閑話 ジェラルヴィーネ 悪夢
また母さんを悲しませた。
本当にいい加減にして欲しいよ。
どれだけ甘えているの?
なんで母さんの努力を知っていて甘えられるの?
私には理解ができない。
母さんも理解ができない。
そもそも、人間や獣人たちの被害に遭った種族ばかりだよ。
何故真剣に強くなろうとしないの?
本来なら常に上を目指して努力するよ。
それなのに、人間に勝てる程度で止めてしまう。
そうか…。
人間になら勝てるのか。
念話。
「今から30分後に5万人の人間に攻めてもらうよ。殲滅してね。私たちと孤児院と子供は動かないから。母さんの秘儀の力や魔石の研究結果を見せて欲しい」
長老が自信満々に集めたハイエルフの戦士たち。
ドワーフが好き放題している研究所にある魔石の運用方法。
その他の種族も母さんの秘儀を知っている大人たちばかりだ。
負けるなんてあり得ないよね?
「ヴィーネ、皆の動きを見たいの?」
「そうだよ。ちょっと見てみたいんだ。本当に人間に勝てるのか」
「勝てないよ」
「知ってるけど、でも、本人たちは知らないから」
「そうだね。人間たちに勝てると思って訓練を止めているから」
「おかしいよ。母さんに授業をお願いして、その程度で訓練を止めれる事が不思議で仕方が無いんだ」
「本当にね。被害者が強くなろうとしないのは理解できないね」
「私も理解できないよ」
・・・・・。
30分後、闇魔法。
種族同士が協力する気配はないね。
何の為のお店だろう。
母さんの考えが水の泡だよ。
結局、ただのお金儲けか…。
「検問は簡単に突破されたよ。ドワーフは戦う気が無いみたい。森の出入り口を固めてるよ」
「勝ち目が無いと思ったんだろうね」
いきなり戦線離脱か。
あれだけ好き放題させてあげているのに。
ドワーフをこの国で暮らしている種族だと思っていいの?
「ドラゴンが炎吐いてるけど。敵の魔法で落とされていくよ。鍛えてないからだね」
「ドラゴンは年齢が上がれば強くなると思っている人しかいないでしょ?」
その通りだね。
強く生まれたから努力しない。
私たちに負けたのは種族差だと思っているだろうね。
「長老たちが頑張っているみたいだけど、どんどん接近されるね。大魔法が使える訳でも無い。人間の冒険者と戦っていただけ。このまま詰められて終わりだね」
「数の暴力を知らないんだよ。大魔法を使えれば別だけど普通の魔法では数に押し切られるだろうね」
戦士を集めたんじゃないの?
何の為に長く生きているの?
まともな知識もない。
本当に酷過ぎるよ。
「ハーピィはドラゴンが落ちたのを見て地上戦をしてるよ」
「空飛ぶ訓練をしてないからね。数で押し切られて終わるよ」
母さんはやっぱり把握しているよね。
魔力の動きと場所を見れば何をしているか大体分かるから。
「アムピトリーテーは逃げちゃったよ」
「勝てないからだろうね。街の為に戦う気が無いんだよ」
恩を返すんじゃなかったのかな?
その行動が理解できないよ。
「マリアンネは何人か斬って終わったね」
「剣で戦える人数は限られているよ。囲まれたら終わりだもん」
妥当な終わり方だね。
他に何もできないから。
想像以上に酷い負け方だよ。
「ちょっと教室で話してくるよ。母さんは来る?」
「私はいいや。寝てるよ」
見放しているんだね。
じゃあ、私が全て終わらせてくるから。
「はーい。転移魔法」
召喚魔法。
観戦していた相手を教室の2階に集める。
「ねえ。人間に勝てるんじゃ無かったの?流石に弱過ぎない?長老は戦士を集めるとか言っていたけど、役に立たないね。なんでかな?」
「あれ程の集団に攻められるのを想定していませんでした」
「想定できるでしょ!人間の戦い方なんて聞けばいいだけじゃないの?国を守る戦いに言い訳なんてないよ。誰も人間の国がどうやって攻めてくるか知ろうともしていない。喧嘩自慢でも集めたの?」
「その通りですね。ハイエルフは誰も何も聞こうとしない。勘違いした集団ですね」
聞こうとしない理由を理解しているの?
君たちは本当に不愉快だよ。
「アムピトリーテーは何で逃げたの?君が人質になって人魚が全員捕まったんでしょ?何考えているの?恩を返すんじゃなかったの?」
「申し訳ありません。確実に勝てないと感じましたので」
何を言っているんだろう。
国を守る戦いで確実なんて無いのに。
国防隊みたいな事を言っているね。
「勝てなくても戦うのが国を守る戦いじゃないの?母親が娘置いて逃げてどうするの?」
「そうですね…。母親失格です。シャーロット様に説教されたばかりなのに」
本当にそれが嫌いだよ。
母さんに教えてもらったばかりでしょ?
「ドワーフは戦う気が無いんだね?」
「儂たちは守る事しかできません」
「じゃあ、正門守ればいいんじゃないの?」
「そ、それは。すみません」
自分たちが大切で国に興味は無いんだね。
これだけ好き勝手にできる環境を用意したのに。
「ドラゴンは人間に負ける程弱かったかな?」
「あれ程魔法を当てられると流石に耐えられません」
「何で避けないの?鍛えてないでしょ?」
「避けられませんでした。鍛えていません。年齢を重ねれば強くなると考えています」
ドラゴンの典型だね。
だから人間に負けるんだよ。
「ハーピィは何で飛ばなかったの?」
「ドラゴンが魔法で落とされたのを見て飛ぶのを諦めました」
「でも、空飛ぶ訓練していないよね?」
「そ、その通りです。申し訳ありません」
強くなりたいから母さんに授業のお願いをしに来たんだよね?
全く強くなってないよ。
「皆、母さんに助けられた。回復してもらった。好きな事をさせてもらっている。子供を教育してもらっている。自分たちも教育してもらった。その結果がこれ?ふざけているの?この国は住民のものだよね?違ったかなマリアンネ」
「はい。その通りです。建前上ヴィーネ様が国長になっているだけです」
「何で自分たちが住んでいる国を守れないの?そもそも、何で鍛えてないの?授業を受けた種族はもっと鍛えるべきじゃない?秘儀が生まれた過程を体験させてあげようか?発狂死するよ。君たちは恩を仇で返す種族なのかな?母さんが説教したみたいだから、どの程度の実力か見たら人間にすら勝てない。弱過ぎるよ。人間に勝てると思って訓練止めたんでしょ?また人間に捕まるだけだよね。それか他種族に殺されるだけだよ。どれだけ、母さんを悲しませるの?マリアンネ、一番簡単に勝つ方法は?」
「ドワーフが正面を固めるか、長老の魔法で正面を固め、魔石で攻撃するだけです」
「それだけだよ。簡単に勝てる方法を教えてもらって負けない環境にいるのに惨敗する。秘儀を教えてもらっているのに訓練しない。流石に不愉快だよ。君たちの記憶から、母さんの秘儀と魔石に関するものを消すよ。使ってないからいいよね?アムピトリーテーはそう思うでしょ?」
「そうしますと、娘たちに頼ってしまいます」
「頼ったよね?娘置いて逃げたじゃん。説教された後に逃げたじゃん。何言ってるの?」
「その通りですが次は戦えるようになっていますので」
「ねえ、次って何?今日死んだじゃん。不幸がいつ襲ってくるか分からないって母さん言ったよね?魚人に攫われた時にその言葉を言ったの?」
「い、いえ。何も言っておりません」
「君が言った言葉を使った人は、クリスタに負けた後に訓練中に他国の密偵に殺されたよ。その程度だよ。次なんて言葉を使う人はね。魔法を使わずにクリスタに勝てる人いる?」
「「・・・・」」
「分からないか知らないんだね。恩を仇で返す種族ばかりだよ。この国で1番か2番目くらいに忙しいクリスタは常に訓練しているよ。母さんに教えてもらった技術を大切にしている。だから強いよ。レナーテもかなり努力している。今日からはカーリンが物凄い努力する。他人の子供を守る為にね。君たちは守るものがあるはずだよね?何で訓練しないの?クリスタくらい訓練していれば、自分たちで強くなる方法を考えろなんて母さんは絶対に言わないよ。カーリンに魔法を覚えさせたのも必死に子供を守っているから。だから、助手にしたし秘儀も教える。君たちにお店を出してもらっているのも他種族同士で交流してもらう為。勢いで動いているようで母さんはかなり見てるし考えているよ。私は母さんの味方であって君たちの味方ではないよ」
召喚魔法。
「クリスタ。ここに集まっている馬鹿に授業してあげてよ。人間に負けたんだ」
「何故私を…。酷いです」
「じゃあねー。転移魔法」
「あ…。ほんとに酷いですよー」
頑張ってクリスタ先生。




