閑話 マリアンネ 人間と孤児
私はりんごを貰い街長室に向かった。
シャーロット様のリンゴ飴の思いは強い。
美味しいに決まっている。
「ディアナ、このりんごを食べれるように切ってくれ」
「かしこまりました」
秘書のディアナにりんごを1つ手渡した。
ディアナは奥に行ってりんごを綺麗に切り分けてくれた。
1つ手に取って食べる。
やはり、とてつもなく美味しい。
子供たちは大喜びだ。
自然と息子たちの笑顔が浮かぶ。
それと同時に胸に痛みが走る。
「では、私も頂きますね…。何ですか?めちゃくちゃ美味しいですよ!」
「ディアナ。私は疲れたから街長代わって欲しいな」
「最近シャーロット様にずっと付き添っていますから。大変ですね!」
やっぱり、そう思うのか。
でも、それは違う。
「資料は見ていると思うが、シャーロット様が自分から動いた事があるか?」
「え?いつも突然呼び出されているではないですか」
「資料の読み込みが甘い。しっかりと仕事をしなさい。シャーロット様が私を呼ぶのは何故だと思う?」
「街長に街が変わる様子を見せる為では無いのですか?」
秘書でもそう思うのか…。
「ハイエルフを攫って、獣人を殺して、妖精を捕まえているのは誰だと思う?」
「恐らく、他国の人間でしょう。王族や貴族がやっていると思います」
「そこまで分かっているのなら、何故シャーロット様の苦悩が分からない。あの方が孤児を大切にしているのは知っているだろ?」
「ええ。私も勉強しましたから。孤児を救う為に孤児院を作り、寂しい思いをしないように、遊びに行ってあげたりもしていますよね」
「じゃあ、世界中の孤児を救えるのに救わない理由は何だと思う?」
「この国では育てる事ができないからですか?」
「違う!この国の人間を守る為だ。いいか、シャーロット様が自分から他種族に関わろうとした事は無い。何故ならこの国の人間を守る事を大切にしているからだ。あの方が本気になれば、世界中の人間を即座に皆殺しにして、他種族の全ての奴隷を助ける事ができるんだぞ。あの方は世界中で人間に苦しめられている奴隷の存在を知っているけど、この国の人間を守る為に我慢しているんだよ」
「人間さえいなければ奴隷は生まれないという事ですか?」
「完全に生まれない訳ではないが、相当減るだろう。それを、シャーロット様は分かっている。お前は子供がいないから想像出来ないかも知れないが私は辛い。子供が苦しんでいるのを知っていて放置しているんだ。人間に苦しめられている子供を助けたいのに、人間を助けているんだ。私だったら自分の子供を助ける為に、他は全て無視するよ。普通はそうだろ?でも、シャーロット様は助けたい子供たちが苦しんでいるのを知りながら私達を守っている。どれだけの負担か分かるか?」
「想像出来ません。私はシャーロット様は自由に孤児を助けていると思っていました」
「それが、一番の勘違いなんだ。ハイエルフの子供の期間を知っているか?300年だぞ。人間に育てられると思うか?絶対に無理だ。だから、街にハイエルフを呼んだんだ。人間を助ける為にだ。私たちは恵まれ過ぎている。何でもできる神のような方が、私たちを守る事を最優先にしてくれている。私たちがシャーロット様を縛っているんだよ。あの方に自由はほとんどない」
「シャーロット様が凄いのは分かりますが、それ程なのですか?」
「お前は馬鹿か?回復魔法だけで規格外だと分かるだろ。1人治すのに人間の神官がいくら要求するか知っているか?1000万ギル以上だ。それでも、シャーロット様の魔法以下の効果しかない。さらに、2000年以上生きているハイエルフの長老が、シャーロット様を伝説の存在だと言っている。私たちからしたら2000年生きているハイエルフが神のようなもんだ。その人が伝説の存在だという人に守られている現状をしっかりと国民に理解させるんだ。これは、当たり前の状況じゃない、奇跡的な状況なんだ」
「分かりました。すぐに学校の授業に入れます」
「それに、勘違いしている冒険者や他国の王族や貴族や密偵。どう対応する?お前はどうしたい?無視したいか?無理なんだ。向こうから来るからな。お前ならどうする?」
「シャーロット様にお願いしに行くと思います」
「そうだろ。シャーロット様を振り回しているのは私たち人間だよ。さらに、お前は王国や帝国と上手く交流出来ると思うか?」
「シャーロット様は既に子供を攫っている国だと認識していると思います。交渉する余地もないでしょう」
「その通りだ。本当なら人間の問題は人間で解決したい。だが、シャーロット様がこの国にいなかったらどうなると思う?」
「私たちが他国の奴隷ですか?」
「正解だ。私は自分の祖国しか知らないが、侵略した国や村の人々は奴隷だよ。想像した事もないだろ?自分が奴隷にされるなんて」
「はい。全く無いです」
「それが、恵まれているんだ。何にも怯えない。何も恐れない。病気も怪我もない。困ったらお願いすればいい。ここは天国だろ?」
「はい。天国です」
「じゃあ、天国にしてくれている神様を縛り付ける私たちは何だろうな。私は苦しいよ。貴族の生活も、冒険者の生活も知っているが、ここには到底及ばない。私たちは寄生虫か?私はシャーロット様は社に笑顔でいて欲しいよ。自由に飛び回っていて欲しいよ。恵まれている事を理解したら頭を使え、考えろ。何もできないかも知れないが、それが、ここの国民の最低条件だ。全ての国民に伝達しろ」
「かしこまりました。そのように手配します」
親を殺された獣人の子供。
親の記憶はないエルフの子供。
親に売られた人間の子供。
狭い籠に入れられる妖精。
母親の私が話を聞くのは辛すぎるよ。
自分の子供が同じ目に遭ったら、頭がおかしくなるかもしれない。
子供たちだけじゃなく親も救う事ができるのに、シャーロット様は動かない。
私たちを守る事を考えてくれている。
色々派手な事をしているようで、私たちの負担になった事は何も無い。
本当に恵まれ過ぎているよ。
シャーロット様は私たちの負担にならないように、多くの人を救う方法を考えているはず。
でも、動かないという事は無いんだよ。
私たちの意識が変わらなければ何も出来ない。
現状に満足しているようでは話にならない。
発展する事を考え続けなければいけない。
人間の可能性を信じているシャーロット様を私は裏切りたくないです。
マリアンネの本当の苦悩は自分たちのせいでシャーロットが縛られているからです。
振り回されているとは思っていません。
国民が甘え過ぎていると考えています。




