閑話 エリーザ 同族
きつかった。
本当にきつかったですね。
立ち続けられたのすら奇跡だと思ってしまう。
真祖のシャーロット様のお姿を知っていましたが、殺気を出されるとまるで違います。
恐らく軽い殺気だと思うのですが、仮に敵だと思うと絶望しかありません。
対峙しただけで殺されてしまう程の重圧感。
魚人を軽く殲滅できるのも納得してしまいます。
とりあえず、国防軍に入る事はできたのです。
私1人だけですが、セイレーンとして面子は保たれたはず。
これだけお世話になっていて、何も返せないのは恥ずべき事ですから。
本当に良かった。
一緒に挑戦した仲間を起こしましたが、やはり体力的にも精神的にもかなりギリギリですね。
死ぬかもしれないとの話でしたが、死者が出ないように調整してくれいていたのだと思います。
あれだけ気絶していた人がいたのに、死者が1人もいないのが何よりの証拠です。
この状態で海に潜るのは危険だと判断しました。
マリアンネさんに相談すると、訓練場の宿舎で休んでいくといいと言われました。
訓練場のすぐ近くにある2階建ての建物ですが、入ってみると十分に立派です。
内装もしっかりしており、誰も使用していないのが勿体ないと思ってしまいます。
セイレーンで挑戦したのは3人。
私とアルマとデリア。
それなりに自信があったのですが、結果は受け止めるしかないでしょう。
起こした2人は千鳥足のようですが、なんとか自力で歩く事ができました。
「アルマ、デリア、大丈夫ですか?今日はここで休んで明日、海の洞窟に帰りましょう」
「申し訳ありません…。シャーロット様のテスト開始の合図から記憶がほとんどありませんが大丈夫でしたか?」
「私も同じです。合図からの記憶がありません」
孤児院で働いている女性を想定しての殺気。
最後にクリスタさんの強さを目にしましたが、種族など関係ないと証明してくれている。
私もあれだけ強くなる機会を得られたのです。
全力で取り組まないといけませんね。
「大丈夫ですよ。私がなんとか合格できましたから。明日から秘儀の授業を受けますから、あなた達は明日の朝にでも洞窟に帰りなさい。私は授業が終わった後にユリウス様とお話します」
「身体的な強さではなく、心の強さを試されたのですよね?来年再挑戦するとして、どのように心を鍛えればいいのでしょうか?」
アルマの話はもっともですね。
今の生活をしていて心を鍛える術など思い付きません。
「今日の経験を活かすしかないでしょう。戦う覚悟を試されたのだと思います。どれだけ強くなっても戦えなければ意味がありません。そういうテストだったのでしょう。体を鍛えるのは悪い事ではないと思うから、闇雲に鍛えるのではなく、魚人を想定したりして本気で戦う気持ちを持つ事が大切でしょう。強くなってから戦おうと思っていると心は鍛えられません。過去を思い出し、今日を思い出しながら訓練しましょう」
「分かりました。来年に向けて鍛えていきます」
「私も頑張ります。今日は何人合格できたのですか?」
デリアは自分たちだけが落ちたのだと思っているのかもしれませんね。
先程から俯きがちですから。
「そんなに落ち込む必要はありません。あれだけの人数がいまいたが、合格者は10人です。隊長に選ばれたのはマリアンネさんです。隊長は一番心の強い人が選ばれました。誰も文句は言えないでしょう。公正なテストでしたよ」
「あれだけの人数がいて、種族もいて、残ったのは10人ですか。エリーザ様は凄いですね」
「本当ですね。10人しか残れないテストに合格したのですから、エリーザ様は凄いです」
褒められると照れてしまいますね。
お祭りの時も凄い注目されて拍手までされるので照れてしまいます。
セイレーンは恥ずかしがりなのでしょうか?
「ありがとう。ユリウス様はセイレーン再興の為に頑張っているのです。シャーロット様には多大な恩があります。少しでも返せるように努力します。あなた達も来年に向けて頑張って下さい。今日はもう休みましょう」
「はい。頑張ります!」
「私も頑張ります!」
宿舎にはたくさんの部屋があるのですが、私たちは体を横にして寝ません。
体を丸めるように膝を翼で抱えて、仲間で固まって休みます。
ですので、1部屋だけで十分なのです。
翌朝、2人は洞窟に帰って行きました。
ドリュアス様のお手伝いは夕暮れからです。
歌の教師は私が代わりに担当していますが、秘儀の授業と被る事はないので問題ありません。
秘儀の授業で私は自分の可能性を知りました。
これ程の知識や技術が子供たちに無料で教えられていたのですね。
子供をとても大切にしています。
そして、鬼ごっこに参加して知りました。
現在セイレーン唯一の子供のアマーリエ。
あの子、とんでもない強さになっているわ。
洞窟に帰ってきても、そんな素振りを全く見せないじゃないですか。
副族長として負けられませんね。
私は遠ざかっていくアマーリエの背中を見ながら笑みを止められませんでした。
子供の成長は嬉しいものですね。




