閑話 レナーテ 仲間
お祭りの日は確実に神に会える日です。
最高の1日になるでしょう。
いつも通り社を向き拝みます。
最高の通達がヴィーネ様よりありました。
神国シェリル。
なんて相応しい名前でしょう。
私は嬉しくて仕方がありません。
お祭りの前にハイエルフとドワーフが飛ばされました。
仕方が無い事だと思います。
ハイエルフはあまりにも酷い種族でした。
短命種を見下し馬鹿にしているのを隠そうともしません。
あそこまで神に助けて頂いたのに感謝の言葉もない。
シャーロット様のお母様が人間だと知っているのに、この街で人間を見下す。
本当に醜悪な種族でしたね。
クラーラだけが救いです。
ドワーフは傲慢過ぎました。
街の決まりを守ろうとせず、自分たちが楽しむ事だけを考えていました。
土地神りんご酒を独占しようとしたり、仲間内でも奪い合ったり…。
何度シャーロット様に腕の治療をしてもらったのでしょうか。
本当に許せませんね。
消えて当然です。
今回のお祭りは最高に楽しめる気がします。
しかし、クリスタが厄災のドラゴンに連れ去られてしまいました。
シャーロット様が平気な顔をしているので問題はないのでしょうが、とても心配です。
お祭りは本当に素晴らしい雰囲気です。
クリスタも無事に戻って来ましたね。
何故か元気になって戻って来たように感じます。
後で話を聞いてみましょう。
セイレーンの歌声に合わせて街中を美しい光が包ます。
ああ、なんて幻想的な光景でしょう。
神国に相応しいではありませんか。
歌が終わると住民からの盛大な拍手です。
やはり、選別が行われた後の一体感は一味違いますね。
子供の時間と大人の時間をきちんと守る理想的な住民たちです。
今回のお祭りは土地神リンゴ飴も土地神りんご酒も問題なく買えるでしょう。
子供たちを孤児院に連れて帰り、シャーロット様に送り出してもらいます。
「お酒買いに行こうよ。お酒!ああー、最高の1日だー!」
「クリスタ、あなたおかしいわよ。あとで尋問ね」
「間違いないわね。何かあったみたいよ」
「私も気になります。厄災のドラゴンに連れ去られたのに、元気になって戻って来ましたから」
「セイレーンの歌声、凄く綺麗だったよ。いいお祭りの始まりじゃない。お酒買いに行こうよ」
孤児院からお店は近くなったので、すぐにお酒を買いに行く事ができます。
「おじさーん。土地神りんご酒5本。まだ在庫あるかな?」
「おお、在庫はたんまりあるぜ。住民の皆が今日飲めると思うぞ」
「神の選別は最高ですね。5本下さい」
「そうね。今回の選別も授業で教えましょう。神は偉大だと子供たちも知る必要があります。大切なのは、今日から神国シェリルになった事ですよ!」
「早くお金払って土地神リンゴ飴も買いに行こうよ」
「チェルシーの言う通りですよ。土地神リンゴ飴を買いに行きましょう」
私たちはおじさんに5万ギルを支払い土地神りんご酒を5本受け取りました。
そして、そのままの足で土地神リンゴ飴を買いに行きます。
今回も屋台は2台出ていますが、おじさんやマリアンネさんの表情に余裕があります。
「土地神リンゴ飴5本下さい」
「今年は余裕があるよ。どうぞ、1000ギルになります」
「クリスタ、代表で払ってちょうだい」
「いいよー!はい、1000ギルね」
これはかなり怪しいです…。
カーリンもわざとクリスタにお金を払ってもらいましたね。
いつもの席に皆で座り尋問が始まりました。
「ねぇ、クリスタ。お金に余裕がありそうなのは気のせいかしら?」
「え、嘘?皆、シャーロット様にお小遣いもらってないの?もしかして、私だけ?」
「怪し過ぎるわよ!あなただけ金額が違うでしょ?特別報酬でもあったの?」
ビアンカの特別報酬という言葉でクリスタの表情が変わります。
まずい、といった感じですね。
「孤児院で隠し事は無しでしょ?連れ去られてから明らかに元気が良過ぎるわ」
「厄災のドラゴンに連れ去られて元気なのはおかしいと思います」
私の言葉にクリスタが訂正を入れます。
「レナーテ、あなたはきっとジェラルディーン様に助けられたのよ。組手もして話もしたけど本当に優しい人だよ。秘儀を覚えてから初めて全力を出せた楽しい組手だった。危ない事なんて何も無かったよ。私の実力の少し上を維持してくれたわ。組手が終わった後、シャーロット様が教えてくれたんだよ。火を吹く理由は、不幸は突然訪れる事を人々に教えて成長を促している。もしくは、勘違いした王族や貴族から奴隷を解放するのが目的だってね。そもそも、あの人が普通に火を吹いたら全滅だよ。生存者なんて絶対にいない。相当手加減をしているよ。それ以外にも火を吹く事があるらしいけど、レナーテは確実に救われているわ。断言できる!あなたの才能を見たジェラルディーン様が、この国で保護してもらう事を思い付いたのよ。馬鹿な偽勇者たちは護衛よ。攻撃する手段がなかったでしょ?あなただけは確実に生き残ると予測できるもの。万が一も無かったと思うよ。だって、その後すぐに100年に一度の勝負が始まったでしょ。きっと、あなたを見守っていたわ。思い当たる事もあるでしょ?」
土地神リンゴ飴を舐めながら考えます。
やっぱり物凄く美味しいですね。
違いました。
えっと…、思い当たる事はたくさんあります。
攫われてから何不自由の無い生活でした。
勇者一行と勘違いした愚か者共はシャーロット様を討伐する事だけを考えていましたが、私は回復や結界を張る事だけを指示されていました。
間違いないですね。
今の生活があるもの攫われたお陰なのですから。
「納得しました。私は救われたのですね。ですが、その話と特別報酬は違うと思います。誤魔化すつもりですか?」
「その通りよ。何をいい話をして終わらそうとしているの?確実に隠し事をしているわね?」
「早く楽になりなさい。誰も怒ったりはしないわ」
「もー、これだから信者は面倒なんだよ。教えてあげるわよ。秘儀を頑張ると長生きできるってジェラルディーン様に教えてもらったの。この国はまだまだ面白くなりそうだし、早死にするのは勿体無いでしょ?子供たちも長生きするからね。だから楽しみなだけよ」
そんな効果まであるのですか。
流石、神が自らを犠牲にして生み出した技です。
素晴らしいではありませんか。
長く神のお手伝いができます。
「それは素晴らしい情報ね。努力する理由が1つ増えたわ」
「ええ。シャーロット様にお仕えできる時間が長くなるのですから。でも、それだけじゃないでしょ?あなた、冒険者の頃から御馳走なんてした事なかったじゃない。どれだけ機嫌が良くても、お金を多く払ったりした事もなかったわよね。何で今日は払ったのかしら?」
「もー言うわよ!この国で秘儀を教えてもらってからずっと、お2人の次に強いのが私だったの。それで、気になったのよ。まだ強くなれる余地があるのか。それを聞いてみたらシャーロット様に次に必要な技術を教えてもらえたのよ。頑張ったご褒美みたいなものね。今の私に追い付いたら教えてあげるわよ。長生きできるし、まだまだ強くなれるし、秘儀が凄すぎるの!シャーロット様は秘儀を努力しない馬鹿たちに説教したの。強くなれる方法を自分たちで探せってね。でも、私は秘儀を追求するだけで十分だと思っていたの。そして、努力だけでは到達できない場所にいるわ。中立派の私に勝てない信者は黙りなさい」
「凄い事を教えてもらったんだね。私は頑張ってみるよ」
「やはり修行に終わりはないのですね。素晴らしいです。クリスタなど即座に超えましょう。所詮、中立派。敵ではありません」
「それで、今のあなたはどれくらい強いの?」
ビアンカの純粋な疑問ですが、私も気になりますね。
以前ドラゴンに勝てると話していたはずです。
国も落とせると言っていたと思います。
「前も話したけど、ドラゴン10体は瞬殺で国も落とせるよ。長老も瞬殺できた。人間5万人と戦っても負けないってヴィーネ様が言っていたわ。それが今の私。ここから更に強くなるからね。残念ながら信者には無理な領域よ。いつでも組手してあげるわ。精々かかって来なさい」
それほどの高みに達して尚、終わりが無いのですね。
やはり神の御業は偉大です。
「冒険者のSランクなんて子供みたいな強さね。中立派気取りの信者の癖に、いつまでも認めないあなたを叩きのめしてあげるわ」
「やはり神の御業を修めて行けば人の領域から外れてしまうのですね。当然の事でしたが納得の強さです。私も中立派気取りに負ける訳にはいきませんね。叩きのめして素直にしてあげるのも私たちの務めでしょう。待っていなさい、中立派気取りさん」
「クリスタ強過ぎじゃない。そのクリスタよりはるかに強いお2人はやっぱり神様じゃない」
いい感じですね!
チェルシーも分かってきたようです。
「ちょっと誰よ?チェルシーを洗脳しているのは。中立派が減るじゃない。自然に信者になるならいいけど、洗脳は良くないわよ」
「何を言っているの?洗脳なんてする訳ないじゃない。そんな事を言ったら、この街の住民全員が洗脳されているじゃない」
「そうよ。ありのままの真実を教えてあげているだけよ。脚色もしていないわ。教師として事実を歪める事はできませんからね」
「その通りです。真実を知れば崇めてしまうのです。中立派気取りも、内心では神様だと思っているのに。これはきっと反抗期ですね」
「クリスタ。私は洗脳されて無いよ。以前住んでいた場所と比較して天国みたいだと感じているだけだよ。あまりにも差があるからね」
「日が浅いチェルシーも理解し始めているのに、クリスタが理解していない訳がないわ。いい加減認めなさい。楽になれるわよ」
「私はヴィーネ様も認める中立派ですー。残念ですが信者ではありません。皆、本当に信者なの?努力足りなくない?中立派より弱い信者とか、ないわー」
「それは認めなければいけませんね。中立派気取りより弱いとか、あってはいけません。努力が足りないのですね。待っていて下さい。そして、組手で敗れた時、あなたは本物の信者になるでしょう」
孤児院で働くまで、こんなに人と話した事はありませんでした。
これが本当の仲間なのですね。
とても楽しいです。
私は気合を入れ土地神りんご酒を一気飲みしました。
「あー。気合の入れ方間違ってるから。もー、これだから信者は」
「まあ、楽しかったのでしょう。普段は聞き役が多いですからね」
クリスタとビアンカの声を最後に私は意識を失いました。
今日の土地神りんご酒はいつもよりほのかに甘く、優しい味がしました。
絶対に特別報酬を話さない中立派気取りさん。
仲良し孤児院組でした。




