神国と神聖国
何か検問で揉めているね。
検問兵が激怒しているのがとても珍しいよ。
「ヴィーネ、一緒に行く?」
「そうだね。国長の仕事だし母さんは隣で見ていてね。転移魔法」
娘が仕事を見せたいみたい。
後で褒めてあげないといけないね。
グスタフが飛ばされた後でも、検問兵を続けてくれているのは獣人なんだよ。
多くの獣人が飛ばされた理由を説明して、ヴィーネが問題ないと判断したんだ。
「お疲れ様。そんなに激怒したら駄目だよ。疲れちゃうじゃない」
「そうそう。私たちを呼ぶボタンもあるんだし気軽に呼んでよ」
検問兵の2人は私たちを見て一礼をした。
「すみません。他国の人間がこの国を侮辱しましたので、つい激怒してしまいました」
この国を侮辱した?
他国に侮辱される理由なんて無いと思うけど。
検問兵の2人が相手にしていたのは4人の魔法使いみたいだ。
男性2人に女性2人だね。
冒険者のパーティみたいだよ。
レナーテが初めて来た時とそっくりの格好だ。
皆、青いローブに白い帯だね。
回復魔法が使えるのかな?
今日はヴィーネに言われた通り見ている事にするよ。
娘の仕事を邪魔したら駄目だからね。
「ねえ、君たち。この国を侮辱する理由は何かな?そして、他国に侮辱される理由はないと思うんだけど、何で君たちにそんな権利があるのかな?」
ヴィーネの話を聞いた4人が捲し立ててきた。
「この国は愚かにも神国などと国名を変えました。しかも、シェリルという神がいるように感じてしまう名前です。神は私たちの国にしかいないのです。即刻名前を変えなさい。我が国、ツェーザル神聖国の名が貶められる」
「何が神国ですか。何がシェリルですか。本当の神も知らないのに良く名乗れましたね。お金集めが目的なら別の名前に変えなさい。ツェーザル様の天罰に遭いますよ!」
「まさか女の子2人が代表ですか?こんなにふざけた国があるのですか?しかも、神国などと。どこまで私たちを侮辱すれば気が済むのですか。神聖国で日々修行をしている私たちに懺悔なさい」
「今すぐ国名を変えれば許して差し上げますよ。あなた達が本当の代表ではないのでしょう?早く代表を連れて来なさい」
少し苛々してきたよ。
お母さんの名前を侮辱にされたように感じる。
国名は自由なのに勝手に制限しようとしてくるのが腹立つね。
それに、この人たちは神に会った事があるみたいだよ。
ふざけているのはどっちだろうか。
ツェーザルって人が神なのかな?
4人が念力で固められたね。
ヴィーネが記憶を覗いているよ。
この人たちの神に会いに行くのかな?
「母さん。中途半端な雷魔法が使えるだけで自分を神だと思っている馬鹿がいるみたいだよ。この4人も連れて会いに行こう。もう、君たちの言葉だけで滅ぼす事は決定したよ。お婆ちゃんの名前が不満みたいだし流石に許せないからね。転移魔法」
ヴィーネはお婆ちゃん子だからね。
国名を侮辱されたら許さないよね。
ここは、マリアンネの祖国の近くだ。
何と言えばいいのか分からない建物だよ。
目の前にいる人の大きな石像が奥に立っているくらいしか分からないや。
他の人と違い、白いローブに金の刺繍が入っているね。
帯も金色だし目立ちたいのかな?
「やあ、神様。馬鹿な使いを寄越してくれてありがとう。お陰様で君たちには滅んでもらうよ。言いたい事があるなら聞くよ?」
「ほう。神である私を滅ぼすと言うのですか?使いを送って正解でしたね。天罰を与えましょう」
自分で神って言ってるけど恥ずかしく無いのかな?
天罰ってやっぱり雷魔法なんだね。
無詠唱だから周りの人には分からないのかな?
あらら、天罰はヴィーネに発動前に解除されたよ。
他に何もできないのかな?
顔には出さないように頑張っているけど、焦り過ぎだよ。
「天罰こないね。君たちは王族や貴族から高いお金を貰って回復魔法をかけるだけの集団でしょ?しかも、奴隷を集めて回復魔法の練習をさせている。使えたら神官になり、使えなければ奴隷のまま。どうしようもない国だね。母さん、面白い事を考えたよ」
神様が奴隷を使っているんだ。
それに、自分の為に働かせるのは他国の王族や貴族と変わらないね。
回復魔法が使えて神官になれても、結局この神様の奴隷みたいなものじゃない。
これは流石に酷いね。
ああ、自称神様も念力で固められたね。
ヴィーネが記憶を覗いているから、神官を集める気がするよ。
やっぱり。
同じ青いローブを着た人たちが集まったね。
20人もいない。
回復魔法は貴重だって言っていたから、こんなものなのかな?
「自称神様には天罰だよ。風魔法、低位回復魔法。さあ、神官の皆で頑張って治してあげなよ」
「うぎゃぁーー!誰か、誰か治してくれー」
私と似たような事をしているよ。
私の記憶からこの方法を選択したのかな?
娘の教育に良くないね。
ちょっと反省だよ…。
自称神様は自分で治せないんだ。
まあ、芋虫にされたら普通の人間では魔法も使えないからね。
「教祖様ー!中位回復魔法。発動しない。何故だ!あれほど修行をしたのに」
「私が代わりに回復します。中位回復魔法。発動しないわ。なんで、なんでなの?」
「私の出番ですね。中位回復魔法。発動しない!何故だ?どうしてだ?」
教祖様?
神様じゃないの?
よく分からないや。
もしかして、全員が回復魔法が使えるか試すの?
普通3人が使えなかった時点で気付くと思うけど…。
「皆に天罰だよ。神を自称した罰と私たちの国を侮辱した罰だよ。二度と魔法は使えないようにしたから。これで他国に攻められちゃうかもね。この国に神様がいないってバレちゃうよ。ああ、石像も同じ形にしてあげないと」
流石匠の技だね。
芋虫になった自称神様と同じ形に石像を加工しているよ。
これで、この国に回復魔法が使える人はいなくなっちゃったね。
一応孤児がいないか確認はしておかないと。
ヴィーネが確認を忘れる訳がないよね。
悲しい感情と諦めた感情の人を集めたのかな?
100人以上集まっちゃったよ。
でも、人間しかいない。
この国は人間以外を差別しているのかもね。
「偽物の神様は倒したから安心してね。この中で親がいない子は手を挙げて欲しいな。助けてあげるよ」
15人か。
それなら問題ないね。
「この人数なら問題ないね。ヴィーネ、孤児院に行こうか」
「そうだね。最後に一仕事しておくよ。念話、この国に回復魔法が使える人はいなくなりました。自称神様は倒したので皆で気軽に生活してね。じゃあねー。転移魔法」
孤児院に移動したね。
「カーリン、新しい子供たちを連れて来たんだ。変な国で奴隷になっていたから優しくしてあげて」
「勿論です。皆、良かったわね。助かったんだよ。これから楽しい生活が待っているから、まずは体を綺麗にして、お腹いっぱいご飯を食べましょう。さあ、中に入って」
「「はい…」」
子供たちの事は天使のカーリンにお願いすれば心配はないね。
私はカーリンに20万ギルを手渡した。
「これで色々と準備してあげてね。余ったら好きに使っていいからさ」
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
「じゃあ、カーリンよろしくね。私からマリアンネに伝えておくから心配しないで。母さん、私たちもお風呂に入って寝ようよー」
「そうだね。変な人に会ったし今日はもう寝よう。じゃあ、またねー。転移魔法」
社に戻って服を脱いでから一緒にお風呂に入る。
最近服を着たままお風呂に入る事が多かったから新鮮だよ。
布団を敷いて寝る前にヴィーネの頭をなでなでして抱きしめる。
私にできる事は娘を褒めて精一杯愛してあげる事だけだよ。
「じゃあ、寝ようか。ヴィーネ、今日もお仕事お疲れ様。おやすみー」
「うん…。おやすみー」
立派な国長も布団の中では可愛いヴィーネちゃん。
ヴィーネが隣にいるだけで嫌な事があっても優しい気持ちになれるよ。
可愛いヴィーネちゃんの仕事風景でした。




