悪友
「マリアンネ。勇者の剣を討伐隊の隊長か一番強い人が使う剣にしてあげて。魔獣の討伐が楽になるよ。私が作ってもいいけど、武器の力だけで成長したと思って欲しくないから止めておくね」
「分かりました。シャーロット様の考えが正しいと思います。それより、元気がなくなりましたが…」
私の様子が変わったのを見てマリアンネが不安そうだよ。
察していると思うけど信じたくないのかな?
「私の探知範囲を把握して、出たり入ったりする馬鹿がもう来てるんだよ。区長たちに連絡しておいてね」
「か、かしこまりました。至急連絡します!」
マリアンネ慌ててるね。
全力疾走で中央に戻っていくよ。
どれだけ嫌われてるんだろう?
本当は優しくて賢いのに、無駄に火を吹くからいけないんだよ。
「レナーテは今日から働ける?」
「はい。大丈夫です」
「様々な種族の子供がいるけど大丈夫かな?」
「はい。差別とか奴隷とか嫌いです。問題ありません」
あれ?
もしかして凄いいい子じゃないの?
勇者の時もちゃんと注意していたもんね。
念話。
「カーリン。今日から孤児院で働く女性をそっちに送るから仕事内容を説明してあげて」
「分かりました。助かります」
「じゃあ、レナーテ。孤児院長のカーリンに連絡しておいたよ。今から君を送るね」
「はい。ありがとうございます」
転移魔法。
念話。
住民に連絡してあげよう。
「約100年ぶりに火吹きドラゴンがやってきました。酒屋さんは樽のお酒を用意しておいて下さい。結構飲むからね。あと、煩いかもしれないけど怒ったら駄目だよ。私に言ってね。ちゃんと注意するから」
どうしよう。
私が国から離れたら、国を燃やす可能性が高いんだよね。
やっぱり、国の上空の方が分かりやすくていいや。
転移魔法。
噴水の上空に移動した。
こっちから呼び出したら来るかな。
ちらちら伺っていてイライラするよ。
本当に自由なんだから、もう。
召喚魔法。
あーー!
鬱陶しい。
拒否したよ。
魔法陣をかき消された。
勇者とのやり取りを見ていたの決定。
さらに面倒な勝負になりそうだよ。
あれ?
長老が飛んで来た。
風魔法の応用で飛んでるのかな?
器用だね。
やっぱ、2000年の経験は中中だね。
「長老、どうしたの?」
「いえ、まさかとは思いますが、ここで火吹きドラゴンと何かするのですか?」
長老が焦っているね。
あいつの事を知っているのかも。
「長老も知ってるの?あいつ、私に火を点けたいんだよ。馬鹿だよ」
「つまり、今まで何度か会った事があるのですか?」
「そうだよ。これで5回目。人が少なかった時は、尻尾を食べさせてあげたんだけど、流石に今回はできないよね」
「悩む所はそこですか?怖くはないのですか?」
「怖いかな?優しい人だよ。ただ、勝負が終わった後の話ね。イライラさせるのが上手いんだよ。召喚も拒否されたし、探知範囲を出たり入ったりしてるよ。森に住む人の為にわざわざここに来たんだから、あいつも早く来たらいいのに」
「早く来て欲しいのですか…。私達とは考え方が違うのですね。私は火を防ぐので精一杯でしたから」
長老はやっぱり凄いよ。
ジェラの火を防いだ人は長老だけかも。
「喜んでたでしょ。遊び相手がいないから火を防げる相手を探しているんだよ。最低限の強さが無いと遊べないからね」
「なるほど。そういう理由で火を吹くのですか。でも、私の所にはその後来ませんでしたよ」
「多分だけど、もう一度火を吹いたら長老が死んじゃうと思ったんじゃないかな?余裕で防いだの?」
「いいえ。全力でしたので、もう一度吹かれたら焼かれていました」
「それが理由かも知れないね。あいつは世界中に強者が多くいて欲しいから、もっと強くなるのを待ってるんじゃないかな?」
「そういう事ですか。では、私はまだそこまで強くなれていないのですね…」
「どうだろう?この世界であいつと遊んでるの私だけだと思うから。もしかしたら、長老にハイエルフを鍛えて欲しかったのかも。寿命が長いのって寂しい事が多いから」
「なるほど。静かに隠れて暮らしていては駄目でしたね。私もまだまだです」
「気にしなくていいよ。あいつ暇だからって燃やしてるでしょ?皆から嫌われるのも当然だよ。厄災のドラゴンとか言われてるんだから」
「規格外ですから。実際は、火を吹くだけではないのですよね?」
「何でもできるんじゃないかな?人型で悪戯もしているみたいだし。自由過ぎだよ」
念話。
「ジェラが会いに行かないから、ハイエルフの長老が自信なくしちゃたよ。何やってんの」
「だって隠れて住んでるもん。避けられてると思うわよ」
「遊び方が悪いんだよ。何回も言ってるじゃん。それに、自分で育ててみれば良かったんじゃないの?」
「流石に火も防げない人は強くならないわ。シャルだって分かってるでしょ」
「遊びをしたらでしょ?遊び方を変えれば良かったんだよ。せっかく、世界中を飛び回ってるんだからハイエルフを集めて国を作れば良かったじゃん」
「その手があったか!小さく散らばってるから人間なんかに攫われるんだよね。まとめてあげたら喜んだかな?」
「大喜びだよ。ハイエルフは食糧問題とかあまり気にしなくていいし、国を作るなら楽な種族でしょ?他種族の事は詳しくないけど、違うかな?」
「ハイエルフは確かに国を作りやすいよ。他種族は同族でも殺し合いが多いから」
「今、ハイエルフの長老と待ってるから早く来てよ。私は寝てたいの!」
「本当に冗談が通じないわね。子供なんだから楽しみなさいよ」
どっちが子供みたいな事をしてるのよ。
やっとこっちに向かってきた。
行動が遅過ぎるんだよ。
もしかして、長老がいるから恥ずかしいのかな?
「長老。隠れて住んでるから、避けられていたと思って拗ねているよ」
「そんな方なのですか?私の想像していた方とは全然違いますね」
人型で飛んで来たね。
待たせ過ぎだよ。
「待たせたね。厄災のドラゴン、ジェラルディーン!」
黄色く輝く髪に、灰色の瞳。
身長は私の倍くらい。
まさに女って身体だよ。
見た目だけなら絶世の美女なのに残念だ。
あらら、変なポーズまで取ってるよ。
どこかで見た事あると思ったら、背中に虫が付いた子供だ。
自分で取ろうとしても、手が届かなくて困ってるみたいな姿だよ。
「今回の要件は何かな?」
「勝負しようぜ!」
「今までも勝負してきたのですか?」
「んん?知りたいの?本当に知りたい?殺しちゃうよ?」
これしか言えないのかな?
初めて会った時に5000年は生きてるって言ってたよね。
どこかで頭の成長って止まるんだなー。
「あ、シャルが失礼なこと考えてるから街に火を吹いちゃうよ?」
「どうぞー。結果が分かってて、やりたいなら止めないよ」
「中々の挑発ね。私の影響だな?」
「はいはい。厄災さんの本気を見せて下さいよー」
「挑発の仕方が成長したわね。やってやろうじゃないの!」
「じゃあ、私は下にいるね。早く火を点けてね。寒くて仕方がないの」
噴水のすぐ近くまで下り、見上げる。
ドラゴンの姿になったね。
綺麗な黄色の鱗が輝いている。
細身なのかな?
10mくらいの大きさだよ。
他のドラゴンを知らないから、違いが分からないや。
どんな火を吹くんだろう。
「絶対に燃やす。オメガバースト!」
被害が出ないようにしないといけないから面倒なんだよね。
しかも、まったく燃やす気がないよ。
真っ黒だよ。
闇属性かな?
いや、無属性の可能性が高い。
ただの破壊エネルギーだよ。
ここら辺一帯を魔法が使えない空間にしているし。
私だけ不利な状況にするのおかしいよ。
駄目だね…。
本能が今の状態で防ぐのは、不可能だと告げている。
あー、もう…。
本当に嫌なんだよ。
お母さんに怒られたんだから。
守る為に使うね、お母さん。
吸血鬼として、自分に流れる血を意識する。
思い出した言葉を口にする。
【世界を血の色に染めなさい】
深紅の髪が銀髪に染まり、足元まで伸びていく。
心臓が動きを止める。
視界が灰色に変色していく。
強烈な殺戮衝動に襲われる。
駄目だ止められない。
この力はお母さんの血じゃない。
別の血の力だ。
心臓が跳ねる。
私はお母さんの娘だ!
邪魔をするなーー!
心臓が動き出す。
視界が深紅に変色していく。
吸血鬼の力を解放する。
この力で十分に防げる。
ありがとう、お母さん。
友達と殺し合いをするところだった。
深紅の視界の中、オメガバーストがゆっくりこちらに向かってくる。
無属性に対物消去も追加している。
全く燃やす気ないよね?
狙いは街の噴水。
直撃したら世界の崩壊かな。
弾き返しても、その衝撃で街が吹き飛ぶ。
噴水周囲だけを守るのは危ないか…。
嫌がらせが他にあるかもしれない。
国全体に結界を張ろう。
次元断層結界。
オメガバーストと結界が衝突する。
全てを次元の狭間に送る結界だ。
吸収するようにオメガバーストを全て飲み込む。
結果を確認した後、お決まりの行動をする。
今回は悔しがる顔が見れなくて非常に残念だ。
次元移動。
ジェラの背後に移動。
爪で尻尾を斬り落とす。
尻尾は痛覚が鈍いらしい。
斬った尻尾を振り回し、ジェラの頭をぶん殴る。
「はい。私の勝ちー!」
「あー、ほんとむかつく。魔法を使いなさいよ。何よあれ?私のエネルギーを飲み込んじゃったじゃない。そういう非常識な事をするの良くないわよ」
「燃やすとか言って火を使わないジェラが悪いんだよ」
「黒い火が点いたかもしれないじゃない」
「そういう言い訳はいりません。あれは、非常識なエネルギーでした」
「まあ、いいわ。早く尻尾を戻してよね。美人が台無しよ!」
もう、我儘なんだから。
自分で治せる癖に何で毎回私が治すのよ。
おかしいよ、ほんとに。
高位回復魔法。
結界も解いて力も抑制しないと。
視界が深紅から徐々に普段の色に戻った。
ふぅー、疲れた。
「ジェラ、付いて来て。お酒を用意してあるよ」
「先に言いなさいよね。可愛いところあるじゃない」
ジェラは機嫌よく人型に戻った。
本当に単純なんだから。
「先にお風呂に入ってて」
「何それ?」
「温かい水浴び場みたいなものだよ」
「そんなの作ったんだ。気持ち良さそうね」
私たちはりんごの木の横にあるお風呂場に来た。
「木の家で服を脱いでね。奥に温かい水浴び場があるよ」
「じゃあ、ちょっと試してくるよ」
尻尾を持ったまま孤児院まで飛んで行く。
「カーリン。子供たちは帰って来た?」
「まだ、授業中ですよ」
「じゃあ、この尻尾を燻製にしておいてくれない?」
「大き過ぎませんか?」
確かに大きいね、5mはあるから。
爪で10個に切り分ける。
「多くなっちゃったけど、この大きさなら燻製に出来るよね?半分は冷やしておいて」
「はい、大丈夫です。分かりました」
「燻製は時間が掛かるから放置でいいよ。子供たちを優先してね。レナーテも手伝ってあげて」
「分かりました。助かります」
「分かりました」
転移魔法。
酒屋に移動する。
「おじさん。お酒、用意しておいてくれた?」
「奥から出しておきましたが、あのドラゴンが飲むんですか?どれくらい要ります?」
「人になってるから大丈夫だよ。樽に入ったお酒とか置いてある?」
「ありますよ。ぶどう酒と麦酒です」
「じゃあ、両方。あと、お勧めの瓶のも適当に10本くらいお願いね」
「では…。全部で20万5千ギルです」
おじさんにお金を手渡す。
「はい。ありがとうございます」
「こちらこそ。ありがとね」
念力。
流石に多いから浮かせて運ぶ。
転移魔法。
りんごの木に移動したが、まだお風呂を楽しんでいる見たい。
机と椅子3脚も用意しておくか。
木魔法。
木魔法。
妖精たちは小麦を頑張って作っているね。
勉強させたいってユッタが言うから許可したけど、交代でしているのかな?
でも、お菓子屋のおじさんが、毎日買い物に来るって言ってたけど。
椅子に座り、りんごを食べていたら長老がやって来た。
私は別のりんごを長老に手渡した。
「お疲れ様。椅子に座って、りんご食べながら休んでよ」
「そうですね。見ているだけで肝が冷えましたよ」
今回は本当に危なかった。
あいつ、ぎりぎりを攻め過ぎなんだよ。
おかしくなる所だったよ。
「長老、今のが勝負だよ。頭おかしいでしょ?あんなので私に火を点けるとか言ってるんだよ。馬鹿だよ、馬鹿。長老からも言ってやって。消滅するわ!って」
「ジェラルディーン様は何をしたのでしょうか?」
長老は真面目だね。
きっと勉強して強くなるつもりだ。
流石だね。
「魔法を使えない空間を維持して、無属性の対物消去エネルギーを噴水に向かって放ってきたの」
「そんな攻撃をどうやって防いだのですか?」
「次元断層を利用した結界を張ったの。全てのエネルギーを次元の狭間に送り込んであげた」
「つまり、この世界では無い場所にエネルギーを送り込んだ訳ですか?」
「そうだよー。この世界であのエネルギーが爆発したら星の半分は砂地になるよ」
「あのような勝負を、合わせて5回しているのですか?」
うーん。
もう少し優しかったんだけどね。
少しずつ強力な攻撃に変えて行くの止めて欲しいよね。
あのバカの本気はやばいんだから、勝負を楽しめなくなるよ。
「長老からも言ってよ。私が毎回あいつの攻撃を受け止めてるんだよ。おかしいよね?普通は交代制か、私からも攻撃していいよね?」
「尻尾切断は魔法が使えないのにどうやって移動してきたのですか?動きが見えませんでしたが」
長老、私の行動を気にし過ぎだよ。
あいつを一緒に説教して欲しいのに。
「私のいる場所から尻尾の場所に別次元を使って移動したの」
「それは…。シャーロット様は別次元でも存在出来るのですか?そして好きな場所に戻って来れると言う事ですか?」
「そうだよ。エネルギーしかない場所だから自分を固定しないとエネルギーに変えられちゃう。お勧めしないよ」
「普通は別の次元を利用する事すら出来ませんが…」
そんなこと言って、1000年後には出来るようになるんでしょ?
もう、分かってるってー。
「長老、経験だよ。何事も経験すれば何とかなるよ。だって、私も今日初めて使ったもん」
「えっと…。じゃあ国を守った結界も今日が初めてですか?」
「そうだよ。ジェラが姑息にも魔法を使えなくしたからね。仕方ないから別の方法を使ったんだよ」
「何故、魔法を使えないと思ったのですか?使ってみたのですか?」
「あいつが人を使って悪戯してきたんだけど、私が相手の魔法発動を解除したんだ。あいつは絶対にそういうのを見てて、やり返してくるからね。意識して周りの空間を把握したら魔法が発動しない空間だと分かったんだ」
「意識すれば把握できるのですか。本当に規格外ですね。姿も変わっていませんでしたか?」
「あれは、吸血鬼になったの。普段はお母さんの血で力を抑制しているような状態かな」
「なるほど。人の血を使って吸血鬼の力の解放を止めているのですね」
夢を見るまでは気にしていなかった。
自分を意識してみたらお母さんの血で私は動いている。
そして、吸血鬼の力をかなり抑制していた。
別の血は眠っている状態だった。
あの言葉で起こしてしまったんだ。
でも、お母さんが止めてくれた。
お母さんの血で吸血鬼の力を解放する事が出来た。
今回で良く分かった。
あの血の力は使ってはいけない。
殺戮を楽しむ血だ。
私はやっぱり眠っているのが一番だよ。
「そうそう、そんな感じだよ。長老の方が詳しいみたい」
「吸血鬼は血を吸った相手の力を得ると言いますから」
吸血鬼ってそうなんだ。
様々な種族の血を吸えば強くなるのかな?
だから、血を集めていると思われるのかもしれないね。
「勉強になったよ。ちなみに、勝負は殴り合いの時もあったよ。先に一発殴られた方が負けなんだ」
「それは…。その一発で体はどうなるのですか?」
「消し飛ぶよ。私たちは魔法で治せるし自己修復もあるけど、普通は致命傷だね」
「命懸けの勝負をしていて何故笑っていられるのですか?」
「お互いに殺す気が無いんだよ。死なないのを分かってやっているからだよ」
「そういう事ですか。お互いの力量を把握しているからできるのですね」
「そうなるね。でも、私が攻撃受けたら衝撃で街が吹き飛ぶとか、そういう事してくるから、負けられないよね。私が守っているものを壊して勝とうとするから酷い奴なんだよ」
「シャーロット様は何故尻尾を切断したのですか?」
壊そうとする理由はなんとなく分かっているんだ。
ジェラは私を自由にしたいと思っているんだよ、きっとね。
優しいから。
「勿論食べる為だよ。あいつの目の前でね。最高でしょ?でも、人が増えちゃったから残念だよ」
「そこを残念がるのですか。凄い関係ですね」
「会って500年しか経ってないけど、お互いの位置は把握できるから。隣にいるのと変わらないよ」
「お2人の力だとそうですね。距離も時間も関係無いですから」
「あっ!お風呂から出て来たよ。勝負の話をしたら駄目だよ。八つ当たりで周辺の森が無くなるから。再生するの大変だからさ」
「分かりました。それはいけませんね」
笑顔の湯上り美人が来たよ。
話さなければだけど。
「シャル。お風呂いいなー。住みたくなってきたよ。お!ちゃんとお酒も用意して待っててくれるなんて可愛いなぁー」
「ちゃんと、人型で飲んでよ。絶対に足りないからね」
頭を撫でるな。
もう、本当に子供扱いして…。
いや、子供だったよ。
「勿論だよ。お酒と食べ物は人型の方が楽しめるからね。樽に瓶まであるじゃない。どれから飲めばいいのよ。人生で悩む事なんて久しぶりよ」
「好きなのから飲みなよ。足りなければ、もう少し店に余ってたから」
「じゃあ、飲むか。シャルも飲めばいいじゃない。500歳以上だから大丈夫でしょ?」
「お酒は大人になってからって決まってるんです」
「固いわねー。まあ、ちんちくりんのままだと可哀想だからね」
「うるさいわ。どうせ、勇者も人型で誘惑したんでしょ。完全に悪女だよ」
悪女じゃないや。
厄災だったよ。
「もてる女は罪なのね…。シャルにはまだ早いか。あと500年はそのままだよねー」
「薄々勘付いてる悲しい事を言わないでよ。まあ、この姿のままでもいいけどね」
大きくなったら、お母さんの服が着れなくなちゃうもん。
このままの方がいい気がしてきた。
「それより、良く魔法使わなかったわね。発動しなくて悔しがる顔が見たかったのに」
「私の行動を勇者使って監視していると思ったからね。記憶覗いた後に失敗したと思ったもん」
「だからって変身は無いわ。あんなの反則よ。無効試合よ。ねぇ長老」
「長老はあなたに無視された傷が癒えていないの。ちゃんと謝って」
「そんなことは思っておりませんよ。色々と考えがあるみたいですので」
「シャルが言ってたけど。ハイエルフを集めた国、作って欲しい?私が作ってあげようか?」
「攫われたハイエルフを助けてあげたいので、ある程度の集団で生活はしたいですね」
「暇なんだから作ってあげなよ。火を吹いて遊んでるだけなんだからさ」
「違うわよ。空をのんびり飛行していると矢が飛んできたりするんだよ。ドラゴンを倒すのは騎士の誉れらしいわ。馬鹿が増えたから火を吹いてるの」
「馬鹿が増える前から火を吹いてるじゃない。そんな事より、ジェラは農作が好きな種族知らないの?この国の発展が進められるんだよ。私は寝てたいの」
「えー。遊ぼうよー。あ、そっか…、国が完成すれば遊べるね。じゃあ、教えてあげよう。ハイオークが農作が得意で、川の近くの森や草原で暮らしているわよ。ただ、獣人の間でも嫌われているみたいで、ひっそりと暮らしているわね」
「ハイオークはおとなしい種族ですが、見た目が人型の猪ですから獣人からも馬鹿にされているのです。この国の人たちなら大丈夫だと思いますが、かなり酷い扱いを受けてきた種族です」
「孤児でも見た事ないね。人は見た目で攫う子供を選んでいる訳か…。ちょっと話を聞きに行こうかな」
「ハイエルフよりも排他的だから難しいと思うわよ?まあ、行ってみるといいよ。あんたはこの国からもっと出るべきなんだからさ」
「私は寝ていたいの。偶に遊ぶくらいでいいんだよ。じゃあ、今度話を聞いてみるよ」
「ところで、ジェラルディーン様はハイエルフの国を本当に作って下さるのですか?」
「ん?ここにある森の横に作ってあげようか?私も暇だしねー。ただ、私に攻撃したらハイエルフでも殺しちゃうよ?それでもいいならだけどね」
「ちょっとは我慢しようよ。厄災とか言われてるんだから、攻撃されても仕方ないでしょ。燃やすから駄目なんだよ。もう、防げる人がいないのは良く分かったでしょ?長老くらい強く無いとジェラの火は防げないよ。どうせ、火にみせかけた他属性攻撃とかしたりもするんでしょ?」
「あなたみたいな非常識な事はしません。もう断言してあげるわ。あなたは非常識!今日の攻撃は普通避けるわよ。なんで防ぐのー。本当に非常識だわ」
「威力を理解してないの?あんなの地上に当たったら星が爆発するかもしれないじゃない。さらに暇になるよ。星が無くても生きていけるのは、ジェラと私しかいないんじゃないの?」
「ちゃんと、街に当たったらエネルギーの進行方向くらい変えますー。ちょっと、この辺が砂漠になるだけじゃない。自然災害と思って諦めてもらうわよ」
「誰も生き残らないよ。そこが馬鹿なのよ。皆死んじゃうよ」
「それもそうね。皆、死んじゃうわ。まぁ、気にするな。どうせ増えるし自分たちで殺し合っているんだ。私に殺されるなんて光栄だと思いなさい」
「私も最近はそう思う時もあるけど子供は殺さないで。可能性を秘めているから。国を大きくして全ての孤児を保護したいの」
「子供の保護か。確かに教育すれば変わる可能性が高いけど、育ててあげる大人が必要よ。あー、それを教育された大人にさせたい訳ね。なるほど。そうすればシャルも自由になる訳だね。この国はあなたがいなければ滅ぼされるだろうし、本当に面倒な事をしているわ。何度言っても止めないんだから」
「私は暇つぶしで国を守っているの。ジェラは暇つぶしで国を滅ぼしているんでしょ?お互い暇だからしょうがないよ」
「それはつまり…。全部、暇潰しなのですか?」
「「そうだよ」」
私達の言葉を聞いて固まった長老が少し面白かった。
勝負の理由はジェラが自由にシャルと遊びたいだけです。
シャルを縛っているものを吹き飛ばしたいのです。




