な環境で魔獣を討伐しながら生きてきたのは間違いない。だが、それが慢心に繋がっている。この国は孤児や奴隷だった子が多くいる。同じく過酷な環境だ。自分たちだけ辛い過去があるなどと考えるな。この国は皆に平等だ。子供たちは等しく勉強し多くの知識と強くなる機会を与えてもらっている。皆が真剣に勉強している。大人だから子供に負けるはずが無いなどと考えるな。知識の面でも子供に負けている。それが現実だ。今回は国防軍の募集という事で大人でも子供のように教育を受ける機会ができた。来年挑戦する気があるなら体も心も鍛えろ。私たちは弱いのだから」


皆が黙ってしまっている。

意気消沈してしまったのだろうか?

どちらにしろ、自分で立ち上がるしかない。


「お前たちは本当に馬鹿だね。そんな気持ちで国防軍のテストに参加してきたのかい。この国に住んでいればシャーロット様が子供を大切にしている事なんて誰でも分かる事じゃないか。子供の授業内容を考えたのもシャーロット様だ。お前たち程度が何故シャーロット様の知識や経験に勝てると思ったんだい?国防軍のテストが心を試すものだったのなら、子供を守れる見込みがあるか判断されただけの話だよ。何も難しい話じゃない。お前たちは守られるのに慣れただけだよ。自分も自分たちの子供もね」


最長老様の話でテストの内容が違ったものに感じる。

子供たちを守ろうとしていた者は合格する。

合格しようとしていた者は落とされる。


合格する為に殺気に耐えるのと、自分たちの子供を守る為に殺気に耐える。

耐える為の覚悟が全然違ってくる。


そして、私たちにはシャーロット様やヴィーネ様に守られているという安心感がある。

国防軍に所属しようとする者がお2人を当てにしていい訳が無い。


その結果、族長ばかりが合格した。

族長は部族を守らなければいけないから。


立っていた者は族長としての意地で立っていたのだろう。

私もそうだったから。


マリアンネさんは元街長だったと聞いている。

誰よりも国を守る気概があったのだろう。


ほとんどの者が勘違いをしていたから落ちた。

殺気に耐えるだけのテストだと。


まだまだ最長老様には遠く及ばない。

テストの話を聞いただけにも関わらず、そこまで把握されてしまうのだから。


「その通りだと思います。合格した者の顔ぶれや、隊長となったマリアンネさんの境遇を考えてみても間違い無いでしょう。殺気に耐えるだけだと勘違いした多くの者が落とされただけですね。何の為に殺気に耐えるかが明確にある族長が合格できただけです。秘儀を教えてもらう為などと見えないものを背にしていては耐えられないでしょう。自分が強いからと独りで立っているだけでも耐えられない。国防軍なのですから、その背には国民がいなければいけなかった。自分たちの子供がいなければいけなかったのですね」


最長老様は笑っておられます。

「そういう事さ。国防軍なのに何も守っていないようじゃ落ちるに決まっている。実に分かりやすくていいテストじゃないか。来年再挑戦するんだったら良く考える事だね。守られたいのか、守りたいのかをね」


皆もようやく前を向きましたね。

族長の仕事のほとんどを最長老様がして下さいました。

私も未熟者として常に上を目指して努力し続けなければいけませんね。

流石最長老様です。

年季が違いますね。

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