厚顔無恥
検問兵が激怒しているね。
100人以上の人が押し掛けて来たみたいだ。
「ヴィーネ、入り口で揉めている相手は獣人だよね?」
「そうだね。恐らくハイオークを差別するか、その他の理由で移住を認められなかった人たちだよ。どうしても移住したいみたいだね」
ハーラルトとアンゼルムは感情が見えない。
だけど、危険性のある獣人を連れて来なかった。
かなり真剣に選別をしたのだと思う。
それに納得できないから直談判をするつもりなのかな?
正直なところ面倒な相手だね。
里長の判断が間違っていて自分たちが正しいと考えている。
それなら、正式な手順で移住を目指せば良かったのに。
押し掛けた時点で里長の命令を無視した行動だと理解していないのかな?
そんな行動をする獣人の移住を認める訳が無いのに。
「とりあえず行こうか。検問兵が可哀そうだよ」
「そうだね。素直に帰る事はないだろうから終わらないね。転移魔法」
検問兵の周りを獣人が囲んでいるね。
私たちを呼べと叫んでいるよ。
「お疲れ様。君たちの要望通り来てあげたよ。何か言いたい事でもあるのかな?」
「流石に全員で話さないでよ。代表が話してね」
「申し訳ありません。また獣人に勝手を許してしまいました」
「気にしなくていいよ。それよりハーラルトとアンゼルムを呼んできてくれないかな。その間に話を聞いておくからさ」
「「かしこまりました」」
検問兵は申し訳なさそうに一礼して走って行った。
「俺が代表です。移住を認めてもらう為にやって来ました」
「移住の条件を知ってるかな?」
見覚えのある顔だね。
私を殺しに来た獣人じゃないかな?
獣人は同じ顔に見えて区別が付きにくいよ。
「ハイオークを差別しなければいいのですよね?」
「違うよ。この国の住民の推薦が必要だよ。誰かに推薦されたの?」
「里長を推薦したのは私だよ。君は里長から何か理由があって移住するべきではないと判断されたんでしょ?だから移住する資格はないよ」
「里長の判断が間違っているのです。ですから、私たちも移住する資格があるはずです」
「里長の判断が正しいか間違っているかは関係ないよ。里長の移住を認めたのはヴィーネなんだから。里長の判断が間違っていたとしても君たちに移住する資格はないよ。正式な手順を踏んで移住の申請をしないと」
「何故ですか?それならば、間違いを犯した里長の移住が認められるのはおかしいです。里長も移住するべきではないです!」
噂を広めた時からまったく反省してないんだね。
自分が何を言っているか分かっているのかな?
「君は私の判断が間違っていると言いたい訳だね?本来なら移住するべきではない獣人を私が推薦したと言っているんだよね?私の判断が正しくても間違っていても関係ないよ。この星で私の行動を止める事ができるのは母さんだけだからね」
ほんと甘えん坊なんだから。
ゴロゴロしていたのを邪魔されて少し怒っているね。
来たみたいだね。
焦っているのか必死な形相だよ。
この人たちのせいで自分たちまで殺されるかもしれないと考えているのかも。
「2人とも待っていたよ。君たちの判断が間違っていると訴えに来たみたいだよ。更にヴィーネの判断が間違っていると言っているんだよ。どうしようか?」
「申し訳ありません。これ程の馬鹿たちだとは思いませんでした」
「ドミニク…。まさかお前が集めたのか?移住する資格がない獣人を集めて、俺の命令を無視してこの国に押し掛けたのか?」
アンゼルムと一緒に攻めて来たんだっけ?
少しずつ思い出してきたよ。
ドミニクだけずっと殺意があったから国に入れなかったんだよね。
忘れたい記憶だったから思い出すのに苦労したよ。
「里長が間違った判断をした結果です。移住を許可していればこんな事にはなりませんでした。間違った判断をする里長は移住する資格が無いと言ったら、ヴィーネ様の判断が間違っていた事になってしまったではありませんか。今すぐ俺たちの移住を許可すればヴィーネ様の判断も正しかった事になります。俺たちはヴィーネ様の判断に文句を言うつもりはありません。ですから、移住の許可を出して下さい」
ここまでの人は中々いないね。
世界が自分を中心に回っていると考えているのかな?
「ここまで愚かだったのか…。お前を生かす為に必死に尻拭いをし続けた俺が馬鹿だったようだな。お前の処刑に賛成していれば、こんな事にはならなかったな」
「俺の里からも大勢来ているんだ。こいつらを殺してから移住するべきだったよ。ドミニク、お前は里長会議で常に処刑するべきだと言われていたのをアンゼルムが庇い続けていたんだぞ?二度も同じ行動をするとはな。お前のお陰でまた獣人の里が滅ぼされるかもしれないんだぞ?責任の取りようが無いな」
獣人を煽ってこの国を攻めたからね。
相手が私だから獣人の里は怖いよね。
「今回と前回は全く違います。今回は移住の希望を伝えに来ただけですよ?何故獣人の里が滅ぼされる事になるのですか?」
「自分の考えが正しいと思い込み、大勢の獣人を集めて押し掛ける。一緒じゃねえか。しかも、この国の力を分かっていない。滅ぼす理由なんて何でもいいんだよ。お前が煩いから滅ぼすかもしれないぞ?奇跡的に助けてもらえたのに理解してないのか?」
「まあ、そういう事だね。君の考え方や行動が獣人の里の標準なら流石に邪魔だよ。君は母さんを殺そうとし続けたのに良く移住を希望できたね。余りにも厚顔無恥だよ。母さんどうしようか?」
「記憶を消して里に戻しても、この国の情報を知ったら同じ事をしそうだから、殺すか記憶を消して例の島に飛ばすかだね。アンゼルムが決めていいよ」
十分に更生する機会を与えられている。
これ以上の温情は過剰だよ。
「何故移住を希望しただけでそんな事になるのですか?全て里長が判断を間違えたのが原因ではありませんか。おかしいですよ!」
「確かに俺は判断を間違えた。お前を生かしてしまった事だ。記憶を消して島に飛ばして下さい。お前の罪は楽に死ねるほど軽くはない」
「決定だね。バイバイ。闇魔法、転移魔法」
優しいのか厳しいのか…。
島の環境をある程度予想してそうだね。
「皆お疲れ様。この国では良くある光景だから気にする必要はないよ。ヴィーネ帰ろう」
「そうだね。帰って寝よう。またねー。転移魔法」
里長は正しい選別をしたって事だね。
同胞を殺すのは難しいよ。
移住する資格が無いから殺すとはならないからね。
機会をたくさん与えてもらったのに、それを生かせないのは残念だよ。
偶にこういう人がいますね。




