閑話 ビアンカ 歴史の授業
ヴィーネ様から2人は別々に授業した方がいいとお話がありました。
王女と近衛騎士であり、友達でもあった…。
何か思う所があるのかもしれませんね。
今日はこの国とシャーロット様の歴史の年表と、簡単な説明だけですね。
深い話は次回以降にゆっくりとして行きましょう。
ちゃんと理解して欲しいですからね。
「とりあえず、簡単な歴史の年表の説明だけでしたが、どう思いましたか?」
「シャーロット様が土地神様なのは良く分かったよ。何でもできるけど我慢しているのね」
我慢しているのは間違いありませんが…。
何でもできると何故考えたのかしら?
「お母様も亡くして悲しんでいるし、秘儀の話を知っていてもそう思うのかしら?」
「寿命で死ぬのはしょうがないじゃない。本当は何でもできるけど我慢しているだけでしょ?」
何故盲目的に何でもできると考えているの?
秘儀が生み出された過程も知っているじゃない。
自分で全て解決できるから、何でもできて我慢しているだけだと思うの?
「そう思うのはただの盲目な信者。飛ばされた人と同じ考えよ。何でもできるからお願いを聞いてもらえる。いつでも助けてもらえる。今まで守ってもらったのだから次も守ってくれる。クリスタはそう考える人を殺したくて我慢していたのよ。クリスタが殺す前に全員記憶を消されて飛ばされたけどね」
「500年以上も守ってきたし怪我や病気も治してきたのでしょ?当然守ってもらえると思うわよ」
初回の授業でここまで思い込む理由は何?
当然守ってもらえるなんて最悪な言葉じゃない。
「あなたはシャーロット様に命令するのかしら?崇めている相手に当然なんて言葉を使うの?」
「シャーロット様の意志じゃない。命令なんてしてないわよ?」
本当に何を言っているの?
シャーロット様の意志を何故あなたが決め付けるの?
「あなたはいつシャーロット様の意志を聞いたのかしら?歴史の話しかしていないわよ?」
「歴史が証明しているじゃない。シャーロット様が守ってきたから今があるのでしょ?」
「クリスタと話したのでしょ?討伐隊が壊滅したのも知っているでしょ?何故シャーロット様が人間を守る必要があるの?」
「人間に育てられたからじゃない?だから育った国を守っているのでしょ?」
「それは、人間に育てられたから人間に恩返しをしていると言っているの?」
「そうじゃないの?孤児だったから孤児も保護してるじゃない」
「土地神様と崇めながら人間に恩返しをしていると考えるの?シャーロット様は人間に恩返しをする為にこの国にいると言いたいの?」
「500年以上も守ってきたら土地神様だと思うよ。でも、守ってきた理由は恩返しでしょ?拾ってもらった人間に恩返しができないから、この国に住む人間に恩返しをしようと考えたんじゃないの?」
シャーロット様にはお母様がいるじゃない。
孤児だから孤児を保護しているなんて話はしてないわよ。
表面だけ見て全て知ったように語るわね。
「秘儀を生み出したのも人間への恩返しだと言いたいの?」
「弱い人間を強くする為の恩返しでしょ?秘儀を教えて貰ったのに壊滅した討伐隊は馬鹿だったと思うわ。勿体ないと思ったもの」
「シャーロット様は人ができる事は人がするべきだと考えているのよ。それについてはどう思うの?」
「人の力が足りないと感じたから秘儀を教えたのでしょ?だけど壊滅した。大人に秘儀を教えても壊滅してしまうから子供に秘儀を教えようと考えたのではないかしら?そうすれば、将来人の力で国を守れるようになるじゃない」
「シャーロット様は子供を戦力だと考えているという事かしら?」
「そうじゃないの?秘儀は強くなる為のものじゃない。子供を強くする理由が他にあるの?」
「じゃあ、あなたは秘儀を覚える気が無いと言う事でいいのね?」
「秘儀は知りたいわ。自分がどれだけ強くなれるのか知りたいじゃない」
強くなりたいだけの人には教えられないと聞いたはずよ。
秘儀の魅力に取り憑かれて自己中心的な思考になっている。
「強くなってどうするの?ただ強くなりたいだけなの?」
「孤児院はクリスタを叩きのめしたいのでしょ?私の目標もそれにするわ」
クリスタと組手をして秘儀の力を知った。
悔しい思いでもしたの?
クリスタを叩きのめすのが目標とはね。
「あなたがクリスタを叩きのめしたい理由は何?」
「信者と中立派の戦いなのでしょ?私が信者の味方をしてもいいじゃない。中立派として信者の味方をすればクリスタも喜ぶでしょ?」
あなたの考えが良く分かったわ。
余りにも不愉快!
早く秘儀を知りたいだけなのね。
シャーロット様の事を理解した気になっている。
私の問いかけは試されているとでも考えているの?
しかも、信者の味方をするですって?
随分と軽く扱われたものだわ。
【パァーン】
いつの間に…。
エルネスタの顔にクリスタの拳が止まっている。
良く見ると結界で阻まれているようね。
我慢の限界だったのでしょう。
クリスタも監視していたのね。
「もー、信者と中立派の戦いを止めないで下さいよ」
「過激な中立派のクリスタらしいよ。言い訳まで用意しているなんてカーリン軍の真似かな?」
「ヴィーネ様。いつから聞いていたのですか?」
「最初から聞いていたよ。焦っては教えて貰えないと思っていた秘儀が目の前にちらついたら本性が出たね。最初の授業で母さんをここまで侮辱するとは思わなかったよ。500年以上も人間に恩返しをしているだって?何故君が母さんの人生を決めつけるの?人間の言う事を聞く吸血鬼だと勝手に理解したね」
「偶々生かされている事も教えた。この国とシャーロット様の歴史を知らなければいけないと教えた。あんた、たった1回の授業で何を理解した気になってるの?中立派として信者の味方をすれば私が喜ぶ?シャーロット様を侮辱し、レナーテも私も馬鹿にしている。子供を戦力と見た時点で孤児院で働く資格も無い。ビアンカが注意してる事にも気付かずに、べらべらと自分の考えを話し続けた。平民の話を聞く気が無い貴族と一緒ね。この国で一番不要な人間よ」
「そうね。もう手遅れね。最初の授業で終わると思わなかったわ」
「黙っちゃったね。授業を聞いていた時の君は欲塗れだったよ。友達に言っておきたい事はあるかな?」
「彼女は飛ばされないのですか?私だけですか?」
やはり別々に授業を受けさせる意味はあったのですね。
クリスティーネを巻き添えにしようとしている。
「一緒に飛ばされたいの?それとも、あの子が飛ばされる理由を知っているの?」
「クリスティーネは信者と中立派の戦いを楽しみにしていました。私の考え方が駄目なら、彼女も馬鹿にしているではないですか」
何も知らないクリスティーネの発言でしょうね。
戦いを楽しみにしていると言われても、馬鹿にされているとは思わないわ。
ヴィーネ様も楽しみにしているし、クリスティーネも観戦したいという思いだけでしょう。
「それは馬鹿にしてないじゃない。私も楽しみにしているけど駄目なの?最後にクリスティーネ、何か言いたい事はあるかな?」
呼んでいたのですか…。
全て想定内の出来事なのですね。
エルネスタは監視対象だったのでしょう。
「この国の記憶を持ったまま他国で生きていくのは辛いと思うので、記憶を消してあげて下さい」
「何故あ…」
「沈黙、捨て台詞は言わせないよ。クリスティーネのお願いを叶えるよ。闇魔法、転移魔法」
「あなたも無知な私が疎ましかったのね」
「無知は勉強すればいいから気にする必要はないよ。またねー。転移魔法」
「勉強して中立派になればいいよ。じゃあ、孤児院に帰るねー」
本当に勝手なんだから。
さっきまで殺そうとしていたのに、笑顔で帰っていくとか普通じゃないわよ。
やはりクリスタは異常者ね。
「友達だったのでしょう?残念だったわね」
「私が思っていただけのようです。彼女には打算があったようですね」
「余り思い詰めない方がいいわよ。人は打算で動くものです」
「この国も同じなのでしょうか?」
「打算で動いている人もいると思いますが、それでは中央区の仕事に就く事はできません。中央区で仕事をしている人は信念を持っている人だけですからね」
「そうですか。もう、裏切られたり疎まれたりするのは嫌ですから良かったです」
彼女は恵まれた王女では無かったのね。
何も知らなかったのはエルネスタも関係してそうです。
自分に都合のいい王女にしておきたかったのかもしれません。
「クリスティーネは秘儀を知りたいと思っていますか?」
「私は孤児院の仕事を全部覚えたらクリスタに魔法の使い方を教えてもらおうと思っていました。国で3番目に強いクリスタなら知っていると思いまして。シャーロット様の魔法を見て、自分の魔法ならどんな事ができるのか知りたいのです」
なるほど。
彼女には間違った魔法使いの常識もない。
本当に何も教えてもらえない環境だったのね。
ここまで何も知らないと色々と教えてあげたくなるじゃない。
彼女は秘儀を覚えても魔法を鍛え続けるかもしれないわね。
秘儀も魔法の訓練も似た所があります。
秘儀のヒントになってしまいますが孤児院に務める彼女に話すのは大丈夫でしょう。
「ここからの話は孤児院外では絶対に秘密にして下さい。できますか?」
「それなら大丈夫です。私の居場所は孤児院にしかありませんから」
「信じますね。世界の共通認識では初期魔法が使えない人は魔法を使えないと考えられています。しかし、この国で秘儀を覚えれば確実に魔法も使えるようになります。魔法を使いたいのであれば秘儀を覚えなければいけません」
「そうだったのですか。楽しみが増えました。カーリンに認められるまで頑張らなければいけませんね」
「焦らず、普通に授業を聞いていれば大丈夫ですよ。気負う必要もありません。欲を出す事は悪い事ではありませんが、欲塗れになると周りが見えなくなるので気を付けて下さいね」
「はい。せっかく得た2度目の人生です。楽しんで過ごしていきます」
「そうですね。では、孤児院に帰りましょう。ご機嫌なクリスタが土地神りんご酒を飲ませてくれるかもしれませんからね」
「それは楽しみですね。お風呂にゆっくり浸かった後の土地神りんご酒はこの上なく贅沢ですから」
この国の常識は世界と大きく違いますが大丈夫でしょう。
他の国に住むという選択肢は絶対に浮かばないですからね。
知らない人の事を勝手に決めつけるのは良くありませんね。




