閑話 マリアンネ 歩み
クリスタがシャーロット様の横に立っていたから残れたか…。
流石にあいつの前で倒れる訳にはいかないからな。
しかし、本当に化け物になっている。
巻藁を破壊する姿すら見えないとは。
それも、一発で粉微塵だ。
どれだけの覚悟を持って訓練したんだ?
あの強さは人間として常軌を逸している。
とりあえず、最低目標の合格と、最高目標の隊長にはなれた。
合格したのは10人だけだが、それだけ本気の試験だったという事だろう。
合格者は誇りに思えるだろうな。
私はそう思うから。
秘儀の授業は明日からだが、今後は私が国防軍の運営も考えなければいけない。
給料を払うのは授業の間だけでいいが、定期的に模擬戦などはした方がいいだろう。
来年の募集に再挑戦したり、希望する人もいるだろう。
自分で試験を考えるか、シャーロット様にお願いするかも考えておいた方がいいな。
隊長なのだから一番強くならないと駄目だ。
種族が関係ない事はクリスタが証明しているのだから。
家にこれ程の充実感を持って帰れたのはいつ以来だろうか?
息子に雑だと言われてから色々と考えて努力してきたが、こんな気持ちにはならなかった。
国防をお2人に任せきりなのが駄目なのは街長の頃から分かっていたんだ。
やはり、自分で隊長をやるべきだったという事なのだろう。
息子の言った通りじゃないか。
「ただいま。今日は流石に疲れたよ」
「おかえりー。お母さん、どうだったの?」
娘のマルティナが走って抱き着いてきた。
「ちゃんと合格してきたぞ。それに、私が隊長だ」
「凄いじゃん。テストは厳しかった?」
そのまま机に移動し別々の椅子に座る。
「ああ、シャーロット様が真祖になって殺気を出して、それに耐えられるかのテストだよ」
「かなり本気のテストだね。どれくらいの殺気だったの?」
マルティナは殺気について分かっているのか?
学校の授業で教えているのかもしれないな。
「最後はクリスタが基準となった殺気だったよ。立っていた人は合格で、シャーロット様の元に一番早くたどりつけた人が隊長となるテストだった」
「クリスタ先生が基準なの?ほとんど全滅でしょ。討伐隊より酷い有様じゃないの?」
面白い事を言う。
確かにその通りだから笑えないが。
実戦だったら死んでいた訳だからな。
「その通りだな。100人以上希望者がいたが合格したのは10人だ。秘儀の授業は子供たちと一緒に受ける事になった。親がいるから恥ずかしいかもしれないが、我慢してくれ」
「それは大丈夫だよ。秘儀の授業を受ける大人は特別だと思われるから恥ずかしくは無いよ」
「へー。お母さん合格したんだ。やるじゃん」
息子のマリウスも椅子に座った。
いつも一緒に食事を食べているが、いつもより親として堂々としていられる気がする。
「すぐにあんた達を追い抜くよ。クリスタの強さは異常だったけどね」
「私たちに追い付くのも楽じゃないと思うよ?鬼ごっこで捕まえられるようになるのに1年は掛かると思うな」
「まあ、最短で1年じゃないかな。クリスタ先生に追い付くのは現時点では誰もいないから不明だね。見た目が普通だから騙されるけど、全てが異常だから」
子供から見ても異常か。
何かの出来事が切っ掛けで急に強くなった訳では無い。
努力量が桁違いに違いない。
それに、他にも秘密があるだろう。
まずは秘儀を覚えてから考える事だな。
やはり、今までは逃げていたんだ。
子供たちと話していると痛感する。
自然体でいられるようになった気がするよ。
人ができる事は人がするべき。
シャーロット様の言葉を漸く実現に向けて動き出せる。
その中心に自分がいる事がこの上なく嬉しいよ。
マリアンネも自信を持って歩き出しましたね。




