勘違いした人
「シャーロット様。少し面倒な相手が来ております。意見を聞かせて下さい」
えーー!
聞く気が無くなるよ。
だって、面倒な相手なんだもん。
「どんな面倒な人なの?私が会った方がいいの?」
「はい。他国の貴族です。客として持て成していますが、少し勘違いをしているようです」
「どんな勘違いをしているの?」
「非常に言いにくいのですが…。人の言う事を聞く吸血鬼に会わせろ、だそうです」
なるほど。
確かに人のお願いを聞いてはいるけど。
でも、基本的にはこの国の住民のお願いだけだよ?
私がイライラしている国の人だよね?
「貴族がどういう人か知らないけど、その国って奴隷を使っているよね?ここの近くの国で奴隷を使っていない国は無いんだよね」
「はい。私が嫌になって出た祖国です。他国や村を侵略しては奴隷としています。現在どれだけの奴隷がいるのか見当もつきません」
「貴族を殺せば奴隷はその場所で生きていける?」
「私の祖国の貴族でしたら問題ありません。食糧生産を全て奴隷にさせています。そのまま、生産を続ける事が出来るので、生きて行く事ができます。ただ、貴族がいなくなると他国に攻め込まれて、また、奴隷にさせられる可能性もあります」
「それを防ぐ術は無いのかな?」
「武力を持っているのが王族や貴族ですので、無防備になります。防ぐには近くの国の王族と貴族を全て殺すしか無いと思います」
「ちょっと嫌だね。私の予想だと、全ての王族と貴族を殺して奴隷だけの国にしても、また同じ事になると思うけど、どうかな?」
「はい。奴隷の中で力を持った人間が、自分がされた事と同じ事をする可能性が高いです」
「そうだよね。マリアンネには悪いけど他種族の孤児だけ救う事は可能かな?」
「それが一番です。他種族の子供を勉強させて育てるのが、今後の国の為になると思います」
そうか、それならこの国に被害はないのか。
仕方が無いけど、助けれる子供だけ助けに行こう。
「私に接触してきた貴族が悪いんだよね?」
「勿論です。今まで見逃しているのですから、愚かさを死で償わせるべきです」
「じゃあ会いに行こうか」
「はい。お願いします」
マリアンネの案内で、歩いて中央区にある会議室に向かった。
中に入ると知らない豪華な服を着た男性が座っていて、その人の後ろに男性が2人立っている。
この国の4人の区長もいた。
「やあ、皆。お仕事お疲れ様」
「シャーロット様。お待ちしておりました」
声を掛けてくれたのはダミアン。
研究一筋の人で、上下水道の案を考えた人だよ。
その結果、区長に抜擢されたんだ。
本人はもっと研究したいから、別の区長を探しているけどね。
「お前が人に懐柔された吸血鬼か。私の言う事を聞いてもらおうか」
「君が私に接触したから悪いんだよ?私は我慢していたんだから!」
「何を言っているんだ?私の言う事を聞け」
「お前たちは私の事を舐め過ぎだよ!念力」
声も聞きたくないから黙らせたよ。
さて記憶を覗きますか。
あー、クズだね。
奴隷を使うのは当たり前。
奴隷を殴るのも当たり前。
気に入らなければ殺すんだね。
「この男の後ろの2人はどんな人かな?答えてくれるかな」
「わ、わ、私たちはブルーノ様の従者です」
「マリアンネ。従者って人たちはどうすればいいのかな?」
「人によります。記憶を覗いて判断して下さい」
念力。
「動けなくしてごめんね。2人の記憶を覗かせてもらうから」
うーん。
この人たちも奴隷と思われる人に命令をしているね。
けど、ブルーノにも扱き使われている。
私には難しいよ。
「皆に聞きたいんだけど、奴隷に命令していても、貴族に命令されている人は被害者かな?」
「加害者です。貴族に命令されたストレスを、奴隷で発散している可能性が高いです」
「私もそう思うわね。商人として色々な人を見て来ましたが、奴隷以外は被害者と考えない方がいいですよ。この国では間違いなく加害者になる人間です」
マリアンネの後に答えてくれた人はエルヴィーラ。
商人のまとめ役で区長にも選ばれているんだ。
皆の服や食糧、お菓子などを他国の商人と取引しているみたい。
私は詳しく分からないけど、凄いよね。
「マリアンネとエルヴィーラの意見を採用するね。他の区長も賛成でいいかな」
「「賛成です」」
ダミアンとグスタフも賛成なんだ。
被害者でもあるけど、加害者でもあるんだね。
せめて苦しまないように殺してあげるよ。
闇魔法。
「さて、残されたクズの国に一緒に行きたい人はいるかな?」
「私の祖国です。私が付いて行きます」
「マリアンネの親はどうすればいいのかな?」
「殺して下さい。お願いします」
子供が親を殺してと言うのか…。
何か原因があるのかもしれないけど寂しいね。
「ごめんね。区長達で2人の死体を処理しておいてね」
「「かしこまりました」」
「マリアンネ、行こうか。転移魔法」
クズの国の城壁の外に移動した。
中で色々すると面倒だからね。
ここは、冒険者組合で呼び出した奴隷商人がいた国だ。
長命種のエルフやハイエルフの魔力の雰囲気は把握できている。
短命種の獣人は難しい。
人間との違いが分からない。
「マリアンネ。エルフとハイエルフ、悲しい感情の人をここに呼ぶから、加害者がいたら教えてね」
「かしこまりました」
大人の奴隷は悲しむより、諦めている感情が多いと思う。
可哀想だけど無視するね。
攫われて悲しんでいる子供達を優先するよ
召喚魔法。
ハイエルフ4人にエルフ6人。
獣人の子供15人。
人間の子供60人。
「みんな突然呼び出してごめんね。念力、さらに動けなくしてごめん。ハイエルフの記憶を覗かせてもらうよ」
ハイエルフに親の記憶は無しか。
幼い頃に攫われて、この国に閉じ込められていたみたい。
これ以上は深く探れないや。
エルフの6人は4人のハイエルフの子供だね。
ハイエルフを1人だけ話せるようにしよう。
「ごめんね。1人だけ話せるようにしたから答えて欲しい。ハイエルフの子供は皆ここにいるかな?」
「あ、私ですね。はい。私たち4人の子供はここにいます」
「君たちの記憶を覗かせてもらったけど、親の記憶が無いから家に帰してあげられない。私たちの国にハイエルフの人たちが住んでいるけど、良かったら一緒に暮らさない?」
「はい。ここに住むよりも安心だと思います。よろしくお願いします」
念話。
「長老。他国でハイエルフ4人とエルフ6人を保護したけど、受け入れてくれないかな?」
「勿論です。助けて頂きありがとうございます」
「今からりんごの木の近くに送るから、相手をしてあげてね」
「分かりました」
「2000年以上生きているハイエルフの長老が、君たちを受け入れてくれると言ったので、向こうで話を聞いてね。家は後で用意してあげるよ」
「そのような方が住んでいるのですね。ありがとうございます。必ず働いてお礼をします」
「気にしないで。悲しい思いをてきたんだから、楽しんで生活してね。転移魔法」
これで、ハイエルフとエルフは大丈夫だね。
「次は獣人の子供たちの記憶を覗かせてもらうね」
獣人の子供は皆、親を殺されていみたいだ。
しかも、目の前で目撃している子が多い。
酷過ぎるよ。
何でこんな事が出来るの。
念話。
「カーリン。他国で獣人の子供を15人保護したけど、孤児院で受け入れ出来そうかな?」
「はい。大丈夫ですよ」
「そっか。かなり可哀想な目に遭っている子供たちだから、優しくしてあげてね」
「勿論です!」
獣人の子供はこれで大丈夫。
「獣人の子供を綺麗なお姉さんがいる場所に送るから、楽しく暮らしてね。転移魔法」
人間の子供は売られている事が多いんだよね。
この国ではどうなんだろう?
「人間の子供の記憶を覗かせてもらうね」
なるほどね。
侵略して奴隷にする国だから、親も奴隷として働いているんだ。
親に売られたりした子供はいないみたい。
子供たちを動けるようにして、親をここに呼んであげよう。
召喚魔法。
「突然呼び出してごめんね。今から国内が危ない事になるから子供を連れて避難してね」
「奴隷の子供たちでしたか。侵略して奴隷にして、子供が産まれたらその子も奴隷ですか…」
みんな国から離れて行くね。
これだけしかできなくて、ごめんね。
「マリアンネの言った通り。奴隷として働かされている親の子供。この人数なら村も作れるから大丈夫だよ。私はそう思うけどいいよね?」
「はい。シャーロット様の考えでいいと思います」
あとは、見逃している可哀想な子供達がいないかだけど。
いい事を思い付いたよ。
「国内にいる人を全員広場に集めればいいよね。そうすれば、良く見えるよ」
「そうですね。断然早く判断できると思います」
マリアンネと男と一緒に、国の広場の上空に飛んで行く。
国内にいる人は全て把握した。
召喚魔法。
念力。
「獣人の子供とかいるかな?私が見た限りではいないと思うけど、マリアンネどうかな?」
「獣人の子供も親も見当たりませんね。人間しかいないようです」
「そういえばこのブルーノって貴族はクズだけど、他の貴族もそうなの?」
「この国の貴族は同じです。こいつの記憶を覗いて処理するのが一番です」
「その中にマリアンネの親もいるんじゃないの?」
「本当に気にしないで下さい。殺されるべき人間です」
そこまで言うならもう聞かないよ。
ブルーノの記憶を覗くか。
なるほど。
豪華な服を着ている人が貴族と言うのかな?
殺す人間は把握したよ。
「ブルーノ。話せるようにしてやるよ。言いたい事はあるか?」
「良かったなブルーノ。お前のお陰で貴族は皆殺しだ」
「何故だ?言う事を聞く吸血鬼だろ?何故殺すんだ!」
こいつは馬鹿だ。
神に選ばれたと思っている。
吸血鬼からみたら皆、同じ人間だよ。
「ブルーノ。お前の家族と一番偉そうな奴を殺すから見ておけ」
闇魔法。
「動けない状態で喰われる様にしてやったよ。良く見えるだろ?」
「な…、何故だ。マリアンネ、お前はこの国の貴族だろ。何故平気で見ていられる」
泣きながら訴えてるね。
罪も無い人を平気で殺しているのに。
どれだけの人を泣かしたか理解していないのかな?
それに、マリアンネはこの国の貴族じゃないよ。
「はぁ?私はシェリル国の人間だ。そして、この国は邪魔だ」
マリアンネの親がいるんだよね。
即死させてあげよう。
闇魔法。
死んだ人間と喰われている人間は念力を解こう。
「さあ、死んだ人間が分かる様にしてやった。あと殺すのはお前だけだ。どうやって死にたい?」
「む、無茶苦茶じゃないか。ただお願いをしに行っただけだぞ」
「どんなお願いだ?言ってみろ」
「今更聞く気になったのか?私たちの国の属国になれ。そうすれば、いい待遇にしてやる」
「マリアンネ。属国って奴隷になれって言っているのかな?」
「この国に限って言えばそうですね。本当に馬鹿ですね…」
奴隷にする為に命令しに来たのか。
何で言う事を聞くと思ったんだろう?
どうでもいいや。
「そうだ、私がお願いをしましょう。家族の近くで固めておいて下さい。こいつの被害者が何をするのか気になりませんか?」
「確かにそうだね。私は人の言う事を聞く吸血鬼だから、マリアンネの言う事を聞くよ」
「な、なな、何故だ、何故だ。私は貴族だぞ」
「吸血鬼からみたら貴族もただの人間だろ?お前は本当に馬鹿なんだな」
マリアンネの言う通りだよ。
みんな同じ人間だよ。
ブルーノを喰われている人間の横に移動させて。
念力。
念話。
ここにいる全員に声を届けよう。
「今からブルーノ以外動けるようにするね。好きに生きればいいよ」
よし、他の皆の念力を解いてと。
ああ、皆が悲鳴を上げているよ。
私に怯えているようだね。
仕方が無いよ。
君たちの国の人間が悪いんだから。
「マリアンネ、帰ろうか」
「はい。特に殺す相手も残っていません」
転移魔法。
まずは孤児院に移動。
「あっ。ブルーノが殺されたよ。やっぱり、被害者に殺されるんだろうね」
「そうですね…。私は会議室に戻って結果を報告してきます」
「うん。よろしくね」
獣人の子供たちは大丈夫かな。
あまりにも酷い状態だった。
元気に笑ってくれるかな。
「カーリン、皆は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。皆、お風呂で綺麗になった後、着替えさせました。今回、獣人の子供服は予備がたくさんあったので良かったです。今は疲れていたのか眠っていますよ」
「そっか、良かったよ。あとはよろしくね」
「分かりました」
獣人の子供たちが眠っているのは安心したからかな?
これから楽しい人生を生きて欲しいな。
飛んでハイエルフの森に向かった。
「長老。突然ごめんね。他国の貴族が文句を言いに来たから、殺すついでに助けたんだけど、大丈夫かな?」
「ええ。同じ種族です。問題ありませんよ」
「家は用意してあげないといけないね。どこに作ればいいかな?」
「そうですね。あの木と、あの木にお願いします」
「二軒でいいの?ハイエルフ4人いたよ?」
「ええ。二軒で大丈夫です。一緒に暮らしたいみたいです」
そっか。
酷い目にあったもんね。
友達がいた方が安心出来るよね。
木魔法。
木魔法。
「他に私が出来る事は何かあるかな?」
「大丈夫ですよ。家も用意して頂きましたし、十分です」
「そっか、困った事があったら社に来てね」
「分かりました。シャーロット様」
貴族を殺した国の奴隷の人たちはどうするのだろうか?
駄目だ。
考えるのは止めて探知範囲を戻そう。
私が守るのはこのシェリル国なのだから。
社に戻りお母さんに報告しないと。
転移魔法。
お墓に手を合わせて伝えよう。
お母さん、子供が親を殺して欲しいと頼んできたよ。
苦しまないように殺したけど、殺したのは酷い人ばかりだったよ。
村から街になり国になったけど、人が増えてから人を殺してばかりだ。
私はたまに分からなくなるよ。
お母さんだったら何て言うかな。
無暗に殺し過ぎているのかな?
怒られるかな。
会いたいよ。
社の中に入り寝転がる。
お母さんが言った、好きに生きるとしたら何をしよう…。
やっぱり、ここで眠っていたいよ。
今でもお母さんと一緒に寝ていた布団を使っているんだ。
何回も補修しているから、かなり変わっちゃったけどね。
お母さんの匂いは残っていないけど、私はこの布団が大好き。
好きに生きるんだったら、ここの布団で寝るのが一番だよ。
お休みなさい、お母さん。
シャーロットはまだ子供です。
何でもできても子供なのです。




