神刀
「おーい。いいもん持ってきたぞー!2人とも出て来てくれよー」
チャドが何か持って来たみたいだね。
しかも、私とヴィーネを呼んでいる。
いい物って何だろう?
流石に気になるね。
「ヴィーネ、行こうか」
「そうだね。でも、何か嫌な予感がするよ」
私もかなりするよ…。
でも、出て行くしかないよね。
意を決して社の扉を開ける。
チャドは手に何か持っているね。
あれは武器かな?
「チャド、いい物ってそれかな?」
「ああ、すげーぞ。これはドラゴンの素材のお礼だから何も気にする必要はねーからな。この前、剣の依頼があった時に打った剣より凄いもんができたようだぜ。俺も見て震えちまったよ。この武器は刀と言うんだがな、打ったアーロンはずっと蕩けた顔して眺めているよ。エルダードワーフ総力で仕上げた逸品だ。2人の身長に合わせてある。絶対に使ってくれよな!切れ味が悪くなったら持って来いよ。じゃあなー」
刀を手渡したチャドは笑顔で去って行った。
おかしいよね?
初対面の時に私たちに武器はいらないと言っていたよね?
どうして武器を用意したのかな?
これは刀という武器らしいね。
鍔は私とヴィーネで違いがある。
私の鍔には蝙蝠が、ヴィーネにはドラゴンが彫ってある。
きっと、吸血鬼と古代種ドラゴンを意味していると思う。
鞘は2人とも同じだけど、物凄いこだわった意匠だよ。
蝙蝠とドラゴンと世界樹が彫ってあると思うけど、凄いね。
鞘の意匠が物語になっているように見える。
これだけで逸品だよ。
そして刀だけど、鞘から抜いて余りの凄さに言葉を失ったよ。
黒剣も美しいと思ったけど、これは次元が違う。
武器として途轍もなく洗練されている。
怖い程に研ぎ澄まされているよ。
私の顔が刀身に映る。
「母さん、これは凄過ぎるよ。価値は分からないね。クリスタの剣を斬れそうだよ」
「ちょっと森で試し斬りをしようか。転移魔法」
万が一の為に周りに誰もいない事を確認する。
よし、誰もいないね。
腰に提げた鞘から刀を抜き、目の前にある木を横薙ぎに一閃する。
あれ?
斬った感触がないよ?
でも、木をすり抜ける訳が無いよね。
目の前の木を手で押すと倒れた。
切断面は物凄い綺麗だ。
とても刃物が通った後だとは思えない。
「母さんの動作が速いにしても、この切れ味は怖いね。母さんは刀を振り抜く事に集中していたから気付いて無いけど、防護壁まで切断しているからね。母さんが押し倒した木以外は繋いだよ。防護壁も直しておいたから」
な、なんですと?
真空波でも飛んだのかな?
滅茶苦茶な武器だよ。
防護壁まで150mはあるんですけど…。
「ヴィーネありがとう。今後の為に少し実験するね」
「うん。絶対に知っておいた方がいいよ」
今度は真空波が飛ばないように、ゆっくりと刀を横薙ぎに振り抜く。
斬った感触はない。
でも、木は切断されている。
木を結界で守る。
刀をゆっくりと横薙ぎにする。
まさか…、結界に抵抗された感触が伝わってこないのに振り抜けてしまった。
木を2重結界で守る。
刀をゆっくりと横薙ぎにする。
これでも?
結界に抵抗された感触が伝わってこない。
木を3重結界で守る。
刀をゆっくりと横薙ぎにする。
あ、結界の抵抗があった…、紙に触れた感じだけどね。
木を4重結界で守る。
刀をゆっくりと横薙ぎにする。
やっと結界で止まったよ…。
だけど、最初のように集中すれば斬れるだろうね。
「母さん、この武器で何を斬ればいいのかな?エルダードワーフって馬鹿かな?」
「普通の人が使っても危険だね。私たちが使うと兵器だね。職人の怖さを思い知ったよ」
「私たちの動作について来れる武器がおかしいよ。古代種ドラゴンの角も使われているみたいだね。属性付与する事が簡単にできるよ。切れ味アップだね。頭おかしいよ!」
「魔法も斬れちゃうね。とりあえず、外出する時は腰に提げておこう。使っていないと思われると、新しい武器を作って持って来そうだよ」
職人魂に火を点けるのは危険だね。
絶対に使っているか確認すると思うから。
満足したと伝わるような感想を考えておこう!
「そうだね。魔法が使えない時とかに便利だよね。私たちが体術で負ける相手が想像できないけど」
「大体の感覚は掴めたけど、とても繊細な武器だね。爪より斬れるし便利だと思う事にしよう。神様なら大陸くらい刀で切断できないとね」
「大陸切断しようと思ったら、星を切断している可能性もあるから気を付けてよね」
「はーい。ちゃんと気を付けて使います!」
そうだよね。
大陸切断は全力を出したら駄目だからね。
加減を間違えて星まで斬ったかもしれない。
それは流石に笑えないね。
世界樹を育てた意味が無いよ。
危うく土地神から破壊神になる所だったね。
シャルやヴィーネが武器として使える時点で異常です。
流石職人です。




