襲撃
夢を見た日から凄く気持ちのいい日々を過ごしていた。
保護した獣人の子供たちも笑顔を取り戻し勉強している。
ハイエルフとエルフたちも森で笑顔で生活している。
そうだよ。
この国で生活する人は笑顔でいて欲しい。
皆が笑顔で生活し発展していけば、私の願いも叶うかもしれない。
好きに生きると決めたから、私はここで眠る生活のために頑張るつもり。
でも、そのうち来るとは思っていたよ。
やっぱり、予想通りだね。
話には聞いていたから特に何か思う事も無い。
探知範囲に殺意をもった集団を確認した。
国の左右から攻め込もうとしている。
防護壁を飛び越える能力があるかもしれないけど関係ないよ。
集団は人間か獣人か分からない。
グスタフの話だと血の気の多いという獣人だと思うけど。
念力。
攻め込もうとしている人を停止させる。
転移魔法。
国の入り口にある検問所に移動する。
検問兵は区長たちの提案で獣人たちがしてくれている。
「お疲れ様。いつもありがとうね」
「いいえ。同胞が問題を起こす可能性がありますので、頑張ります」
「その通りです。絶対中には通しません」
この国の為に頑張ってくれているのは嬉しいな。
「今から襲撃者をここに呼ぶけど、攻撃しないでね」
「襲撃があったのですか?」
「すみません。気付きませんでした」
「気にしなくていいよ。この国に入る前に止めたから。召喚魔法」
「お前ら…。そんなに武装して何をしに来たんだ!」
「この国が獣人に何をした?何故そんな事も考えずに攻めて来た!」
検問兵の獣人たちが怒っている。
念話。
「マリアンネとグスタフ。準備ができたら検問所に召喚するから教えて。獣人の襲撃者14人を捕まえたよ」
「今すぐ問題ありません」
「獣人ですか。俺に話をさせて下さい」
「検問所に呼び出すね、召喚魔法。襲撃の代表者と理由が分からないから、記憶を覗かせてね」
獣人たちの武装は凄い。
子供たちが見たら泣いちゃうよ。
物凄い大きな曲刀を両手に持って、腰にも剣を提げている。
「これほど本気で殺しに来たのですか」
「お前たちはシャーロット様を殺しに来たのか?最悪だよ。今生きている事を感謝しろ」
「襲撃の理由は噂だね。予想通りだけど、冒険者組合の関係者を殺しただけでは噂は止まっていないようだね。噂を獣人たちに広げたのも、獣人の冒険者だね。襲撃に参加しているから、君を代表にしよう。話せるようにするから言いたい事を言えばいいよ」
「噂だと?冒険者を殺し組合長を殺したのは吸血鬼のお前だろ。殺人鬼じゃないか。どこが噂だ!」
グスタフとマリアンネが怒っているね。
「お前が獣人たちに噂を広げているのか。とんでも無い事をしてくれたな。馬鹿過ぎで吐き気がするぜ。何故奴隷商人が死んでいたのかを確認しない。死んだのは冒険者だけじゃないのは見れば分かるだろ?お前はどうせ死んだ冒険者も見ていないだろ。シャーロット様がどれだけ獣人の孤児を保護してくれているか考えたら、お前の行動は最悪だ。俺が今すぐ殺したいくらいだよ」
「グスタフ、少し落ち着け。お前たち獣人を攫って殺しているのは冒険者だよ。奴隷商人と冒険者組合が手を組んでいたから殺したんだ。獣人は血の気が多いと聞いたが、本当に噂だけでシャーロット様の命を狙うとは思っていなかった。お前は噂を止められるのか?答えてみろ」
「ふざけんな!証拠もないのに何が保護しているだ。適当な嘘を吐くんじゃねー。噂じゃなくて真実を告げただけだ。どれだけの部族に広がっているかは分かんねーよ。俺達を殺しても襲撃は続く。震えながら眠るんだな」
グスタフが激怒しているよ。
まあ、同族があまりにも馬鹿をしたから、しょうがないとは思う。
「お前はクソ野郎だな。証拠だと?お前らの前に子供を連れてくるのか?凶器を手に持って、憎悪に燃えた目をしているお前らの前に子供を出せる訳無いだろ。せっかく時間をかけて笑顔を取り戻してくれているんだぞ。お前らの姿で台無しになるじゃねーか。刃物をもった人間に殺された獣人の子が多い。お前らの姿を見たら確実にぶり返す。そんな事も理解出来ねーのかよ。そもそも、検問兵を獣人がしていて、俺が話している時点で、この吸血鬼の方が獣人を殺していない事くらい分かるだろ。違うのか?そこまで俺達は馬鹿だったのか?」
検問兵の2人も声をあげる。
「俺達は区長から頼まれて検問をしていたんだぞ?吸血鬼のシャーロット様に命令された事なんて一度もないんだ。孤児の子供たちの笑顔は俺も見ている。俺はここで結婚して子供もいるが、お前らの前に子供を出せる訳が無い。何故襲撃する前に話をしようと思わなかった。確認しようと思わなかったんだ」
「本当だぜ。俺達が検問をしている意味もねーよ。お前たちは何処から攻めようとした?普通攻めるにしても様子を伺うだろ。何をしていやがる」
私は拘束した時の状況を皆に説明した。
「この人たちは左右に別れて防護壁に近付いていたよ。飛び越えるのか正面に来るのか分からないけどね。とりあえず、探知範囲は国より広めにしてあるからさ。せっかくだし、襲撃の主犯も話せるようにしてあげるよ。言いたい事は言ってね」
「おい、ドミニク。どういう事だ?この国に獣人が普通に暮らしているなんてお前は言わなかったよな?吸血鬼に血を吸われる為に集められていると言ったよな?血を吸われそうな獣人が検問を任されているのか?操られている様に見えるのか?しかも、話を聞いていたらお前は冒険者の確認もしていないみたいだな。冒険者が同胞を殺していたのを止めてくれたみたいだぞ?どうするつもりだ?お前はどうやって責任を取るんだ。俺達がこんなに簡単に捕まるような相手だぞ?襲撃を繰り返したら絶滅するな」
「里長まで何でこいつらの話を信じるんですか?冒険者が殺されているのは間違いないんですよ?」
「殺された冒険者が何をしていたか確認したのか?言ってみろ?」
「SクラスやAクラスの皆の憧れの冒険者ですよ。組合長と一緒に殺されました。冒険者はそれに激怒しているんです。組合が大混乱だし、人気冒険者も殺されるし、大迷惑ですよ」
「ほお。その冒険者が裏では俺達の同胞を殺していた訳だ。冒険者を殺しに行った方が良かったな」
グスタフが里長と会話し始めたね。
「あなたは里長ですか。こうなる気がして、殺さずに止めてもらえるように、シャーロット様にお願いしていました。噂は止められますか?」
「俺でも無理だ。どれだけの部族に噂が伝わっているか分からないし、信じてもらえない。この状況でも信じていない馬鹿が横にいるんだ。かなり厳しいよ」
「いいよ。襲撃される度に私が止めるよ。子供を取り返しに来たんでしょ?それなら仕方がないよ。刃物を検問兵に預けてからなら中に入れてあげてもいいよ。ただし、動けるようになった後に殺意を感じたら殺すけど、どうする?」
「ドミニク以外を動けるようにして欲しい。もし、殺意を感じたら殺してもいい。中を見せてくれ、流石に里の馬鹿が流した嘘で襲撃が続くのは申し訳ないし、殺されるのが分かる。出来る限り噂を止めるように協力する」
里長がそこまで言うならドミニク以外は解いてあげよう。
ドミニク以外は殺意が無いから大丈夫だと思いたい。
さて、動けるようにしたけど素直に検問兵に武器を預けるかな?
うん、大丈夫そうだね。
「さあ、歩いて孤児院まで行こうか。グスタフが里長に説明してあげて」
「分かりました」
獣人のみんな驚いているね。
他国を見た時も思ったけど、この街はかなり発展しているみたいだからね。
たぶん里とも様子が違うんだろうね。
孤児院に到着。
今日の私は皆の様子を見ている事が多いね。
グスタフと里長が孤児の話を始めたね。
「ここに孤児が住んでいるのか。凄い施設だな。今は何をしているんだ?」
「今は勉強をしている。文字を書けるようにしたり、計算をできるようにしたり、街の決まり事を教えている。ここは多種族が集まっているからな。種族の違いなんかも教えているよ」
子供たちが帰って来たね。
こうやって見ると多いね。
みんな笑顔になっているよ。
流石、天使カーリン。
里長が獣人の子供に声をかける。
「おい、坊主。ちょっと教えてくれ。何をしてきたんだ?」
「ん?住民の人じゃないね。今日は街の決まり事とか、シャーロット様に感謝しなさいとか、だね。ここの国では他国に攻められる心配も、奴隷にされる心配も、殺される心配もない。怪我や病気も全て治してもらえる。それを、当たり前だと思わずに、国の為に何が出来るかを皆が考えなさいって。難しいよ。大人になったら戦闘員になるとばかり思っていたけど、何でもいいみたい。選べる自由にも感謝しなさいって言われたよ。当たり前じゃないからってね」
こんなに恥ずかしい事を教えているんだ。
私の前で言わないでよ。
恥ずかしいじゃん。
「ほお。その通りだぜ坊主。孤児で辛いかもしれないが、恵まれた環境にいるんだ。それを、当たり前だと思っている様じゃ、同じ獣人として恥ずかしいぜ。立派に役に立つようになれよ」
「うん。僕なりに頑張ってみるよ」
獣人の子は待っていた子と一緒に孤児院に入って行った。
仲良くなって生活できているね。
「なるほどね。そりゃあ、他国と違うわ。怖い問題を全て1人が抱えてくれている状態だからな。しかも、命令もしていないし奴隷もいない。区長や街長は住民が選んで、住民が考えた案をお願いすれば実行してくれるのか。シャーロット様、あんたに欲は無いのかい?」
「私は寝て過ごして偶に遊びたいかな。だから、皆に頑張って考えてもらってるんだよ。私がもし命令する事があるとしたら住民が奴隷を望んだ場合だけだね。絶対に許さないから。その条件を満たしつつ多くの人が住めて、孤児を助ける事ができる国を考えてもらってるよ」
「良く分かったよ。グスタフ、早く国を大きくして皆を吸収してくれよ。俺の里の住民もこの国に住みたいぜ」
「ああ、皆で頑張って考えているよ。食糧問題とか色々と解決したら声を掛けに行くよ」
「俺が生きている間に頼むぜ。殺し合いは疲れたんだ。噂は里の住民を使って何とか減らす努力はする。すまんがそれが限界だ」
「本当に頑張るよ。噂は頼んだ。馬鹿がこの国に攻め込んで来るのは獣人として情けない」
私達はまた入り口まで戻って来た。
里長たちは検問兵から武器を返してもらっている。
ドミニクの感情はまだ怒りだ。
どうしようかな?
「おい、ドミニク。お前は本当にとんでも無い事をしてくれたよ。里長として選ばせてやる。全力で噂を消すか、俺に殺されるかだ。どちらかを選べ。選べるだけありがたいと思え。街の中を歩いて獣人の孤児と話をして、俺はお前を殺したくて仕方がないんだからな。世界中でここより幸せな国はねーよ」
まだ悩んでいる。
里長の言葉でも信じられないのかな?
このままだと殺されて終わりだよ。
「1つだけ確認させて下さい。里長から見ても俺は街に入るべきじゃないですか?」
「ああ、間違いなく入るべきじゃない。子供たちの笑顔が消える。お前の面はそんなんだよ」
「…。分かりました。全力で噂を消す努力をします。すみませんでした」
怒りも消えたみたいだね。
動けるようにしてあげよう。
マリアンネからも話があるようだ。
「ドミニク。私も元冒険者だ。冒険者組合は腐っているよ。SクラスやAクラスが獣人を殺して子供を奪い、戦闘で勝てないハイエルフの子供を攫っている。全員がそうでは無いと当然思うが、綺麗な組織ではないよ」
ドミニクは冒険者を続けるのかな?
ダンジョンに潜ったり困った人の依頼を引き受けるのが冒険者だよね。
獣人たちは少しだけ寂しそうに帰っていった。
「マリアンネ、私もダンジョンに1回は潜った方がいいかな?そんなに魅力的なの?」
「シャーロット様にはつまらない場所ですが、一獲千金を狙うなら冒険者が楽なのですよ。危険が大きい分、見返りも大きいです。ただ、冒険者が得る見返りをシャーロット様は作り出す事が出来ると思います。ダンジョンの魔物との戦闘も意味がないでしょう。暇で仕方が無い時に案内しますよ」
「そうだね。その時にはお願いするよ」
「ええ。私もダンジョンをただ歩いて進んでみたいですからね」
敵を全部私に押し付けるって事だよね?
戦う気が無いよね?
別にいいけどさ。
「それよりもさ。もう、街長じゃないよね?国長だよね?凄い出世だよ。おめでとう!」
「流石です、シャーロット様。もう、辞めたいという言葉すら出ませんでしたよ」
出世して嬉しい訳だね。
とてもいい事だよ。
私はそう思い社に帰って寝転んだ。
里長はこの国の恵まれている状況を良く理解しています。
噂を流した獣人は憧れの人が殺されて怒り狂ったのでしょうね。




