表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土地神様は吸血鬼  作者: 大介
第3章 神国シェリル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/425

閑話 マリアンネ 自省

突然息子のマリウスが話があると言うので机で向かい合っている。

学校で何かあったのだろうか?


「お母さんは街長を辞めたがっていたよね。何でなの?」

「唐突にどうした?辞めたかった一番の理由はシャーロット様の思いを住民が理解しないからだな。どれだけ伝えようとしても、全く効果が無かったよ」


街長を辞めたがっていた理由を聞くか…。

本当にしたい話は別にあるのだろうな。


「あの頃は住民を寄生虫だとか言っていたよね。一番の寄生虫は討伐隊や国防隊だと思っていたけど、お母さんはどう思っていたの?本当に国を守れる組織になると思っていた?」

「難しい話だな。なれるかというよりも、しなければいけなかった。私たちの国なのに土地神様に守られ続けるのはおかしな話だろ?」


私が討伐隊を指揮していた時、余りにも手厚過ぎるとは思った。

何故ここまで環境が揃っているのに同じ事ができる人がいないのか分からなかった。


国防隊はなれると思っていなかったのだと、今なら言える。


子供でもそこまで見えているのか。

学校で教えてもらっているから余計に感じるのかもしれないな。


「何で一番重要な仕事を他人に任せたの?街長だった自分でやろうとは思わなかったの?」

「討伐隊は私が街長になる前からあった組織だし、国防隊にはグスタフが手を挙げたからな。今となっては私がやるべきだったと思うが、当時はそこまで考えていなかったな」


討伐隊は誰がやっても駄目だっただろうな。

私が隊長を続けていたとしたら、皆辞めて行く可能性が高いのは話していて感じた。

だから、訓練を指導するのではなく、討伐を指揮する事で未熟な部分を誤魔化していた。


国防隊は獣人が獣人を集めて作った組織だ。

街長の権限でグスタフを降ろす事はできたかもしれないが、確実に種族対立だな。


「でも、お母さんは国防隊の言い訳を無視したよね?知らないはずがないよね?シャーロット様が企画した鬼ごっこで国防隊は言い訳をし続けたんだよ。普通は隊長を首にするよね?違うかな?」

「結局私も国防隊に期待していなかったのだろう。シャーロット様がいれば安心だと内心では思っていた結果だと思うぞ」


本当によく見ているな。

あの時点で解散させるべきだった。

結局自分が切っ掛けで何かが壊れるのを恐れたのだろうな。


「じゃあ、何でお母さんは選別を乗り越えたと思う?3回も選別が行われたのに何で残れたの?シャーロット様に縋っている人を飛ばしているんだよね?」

「中央で仕事をしていたし、子供がいたからだと思うぞ」


本当に何故残れたのだろうな…。

子供がいたからか、税理官になる事にしたからなのか分からない。


「シャーロット様に説教されたんでしょ?未来の子供たちに縋っていると。お母さんは何がしたいの?街長として何がしたかったの?今は何がしたいの?」

「シャーロット様に社で寝転んでいて欲しいと思っているぞ。それだけだな」


シャーロット様の説教の話も子供たちに伝わっているのか。

ハイエルフやドワーフを飛ばした切っ掛けにも繋がっているし必要な情報だろうな。


「それなのに、今の仕事は楽だと言い続けているの?この国で一番忙しいのって社にいるお2人じゃないの?お母さんは楽していいの?」

「どうした?何が言いたいのかはっきり言えばいい」


今の仕事は楽だな。

楽していいのかと聞かれると難しいな。

仕事の手を抜いているつもりは無いのだが、何故か楽なんだ。


「お母さんはシャーロット様にお願いをし続けたけど何か返せた?それに、楽だとばかり言っていると、僕の友達が一生懸命に勉強して入った税理官が楽な仕事だと思われる。それが凄い嫌だ。街長と比べて楽だと感じているかもしれないけど、口にするべきじゃないしもっとやる事があるんじゃないの?税理官になった2人は孤児院の子供たちのお小遣いが少しでも増えるように努力しているみだいだよ。楽をしているお母さんは何をしているの?」

「何も返せていないな。そして、お前の言う事はもっともだ。適切にお金は分配していると思うが、何か考えがあっての事では無いな。それを考えるべきだと言いたいのか?」


「違うよ。飛ばされた人たちと同じ事をしているだけだと思っただけだよ。何も考えずに誰かが良くしてくれると考えているように見えるよ。皆のお金を動かしているのはお母さんなんだよ。楽な訳無いよね?皆が一生懸命に働いたお金をどのように使うか考えるんだよ?しっかり考えて仕事をするか、誰かに任せるべきだよ。今のお母さんは雑だよ、言いたいのはそれだけ。じゃあ、森で練習してくるから」


マリウスはそう言うと、外に走って出て行った。


「そうか、雑か。息子にそう見えると言う事は雑に仕事をしているのだろうな」


街長を辞めたいと言っても、シャーロット様や区長しか仕事の内容を知らなかった。

仕事と言っても、お願い相談会の司会だけだったな。


だが、税理官は違う。

ディアナの考えは分からないが、学校の卒業生も働いている。

私が楽だと呟けば周りがどう見るかを考えるべきだった。


税理官は住民から選ばれてなる役職ではない。

それに、税金という形で皆からお金を集めている。

私が呟き続ければ、税理官を代えろと言う人が出て来てもおかしくない。


本当に何をやっているんだ。

何故そんな事にも気付けないんだ。


マリウスの言葉は当然だな。

友達が一生懸命に勉強して入った職場の上司が楽だと呟くのは、聞いていて嫌だと思うだろうな。

しかも、何も考えずに仕事をしているのだから余計にそう感じただろうな。


祖国を飛び出し、冒険者になり怪我をして、この国に来てから縋り続けている。

冒険者を怪我で辞めると決めた時から自分で何かを決めた事が無い気がする。


言い方を変えれば全て逃げてきたと言えてしまう。


祖国が嫌になって逃げた。

貴族に産まれていながら階級社会が嫌で何もせずに飛び出した。

恵まれた立場にいながら、嫌な事から目を背けただけだったな。


冒険者になって怪我をした為、続ける事から逃げた。

冒険者を辞める程の怪我では無かった。

出産できなくなる可能性が高い怪我だった為、辞める事にした。

親に頼んで神官にお金を払ってもらうのが嫌で、この国に来た。


住民の意識が変わらないからシャーロット様にお願いして逃げた。

住民を増やし続けたのは私たち街長や区長だ。

自分たちで入れた住民が言う事を聞かないから嫌になった。

考えてみれば余りに酷い話だ。


街長の仕事が辛いから税理官という仕事に逃げた。

現状維持をする事が辛いと感じた。

国の方針に口を出さないと決めているシャーロット様にお願いしに行った。

シャーロット様が孤児院や教師の給料の心配をした為、税理官になる事にしただけ。


そして今、税理官は楽だと呟いているし、仕事も楽だと思っている。

並べてみると余りにも酷いな。


恐らく、マリウスは危惧したのだろう。

このままでは自分の努力が消えてしまうと。


私は自分で人生を選んだつもりで、常に縋り続けているといっても過言ではない。

目の曇りが取れればいいからと選別をお願いした。


実際は違うじゃないか。


目の曇りなんて関係なく前を向いていない。

祖国を飛び出した時から全く成長していない。


「どうした、暗い顔をして。何かあったのか?」

「息子に説教されたのよ。その通りで何も言えないわ。私は祖国を出てから何も変わっていない」


「変わったじゃないか。2人も子供を産んだんだ。母親になったじゃないか。口癖を直して一生懸命に働くか、母親として子供と向き合うか。できる事は色々あると思うよ?」


なるほどね。

話を聞いていない夫が口癖を直せと言う。

誰もが聞いていて不快だと感じている可能性がある訳だ。


街長を辞めたいと言っていた時、シャーロット様は冗談で返してくれていたんだ。

周りの皆が聞いていても違和感がないようにしてくれていた。


シャーロット様が街長を選んだ訳ではない。

辞めさせる事はできても国の方針に口を出してしまう事になる。

シャーロット様の意志を完全に無視してしまっているじゃないか。


自分自身が余りにも愚かで嫌になるな。

人生で誇れることは結婚して子供を2人産んだ事。


それなのに、夫と子供を不安にさせている。

妻としても母としても失格だ。


ディアナの言葉は違ったな。

私たちも毒を持ち込んだんだよ。


元からの住民は土地神様を崇めてはいるが縋ってはいない。

一生懸命に誇りをもって仕事をしているだけだ。


家族の言葉で思い知ったよ。

それに今頃気付くなんて、本当にどこを向いていたんだろう。


いい加減、前を向いて歩き始めるべきだ。

立場が色々と変わってはいるが、同じ場所に立ち止まっていたようだ。

転機になると良いですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ