殺戮衝動
「ヴィーネ、ちょっと実験してくるね」
「程々にね。叔母さんみたいに頭がおかしくなるよ」
規格外な異常者で変態だからね。
ふーんだ!
「分かった事があるんだ。殺戮衝動の正体を見つけたと思う」
「とんでもない事を言っているね。私も行こうか?」
ヴィーネがここにいるから安心できるんだよ。
今回は近くにいると何が起きるか分からないから。
「大丈夫だよ。ヴィーネはここにいて欲しい。上手く行けば姉妹の再会だよ」
「叔母さんの姉ってまだ子供だよね。まあ、なるようになるね。ここで待ってるよ」
ヴィーネに手を振って別れ、いつもの実験する海の上空に転移魔法する。
ここ数年は意志を持って真祖の力を使う事が多かった。
だからこそ思う事がある。
私をなめるなよ!
最初は姉の血に殺戮衝動がある事に違和感がなかった。
意識して初めて真祖になった時に感じたものだし、ジェラ姉ちゃんの話も聞いて納得していた。
しかし、血に意志が宿っているならお母さんの意志も強く宿っていないとおかしい。
お母さんの意志が殺戮衝動ごときに負けるとは思わない。
不愉快だよ!
吸血鬼の王である真祖を血で操ろうとするなんてね。
お母さん、血を止めるよ。
心臓が頷くように鼓動した後、静かに止まった。
力を全力で解放する。
視界が灰色に染まる。
何も問題はない。
予定通りだ。
ヴィーネを殺しに来た古代種ドラゴンを思い出す。
そして、殺気を全力で出す。
今すぐ殺せ!
ああ、待ってたよ!
早く殺せ!
お前の事を待ってたんだ!
皆殺しだ!
お前を殺してやるよ!
・・・・。
早く出て来いよ!
お前は精霊なんだろ?
黙るのか?
瘴気を利用しているだけで調子に乗るなよ。
お前の核を壊されたくなければすぐに出て来い。
地下世界を探せばすぐに見つけ出せるぞ。
精霊の殺し方は既に知っているからな。
お前の遊びに興味は無いが気付かれないと思っていたのか?
何が望みだ?
私とジェラルディーンの姉で遊ぶのは止めろ。
地下世界で遊ぶ分には干渉しないでいてやる。
地上に出た真祖に干渉したのが間違いだったようだ。
お前の誤算は、遊びで使おうと思った竜王の子供が双子だった事と、姉にどれだけ干渉しても妹を殺さなかった事。
そして、その姉が真祖の私に血を与えた事だ。
ドラゴンが地下世界まで卵を温めに行くのもお前の仕業なんだろ?
殺し合いを眺めているのが好きなんじゃないのか?
面白いな!
そこまで把握されるとは思わなかったぞ。
約束は守ってやるから俺の遊びを邪魔するなよ。
地下世界で遊んでいるなら干渉しない。
好きなだけ殺しあっていればいい。
お前も殺しがしたくなったら、地下世界に来いよ。
大歓迎するぜ!
じゃあな。
私の脳裏を埋め尽くしていた殺戮衝動が収まる。
約束を破ったら必ず見つけ出して殺すからな。
念話
「ジェラ姉ちゃん、今すぐ私の所に来て。姉の殺戮衝動を止めたから封印解除に行こうよ」
「シャル、殺気を出しているから何をしているのかと思ったら…。すぐに行くわ!」
本当にすぐ来たね。
長年殺さずに封印していたのは双子の姉だからだろうね。
優しいのは姉妹一緒なのかも。
「姉の殺戮衝動の原因が分かったの?大丈夫だと思う根拠はあるの?」
「あるよ。殺戮衝動は地下世界にいる精霊のせいだね。ドラゴンが地下で卵を温めるように誘導したのもそいつだね。私は瘴気を利用している精霊だと思っているけど、別の存在かもしれない。地下世界に干渉しない事を条件に、私とジェラ姉ちゃんの姉で遊ぶなと脅迫しておいた。もし殺戮衝動が残っていたら必ずそいつを殺すから」
「なるほど…。真祖に血を与えたのは精霊からの干渉を気付かせる為だったって所かしら?吸血鬼の王が血に干渉されるのはおかしいと思う可能性が高い。まあ、色々考えても仕方がないし封印を解きに行きましょう。転移」
ここがダンジョンの最奥なのかな?
明るいのは瘴気の影響だろうか?
物凄い封印の数だね!
罠もたくさん仕組まれていそうだよ。
解除はできると思うけど、本人にお願いするのが一番安全だね。
封印を解除するごとに子供の姿が見えてきた。
ジェラ姉ちゃんが青髪の子供になったみたい。
双子だから成長したら絶対に美人だね。
妹の頭がおかしいから姉はきっと大丈夫!
私に血を飲ませたのは気付かせる為だったと思うから。
妹が自分を封印するのも予想通りだと思う。
封印させる為に地上に出ようとしたんじゃないかな?
当時は同じ実力で殺し合いをすれば共倒れだからね。
私を封印したのは、万が一の時にジェラ姉ちゃんが私を確実に殺せるように成長させる為だろうね。
それに、私がすぐに地上に出て魔人の血を飲み続けたら精霊に抵抗できたか分からない。
瘴気が引く時間も計算に入れているのかもしれない。
どちらにしろ、賢い姉だと思うな。
「姉さん…。気分はどうかしら?」
「産まれて初めて気分がいいよ。大きくなったね。何年後かな?隣に真祖がいるという事は上手く追い出せたみたいだね」
「少しでも異変があるなら殺しにいかないといけないから教えてね」
私の予想通りかな。
ヴィーネのように知的に感じるよ。
「もう大丈夫だよ。とりあえず自己紹介をしておこう。私はジェラルシィーナ。よろしくね。君のお陰で助かったよ。本当にありがとう」
お母さん、血を使うね。
心臓が優しくゆっくりと動き出す。
「妹と違って常識がある人で良かったよ。私はシャーロット。よろしくね」
「姉さん。5500年以上は経ってるよ。竜の国の上位19人の族長は全て殺して私が竜王をやってるよ」
「竜王になったの?意外と物好きだね。ドラゴンは馬鹿しかいないから殺したんでしょ?親の記憶を見て気付かなかった?5500年の知識の蓄積を感じないよ?成長したのは体だけだね」
知的な姉に脳筋の妹だよ。
その結果が火吹きドラゴンだね。
「5500年振りに会話をしたのに馬鹿にされるとか酷過ぎない?普通は涙を流した感動の再会じゃないの?姉さんが竜王になって。私はもう疲れたの!」
普通じゃない人が普通の再会を望んでいるよ。
どさくさに紛れて竜王を押し付けようとしているけど…。
「仕事をしたの?そんな台詞を言えるほど何かをした気がしないけど。まあ、やっと自由になれたし帰ろうか。色々と教えてよ」
流石知的な姉だね。
脳筋の妹の考えなんてお見通しだよ!
「感動の姉妹の再会だね。凄くいいね。妹と違って常識がある所が最高だよ!」
「そうだね。とりあえず帰ろう。転移」
早速おかしいよ!
神国シェリルの社に移動したよ。
結界を通り抜けたって事はヴィーネに連絡したね。
「何で当たり前のように家に来たの?姉妹で嫌がらせするの?」
「竜の国に帰ると思ったけど、どうしてここに来たのかな?」
「皆でお風呂に入りたいからだって。叔母さんから念話が来たよ」
面倒そうな顔をしたヴィーネが社から出てきたよ。
理由がお風呂って…。
「今日はお風呂に入って土地神リンゴ酒を飲んで寝たいの!」
「妹は昔からおかしかったから。今日だけは許してあげて」
「母さん奇跡だよ!叔母さんの姉が常識人だなんて。お風呂に入った事ないと思うし入ろうよ」
「そうだね。お風呂に入ろう!」
ヴィーネがとても感激してるよ。
自分からお風呂を勧めるなんて余程の事だよ。
4人は血が繋がっている家族みたいなものだからね。
結構広めにお風呂を作っておいて良かったよ。
まさか4人一緒に入る日が来るとはね…。
今後の呼び方を考えないと。
ジェラ姉ちゃんだと2人とも該当してしまう。
ディーン姉ちゃんとシィーナ姉ちゃんにしよう。
その説明をしたら、お母様と呼べと脳筋が喚きだしたけど姉に怒られてたよ。
最高の姉妹関係だね!
ディーン姉ちゃんはお酒を飲みながらシィーナ姉ちゃんと話していたね。
シィーナ姉ちゃんはお酒を飲まなかったよ。
お酒は大人になってからだって。
私とヴィーネは先に布団でゴロゴロしていたよ。
2人の会話を邪魔したら悪いからね。
お祭りの後に布団は大きくしたけど流石に4人は入れないね。
3人は布団に入れたけど、やっぱり1人はみ出ているよ。
次のお祭りまでにもう少し大きくしないと駄目かな…。
絶対に2人で遊びに来るよ。
「シャル、最高だよ!次のお祭りは2人で遊びに来るから土地神りんご酒を10本用意しておいて」
「別にいいけど偶にはお金を払ってよね」
「竜王なのにお金がないの?何て情けない妹なのよ。今度ゆっくり話を聞くからよろしくね」
「最高だね!叔母さんに首輪が付いたよ。こんなに嬉しい事があるんだね」
可愛い女の子に説教される残念美人さん。
やっとヴィーネもお祭りで楽できるかな?
「本当にうるさいわねー。まあ、機嫌がいいから今日はこのまま帰ってあげるわ。じゃあねー。転移」
姉と再会できたから最高に機嫌が良かったね。
それでも、土地神りんご酒をたかるから駄目なんだよ。
シィーナ姉ちゃんに叱られてお金を持って来てくれないかな?
姉には弱い残念美人さんです。




