国防軍
「ヴィーネ、この国に足りないものは何かあるかな?」
「戦力じゃない?実際は孤児院の戦力で十分だけど、戦争の為の戦力じゃないから」
前に聞いた時も同じような事を言われた気がする。
間違っていないけど、非常に難しい問題だよ。
「住民から防衛について声が挙がるのが一番だったけど、待ってても無さそうなんだよね。これだと子供たちの成長を待つ事と何も変わらない結果になっちゃう。子供たちに秘儀を教えたのは不幸から身を守る為であり、戦力の為じゃないんだよね」
「国の安定には防衛力が必須だからね。国防軍を無理やり作る?母さんの秘儀を覚える資格があるかどうかテストすればいいんじゃない?」
討伐隊も国防隊もテストで解散した過去があるんだよね。
でも、結成時にはテストをしていないから違う結果になるのかもしれない。
秘儀を最低でも子供たちの水準で使えれば他国に負ける事は無い。
住民の数が少ない小国である以上、少人数で戦う必要がある。
全住民に念話をする。
「明日の夕暮れ、国防軍に所属したい人は訓練場に集まって。秘儀を覚える資格があるかどうかテストします。当然だけど死ぬ可能性もあるからね。覚悟がある人だけ参加して。あと、クリスタも来て」
「母さんが住民を殺すつもりでテストするなんて本気だね」
「そのくらいのテストをしないと駄目だからね。中途半端な事をしたら同じ結果になるから」
「そうだね…。中途半端は駄目だよね」
少し落ち込んだ返事だね。
獣人の里を推薦したのを気にしているのかな?
何も気にする事なんてないのに。
「明日の夕暮れまでゴロゴロしよう!」
「そうだね。ゴロゴロしよう」
・・・・。
翌日の夕暮れ。
「ヴィーネも付いてくる?」
「そうだね。結果は見ておきたいよ」
転移魔法。
エルダードワーフはいない。
ハイオークもいない。
セイレーンは族長じゃなくてエリーザと数名が来ている。
セイレーンも出産は族長が主なのかもしれないね。
人間はマリアンネだけだね。
その他の種族は族長と自信がある人が来ている。
100人くらいかな。
何人残るかは分からないね。
「クリスタは私の隣に来て。今からテストするから他の皆は剣を取ってきて」
「もしかして私がテストするんですか?」
クリスタを呼び出すといつも心配しているんだよね。
そんなに酷い事をしたかな?
「クリスタは最後に実演してもらうだけ。安心して大丈夫だよ」
「そうですか!実演だけですか。分かりました」
本当に物凄く安心した顔をしているよ。
どんな事を想像していたんだろう?
皆が剣を取ってきたね。
訓練場には刃が潰された剣がたくさん置いてあるから。
「今からテストするけど、合格者は子供たちと授業を受けてもらうよ。秘儀について一緒に学んでもらう。それが恥ずかしいと思うなら帰ってね。覚悟はできているかな?」
死ぬ可能性を示唆しているから、ここで帰る人はいないね。
覚悟はできているという事だね。
何を覚悟して来たのかが大切だけど…。
「皆、私と距離が一定になるように離れた後、私に剣を向けなさい。剣を下げたり落としたり、座り込んだりしたら不合格。分かりやすいでしょ?」
お母さん、血を止めるね。
微笑むように鼓動した後、心臓が止まった。
少し驚愕の声を出した人がいるね。
見た事が無い人もいたかな?
「心を強く持ちなさい!力を解放していくよ」
既に足が震えていたり、剣が震えている人がいるね。
私の見た目に怯えているのかな?
「テストを始めるわ!」
カーリンが耐えられる殺気を解放する。
剣を落とす音や、人が倒れる音が続く。
既に脱落者がたくさん出ているね。
レナーテが耐えられる殺気を解放する。
更に半数近くの人が倒れていく。
立っている人も全員震えている。
「今出している殺気は孤児院に勤めているレナーテが動ける殺気を想定しているよ。じゃあ、最後にクリスタが動ける殺気を出すよ。ヴィーネ、倒れている人に結界をお願い」
「はーい。3重結界」
「全力で恐怖に耐えなさい。行くわよ!」
更に半数は倒れたみたいだね。
立っているのは両手で数えられそうな人数だ。
「さあ、そこから歩いて私の所まで最初にたどり着いた人を隊長に任命するわ」
誰かたどり着けるかな。
流石は残った人たちだね。
震える足を引き摺るように頑張って歩いているよ。
最初から秘儀を教える時はこうすれば良かったね。
覚悟があるかどうかがすぐ分かる。
お母さん、血を使うね。
笑ったように震えた後、心臓が動き出した。
「テスト終了。隊長はマリアンネに決定!」
「ありがとうございます」
マリアンネ頑張ったね。
自分を変えようと努力していたから。
「最後に秘儀がどういうものかクリスタに見せてもらうよ。あそこの巻藁を今から全力で破壊して」
「分かりました。では、行きます!」
【ドバァン】
激しい音と共に粉塵が宙を舞う。
巻藁は跡形も無いね。
「終わりました!」
一瞬で巻藁が粉微塵になる。
これを見せておきたかったんだよ。
クリスタは皆の反応が無いから不満気だね。
拍手や歓声を期待していたのかも。
やっぱり勇者は孤独だよ。
「秘儀の到達点はここだよ。見えなかったと思うけど、覚えておいて。合格者は明日から子供たちと秘儀について学んでね。当然教えるのはクリスタだよ」
「やっぱりだー!既に生徒多過ぎるんですよー?あー、聞いてませんね…。はぁ」
クリスタが諦めてくれたね。
全て問題なしだよ。
残ったのは…。
マリアンネ:人間
ハーラルト:獣人
アンゼルム:獣人
エーゴン:獣人
ファビアン:獣人
アルビーナ:ハーピィ
エリーザ:セイレーン
バルドゥル:ドラゴン
エリーアス:グレートドラゴン
アードリアン:ダークエルフ
合格者を見ると納得だね。
ほとんどの人はテストを理解していない。
あの程度の殺気は子を持つ親なら耐えられるはずだから。
一度記憶を消された族長も残っているのだから、やはり強くなったと思っていたんだね。
これからは勘違いする事もないし大丈夫だと思う。
「範囲高位回復魔法、秘儀は極秘で他言無用。仕事で使うのは問題なしだよ。ヴィーネが国長の間は戦う機会が無いと思うけど訓練を怠らないでね。秘儀の訓練はいつでもどこでもできるから。授業が終わるまで仕事ができないから、その間は給料を支給してあげて。授業が終わった後は仕事をしながら秘儀を鍛えて。孤児院で子供の世話をしながら教師をしているクリスタの強さを見たでしょ?国防軍として集まって訓練をするかは自由だよ。募集は1年に1回、脱落した人でも挑戦可能。選別方法は隊長が決めてね。どんな方法でも構わないよ。回復魔法が必要なら私かレナーテを呼んで。マリアンネ、質問はあるかな?」
「いえ、全て承りました!」
みんな頑張って鍛えてね。
人数は少ないけど、ゆっくり形にしていってくれればいいからさ。
「じゃあ、今日は解散。明日から授業に出てね。またねー。転移魔法」
社に帰ってきた。
「結構残ったね。マリアンネが隊長になるとは思わなかったよ」
「マリアンネは元々努力家だったんだよ。駄目な区長と関わり過ぎて染まってしまったけど立ち直ったみたいだね。良かったよ」
「流石にクリスタの動きには唖然としていたね。勇者は孤独だよ」
「あそこまで強くならなくてもいいよ。勇者なんだから特別な存在なの」
クリスタは特別な存在。
私との距離感が他の人とは違うから。
布団を敷くと、すぐにヴィーネが入るんだよね。
この甘えん坊さん。
「じゃあ寝よう。おやすみー」
「うん。おやすみー」
マリアンネが気合を見せました。
クリスタがいたので気合が入りましたね。




